二世帯住宅から冒険の旅へ

PXXN3

文字の大きさ
上 下
62 / 95

第58話 フィグォルド家

しおりを挟む
『フィグォルド様、お一人で出歩かれるのはくれぐれも』

『あーわかったわかった』

「わかってないやつ」

「そういう会話だったのか」

「もめているように見えましたが王宮内でもよくある光景でしたね」

「よくあるんだ……」

「じいちゃんがよく止められてる」

『それでは行きましょう。先ほど使いの者を出しましたのである程度歓迎の準備は進めているはずですが、なにぶん急ですので至らない点はお目こぼしください』

「大丈夫だよ。たぶん準備は整ってる気がする」

「トラ様……影の行動を先読みするのはやめてあげてください」

「なんか町の人にめっちゃ注目されてる気がするんだけど」

『みなさんがわたしの命の恩人であるとすでに知れ渡ってますからね』

「この町の噂の広がりかた速すぎない?」

「下手すると影の伝達より速いんじゃないか?」

「翻訳魔法を駆使してほとんど言葉を発さずに一瞬で伝達されるらしいですよ。出会い頭に『じゃっど!』で終わりみたいで内容がわからず頭を抱えていました」

「どういう町なんだよ……」

『むかしは各地に諜報員として派遣されていたことがあるって聞いたことがありますな。いまはほぼ国交がないのでそんな必要もないんでしょうけど』

「いい人材がいたら引き抜きたいところですね……」

「ヘッドショットってやつだ」

「ヘッドショットしたら死んじゃうだろ……」

「なんで国交がなくなったの?」

『かなりむかしの話ですが、当時のいさかいを治めるために現れた勇者があの深い谷を作って人が渡れないようにしたという言い伝えがありますね』

「勇者か……いいのかわるいのかなんとも言えんな」

「戦争がなくなっても交流もなくなるのはやりすぎな気がするねえ」

「こちら側に伝わる話ではある日突然大地震が起きて大地が割れたと言われていますが、勇者ならそういうこともできるんでしょうね」

「どこの勇者なんだろうね?」

『サツマン国の勇者だと言われていますよ』

「なるほど、サツマ側から急に分断されたから向こうには状況が伝わってないんだな」

「勇者は時に天変地異のようなものですからね」

「地震、雷、火事、親父、ほんとだ」

「親父は虎彦の場合だけだろ」

『さてそろそろ着きますよ。あそこに出迎えが出ています』

「旗振ってる人が百人くらいいるんだけど」

「どういう準備させたんだ」

「あれはやりすぎですね」

『ちょっと大げさすぎましたかね。この町によそからお客さんが来ること自体が珍しいものですから』

「ああそういうことか」

「じゃあ手を振ったほうが喜ばれるかな」

「急な王族ムーブ」

「すごい歓声ですね。さすがトラ様」

『さあ着きました。ようこそいらっしゃいました。歓迎いたしますぞ』

『いらっしゃいませ。馬車はこちらへ』

「こんにちはー。オレは虎彦、トラって呼んで」

「俺は辰巳だ。タツでいい」

「わたしはエドゥオンです。エドと呼んでください」

『トラ様、タツ様、エド様、わたしはフィグォルドの妻のマネタです。夫の危ないところを救っていただいたそうで、本当にありがとうございました』

「助けたのは辰巳だよ」

『タツさんはとても強いんだよ』

「おまんさああとでかたいようごたっね」

『あ、はい』

「え? いまのよく聞き取れなかったけど、翻訳されてない?」

「あとでお話し合いするんだって」

『おほほほ、トラ様はよくお聞こえになりましたわね』

『翻訳魔法はね、相手に伝えようとする意志がない言葉は翻訳されないんだよ』

「だからわかるところとわからないところがあるのか」

「わたしにも混ざって聞こえましたね」

「え? オレには同じに聞こえるんだけど」

『あらもしかして……トラ様は魔法の素質が』

「あれ? 魔法は使えないけど、魔道具なら使えるよ?」

「魔道具は魔法の使えない人でも使えるんじゃなかったっけ? この腕輪も魔法の使えない人用って言ってなかったか?」

『ええ、普通の魔導具ならそうなんですが、翻訳魔法はちょっと特殊でして』

『伝えたい意図を送信する側と受信する側で認証みたいのが必要でね、その部分はどうしても本人の魔法が必要になるから』

「どうりで腕輪着けてもあまり変わらないわけだ」

「ん? あれ? なんかどっかで似たようなことを……ああっ! もしかして記録の魔道具と同じような仕組みか? 言葉に乗った魔力波を使って意図を読みだしてる?」

『細かいことはわかりませんが、この魔道具を作った専門家がいますからご紹介しましょうか?』

「急に興味が出てきた。うまく改造できれば虎彦も翻訳魔法の魔道具が使えるようになるかもよ」

「ほんと? 異世界言語チートできる?」

「虎彦はもともとチートだろ」

「チートじゃないよ。全部自力だよ」

「俺はずっと日本語で話してるけど、どう聞こえてるの?」

「異世界言語チートでクマモトの言葉になってるけど、たまに日本語になってるよね」

「え? 混ざってるってこと?」

「ああ、ときどき聞き取れないことがありますね。つぶやいているのは異世界語だったのですね」

「マジか」

「父さんと母さんも日本語とクマモト語がころころ切り替わるし」

「え? ずっと同じに聞こえてた」

「確かに勇者が言うことはたまにわからないですね」

「そういえばひごっどんとマネタさんもちょっと違う言葉だよね」

「え?? なにが違うんだ?」

『わたしはこの町の生まれじゃないですからね。東の方の生まれであちこちを旅してきましたから少し言葉が違うかもしれません』

「虎彦、まさか翻訳なしで全部理解してるのか? 俺は言語チート通しても理解できないのに」

「それ以外にどうしろと」

「すげー。すげえな」

「トラ様は天才でございます」

「本当に天才だわ」

「急にほめないでよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...