世界が終わる、次の日に。

佳乃

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貴哉

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 約束の日を無視してこちらに来たのは少しでも近くにいたかったからだけど、もしかしたら少しの時間でも会うことができるかもしれないと期待していたから。

 この街に着いた翌日、周囲の様子も変わっているだろうと適当に車を走らせた。汐勿の実家を目指しながら会うのに良さそうな場所を探す。
 最後になるのなら会いたいと言われ、旦那と子どもが義実家にいる間なら大丈夫だと言われてその日を目指してこちらに来たけれど、具体的な計画は何も立てていない。
 ビジネスホテルの部屋を取ったのも今日までだ。
 連泊は可能だと言われているけれど、もしも紗羅と宿泊することができるのならシティホテルを取った方がいいことは分かっている。少し小洒落たシティホテルで過ごすと言えば、ステイタスに弱い紗羅はきっと喜ぶだろう。
 ただ、この地でふたりで過ごすのならそのための休憩施設の方が匿名性が高くていいかもしれない。
 他県ナンバーのオレの車だったけれど、今の時期は噂のせいで帰省している他県ナンバーも多いだろうから悪目立ちすることもないはずだ。

〈明日はどうする?〉

 本来なら紗羅から連絡を待つ方が安全なのだけど、確実な約束が欲しくてメッセージを送ってしまう。事前に連絡を取った時に旦那は変わらず仕事に行くと言い、子どもは休みで家にいると言っていたけれど、子どもしかいないのならメッセージを送るくらいは大丈夫だろう。

《夫と子どもが義実家に行ったら家を出るから、それまで待ってて》

 思った通り、すぐに返ってきたメッセージに〈迎えに行こうか?〉と返してみる。汐勿の家まで行かないにしても、市内の商業施設に行くくらいなら大丈夫だろう。

《駄目》

《貴哉の最寄りの駅まで行くから、そこまで迎えにきて》

〈ビジネスホテルだから一度チェックアウトする予定〉

〈だから紗羅が決めてくれればそこまで迎えに行くよ〉

《じゃあ、》

 紗羅が指定したのは紗羅の最寄りの駅でもなく、俺が泊まるホテルの最寄りの駅でもなく、どちらとも関係のない街の駅だった。

〈何でそこなの?〉

 ナビを使えば問題無いけれど、そこまで用心する必要があるのかと不満を隠すことができない。少しでも早く会いたいと思っているのは俺だけなのかと恨み言を言いたくなってしまう。

《だって、関係ない場所の方が安全でしょ?》

《知り合いがいなくて、貴哉のことを知ってる人のいない場所》

《そこの最寄駅だと貴哉のこと認識した人がいるかもしれない》

 そこまで用心する必要がどこにあるのかと思うけれど、《人の目、気にしながら会いたくない》と言われてしまえば受け入れるしかなかった。
 確かに、昨日はこの車で移動をしていたから自分が知らないうちに紗羅の関係者の目に触れていたかもしれない。紗羅のためにした行動が彼女の足を引っ張ってはいけない、そう思いその指示に従うことにする。

〈分かったけど、時間は?〉

《たぶん、昼食食べてから出ると思うからそれ以降で》

《母には友達に会いに行くって言ってあるから》

 用意周到なことに、家を空けることは家族に伝えているようだ。

〈その友達の名前は出して大丈夫な人なの?〉

《大学の同級生だった子、》

 告げられた名前は大学の同期の名前で、確か就職して他県にいるはずだ。俺と紗羅が別れた時に俺を心配して連絡をしてきた彼女は就職先で知り合った相手と結婚したと聞いている。
 確か、紗羅の結婚式にも出席しているはずだ。

〈まだ付き合いあったの?〉

《年賀状くらいはね》

《学生時代を過ごした場所を最後に見ておきたいって理由でこっちに来ることにしてある》

〈分かった〉

 ただそばにいたいと言う理由だけで無計画に来たけれど、結局予定していた通りにしか会えないことに紗羅の気持ちと自分の気持ちの間にある温度差を感じてしまうけれど、それでも自分のために家族に嘘をついてまで時間を作ってくれたのだからと都合よく考える。

《明日は彼女と飲み過ぎて外泊する予定だから》

 そんなメッセージで紗羅の意図を正しく理解する。

〈何か用意しておくものは?〉

《貴哉さえいてくれたらそれで良いから》

《早く会いたいのに、ごめんね》

〈いいよ、勝手に早く来ただけだし〉

 気持ちを見透かされたような気がして取り繕うことしかできなかったけど、それでもその時を期待した俺は、紗凪に送ったメッセージに既読が付いていないことに気付くことはなかった。

 紗羅と過ごす時間を想い、置いてきた紗凪を気遣いもしなかった俺がこの時にはもう彼を失っていたのだと気付くのは、全てが終わり、新しく始まり、本当の終わりを迎えた時だった。









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