初恋の行方

佳乃

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case 3 健琥

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従者が休息場を設置してる時から、永明は落ち着かなげにあちらへふらふら、こちらへふらふらと楽しげな表情で仙明境を楽しんでいた。


この仙明境は我黄家の守護石が祀られてある。それゆえにこの先の場所には誰も立ち入る事ができない。年に数回黄家の血筋の濃い者が、守護石に参拝に来るのが習わしになっていた。

だからこの滝壺の場所は仙明黄と呼ばれていて、守護のない者が長時間居ると体調を崩す不思議な場所だ。永明は手首に、仙明境で採れた翡翠で作らせた数珠の守りがあるので大丈夫だろう。


馬車の中でぐっすり眠っていたせいか、元気いっぱいの永明はさっさと履き物を脱いで、肌着物一枚になった。そして裾をたくし上げて腰紐に差し込むと、スタスタと目の前に広がる浅瀬へと楽しげに入って行った。

川面の太陽の日差しが反射して眩しいきらめきが、永明の立てる水飛沫と相まって、まるで一つの絵の様に思えた。しばらくその様子を眺めていたが、永明がすっかり私を忘れてしまっているので、私は永明に習って肌着物一枚になると同様に水辺に足をつけた。


私は黄家の跡取りとして、この様な事は決して許されなかった。子供の頃ここに参拝に来る度に、耳に心地よい川音は楽しめたものの、水辺に近寄ることも許されなかったのだ。

あの子供時代の憧れが、永明の無邪気さで思い出された。私は思いの外冷たく、引っ張られる川の力を楽しんだ。丁度その時に永明が、私を呼ぼうと振り向いて、私が直ぐ側にいた事に驚いた顔をした。


私が側に寄ると、少し顔を顰めて魚が逃げると言った。直ぐ側に魚が群れをなして泳いでいるのが見えた。私があれを採るのか聞くと、用意がないので今日は見るだけだと言う。

色々私が知らない事を、永明は知っている様だった。私は永明が引いてくれた手を握り締めて、この滝壺から分かれて流れる水流の美しさと、胸いっぱい感じる解放感、そして永明の無邪気な笑顔を心に焼き付けた。


ふと、永明の唇の色が悪くなっている事に気づいた私は、自分の足の冷たさに我に返り、永明を引っ張って休息場へ戻った。永明の言う通りに、日差しで暑くなった石の上に足を乗せると、あっという間に体温は戻った。

永明はクスクス笑いながら、私の足に温かくなった足先を押し当てながら言った。


「私たちは、父に連れられて良く川遊びに行ったんです。あの頃だけが私が子供でいられた懐かしい記憶です。私は自分の人生に、こんな幸せな思い出があったって事をすっかり忘れていました。

翔海様、ここに連れてきて下さってありがとう。幸せな記憶を取り戻せました。」

そう言って幸せそうに微笑む永明に、何だか泣きたい気持ちになったのはどうしてなんだろう。




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