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■57 妖刀は漆黒の刃を閃かせ /ブラッドストーン /妖魔王、二日徹夜する
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深い闇が空を覆い尽くし、冷たい風が戦場を吹き抜けていく。
その風がディオスの足元に巻きつき、彼の闇の気配をさらに強固にしているかのように見えた。
零は剣を強く握りしめ、全身から湧き上がる熱を感じながら、決して引くことのない意志を込めてその眼差しをディオスに向けていた。
ディオスはなおも立ち続け、その鋭い目が零を貫いていたが、明らかに彼の力は削がれ始めている。闇の防御がゆっくりと崩れ始め、零はその隙を見逃すまいとさらに集中を高めた。「もう一歩…これで終わらせるんだ。俺たちで、この闇を打ち破る!」
零の言葉が闇の中で静かに響き、麻美と守田もそれに応じるように頷いた。「ここで終わらせましょう。私たちがこの町を守るためには倒すしかない…」麻美の声が震える風とともに広がり、彼女の周りに力強い風が巻き起こり始めた。その風は、ただの自然現象ではなく、彼女の意志が込められたものだった。
「奴の力はもう限界だ。最後の一撃を叩き込むぞ!」守田は拳を握りしめ、彼の体から強烈な魔力が放たれた。彼の魔力は、まるで岩をも砕くような圧倒的な力を備えていた。
ディオスはその様子を見つめ、微かに口元を歪めた。「愚かな者たち…お前たちのその力で、私を倒せると思うか?だが、見せてもらおう…その無意味な足掻きを」彼の声にはまだ高慢さが滲んでいたが、その体は確実に傷つき始めていた。
「今だ、攻めるぞ!」零は剣を振り上げ、その刃に影と雷の力を込めた。剣の黒い刃は闇に溶け込むかのように、稲妻がその表面を踊り、闇を裂く準備を整えていた。
麻美は風の魔法でディオスの動きを封じ、守田はその拳でディオスの体に直接攻撃を仕掛けた。しかし、ディオスの闇は未だに強固で、彼の体は微動だにせず、その圧倒的な存在感で二人の攻撃を耐え続けていた。
「まだ…足りないのか…!」零は焦燥感を抑えきれずに剣を握りしめた。彼の中に燃え上がる感情が、その剣に力を注ぎ込もうとしていた。
その時、ディオスの周囲に再び深い闇が広がり、彼の姿が徐々に闇に溶け込んでいった。「貴様らには私の真の力を見ることはできない。この深淵の闇に飲まれ、永遠に彷徨うがいい」
黒い霧が周囲を包み込み、零たちの視界は完全に奪われた。彼らはその中で、互いの姿さえも見失いかけていた。「このままじゃ、闇に飲まれる…!」麻美が怯えた声で叫び、彼女の声さえも風に乗って消えていきそうだった。
「いや、まだだ!」零は冷静さを取り戻し、剣を強く握りしめた。「たとえ闇の中でも、俺たちにはまだ戦う力がある。この剣を使って、奴の本当の姿を暴き出すんだ!」
零は剣を構え、全身の力を集中させた。「影よ、我が力に応え、この闇を切り裂け…!」その言葉とともに、剣から放たれた黒い光が周囲の闇を貫き、ディオスの姿が再び浮かび上がった。
「まさか…!その剣は…!」ディオスの瞳が驚愕に染まり、彼は自らの闇が引き裂かれる感覚を確かに感じ取っていた。
「これで終わりだ!」零は剣を振り下ろし、ディオスに向かって突進した。妖刀は漆黒の刃を閃かせ、ディオスの防御を完全に打ち砕いた。
ディオスの体は大きく揺れ、その闇が崩れ去っていった。「馬鹿な…この私が!」彼の言葉が途切れるとともに、ディオスは膝をつき、その体から力が次第に失われていった。
「やった…ついに倒したのね!」麻美の声が歓喜に溢れ、彼女の風が一瞬、柔らかく包み込むように広がった。
「俺たちの力が奴に届いたんだ。もう…これで終わりだな」守田も疲れた息をつき、彼の拳は静かに下ろされた。
しかし、ディオスは最後の力を振り絞り、闇の中で囁いた。「お前たちはまだ知らない…」
その声が風に溶け込み、ディオスの体は静かに闇に飲み込まれて消えていった。四天王の一人を討ち取ったものの、ディオスの最後の言葉は不吉な予感を残していた。
零たちはディオスが消え去った場所に立ち尽くし、ようやくその戦いが終わったことを感じた。「奴の言っていたことが気になる…」零は剣を静かに鞘に収め、深い息をついた。
麻美は零の言葉に頷き、微笑みながら言った。「でも、私たちは倒した。それが重要よ。この町は私たちの手で守られたの」
守田も静かに拳を握り直しながら、「そうだな…だが、次に備えなければならない。四天王が一人倒れたということは、残りの三人がまだ待ち構えている。次の戦いは…さらに激しいものになるはずだ」
零はその言葉に深く頷き、剣の重みを再び感じた。「俺たちは、もっと強くならなければならない。次の試練に備えるために…」
夕陽が完全に沈み、町には再び平和の風が流れ始めた。だが、零たちはその場で立ち尽くし、次なる試練に備える決意を新たにした。
夕闇が静かに森を包み込み、木々の間を吹き抜ける風が囁くように葉を揺らしていた。遠くの山々が夕陽に染まり、赤く滲む光が空を彩る。森の奥深く、零と麻美の二人だけがその場に立ち止まり、穏やかな時間を共有していた。彼らの足元には柔らかな土が広がり、空には淡い星が瞬き始めていた。
「ブラッドストーン、聞いたことある?」零が不意に問いかけた。
麻美は考え込むように一瞬黙り込み、それから顔を上げて零を見つめた。「名前は知ってるけど…詳しくは知らない。どうして?」
零は軽く息を吸い、夕陽を背景に、物語を語るように低く静かな声で話し始めた。「ブラッドストーンは、血のように深い緑と赤が交じり合った石なんだ。古代の戦士たちは、この石を身につけて戦場に立つことで、自らの勇気と力を引き出すことができたと信じられていた。彼らにとって、ブラッドストーンはただの石ではなく、命を懸ける象徴だったんだ」
麻美はその言葉に吸い込まれるように目を輝かせ、「命を懸ける象徴…その石にはどんな伝説があるの?」と興味を抑えきれない様子で問いかけた。
零は頷き、さらに言葉を紡いだ。「伝説では、戦士がブラッドストーンを持つと、敵の攻撃を跳ね返す力が宿ると言われていた。戦士たちはその石を武器に取り付けたり、鎧に編み込んだりして、絶対的な守護の象徴として戦場に向かうんだ。彼らはこの石に祈りを捧げることで、勇気を呼び覚まし、自らの命だけでなく、仲間たちの命をも守ろうとした」
麻美の瞳が月の光に反射し、深い感動が宿った。「その石が、戦士たちの命を守る…まるでその赤い色が、血と繋がっているような感じね。戦いの中での勇気と恐怖が、この石に宿っているのかも」
零は微笑みを浮かべ、「そうだな。特にこの石は、過去の戦いで流された血の記憶を持っていると言われているんだ。もしそのブラッドストーンが割れた時、その戦士の勇気が試される。石が壊れるというのは、ただの偶然じゃない。運命が彼に選択を迫っているという意味なんだ」
麻美はその考えに心を寄せ、「それじゃあ、石が割れた時、戦士は重大な決断を下す必要があるのね。選択を誤れば…命を失うこともあり得るってこと?」
零は静かに頷き、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。「そうだ。だから、ブラッドストーンは戦士にとって、ただの装飾品じゃない。戦いの中での宿命そのものを映し出す存在なんだよ。戦士がどんな決断を下すか…それが、この石に刻まれるんだ」
麻美はその言葉にじっと耳を傾け、心の中で何かが共鳴するのを感じた。「それって、とても深い話ね。その石が、彼らの選択と未来を映し出している…彼らの勇気と苦悩が、この小さな石の中に全て込められているのかもしれない」
風がそっと二人の間を通り抜け、木々が優しく揺れた。葉のざわめきが、まるで遠い過去の戦士たちの囁きを再現しているかのようだった。
零は小さく息をつき、遠くの夕焼けを見つめた。「俺たちも、これからどうなるか分からない。でも、どんな試練が待っていようと、俺たちは進み続けるしかない。ブラッドストーンの戦士たちがそうしたように、俺たちも戦うんだ」
麻美は零の横顔を見つめ、静かに頷いた。「そうね。これからどんな選択をするにしても、私たちの心が試されるのね」
夕焼けが完全に沈み、夜の帳が降りてきた。二人はその場に立ち尽くしながら、心の奥底で新たな決意を固めた。過去の戦士たちの勇気と、これからの自分たちの選択が交錯するかのように、未来が今、目の前に広がっていくようだった。
これからも続く試練の中で、彼らはどんな選択をし、どんな道を歩むのか。全ては彼ら自身の手に委ねられていた。
-------------------
98年前
妖魔王リヴォールは、二晩の徹夜が続く中、膨大な疲労が彼の骨の芯まで染み渡っているのを感じていた。
玉座に沈み込むように座り、ブラッドストーンをじっと握りしめる手は微かに震え、瞳の奥には不眠による赤い血の線が走っている。
薄暗い灯が彼の表情を照らし、その冷酷さと共に疲労が織り交ぜられた顔には、どこか薄闇が潜んでいるように見える。彼の心の中にまで魔石の脈動が響き、まるで自身の鼓動と混じり合って、夜の静けさを切り裂くように感じられた。
この玉座の間で、彼は数多の魔物たちが次々とブラッドストーンの魔力に屈して倒れるのを見てきた。飲み込めば暴走し、体内で魔力が暴れ狂い、命を燃やし尽くすように崩れ落ちる魔物たち。その無残な姿を繰り返し目の当たりにしながらも、リヴォールは目を閉じず、立ち止まることなく試行を続けてきた。二晩、彼は誰も寄せ付けない厳しい沈黙の中で、その失敗の全てを見届けてきた。手元の魔石を握る指先の力は、もう幾度も、すり減りそうなほどに強張っている。だが、彼はそれに気づくそぶりも見せず、ただ魔物たちを次々と玉座に呼び出し、冷ややかな声で命じては、再び失敗に終わる光景をじっと見つめ続けていた。
「飲め」と、声を低く、そして冷徹に。言葉に従うことを強いられた魔物たちが、ひとつ残らず膝をつき、必死に魔石を飲み込もうとするも、すぐさま絶叫し、体が震え、次々と命を散らしていく。体内で魔力が弾けるかのごとく、無理な力が溢れ出し、脆く命を終える魔物たちの無力さに、リヴォールの苛立ちは増すばかりだった。怒りを抑え込むかのように、彼の手は玉座の肘掛を握りしめ、砕けるような力で押し付けられた。
やがて、ついに最後の一匹が玉座の間に引き出される。そのヘビ型魔物はリヴォールの冷たい視線に怯えつつも、どうにか魔石を飲み込んだ。次の瞬間、リヴォールは息を呑む。ヘビの体は強烈な赤黒い光に包まれ、震えるように揺れていたが、それでも倒れることなく、その場にとどまっている。全身に激しい負荷がかかっているのが明らかで、魔物は苦しみながらも必死に魔力に耐え続けていた。
リヴォールは片手を握りしめ、熱い視線でその様子を見つめる。「ようやく……このブラッドストーンに耐えられる者が……」と低く呟くが、次の瞬間、ヘビは静かにリヴォールの方を見上げた。その瞳には何か訴えるような、どこか空虚な表情が浮かんでいた。
そして——ヘビはゆっくりと魔石を吐き出して、再びリヴォールに差し出した。その様子を見たリヴォールは、言葉を失い、しばし呆然と立ち尽くすしかなかった。あれほどの苦しみを経て耐えたはずの魔物が、最後の最後に魔石を手放してしまった。沈黙が玉座の間に広がる中、リヴォールの顔には疲れがにじみ、二晩分の徹夜がたたったかのように、わずかな虚脱感が垣間見えた。
その風がディオスの足元に巻きつき、彼の闇の気配をさらに強固にしているかのように見えた。
零は剣を強く握りしめ、全身から湧き上がる熱を感じながら、決して引くことのない意志を込めてその眼差しをディオスに向けていた。
ディオスはなおも立ち続け、その鋭い目が零を貫いていたが、明らかに彼の力は削がれ始めている。闇の防御がゆっくりと崩れ始め、零はその隙を見逃すまいとさらに集中を高めた。「もう一歩…これで終わらせるんだ。俺たちで、この闇を打ち破る!」
零の言葉が闇の中で静かに響き、麻美と守田もそれに応じるように頷いた。「ここで終わらせましょう。私たちがこの町を守るためには倒すしかない…」麻美の声が震える風とともに広がり、彼女の周りに力強い風が巻き起こり始めた。その風は、ただの自然現象ではなく、彼女の意志が込められたものだった。
「奴の力はもう限界だ。最後の一撃を叩き込むぞ!」守田は拳を握りしめ、彼の体から強烈な魔力が放たれた。彼の魔力は、まるで岩をも砕くような圧倒的な力を備えていた。
ディオスはその様子を見つめ、微かに口元を歪めた。「愚かな者たち…お前たちのその力で、私を倒せると思うか?だが、見せてもらおう…その無意味な足掻きを」彼の声にはまだ高慢さが滲んでいたが、その体は確実に傷つき始めていた。
「今だ、攻めるぞ!」零は剣を振り上げ、その刃に影と雷の力を込めた。剣の黒い刃は闇に溶け込むかのように、稲妻がその表面を踊り、闇を裂く準備を整えていた。
麻美は風の魔法でディオスの動きを封じ、守田はその拳でディオスの体に直接攻撃を仕掛けた。しかし、ディオスの闇は未だに強固で、彼の体は微動だにせず、その圧倒的な存在感で二人の攻撃を耐え続けていた。
「まだ…足りないのか…!」零は焦燥感を抑えきれずに剣を握りしめた。彼の中に燃え上がる感情が、その剣に力を注ぎ込もうとしていた。
その時、ディオスの周囲に再び深い闇が広がり、彼の姿が徐々に闇に溶け込んでいった。「貴様らには私の真の力を見ることはできない。この深淵の闇に飲まれ、永遠に彷徨うがいい」
黒い霧が周囲を包み込み、零たちの視界は完全に奪われた。彼らはその中で、互いの姿さえも見失いかけていた。「このままじゃ、闇に飲まれる…!」麻美が怯えた声で叫び、彼女の声さえも風に乗って消えていきそうだった。
「いや、まだだ!」零は冷静さを取り戻し、剣を強く握りしめた。「たとえ闇の中でも、俺たちにはまだ戦う力がある。この剣を使って、奴の本当の姿を暴き出すんだ!」
零は剣を構え、全身の力を集中させた。「影よ、我が力に応え、この闇を切り裂け…!」その言葉とともに、剣から放たれた黒い光が周囲の闇を貫き、ディオスの姿が再び浮かび上がった。
「まさか…!その剣は…!」ディオスの瞳が驚愕に染まり、彼は自らの闇が引き裂かれる感覚を確かに感じ取っていた。
「これで終わりだ!」零は剣を振り下ろし、ディオスに向かって突進した。妖刀は漆黒の刃を閃かせ、ディオスの防御を完全に打ち砕いた。
ディオスの体は大きく揺れ、その闇が崩れ去っていった。「馬鹿な…この私が!」彼の言葉が途切れるとともに、ディオスは膝をつき、その体から力が次第に失われていった。
「やった…ついに倒したのね!」麻美の声が歓喜に溢れ、彼女の風が一瞬、柔らかく包み込むように広がった。
「俺たちの力が奴に届いたんだ。もう…これで終わりだな」守田も疲れた息をつき、彼の拳は静かに下ろされた。
しかし、ディオスは最後の力を振り絞り、闇の中で囁いた。「お前たちはまだ知らない…」
その声が風に溶け込み、ディオスの体は静かに闇に飲み込まれて消えていった。四天王の一人を討ち取ったものの、ディオスの最後の言葉は不吉な予感を残していた。
零たちはディオスが消え去った場所に立ち尽くし、ようやくその戦いが終わったことを感じた。「奴の言っていたことが気になる…」零は剣を静かに鞘に収め、深い息をついた。
麻美は零の言葉に頷き、微笑みながら言った。「でも、私たちは倒した。それが重要よ。この町は私たちの手で守られたの」
守田も静かに拳を握り直しながら、「そうだな…だが、次に備えなければならない。四天王が一人倒れたということは、残りの三人がまだ待ち構えている。次の戦いは…さらに激しいものになるはずだ」
零はその言葉に深く頷き、剣の重みを再び感じた。「俺たちは、もっと強くならなければならない。次の試練に備えるために…」
夕陽が完全に沈み、町には再び平和の風が流れ始めた。だが、零たちはその場で立ち尽くし、次なる試練に備える決意を新たにした。
夕闇が静かに森を包み込み、木々の間を吹き抜ける風が囁くように葉を揺らしていた。遠くの山々が夕陽に染まり、赤く滲む光が空を彩る。森の奥深く、零と麻美の二人だけがその場に立ち止まり、穏やかな時間を共有していた。彼らの足元には柔らかな土が広がり、空には淡い星が瞬き始めていた。
「ブラッドストーン、聞いたことある?」零が不意に問いかけた。
麻美は考え込むように一瞬黙り込み、それから顔を上げて零を見つめた。「名前は知ってるけど…詳しくは知らない。どうして?」
零は軽く息を吸い、夕陽を背景に、物語を語るように低く静かな声で話し始めた。「ブラッドストーンは、血のように深い緑と赤が交じり合った石なんだ。古代の戦士たちは、この石を身につけて戦場に立つことで、自らの勇気と力を引き出すことができたと信じられていた。彼らにとって、ブラッドストーンはただの石ではなく、命を懸ける象徴だったんだ」
麻美はその言葉に吸い込まれるように目を輝かせ、「命を懸ける象徴…その石にはどんな伝説があるの?」と興味を抑えきれない様子で問いかけた。
零は頷き、さらに言葉を紡いだ。「伝説では、戦士がブラッドストーンを持つと、敵の攻撃を跳ね返す力が宿ると言われていた。戦士たちはその石を武器に取り付けたり、鎧に編み込んだりして、絶対的な守護の象徴として戦場に向かうんだ。彼らはこの石に祈りを捧げることで、勇気を呼び覚まし、自らの命だけでなく、仲間たちの命をも守ろうとした」
麻美の瞳が月の光に反射し、深い感動が宿った。「その石が、戦士たちの命を守る…まるでその赤い色が、血と繋がっているような感じね。戦いの中での勇気と恐怖が、この石に宿っているのかも」
零は微笑みを浮かべ、「そうだな。特にこの石は、過去の戦いで流された血の記憶を持っていると言われているんだ。もしそのブラッドストーンが割れた時、その戦士の勇気が試される。石が壊れるというのは、ただの偶然じゃない。運命が彼に選択を迫っているという意味なんだ」
麻美はその考えに心を寄せ、「それじゃあ、石が割れた時、戦士は重大な決断を下す必要があるのね。選択を誤れば…命を失うこともあり得るってこと?」
零は静かに頷き、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。「そうだ。だから、ブラッドストーンは戦士にとって、ただの装飾品じゃない。戦いの中での宿命そのものを映し出す存在なんだよ。戦士がどんな決断を下すか…それが、この石に刻まれるんだ」
麻美はその言葉にじっと耳を傾け、心の中で何かが共鳴するのを感じた。「それって、とても深い話ね。その石が、彼らの選択と未来を映し出している…彼らの勇気と苦悩が、この小さな石の中に全て込められているのかもしれない」
風がそっと二人の間を通り抜け、木々が優しく揺れた。葉のざわめきが、まるで遠い過去の戦士たちの囁きを再現しているかのようだった。
零は小さく息をつき、遠くの夕焼けを見つめた。「俺たちも、これからどうなるか分からない。でも、どんな試練が待っていようと、俺たちは進み続けるしかない。ブラッドストーンの戦士たちがそうしたように、俺たちも戦うんだ」
麻美は零の横顔を見つめ、静かに頷いた。「そうね。これからどんな選択をするにしても、私たちの心が試されるのね」
夕焼けが完全に沈み、夜の帳が降りてきた。二人はその場に立ち尽くしながら、心の奥底で新たな決意を固めた。過去の戦士たちの勇気と、これからの自分たちの選択が交錯するかのように、未来が今、目の前に広がっていくようだった。
これからも続く試練の中で、彼らはどんな選択をし、どんな道を歩むのか。全ては彼ら自身の手に委ねられていた。
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98年前
妖魔王リヴォールは、二晩の徹夜が続く中、膨大な疲労が彼の骨の芯まで染み渡っているのを感じていた。
玉座に沈み込むように座り、ブラッドストーンをじっと握りしめる手は微かに震え、瞳の奥には不眠による赤い血の線が走っている。
薄暗い灯が彼の表情を照らし、その冷酷さと共に疲労が織り交ぜられた顔には、どこか薄闇が潜んでいるように見える。彼の心の中にまで魔石の脈動が響き、まるで自身の鼓動と混じり合って、夜の静けさを切り裂くように感じられた。
この玉座の間で、彼は数多の魔物たちが次々とブラッドストーンの魔力に屈して倒れるのを見てきた。飲み込めば暴走し、体内で魔力が暴れ狂い、命を燃やし尽くすように崩れ落ちる魔物たち。その無残な姿を繰り返し目の当たりにしながらも、リヴォールは目を閉じず、立ち止まることなく試行を続けてきた。二晩、彼は誰も寄せ付けない厳しい沈黙の中で、その失敗の全てを見届けてきた。手元の魔石を握る指先の力は、もう幾度も、すり減りそうなほどに強張っている。だが、彼はそれに気づくそぶりも見せず、ただ魔物たちを次々と玉座に呼び出し、冷ややかな声で命じては、再び失敗に終わる光景をじっと見つめ続けていた。
「飲め」と、声を低く、そして冷徹に。言葉に従うことを強いられた魔物たちが、ひとつ残らず膝をつき、必死に魔石を飲み込もうとするも、すぐさま絶叫し、体が震え、次々と命を散らしていく。体内で魔力が弾けるかのごとく、無理な力が溢れ出し、脆く命を終える魔物たちの無力さに、リヴォールの苛立ちは増すばかりだった。怒りを抑え込むかのように、彼の手は玉座の肘掛を握りしめ、砕けるような力で押し付けられた。
やがて、ついに最後の一匹が玉座の間に引き出される。そのヘビ型魔物はリヴォールの冷たい視線に怯えつつも、どうにか魔石を飲み込んだ。次の瞬間、リヴォールは息を呑む。ヘビの体は強烈な赤黒い光に包まれ、震えるように揺れていたが、それでも倒れることなく、その場にとどまっている。全身に激しい負荷がかかっているのが明らかで、魔物は苦しみながらも必死に魔力に耐え続けていた。
リヴォールは片手を握りしめ、熱い視線でその様子を見つめる。「ようやく……このブラッドストーンに耐えられる者が……」と低く呟くが、次の瞬間、ヘビは静かにリヴォールの方を見上げた。その瞳には何か訴えるような、どこか空虚な表情が浮かんでいた。
そして——ヘビはゆっくりと魔石を吐き出して、再びリヴォールに差し出した。その様子を見たリヴォールは、言葉を失い、しばし呆然と立ち尽くすしかなかった。あれほどの苦しみを経て耐えたはずの魔物が、最後の最後に魔石を手放してしまった。沈黙が玉座の間に広がる中、リヴォールの顔には疲れがにじみ、二晩分の徹夜がたたったかのように、わずかな虚脱感が垣間見えた。
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