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危機
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ある日、ボランティアスタッフのサトウさんが開店準備のためにきずな食堂へと足を運んだ。店内に入った彼女の目に映ったのは、オーナーのコバヤシさんがひどく沈んだ表情を浮かべている姿だった。そのただならぬ様子に不安が胸をよぎり、サトウさんは優しい声で問いかけた。
「コバヤシさん、どうされたんですか?体調でも優れないのですか?」
元気をなくして、カウンターの椅子にどっかと腰を下ろしていたコバヤシさんは、深いため息をつきながら、ぎゅっと握りしめていた一枚の便箋をサトウさんに差し出した。それは、長年にわたりきずな食堂を支えてくださった農家のイイダさんからの手紙で、畑を売却することが記されていのだ。
「イイダさんの畑が売られることになってしまったんだ……。もう、以前のように安く野菜を譲ってもらえることはない」
そうコバヤシさんは悲しげな声で話し始めた。イイダさんは高齢になり、農業を続けるには体力的にも限界を感じていた。彼はきずな食堂のために精一杯頑張ってきたが、同時に自身の家族のことを考えた結果、畑を売るという難しい決断を下したのだ。手紙には「今まで協力できて本当に良かった。これからも食堂が続いてほしい」との思いが綴られていた。
きずな食堂は国と自治体からの助成金で運営していたが、それだけでは十分ではなかった。イイダさんから格安で野菜を仕入れることができたおかげで、経営が成り立っていたのである。しかし、今後はその支援が受けられなくなるため、経営が厳しくなることが予想された。
元々、長時間キッチンに立つことができないほどに体調が優れていなかったコバヤシさんは、この悲報を受けてさらに体調を崩してしまった。食欲はなく、夜もぐっすりと眠ることができなくなり、ついには病院で検査を受ける日が訪れた。医師の口からは「過度のストレスが原因です。しばらくはゆっくりと休んでください」と、以前に酷く体調を崩した時にも言われた覚えのある言葉が告げられ、コバヤシさんの心に重くのしかかった。
コバヤシさんがキッチンに立てなくなった分、サトウさんはお店の切り盛りを一手に引き受けることになった。毎朝早くから仕込みを始め、何十人分もの夕食の準備や片付けまで、彼女の手は休む暇がなかった。それでもサトウさんは笑顔を絶やさず、きずな食堂を訪れる子どもたちのために一生懸命働いた。
そんなサトウさんを助けるために、家庭が安定しつつあり、訪れる頻度が減っていたナオキやユウカが手伝いを申し出た。他のまだ幼い子どもたちも自然に手伝うようになり、小さな手で野菜を洗ったり、テーブルを拭いたりする姿は微笑ましく、サトウさんにとって大きな励みとなった。みんなの協力のおかげで、きずな食堂は何とか日々の運営を続けることができていた。
サトウさんと子どもたちの努力ときずなによって、きずな食堂は温かい場所としての役割を果たし続けた。けれど、イイダさんの畑がなくなったことで直面する経営の困難をどう乗り越えていくかは、今後の大きな課題として残されていた。
「コバヤシさん、どうされたんですか?体調でも優れないのですか?」
元気をなくして、カウンターの椅子にどっかと腰を下ろしていたコバヤシさんは、深いため息をつきながら、ぎゅっと握りしめていた一枚の便箋をサトウさんに差し出した。それは、長年にわたりきずな食堂を支えてくださった農家のイイダさんからの手紙で、畑を売却することが記されていのだ。
「イイダさんの畑が売られることになってしまったんだ……。もう、以前のように安く野菜を譲ってもらえることはない」
そうコバヤシさんは悲しげな声で話し始めた。イイダさんは高齢になり、農業を続けるには体力的にも限界を感じていた。彼はきずな食堂のために精一杯頑張ってきたが、同時に自身の家族のことを考えた結果、畑を売るという難しい決断を下したのだ。手紙には「今まで協力できて本当に良かった。これからも食堂が続いてほしい」との思いが綴られていた。
きずな食堂は国と自治体からの助成金で運営していたが、それだけでは十分ではなかった。イイダさんから格安で野菜を仕入れることができたおかげで、経営が成り立っていたのである。しかし、今後はその支援が受けられなくなるため、経営が厳しくなることが予想された。
元々、長時間キッチンに立つことができないほどに体調が優れていなかったコバヤシさんは、この悲報を受けてさらに体調を崩してしまった。食欲はなく、夜もぐっすりと眠ることができなくなり、ついには病院で検査を受ける日が訪れた。医師の口からは「過度のストレスが原因です。しばらくはゆっくりと休んでください」と、以前に酷く体調を崩した時にも言われた覚えのある言葉が告げられ、コバヤシさんの心に重くのしかかった。
コバヤシさんがキッチンに立てなくなった分、サトウさんはお店の切り盛りを一手に引き受けることになった。毎朝早くから仕込みを始め、何十人分もの夕食の準備や片付けまで、彼女の手は休む暇がなかった。それでもサトウさんは笑顔を絶やさず、きずな食堂を訪れる子どもたちのために一生懸命働いた。
そんなサトウさんを助けるために、家庭が安定しつつあり、訪れる頻度が減っていたナオキやユウカが手伝いを申し出た。他のまだ幼い子どもたちも自然に手伝うようになり、小さな手で野菜を洗ったり、テーブルを拭いたりする姿は微笑ましく、サトウさんにとって大きな励みとなった。みんなの協力のおかげで、きずな食堂は何とか日々の運営を続けることができていた。
サトウさんと子どもたちの努力ときずなによって、きずな食堂は温かい場所としての役割を果たし続けた。けれど、イイダさんの畑がなくなったことで直面する経営の困難をどう乗り越えていくかは、今後の大きな課題として残されていた。
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