二世帯住宅から冒険の旅へ

PXXN3

文字の大きさ
上 下
2 / 102

第2話 二世帯住宅

しおりを挟む
学校帰りにケーキを買っていま家に着いたところ。


うちはいわゆる二世帯住宅というやつで、母方の祖父母の家と直接行き来できるようになっている。ただし玄関は別だし、内部もしっかり分かれている。


一階には、玄関を入ってすぐ右に土間ふうの物置への扉、廊下には左にクローゼット、右に応接間へのドアがあり、まっすぐ奥へ進むと居間へのドアがある。

ドアを開けると右側は居間になっていて、左側にはダイニングキッチンがあり、さらにその奥の見えないところにバス・トイレ等水回りがまとまっている。その傍に二階への階段がある。二階には寝室だけがある。


その階段下の小さな扉の奥に地下への階段があり、そこを降りるとこじんまりとした倉庫のような部屋がある。ここは涼しいので普段は食料庫として使われている。

この部屋の棚を退けると目立たない引き戸が隠されていて、その先に真四角の部屋がある。引き戸には触れるだけで開く。自動ドアだ。部屋の材質はどうもコンクリートとは違うような気がする。六枚の滑らかな石板を組み合わせたっぽい感じだ。部屋の床には魔法陣が描かれていて、そこに載ると祖父母の家に転移する。


引き戸も魔法陣も登録された人間にしか反応しない魔法が組み込まれている、らしい。理論を説明されたがさっぱりわからなかった。

とにかくオレは子どものころから毎日のようにここを通って祖父母に会いに通っている。

転移先もまったく同じ真四角の部屋に魔法陣が描かれていて、一見転移したのかわからないくらいだ。だが、見慣れたオレにはわかる。引き戸の色や部屋の壁や天井の装飾が微妙に違う。逆に言うと相当見慣れていないと見分けられないだろう。

専門家によると魔法陣自体も違うと説明されたがさっぱりわからなかった。

この部屋の引き戸も自動ドアで、やはり登録された人間しか通れないらしい。


その先には番犬のトンチンカンが寝そべっている。トンチンカンと名付けたのは幼いころのオレだ。三つの首にそれぞれ名前を付けたらそうなった。

体長は4メートルくらいあるだろうか。伏せている状態での体高も2メートル近い。オレの身長よりは確実に高い。

オレが入っていくとスンスンと匂いを嗅いでベロっとひと舐めされる。というか三つの首にひと舐めずつされる。ベッタベタである。

鼻の頭をぎゅっとしてやるとうれしそうに尻尾を振るが、埃が酷いのでやめてほしい。

いつも疑問なんだが、こんな狭いところにいて散歩とかしなくていいんだろうか。


その先には鉄格子のようなものがあって、人間が通れるサイズの扉が付いている。そこもやはり魔力登録された人間だけが通れるようになっているらしい。オレにとっては自動ドアだがほかの人間には壁ということだ。

そこは文字どおりのダンジョン(地下牢)で、頑丈な石造りの建物だ。魔法で強化もされているらしい。鉄格子を抜けてしばらく行くと階段があり、地上に出るまで百段くらい昇らなくてはならない。

途中半分くらい昇ったところには見張りの兵が必ず3人いる。本当の地下牢はその階にあるらしい。まだ牢のなかは見せてもらったことがない。よほどの凶悪犯しか入れられないそうだ。なのでここの見張りの兵は実力があって信頼できるものに限られる。


見知った見張りの兵に挨拶しながら階段を登りきると、地上――とはいってもまだ建物のなか――に出る。半径二十メートルくらいの広間の真んなかに出口があり、周りに十人くらいの兵士がいる。

広間には三か所の出口があり、左右は居住区の塔に、正面は城内に向かっている。ここは城の北側にあたる。

祖父母はすでに隠居して東の塔、つまりここから左に行ったところにいるので、そちらへ向かう。

ここら辺を警備している兵はみな顔見知りなので、軽く挨拶しながら通り抜けるだけである。


祖父母の住む東の塔までは一本道だし、地下道なので特に見るべきところもない。飾り気もない。どうも本来は緊急避難時の隠し通路らしい。

東の塔に着くと階段まえには警備兵が立っている。


「トラ様、お帰りなさいませ」

「あ、クマさん、どうも」


なぜかみんな『お帰り』って言ってくれるんだよね。いやではないんだけど、ちょっと複雑。

あと、お互いに名前がうまく発音できなくて通称で呼び合っている。

オレの名前、虎彦はトーライコーとかトゥレイクゥとか言ってくるから、トラでいいよってことになった。

クマさんは本当はキュォミュアンみたいな感じなんだけど……言えない。

言葉自体は子どものころから通ってるからこっちの言葉を話してるんだけど……話せてるはず。


階段をしばらく昇ると例の自動ドアがあって、そこから先は王族と限られた使用人しか出入りできないプライベートエリアだ。

広い居間があり、上の階には寝室とバストイレがある。

食事は城内でとるのでキッチンはないが、飲み水を出したり湯を沸かしたり冷蔵庫的な魔道具もある。

魔道具で空調も冷暖房も照明も防音も完備で快適である。


「ばあちゃーん、母さんからおすそ分け持って来たよ」

「あらあらトラちゃん、よく来たわね。これは……明日の朝ごはんにいいわね」

「トラ、じいちゃんにはなにかないのか?」

「ないよ」


王宮では夜の食事だけ豪華だが、朝は各自の部屋で軽い食事をとるのが普通なので、ばあちゃんは母さんからの差し入れを楽しみにしている。

じいちゃんは構うとしつこいのでスルーである。

オレが子どもの頃はまだ現役の王様だったので忙しくてあまり時間がとれず、その反動でまとめて絡んでくるので面倒だったのだ。いまは基本ヒマなはずだが、それでもいちいち相手すると疲れるくらいには絡んでくる。


「それよりケーキ持ってきたから食べよ」

「それじゃお茶入れましょうね」

「じいちゃんの分もあるよな?」

「ないよ」


いじいじしているじいちゃんにもお茶とケーキを用意してなんだかんだしゃべっていると、あっという間に時間は過ぎていく。すでにお昼を過ぎていた。


「あ、もうこんな時間だ。帰るね」

「あら、それじゃこのお菓子持っていってね。最近城下で流行ってるらしいの」

「へー、ありがとう。じゃまたね」

「気を付けて帰るんじゃぞ」


もとの道を辿って居間まで戻ると両親が晩飯を用意して待っていた。約6時間の時差がある。


「おまえまた行ってたのか。毎日よく飽きないな」

「? 飽きないよ?」

「ふふっ。二人ともごはんにしましょ」

「いただきます」

「いただきます」

「そういえば、最近流行ってるってお菓子貰ってきたよ。あとで食べよ」

「へー。なんだ?」

「知らない。まだ見てない」

「城下にもしばらく行ってないわね。今度のお休みに町でも見て回る?」

「行きたい! 一人じゃ城から出してもらえないから」

「そうだな。久しぶりにいいかもな。じゃ、次の日曜日な」

「やった!」


母さんは元お姫様だ。父さんはお姫様をさらってきた元勇者だ。

向こうの世界では箱入りお姫様と壊れ性能勇者のチートコンビだが、こちらの世界ではかなり非常識で近所でも有名である。まあどちらも常識外れという意味では大差ない。

それでも向こうの城下町を歩くくらいなら――問題が起こりにくいという意味で――安心して楽しめるだろう。


一度遊園地に行ったときは酷かった。

父さんは母さんを抱えてジェットコースターから飛び降りようとするし、母さんはお化け屋敷を浄化魔法で燃やし尽くそうとするし。

お城を見て『安っぽいわね』とか言うし。

ヒーローショーに参加しようとするし。

全然楽しめなかった。


父さんは警備員をやっている。

なんだかいろいろやらかして噂になっているみたいだけど、怖くて内容は聞いていない。


母さんはスーパーでパートをしている。

最初はレジ打ちに挑戦したが全然ダメで――というより客が全員母さんのレジに並んでしまうので――裏方で調理なんかをしている。


学校でも突き抜けすぎてていじめの対象にもならない。大抵『おまえ、大変だな』って反応をされる。

それはいいけど、授業参観に毎回両親揃って出てくるのはご遠慮願いたい。

さすがに最近はないけど、むかしは『コスプレかっ?!』っていうような衣装とか着て来た。まあ、それが彼らの普通の『ちょっとよそ行きの服』だったんだけど。騎士服とドレスとか引くわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

処理中です...