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貴哉
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紗凪との生活は、単調だった生活に変化をもたらした。
はじめに自分のことは自分でと決めたのは、線引きをしないと全てのことに手を出したくなってしまうから。
これはきっと、俺の性格的なもの。
紗羅と半同棲状態だったのは彼女の家事能力を向上させるためで、完全に同棲してしまうと全ての家事をしてしまいたくなるためそれを防ぐために決めたこと。
学校の成績や仕事の成績は良かった紗羅だったけれど家事は苦手で、同棲してしまうと甘えてしまうからと半同棲を選び、最低限の家事スキルを身に付けるための大切な期間と決めた。
4年間一人暮らしをしていた俺と違い、初めて実家を出た紗羅は【一人暮らし】にも憧れがあったと言い、はじめから同棲することに否定的だったせいもある。
もちろん家事スキルを向上させる目的もあったのだけれど、洗濯や掃除はそれなりにできるようになったのに料理だけは全く上達せず、結局は俺が料理担当になってしまったんだ。
そんなことがあったせいで紗凪との同居生活も自分のことは自分でと決め、同じ部屋で暮らしているだけという関係を保つ。洗濯は各自で、掃除は自室以外は気になった方が気になった時に。
キッチンは自由に使っていいと告げたけれど、調理器具を使用している形跡はない。冷凍庫を開ければ冷凍ミールを見付け、ゴミの中にコンビニ弁当の形跡を見つける。
紗羅と同じで料理は苦手なのかもしれない、そんなことを考えると頬が緩む。
一緒に暮らすうちに見つけていく紗羅との共通点。それは本当に些細なことで、玄関に置かれる靴の向きだったり、洗濯の干し方であったり。育ってきた環境がきっとそうさせるのであろうと考え、紗羅と過ごした時間を思い出す。
「たくさん作ったから、一緒にどう?」
そう声をかけたのは同居生活を始めて少ししてから。
気まぐれに思い付いたのは買ってきた鶏肉を入れるスペースが冷凍庫に無かったから。だけど、それは言い訳。
紗凪との生活で紗羅のことを思い出し、紗羅との生活をなぞっていく。詰めの甘い掃除に頬を揺め、特徴的な洗濯の干し方に苦笑いを漏らす。
そして、捨てられる冷凍ミールやコンビニ弁当のパッケージに心配を募らせる。
紗羅の部屋で見た光景と重なり、その食生活が気になり、そんな言い訳を思いつき作ったのがカレーだった。
スパイスを揃え、骨付きチキンがほろほろになるまで煮込んだそれは紗羅の好物で、何が食べたいかと聞くと必ず指定するメニュー。「これでラッシーがあれば完璧なのに」と毎回お約束のように言った紗羅だけど、ヨーグルトが苦手な彼女が本気じゃないのは分かっていた。
そして、そんな憎まれ口を叩きながらチャイを淹れてくれるのは紗羅だった。
「料理、好きなの?」
皿に盛ったカレーを見て驚いた顔を見せた紗凪に「好きっていうか、仕方なくかな」と答えれば不思議そうな顔を見せる。
「そうなの?」
純粋な質問にどう答えようかと考え、隠すことでもないかと思い「紗羅は料理あまり得意じゃなかったから、ね」と告げてみる。
思っていなかった答えに返す言葉に困ってしまったのだろう。黙り込んだ紗凪に「紗凪君も料理は苦手?」と質問すれば少し不機嫌そうな顔を見せ言い訳を始める。
「別に苦手じゃないよ。
一人暮らしの時はそれなりにやってたし。だけど人の家のキッチンは使いにくいし、1人分ってコスパ悪いし」
「勝手に使っていいのに」
「別に不自由してないから大丈夫。
あ、でもこのカレーは美味しいから嬉しいよ。ありがとう」
はじめから紗凪に紗羅を重ねていたわけじゃない。だけど、一緒に生活をしていくうちに意識し始めてしまった紗凪のこと。
「たくさん作った時にはまたご馳走するよ」
「じゃあ、時間が合えば」
この時はまだ紗凪に紗羅を重ねても、それ以上でもそれ以下でもなかった。あのまま何事もなく紗羅と歩んでいたら紗凪ともこんな関係が続いていたのだろう、そんなことを考えながら感傷に浸り、それを消化して前に進もうと考えられるようになっていたはずだった。
大きなきっかけとなったのは、きっとあの時。
⌘⌘⌘
「あ、お帰りなさい」
その日、会社での食事会があったせいでいつもより遅く帰宅した俺が見たのはシャワーを浴びたばかりの紗凪だった。
普段なら微妙に時間がずれているせいでこんな場面に遭遇することがなかったのは意図してのことじゃない。紗凪が異性なら意図して避けたのだろうけど、同性である彼に対して必要以上に気を遣わなかった結果だったのだろう。
「ただいま」
髪の毛を拭きながら迎えるその姿に既視感を覚える。
化粧を落とした顔と、濡れたままの髪の毛。「昔からこれだったから」と言って選んだパジャマは前開きのゆったりとしたもので、ボタンを上まで閉めないせいで白い胸元が覗く。
似たようなパジャマを着ているのは幼い頃からの刷り込みなのだろうか。
紗凪の姿と紗羅の姿が重なり、目の前にいるのはどちらなのだろうかと考える。
「今日は遅かったんだね」
「あ、ああ。
食事会だったから」
「そっか。
ごめん、先にシャワー浴びちゃった」
そう言いながら冷蔵庫から水を取り出し喉を潤す姿に目を奪われ、その熱った肌に触れたいと思ってしまう。
「いいよ、いつ帰るかとも言ってなかったし。
紗凪君はもう寝る?」
「まだ寝ないけど部屋で少し本読もうかな」
「そっか、おやすみ」
「おやすみなさい」
自分の気持ちを押し殺すように会話を交わし、浴室に向かう。
自分は今、確かに【紗凪】と呼んだのに、目の前にいるのは紗凪だと認識したのに湧き上がってくる欲望。
自分の身体の変化に戸惑い、いくらなんでも節操がないと自分を嘲り、夕食時に飲んだアルコールのせいにして、いつもより低い温度のシャワーを浴び続ける。
認めたくなかった、淋しい自分を。
認めたくなかった、同性に対して沸き起こってしまった欲望を。
認めたくなかった、紗凪に紗羅を重ね、その身体を思い出し昂ってしまった自分自身を。
「うそだろ…」
冷たいシャワーを浴びても昂りが治ることはなく仕方なく自分で慰めるけれど、酔っているせいかなかなかイクことができず、虚しいだけの時間が過ぎていく。
適度に力を込め擦り上げた陰茎はやがて先走りの液を溢し、その滑りを借りてなんとか達したけれど、その時に想い浮かべたのが誰だったのかを認めることはできなかった。
俺がそんなふうに欲情したことも知らず、変わることのない紗凪な態度と上辺だけは平穏に過ぎていく毎日。
ハイシーズンを過ぎて新年度を迎えると部屋探しを再開した紗凪に「定職につくまでここにいても良いんだよ?」と言ってみたけれど、「だから、大丈夫ですから」と呆れたように言われてしまう。
「でもどうせならなるべく自分の理想に近い部屋が良いし」
そんなことを言いながら見せられる部屋はどれを見ても一人暮らし用の物件ばかりで安堵するけれど、それでも理由をつけて引き止めてしまう。
「どうせ部屋、余ってるんだから紗凪君の部屋は好きに使ってくれて良いんだよ?
模様替えしたって構わないし」
遠回しにこの部屋にいて欲しいと伝えているつもりなのにその言葉は伝わることはなく、「貴哉さんはこの部屋決めた時、何が決め手だったんですか?」と質問されてしまう。
決め手と言われ、答えることができるのは会社との距離。そして、答えることのできない決め手は紗羅と暮らすことを想定していた部屋数。
いずれは紗羅の実家に入る予定だったけれど、しばらくは2人で暮らしたいと希望していたため何年かはこの部屋で暮らす予定だった。だから、紗凪が使っているのは紗羅が使う予定だった部屋で、その部屋から出てくる紗凪に紗羅を重ねる。
気がつけば自分が求めているのが紗羅なのか紗凪なのか分からなくなってしまい、この部屋から出ていくことをなんとか阻止しようと画策し始める。
相談に乗るふりをして距離を縮め、料理は趣味だからと言い含めて休みの度に食事を共にする。食事を共にすると言えば聞こえはいいけれど、していることは給餌だった。餌を与え、主従関係を築き上げ、逆らうことができないように外堀を埋めていく。
独りの食事は淋しいと情に訴えかけ、食事を共にすることの意味を伝え、2人で過ごすことが当たり前だと思うように誘導していく。
紗凪の勤務先は安定せず、この部屋はどうだろうと見せられる物件は場所もバラバラで、もしかしたら部屋を探すふりをしているだけなのではないかと俺を期待させる。
「本当に出てくの?」
「別に、ずっと居てもいいんだよ?」
「仕事がちゃんと決まるまで居てもいいって言ってるのに」
「食事、1人だと淋しいんだよ」
紗凪が本音で話すことができるようにと誘導してみるけれど、なかなか色良い返事が返ってくることはなく、試されるように見せられ続ける様々な物件。
「ずっとだなんて、そんなに甘えてられないです」
「仕事、本当に大丈夫なんですって。
信じてくださいよ」
「部屋が決まっても、たまには食事に誘いますよ」
欲しい答えが返ってこない会話。
「夏までには部屋を見つけて出てきますね」
気を使うようにそう言われたことで自分の気持ちが全く伝わっていないとこを自覚し、このままでは本当に出ていってしまうと危機感を募らせてしまう。
紗凪との生活に慣れてしまった俺は、紗凪のいなくなった生活を想像して独りになることを恐れ、それを回避する方法を模索する。
「俺のこと、また捨てようとするなんて許さない」
仄暗い思いに囚われた俺が紗凪を逃がさないためにできることは、彼の尊厳を踏み躙り、俺から離れられなくすることだけだった。
はじめに自分のことは自分でと決めたのは、線引きをしないと全てのことに手を出したくなってしまうから。
これはきっと、俺の性格的なもの。
紗羅と半同棲状態だったのは彼女の家事能力を向上させるためで、完全に同棲してしまうと全ての家事をしてしまいたくなるためそれを防ぐために決めたこと。
学校の成績や仕事の成績は良かった紗羅だったけれど家事は苦手で、同棲してしまうと甘えてしまうからと半同棲を選び、最低限の家事スキルを身に付けるための大切な期間と決めた。
4年間一人暮らしをしていた俺と違い、初めて実家を出た紗羅は【一人暮らし】にも憧れがあったと言い、はじめから同棲することに否定的だったせいもある。
もちろん家事スキルを向上させる目的もあったのだけれど、洗濯や掃除はそれなりにできるようになったのに料理だけは全く上達せず、結局は俺が料理担当になってしまったんだ。
そんなことがあったせいで紗凪との同居生活も自分のことは自分でと決め、同じ部屋で暮らしているだけという関係を保つ。洗濯は各自で、掃除は自室以外は気になった方が気になった時に。
キッチンは自由に使っていいと告げたけれど、調理器具を使用している形跡はない。冷凍庫を開ければ冷凍ミールを見付け、ゴミの中にコンビニ弁当の形跡を見つける。
紗羅と同じで料理は苦手なのかもしれない、そんなことを考えると頬が緩む。
一緒に暮らすうちに見つけていく紗羅との共通点。それは本当に些細なことで、玄関に置かれる靴の向きだったり、洗濯の干し方であったり。育ってきた環境がきっとそうさせるのであろうと考え、紗羅と過ごした時間を思い出す。
「たくさん作ったから、一緒にどう?」
そう声をかけたのは同居生活を始めて少ししてから。
気まぐれに思い付いたのは買ってきた鶏肉を入れるスペースが冷凍庫に無かったから。だけど、それは言い訳。
紗凪との生活で紗羅のことを思い出し、紗羅との生活をなぞっていく。詰めの甘い掃除に頬を揺め、特徴的な洗濯の干し方に苦笑いを漏らす。
そして、捨てられる冷凍ミールやコンビニ弁当のパッケージに心配を募らせる。
紗羅の部屋で見た光景と重なり、その食生活が気になり、そんな言い訳を思いつき作ったのがカレーだった。
スパイスを揃え、骨付きチキンがほろほろになるまで煮込んだそれは紗羅の好物で、何が食べたいかと聞くと必ず指定するメニュー。「これでラッシーがあれば完璧なのに」と毎回お約束のように言った紗羅だけど、ヨーグルトが苦手な彼女が本気じゃないのは分かっていた。
そして、そんな憎まれ口を叩きながらチャイを淹れてくれるのは紗羅だった。
「料理、好きなの?」
皿に盛ったカレーを見て驚いた顔を見せた紗凪に「好きっていうか、仕方なくかな」と答えれば不思議そうな顔を見せる。
「そうなの?」
純粋な質問にどう答えようかと考え、隠すことでもないかと思い「紗羅は料理あまり得意じゃなかったから、ね」と告げてみる。
思っていなかった答えに返す言葉に困ってしまったのだろう。黙り込んだ紗凪に「紗凪君も料理は苦手?」と質問すれば少し不機嫌そうな顔を見せ言い訳を始める。
「別に苦手じゃないよ。
一人暮らしの時はそれなりにやってたし。だけど人の家のキッチンは使いにくいし、1人分ってコスパ悪いし」
「勝手に使っていいのに」
「別に不自由してないから大丈夫。
あ、でもこのカレーは美味しいから嬉しいよ。ありがとう」
はじめから紗凪に紗羅を重ねていたわけじゃない。だけど、一緒に生活をしていくうちに意識し始めてしまった紗凪のこと。
「たくさん作った時にはまたご馳走するよ」
「じゃあ、時間が合えば」
この時はまだ紗凪に紗羅を重ねても、それ以上でもそれ以下でもなかった。あのまま何事もなく紗羅と歩んでいたら紗凪ともこんな関係が続いていたのだろう、そんなことを考えながら感傷に浸り、それを消化して前に進もうと考えられるようになっていたはずだった。
大きなきっかけとなったのは、きっとあの時。
⌘⌘⌘
「あ、お帰りなさい」
その日、会社での食事会があったせいでいつもより遅く帰宅した俺が見たのはシャワーを浴びたばかりの紗凪だった。
普段なら微妙に時間がずれているせいでこんな場面に遭遇することがなかったのは意図してのことじゃない。紗凪が異性なら意図して避けたのだろうけど、同性である彼に対して必要以上に気を遣わなかった結果だったのだろう。
「ただいま」
髪の毛を拭きながら迎えるその姿に既視感を覚える。
化粧を落とした顔と、濡れたままの髪の毛。「昔からこれだったから」と言って選んだパジャマは前開きのゆったりとしたもので、ボタンを上まで閉めないせいで白い胸元が覗く。
似たようなパジャマを着ているのは幼い頃からの刷り込みなのだろうか。
紗凪の姿と紗羅の姿が重なり、目の前にいるのはどちらなのだろうかと考える。
「今日は遅かったんだね」
「あ、ああ。
食事会だったから」
「そっか。
ごめん、先にシャワー浴びちゃった」
そう言いながら冷蔵庫から水を取り出し喉を潤す姿に目を奪われ、その熱った肌に触れたいと思ってしまう。
「いいよ、いつ帰るかとも言ってなかったし。
紗凪君はもう寝る?」
「まだ寝ないけど部屋で少し本読もうかな」
「そっか、おやすみ」
「おやすみなさい」
自分の気持ちを押し殺すように会話を交わし、浴室に向かう。
自分は今、確かに【紗凪】と呼んだのに、目の前にいるのは紗凪だと認識したのに湧き上がってくる欲望。
自分の身体の変化に戸惑い、いくらなんでも節操がないと自分を嘲り、夕食時に飲んだアルコールのせいにして、いつもより低い温度のシャワーを浴び続ける。
認めたくなかった、淋しい自分を。
認めたくなかった、同性に対して沸き起こってしまった欲望を。
認めたくなかった、紗凪に紗羅を重ね、その身体を思い出し昂ってしまった自分自身を。
「うそだろ…」
冷たいシャワーを浴びても昂りが治ることはなく仕方なく自分で慰めるけれど、酔っているせいかなかなかイクことができず、虚しいだけの時間が過ぎていく。
適度に力を込め擦り上げた陰茎はやがて先走りの液を溢し、その滑りを借りてなんとか達したけれど、その時に想い浮かべたのが誰だったのかを認めることはできなかった。
俺がそんなふうに欲情したことも知らず、変わることのない紗凪な態度と上辺だけは平穏に過ぎていく毎日。
ハイシーズンを過ぎて新年度を迎えると部屋探しを再開した紗凪に「定職につくまでここにいても良いんだよ?」と言ってみたけれど、「だから、大丈夫ですから」と呆れたように言われてしまう。
「でもどうせならなるべく自分の理想に近い部屋が良いし」
そんなことを言いながら見せられる部屋はどれを見ても一人暮らし用の物件ばかりで安堵するけれど、それでも理由をつけて引き止めてしまう。
「どうせ部屋、余ってるんだから紗凪君の部屋は好きに使ってくれて良いんだよ?
模様替えしたって構わないし」
遠回しにこの部屋にいて欲しいと伝えているつもりなのにその言葉は伝わることはなく、「貴哉さんはこの部屋決めた時、何が決め手だったんですか?」と質問されてしまう。
決め手と言われ、答えることができるのは会社との距離。そして、答えることのできない決め手は紗羅と暮らすことを想定していた部屋数。
いずれは紗羅の実家に入る予定だったけれど、しばらくは2人で暮らしたいと希望していたため何年かはこの部屋で暮らす予定だった。だから、紗凪が使っているのは紗羅が使う予定だった部屋で、その部屋から出てくる紗凪に紗羅を重ねる。
気がつけば自分が求めているのが紗羅なのか紗凪なのか分からなくなってしまい、この部屋から出ていくことをなんとか阻止しようと画策し始める。
相談に乗るふりをして距離を縮め、料理は趣味だからと言い含めて休みの度に食事を共にする。食事を共にすると言えば聞こえはいいけれど、していることは給餌だった。餌を与え、主従関係を築き上げ、逆らうことができないように外堀を埋めていく。
独りの食事は淋しいと情に訴えかけ、食事を共にすることの意味を伝え、2人で過ごすことが当たり前だと思うように誘導していく。
紗凪の勤務先は安定せず、この部屋はどうだろうと見せられる物件は場所もバラバラで、もしかしたら部屋を探すふりをしているだけなのではないかと俺を期待させる。
「本当に出てくの?」
「別に、ずっと居てもいいんだよ?」
「仕事がちゃんと決まるまで居てもいいって言ってるのに」
「食事、1人だと淋しいんだよ」
紗凪が本音で話すことができるようにと誘導してみるけれど、なかなか色良い返事が返ってくることはなく、試されるように見せられ続ける様々な物件。
「ずっとだなんて、そんなに甘えてられないです」
「仕事、本当に大丈夫なんですって。
信じてくださいよ」
「部屋が決まっても、たまには食事に誘いますよ」
欲しい答えが返ってこない会話。
「夏までには部屋を見つけて出てきますね」
気を使うようにそう言われたことで自分の気持ちが全く伝わっていないとこを自覚し、このままでは本当に出ていってしまうと危機感を募らせてしまう。
紗凪との生活に慣れてしまった俺は、紗凪のいなくなった生活を想像して独りになることを恐れ、それを回避する方法を模索する。
「俺のこと、また捨てようとするなんて許さない」
仄暗い思いに囚われた俺が紗凪を逃がさないためにできることは、彼の尊厳を踏み躙り、俺から離れられなくすることだけだった。
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