世界が終わる、次の日に。

佳乃

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閑話

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 紗羅が動き出したのに気付き何かを見ることができるかと家の近くに行った僕と兄だったけれど、見ることができたのは遅い時間に車を出した義母と、その車に乗って帰ってきた紗羅だけだった。

「どういうことだ?」

 家を出る義母を見て急いでGPSを確認すると紗羅は線路上、つまり電車に乗っていることになっていた。

「たぶん、途中から電車で帰ってきたみたい」

 もしかしたら写真を撮ることができるかもと期待していた僕の口から落胆の声が漏れる。

 家でGPSを確認した時に公道を走っていたのは確かだ。何度か確認した時には家に向かう道を走っていたから間違いじゃない。
 確かに近くまでは来ていたのに、時間的なことを考えるとどこかの駅で車から降りたのだろう。
 紗羅も何か、というか僕のことを警戒しているのかもしれない。

「お義母さんも協力してるのか?」

「どうだろう。
 そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。
 忘れ物取りに行くって言った時に会ったんだけど、なんか変な感じだったし」

「変って?」

「俺に紗羅ちゃんがいないこと知られたくなかったみたいだけど、だったら誤魔化しようはあったと思うんだよね。
 買い物行ってるとか、用事を言いつけたとか。だけど友達に会いに行ったってわざわざ言うとか」

「じゃあ、その友達が元婚約者とは分かってない?」

「そうかもしれない」

 自分の娘は当然だけど可愛いのだろう。
 こんな時に友人が会いに来たといえば外出を許すだろうけれど、その相手が貴哉だと知って許すとは思えない。だからきっと、紗羅は相手を偽って出かけたはずだ。

 決定的な写真を撮ることはできないけれど、それでも何かこちらが有利になる証拠を手に入れることができないかと思い人目につかない場所で紗羅を待つけれど、結局は義母の車に乗る紗羅を確認しただけで無駄に時間が過ぎただけだった。

「どうする、このまま紗羅ちゃんと話す?」

「それ、さっきと言ってること違わない?」

 このタイミングで話をして紗柚に影響を与えるべきじゃないとさっき言ったばかりなのに、と不審に思いそう聞いた僕に「少しは冷静になったみたいだな」と兄が笑う。

 きっと、今から紗羅と話すと言えばそうじゃないとまた叱られたのだろう。

「帰るか」

 ここで待っていても今日はこれ以上動きはないだろうし、そろそろ日付も変わる。兄の言葉に従いその後に続き、取り止めのない話を続ける。

 紗羅のことはもう話さなかった。
 紗羅と僕の問題は、ふたりで解決するべきだから。

 紗凪のことももう話さなかった。
 巻き込んでしまった紗凪に申し訳ないと思う気持ちはあるけれど、それでも貴哉と彼が付き合わなければこんなことにならなかったのにという想いを捨て切ることはできない。

 ただ、これから先は僕自身で考えて答えを出すしかないのだから兄に頼るべきではないと自分を戒める。
 紗凪は意図的に巻き込んだけれど兄はたまたま巻き込んでしまっただけで、勢いで頼ってしまったけれど、本来なら今この場所にいるべきではない人なのだから。
 
 最後の日まであと2日。

 僕が今考えるべきことは、紗柚を不安にさせない方法だと自分に言い聞かせた。
 


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