きずな食堂へようこそ！

支え合う場所

　アヤは、小学３年生の女の子だ。彼女の両親は遠い都市で働いており、年に数回しか帰ってこない。彼女は両親との短い再会の別れの度に胸が痛むほどの寂しさを感じていたが、おじいちゃんおばあちゃんは優しく彼女を包んでくれていた。彼らの家は古い木造で、夏は涼しく、冬は３人で暖まるコタツが居心地が良かった。しかし、日常の中でアヤは一人ぼっちだった。

　学校では、クラスメートたちが休み時間に最新のYouTube動画について楽しそうに話している。アヤはその輪に入ることができず、ただ遠くから眺めることしかできなかった。
　アヤの祖父母はパソコンもスマホも持っておらず、インターネットに疎かった。
「何の動画が面白かった？」そう聞かれても、小さく微笑むしかなかった。その笑顔は、まるで薄いガラスのように繊細で、いつ割れてしまうか分からないほどだった。

　ある日、隣町の子ども食堂の話を耳にした。そこはきずな食堂という名前で、どんな子どもでも受け入れてくれるらしい。遠い訳ではないが、小学生にとって知らない町に行くのはとても怖い。けれど彼女は勇気を振り絞ってその食堂を訪れてみることにした。夕暮れ時、橙色の光が道を染める中、小さな足音を立てて歩いた。食堂の入口から漏れる温かな光は、まるで彼女を優しく迎え入れるかのようだった。

「あら、いらっしゃい！」

　店内から優しい声が響いた。恐る恐る中に入ると、そこには温かい笑顔の女性が立っていた。

「私はサトウさんだよ、どうぞよろしくね。あなたはお腹が空いてるかな？」

　と彼女は微笑みながら尋ね、アヤは小さく頷いた。その頷きには、言葉にできないほどの感謝と期待が込められていた。

　その日、キッチンにはオーナーのヤマモトさんがいて、アヤに特製のシチューを振る舞ってくれた。あつあつのシチューを口に運ぶたび、心にもじんわりと温かさが染み渡っていった。
　祖母の作る料理は肉じゃがなどの煮物や焼き魚などの和食が多く、シチューやカレーを作ったとしても市販のルーで煮込んだだけのものだった。外食もあまりしないため、アヤは今まで本格的なシチューを食べたことがなかった。

「こんなに美味しいシチュー、初めて食べた！」

　目を輝かせて言うと、ヤマモトさんはその瞳を見て優しく微笑んだ。

「またいつでもおいで」

　その言葉は、彼女にとって何よりも心強いものであった。

　その日から、アヤは放課後になるときずな食堂に通うようになった。ヤマモトさんやサトウさん、他の子どもたちと一緒に食事をし、楽しい時間を過ごすことで彼女の心は次第に癒されていった。YouTubeの話題についていけなくても、ここでは誰も彼女を孤立させることはなかった。

　きずな食堂で過ごすうちに、アヤは少しずつ新しい友達を作ることができた。同じように家庭の事情で孤立感を感じていた子どもたちが集まり、互いに支え合うようになった。ある日、新しい友達の一人で、同じ学校のふたつ上、５年生のユイと一緒に勉強をすることになった。ユイはアヤの宿題を教えてくれた。

「アヤちゃん、学校でも次の休み時間には一緒に遊ぼうよ」とユイが言ったとき、アヤは心から嬉しくなった。学校でも少しずつ友達が増え、孤立感は薄れていった。
　彼女の心は、まるで冬の寒さの中で見つけた小さな春の芽のように、少しずつ開いていったのだった。