きずな食堂へようこそ！

年の離れた友達

秋の連休のある日、居場所のない子のために、きずな食堂では子どもたち向けのイベントが開催されていた。店内のテーブル毎に、手作りアクセサリーやおりがみ、工作などが置いてあり、子どもたちは楽しそうに活動していた。そんな中で突然、食堂の入口から大きな声が響いた。

「こんなところになんか来たくなかった！」

そう叫びながら、まだ幼稚園児くらいの男の子が地団駄を踏んで暴れていた。どうやら無理やり連れて来られたうえ、母親は先に帰宅し一人取り残されたらしい。スタッフのサトウさんがすぐに駆け寄って、なだめるように声をかけた。

「カズキくん、てお名前だったよね？どうしたの？今日は何か嫌なことがあったの？」

そう尋ねると、カズキはさらに怒りをあらわにして「あっちに行け！」と叫び、手に持っていた帽子を地面に投げつけた。

その様子を見ていたナオキとタモツも心配そうに近づいてきた。ナオキはカズキの肩に手を置いて、「大丈夫だよ、カズキ。ここはみんなで楽しく過ごす場所だから、無理に何かをする必要はないよ」と声をかけた。タモツも「僕たちも最初は知らない人ばかりで不安だったけど、すぐに友達ができたんだ。カズキも一緒に楽しもうよ」と穏やかに言った。

「お母さんがもうすぐ赤ちゃんを産むから、僕をここに連れてきたんだ。お母さんは準備で忙しいから、僕だけここにいなきゃならないんだ！」

カズキは涙を浮かべながら訴える。サトウさんはその言葉を聞いて、カズキの気持ちを理解して優しく言った。

「そうだったんだね。お母さんもカズキくんが安心して過ごしてほしいと思って連れてきたんだろうけど、無理に参加しなくてもいいんだよ」

ナオキとタモツはカズキを落ち着かせるために、少し離れた席に連れて行き一緒に座った。ナオキは「俺も最初はここに来るのが嫌だったんだ。でも、タモツと知り合ってからは、毎回楽しみになったんだよ」と話し始めた。タモツも「うん、僕たちも最初は不安だったけど、今はここが大好きだよ」と微笑んだ。

カズキは二人の話を聞いて、少しずつ心を開き始めた。「本当に？」と小さな声で尋ねると、ナオキとタモツは力強く頷く。

「もしよかったら、少しだけ見てみる？無理に参加しなくてもいいから」

側で見守っていたサトウさんが提案すると、カズキはしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。ナオキとタモツはカズキの手を取り、一緒にテーブルを見て回り始めた。

手作りのアクセサリーのテーブルでは、楽しそうにビーズを通していた。別のテーブルでは、おりがみをしたり自由に絵を描いたりして、子どもたちの笑顔があふれていた。カズキは少しずつ興味を持ち始め、ついにはナオキとタモツと一緒におりがみで恐竜を作った。

夕飯も楽しんで、その日の終わりにはカズキは笑顔を取り戻していた。

「また来てもいい？」

母親が迎えにきた帰り際、カズキがばつが悪そうにサトウさんに尋ねた。来たばかりの時に暴れてしまったことが、今は気恥ずかしかった。

「もちろん！いつでも大歓迎だよ」
「次も一緒にご飯食べような」
「きずな食堂のご飯、どのメニューもスッゴい美味しいからね！」

サトウさんは笑顔で答えて、ナオキとタモツは次の約束をしてくれた。

カズキはその日初めて、年齢の離れた友達と楽しい時間を過ごすことができた。彼の心にはナオキとタモツ、そしてサトウさんの優しさが温かく刻まれている。
この先お母さんに赤ちゃんが生まれても、あまり寂しくないような気がしていた。