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きずな食堂へようこそ!
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コバヤシさんの手術は無事に成功したものの、彼はすぐには退院することができなかった。その間、サトウさんにこれ以上の負担をかけるわけにはいかないと、コバヤシさんの息子と娘は、それぞれ社会人としての忙しい日々を送りながらも、時間が空くときずな食堂を手伝うようになっていった。妻もまた、自身の両親の介護の合間を縫って、何か自分にできることはないかと、これまで以上にサトウさんを気遣った。
そんな日々が続く中、ついにコバヤシさんが退院する日が訪れた。
「忘れ物は、ないかしらね」
「お父さん、荷物は俺が持つから」
「ああ、悪いな」
「あっ看護師さーん!父がお世話になりました!」
病室から家族と共に歩きだすコバヤシさんを窓から差し込んだ光が包みこむ。冬の寒さを乗り越えた春の日差しはまるで彼らを祝福しているようだった。
*
きずな食堂はコバヤシさんの自宅も兼ねているため、退院後はまっすぐに帰ってくることができる。その日、春休みを迎えていた子どもたちは朝早くから食堂に集まり、待ち遠しい気持ちを胸に秘めながら、今か今かとコバヤシさんの帰りを心待ちにしていた。
「ただいま」
「コバヤシさんだー!」
コバヤシさんが帰ってくると、みんなは彼の元に駆け寄り、「良かった」「会いたかった」とそれぞれの思いを口にした。
「みんなには心配をかけて、ごめんね。大変だったよね」
「サトウさんが大変だったんだよ」
「そうだね、サトウさんが一番大変だった」
しんみりと語るコバヤシさんに、子どもたちは気を使って冗談めかして言う。
「私は大丈夫よ。みんなが手伝ってくれてたから」
「特にナオキくんとユウカちゃんとタモツくんがお手伝い頑張ってたよ」
サトウさんの横にいたタケルがコバヤシさんに報告すると、すかさずタモツが続けて言った。
「そう言うタケルも料理を頑張ってたじゃん。もう立派な料理人だよ」
タモツの言葉に、タケルはへへへと、照れくさそうに頬を人差し指でかきながらうつむいた。
「お父さん、私とお兄ちゃんも頑張ったよ!」
「俺はともかく、お前はそそっかしいからサトウさんの邪魔になってたんじゃないか」
コバヤシさんの後ろからついてきた娘が努力を主張すると、息子がからかった。
「えーっ!サトウさん、私、邪魔だった?!」
「そんなことないわよ。いつも本当に助かってるわ」
「ほらね!」
「社交辞令って知ってるか」
「やめなさい、あなたたち。このままだと喧嘩になるでしょ」
止めに入る妻と共に、家族の会話はますます賑やかになる。コバヤシさんはサトウさんや子どもたちに「家族が騒がしくてすまんな」と頭をかきながら謝った。その賑やかなやり取りに、子どもたちはみんな釣られて笑う。
和気あいあいとした店内。その時、遠慮がちな力で戸が開かれた。
「あのう……きずな食堂ってここで合ってますか……?」
ひよっこりと顔を出した女の子は、ランドセルに付けているウサギのぬいぐるみのキーホルダーを、ぎゅっと握り締めながら尋ねた。みんなの視線が一斉に女の子に集まった。その視線には温かな笑みが含まれている。みんなは心から嬉しそうに顔を見合せた。
「せーの!」
誰かの合図で店内に明るい声が響きわたる。
「きずな食堂へようこそ!」
女の子は一瞬驚いたものの、すぐに笑顔の花が咲いた。
【完】
そんな日々が続く中、ついにコバヤシさんが退院する日が訪れた。
「忘れ物は、ないかしらね」
「お父さん、荷物は俺が持つから」
「ああ、悪いな」
「あっ看護師さーん!父がお世話になりました!」
病室から家族と共に歩きだすコバヤシさんを窓から差し込んだ光が包みこむ。冬の寒さを乗り越えた春の日差しはまるで彼らを祝福しているようだった。
*
きずな食堂はコバヤシさんの自宅も兼ねているため、退院後はまっすぐに帰ってくることができる。その日、春休みを迎えていた子どもたちは朝早くから食堂に集まり、待ち遠しい気持ちを胸に秘めながら、今か今かとコバヤシさんの帰りを心待ちにしていた。
「ただいま」
「コバヤシさんだー!」
コバヤシさんが帰ってくると、みんなは彼の元に駆け寄り、「良かった」「会いたかった」とそれぞれの思いを口にした。
「みんなには心配をかけて、ごめんね。大変だったよね」
「サトウさんが大変だったんだよ」
「そうだね、サトウさんが一番大変だった」
しんみりと語るコバヤシさんに、子どもたちは気を使って冗談めかして言う。
「私は大丈夫よ。みんなが手伝ってくれてたから」
「特にナオキくんとユウカちゃんとタモツくんがお手伝い頑張ってたよ」
サトウさんの横にいたタケルがコバヤシさんに報告すると、すかさずタモツが続けて言った。
「そう言うタケルも料理を頑張ってたじゃん。もう立派な料理人だよ」
タモツの言葉に、タケルはへへへと、照れくさそうに頬を人差し指でかきながらうつむいた。
「お父さん、私とお兄ちゃんも頑張ったよ!」
「俺はともかく、お前はそそっかしいからサトウさんの邪魔になってたんじゃないか」
コバヤシさんの後ろからついてきた娘が努力を主張すると、息子がからかった。
「えーっ!サトウさん、私、邪魔だった?!」
「そんなことないわよ。いつも本当に助かってるわ」
「ほらね!」
「社交辞令って知ってるか」
「やめなさい、あなたたち。このままだと喧嘩になるでしょ」
止めに入る妻と共に、家族の会話はますます賑やかになる。コバヤシさんはサトウさんや子どもたちに「家族が騒がしくてすまんな」と頭をかきながら謝った。その賑やかなやり取りに、子どもたちはみんな釣られて笑う。
和気あいあいとした店内。その時、遠慮がちな力で戸が開かれた。
「あのう……きずな食堂ってここで合ってますか……?」
ひよっこりと顔を出した女の子は、ランドセルに付けているウサギのぬいぐるみのキーホルダーを、ぎゅっと握り締めながら尋ねた。みんなの視線が一斉に女の子に集まった。その視線には温かな笑みが含まれている。みんなは心から嬉しそうに顔を見合せた。
「せーの!」
誰かの合図で店内に明るい声が響きわたる。
「きずな食堂へようこそ!」
女の子は一瞬驚いたものの、すぐに笑顔の花が咲いた。
【完】
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