きずな食堂へようこそ！

しぃちゃんの物語

しぃちゃんは教室の窓から差し込む光のように、一見どこか儚げに見える女の子だった。けれど発達障害を抱える彼女は授業に集中することが難しく、静かに座っていることが苦手でガタガタと机や椅子を鳴らしてしまう。先生の話は彼女の耳をすり抜け、友達との会話もうまく噛み合わないことが多かった。

毎朝、母親に手を引かれながら登校するしぃちゃんの姿は頼りなく、まるで小さな妖精のようだった。教室に入ると、しぃちゃんはいつも決まった窓際の席に座り、窓の外を見つめるのが習慣だった。ガラスの向こうの世界は教室でじっとしている事が苦手な彼女にとって、自由を感じさせる場所だったのだ。

そんなある日、しぃちゃんは授業中に突然立ち上がり、教室を飛び出していってしまった。彼女の心はまるで風に揺れる花びらのように不安定で、何かに触れられるとすぐに飛び去ってしまう。
先生は慌ててしぃちゃんを追いかけて校庭まで行くと、校庭の端にある桜の木の下でじっと立ち尽くしていた。風が吹くたびに、桜の花びらが彼女の周りを舞い、まるで彼女自身の心の中の迷いを表しているかのようだった。
それからしぃちゃんは小学校に通えていない。

しぃちゃんが小学校に通えなくなってから、彼女の母親は新しい居場所を探していた。そんなある日、近所の人から「きずな食堂」という場所を紹介された。子どもたちが集まり、食事を楽しみながら心の安らぎを得られる場所だという。母親はしぃちゃんの新しい居場所として、ここが適しているかもしれないと思い、訪れてみることにした。

きずな食堂の入口に差し掛かると、しぃちゃんの目はキラキラと輝き始めた。まるで新しい世界に足を踏み入れるような感覚だった。食堂の中には、笑顔で溢れる子どもたちと、温かい雰囲気が広がっていた。しぃちゃんの母親は少しだけ安心し、しぃちゃんの手を優しく引いて中に入った。

その日、きずな食堂では特別なイベントが催されていた。サトウさんが子どもたちと一緒に手作りのピザを作るという企画だ。しぃちゃんの目はピザの生地をこねる子どもたちの手元に釘付けになった。彼女の心はまるで教室の窓から見える外の世界のように、新しい場所に興味津々だった。

サトウさんはしぃちゃんの様子に気づき、優しく声をかける。

「こんにちは、しぃちゃん。今日は一緒にピザを作ってみない？」

その声は、まるでそよ風のように穏やかで、しぃちゃんの心にすっと入り込んできた。しぃちゃんは少し戸惑いながらも、頷いて手を伸ばした。

しぃちゃんがピザの生地を触ると、その感触が彼女の心を和ませた。周りの子どもたちも、しぃちゃんを温かく迎え入れ、「一緒に作ろう！」と声をかけてくれた。しぃちゃんはみんなと一緒にピザを作ることで、少しずつ心を開いていった。

ピザが焼き上がり、みんなで食べる時間がやってきた。しぃちゃんは初めて自分で作ったピザを一口食べ、その美味しさに驚いた。周りの子どもたちも「美味しいね！」と笑顔で話しかけてくれる。しぃちゃんの心は、少しずつ安定していくのを感じた。

その後も、しぃちゃんは母親と一緒にきずな食堂に通い続けた。サトウさんや他のボランティアたちは、しぃちゃんの特性を理解し、彼女が安心して過ごせる環境を整えてくれた。しぃちゃんは、ここで新しい友達を作り、少しずつ自分の居場所を見つけていった。

ある日、しぃちゃんが母親に言った。

「お母さん、ここは私の好きな場所だよ。みんな優しいし、楽しいことがいっぱいある。」

その言葉を聞いた母親は、涙が溢れそうになるのをこらえながら、しぃちゃんをぎゅっと抱きしめた。

きずな食堂へ向かう時間。しぃちゃんの短い髪が夕陽に照らされ、金色の糸のように輝くその姿は、まるで新しい希望の光のようだった。彼女はきずな食堂で、多くの友情や支えを受けながら、少しずつ自分のペースで成長していった。きずな食堂の温かい空間は、彼女の心を豊かにしていったのだった。