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羽琉 頓挫した計画とその行方。
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考えろと言われて考えてはみるけれど、今までだって考えてなかったわけじゃない。
考えて考えて、その上で行動していたつもりだったのにそれでは足りなかったのだと言われたのだ。
「考えろって言われても…」
ベッドに横になるような気分ではないけれど、ソファーの上で足を抱えたまま今までのことを思い出してみる。先生は今居涼夏の存在が転機だったわけじゃないと言うけれど、その日の朝までは今までと変わらなかったのだからその言葉を鵜呑みにすることはできない。これは僕が頑ななわけではなくて、客観的に見てもそうだと自信をもって言えることだから。
燈哉が僕に声をかけてくれたあの日から僕は燈哉しか見ていないのに、僕以外に目を、心を奪われた燈哉が今回の原因だと思っているのにそれは違うと言われてもやっぱり納得することができない。
先生は伊織や政文の存在が燈哉を傷付けたと言うけれど、それを言うのなら僕に隠れて友人と約束をしたり、生徒会に入り人間関係を広げていくことで僕のことを傷付けているのだから目に見える場所でやっているだけ僕の方が配慮しているのにと思ってしまう。
伊織と政文とのやり取りで燈哉に隠していたことなんて何もないのだから。
「僕は悪くない、のにな」
だけど、そんなふうに口にしても納得できないのは何故なのか自問自答する。自分の中で何か引っ掛かっているけれど、それが何かが分からない。
僕の隣にはいつも燈哉がいたのにいつからか燈哉の隣には僕じゃない誰かが立つことが増えていた。そして、燈哉に向けられる視線が増えてきたことにも気付いていた。
燈哉は僕の【番候補】なのに、それなのに燈哉の隣を狙おうとすることに苛ついた。燈哉の隣に立つ僕を押し除けようとするその視線に、その態度に気付かずにいる鈍感さが苛立ちに拍車をかける。
『燈哉は僕と一緒にいてくれるんだよね?』
『当たり前だろ?』
そんなやり取りをなん度も繰り返したけれど、その理由に燈哉は気付いていたのだろうか。僕の不安な気持ちはちゃんと燈哉に伝わっていたのだろうか。
「羽琉さん?」
自分が何をどうしたらいいのかを真剣に考えていたせいだろうか、急に声をかけられてソファーから身体を起こす。
「あ、そこに居たんですね。
ノックしても返事がないから寝てるかと思いました」
そう言った隆臣は保冷機能の付いたバッグをいくつか手にしている。
「起きてたけど、何持ってきたの?」
「何って、昨日言ったじゃないですか。
少しでも気になるものがあったら食べてくださいね」
そう言って取り出したものを次々と冷蔵後に入れていく。定番のゼリーやプリン、食べやすいようにカットしたフルーツ。日持ちの悪そうな生菓子まであって僕を呆れさせる。
「ケーキとか、そんなにいらないよ」
「減り具合を見て交換、補充しますから」
「ちゃんと用意されたご飯食べるから程々にしておいてね」
いらないと言ったところで用意するのだからそれを受け入れるけれど、過剰にならないよう釘を刺しておく。お見舞いに来てくれるような友人がいれば一緒に楽しむことができたのに、そう思わないでもないけれどΩの友人を作るのは僕は臆病すぎた。
本音を言えばΩの友人が欲しくないと思っていたわけじゃないし、Ωだけで群れていることを否定はしないけれど、彼等は、彼女等は怖くないのだろうか。
もしも自分が好意を持った相手が自分ではないΩを選んでしまったらと考えることは無いのだろうか。
弱い立場なのだから、ひとりで過ごすよりは集団で過ごす方が安全なのはちゃんと理解している。だけど自分が見付けた相手が自分の隣の誰かを見ていたら。
自分が【唯一】だと思っていた相手なのに、自分じゃない誰かに盗られる確率が上がるような環境に身を置いていて怖くないのかと思ってしまう。
だって、こんなにも気を付けていたのに盗られてしまうのだから。
「そう言えば夏中ここで過ごすことにしたんですね」
「あ、そうだった。
連絡しないといけないんだった」
冷蔵後に差し入れを詰め終わると今度は冷凍室にアイスを入れ始める。入れる順番がおかしくないかと思いながらその様子を見ている時に言われたせいか、自然に口から言葉が出てきてしまう。無意識に意識していたせいだろう。
「まだ連絡してなかったんですね。
自分からしておきますか?」
「………お願いしたいけど、それってきっと駄目だよね」
「ですね。
羽琉さんの調子がすぐれないからと言えば余計に心配させることになると思いますし」
「でも夏中ここで過ごすって言えば結局心配させるんじゃないかな」
「そうですね。
本当の理由は言い難いですよね」
「うん」
きっと先生からヒートについての説明を受け、その対処法についても話をしたのだろう。余計なことを言わないのは僕が口にしないからなのだろうか。
「どうするんですか?」
「どうするって、何が?」
「先生から聞きましたよ。
伊織さんと政文さんに打診するのはどうかと言われたんですよね」
「うん。
でも無理だから」
「無理なんですか?」
「無理だね。
燈哉以外のαは怖い」
「怖い、ですか?」
「うん」
僕の言葉に戸惑っているのか会話が続かない。仕方なく僕が話を続ける。
「αだけじゃなくて、βもなんだけどね。
隆臣に話したことないと思うんだけど、中等部の時に言われたことがあったんだ。僕ならβだったとしても相手できるって」
僕の言葉に息を呑むけれど、返す言葉が見つからないのか口を開いたものの声を発することはない。
「気持ち悪過ぎてちゃんと思い出せないけど、Ωじゃなくても僕は性の対象にされるんだって思って。それ言ったのはβの子だったかな。
とにかく僕はΩであってもβであってもαやβから性の対象にされるんだと思ったら怖いし気持ち悪いし。その時庇ってくれたのは燈哉だけだったんだよね」
「それ、正式に相手方に抗議してもいいですよ?中等部の頃なら今からでも遅くないですし」
「抗議は燈哉がしてくれたからもういいよ。それ以降、そんなこと言われないし。全てのαやβがそんな考えだとも思ってないし」
「でもそれなら伊織さんと政文さんもαですよね?」
「あのふたりは付き合ってるし、Ωのこと嫌いだし。ふたりとも何度もヒートアタックで嫌な目に遭ってるからもしも僕がそうなってもちゃんと対処してくれるだろうし。
そう思うとΩが嫌いじゃなくてΩのヒートが嫌いなのかな?
だから僕が先生の提案を受け入れたとしても2人から断られると思うよ。
だから二重の意味で無理だね」
「何ですか、それ」
話し終えた僕が笑えばそれに応えて隆臣も笑いながら「Ωって大変ですね」と眉を下げるせいで思わず「Ωだから仕方ないんだよ」と言ってしまう。
「それもう口癖ですよね。
あ、でもそうなると自分もβですが大丈夫ですか?」
「だって、隆臣は異性愛者なんじゃないの?」
「でも先ほどの話を聞くとβであってもって、」
「何だろう、言い方難しいよね。
まず前提として、伊織や政文のことは信用してるんだ。Ωと番う気がないと言ったふたりのことを信じて一緒に過ごすことを選んだんだけど、隆臣のことは信頼してるからαであってもβであっても一緒にいられるっていうのがあって。
これはもう、一緒に過ごした時間の積み重ねだよね。
あと、僕のパーソナルスペースを尊重してくれるから安心できるっていうのもあるかな」
僕の言葉に納得したわけではないのだろうけれど、急かすことなく耳を傾けてくれる隆臣に僕が何をしても味方でいてくれるから信頼しているのだと言ったらどんな顔をするのだろう。
信用しているだけじゃない。
信頼しているのだ。
何があっても僕を信じて、何をしても僕を尊重してくれる。そして、僕の行動を制限することなく僕の望むように動いてくれる。
そう、以前の燈哉のように。
そう考えると今の僕は燈哉のことを信頼していないし、信用することもできない。このままの状態を続けていられないこだって理解している。
それなのに今、この瞬間も燈哉の側に戻ることができたらと思ってしまう。
そういえば伊織は夏休みの予定を燈哉に告げたのだろうか。伊織のことだから黙っているはずはないから燈哉から何のリアクションも無いということはそういうことなのだろう、きっと。
今この瞬間、僕が燈哉を想っているのと同じように、燈哉は今居涼夏のことを想っているのだろうか。
上手くいかないことばかりで嫌になってしまう。
「伊織に連絡しないとね」
僕の呟きに「そうですね」と応えた隆臣は「理由、何にしましょうね」と困った顔をする。
「ヒートが来るからなんて言えませんもんね」
そんな事をわざわざ口にする隆臣は少しだけデリカシーに欠けていると思うけれど、そんな普通のことのような対応が少しだけ嬉しい。
それにしても、僕の計画の綻びはどこから始まっていたのだろう。
考えて考えて、その上で行動していたつもりだったのにそれでは足りなかったのだと言われたのだ。
「考えろって言われても…」
ベッドに横になるような気分ではないけれど、ソファーの上で足を抱えたまま今までのことを思い出してみる。先生は今居涼夏の存在が転機だったわけじゃないと言うけれど、その日の朝までは今までと変わらなかったのだからその言葉を鵜呑みにすることはできない。これは僕が頑ななわけではなくて、客観的に見てもそうだと自信をもって言えることだから。
燈哉が僕に声をかけてくれたあの日から僕は燈哉しか見ていないのに、僕以外に目を、心を奪われた燈哉が今回の原因だと思っているのにそれは違うと言われてもやっぱり納得することができない。
先生は伊織や政文の存在が燈哉を傷付けたと言うけれど、それを言うのなら僕に隠れて友人と約束をしたり、生徒会に入り人間関係を広げていくことで僕のことを傷付けているのだから目に見える場所でやっているだけ僕の方が配慮しているのにと思ってしまう。
伊織と政文とのやり取りで燈哉に隠していたことなんて何もないのだから。
「僕は悪くない、のにな」
だけど、そんなふうに口にしても納得できないのは何故なのか自問自答する。自分の中で何か引っ掛かっているけれど、それが何かが分からない。
僕の隣にはいつも燈哉がいたのにいつからか燈哉の隣には僕じゃない誰かが立つことが増えていた。そして、燈哉に向けられる視線が増えてきたことにも気付いていた。
燈哉は僕の【番候補】なのに、それなのに燈哉の隣を狙おうとすることに苛ついた。燈哉の隣に立つ僕を押し除けようとするその視線に、その態度に気付かずにいる鈍感さが苛立ちに拍車をかける。
『燈哉は僕と一緒にいてくれるんだよね?』
『当たり前だろ?』
そんなやり取りをなん度も繰り返したけれど、その理由に燈哉は気付いていたのだろうか。僕の不安な気持ちはちゃんと燈哉に伝わっていたのだろうか。
「羽琉さん?」
自分が何をどうしたらいいのかを真剣に考えていたせいだろうか、急に声をかけられてソファーから身体を起こす。
「あ、そこに居たんですね。
ノックしても返事がないから寝てるかと思いました」
そう言った隆臣は保冷機能の付いたバッグをいくつか手にしている。
「起きてたけど、何持ってきたの?」
「何って、昨日言ったじゃないですか。
少しでも気になるものがあったら食べてくださいね」
そう言って取り出したものを次々と冷蔵後に入れていく。定番のゼリーやプリン、食べやすいようにカットしたフルーツ。日持ちの悪そうな生菓子まであって僕を呆れさせる。
「ケーキとか、そんなにいらないよ」
「減り具合を見て交換、補充しますから」
「ちゃんと用意されたご飯食べるから程々にしておいてね」
いらないと言ったところで用意するのだからそれを受け入れるけれど、過剰にならないよう釘を刺しておく。お見舞いに来てくれるような友人がいれば一緒に楽しむことができたのに、そう思わないでもないけれどΩの友人を作るのは僕は臆病すぎた。
本音を言えばΩの友人が欲しくないと思っていたわけじゃないし、Ωだけで群れていることを否定はしないけれど、彼等は、彼女等は怖くないのだろうか。
もしも自分が好意を持った相手が自分ではないΩを選んでしまったらと考えることは無いのだろうか。
弱い立場なのだから、ひとりで過ごすよりは集団で過ごす方が安全なのはちゃんと理解している。だけど自分が見付けた相手が自分の隣の誰かを見ていたら。
自分が【唯一】だと思っていた相手なのに、自分じゃない誰かに盗られる確率が上がるような環境に身を置いていて怖くないのかと思ってしまう。
だって、こんなにも気を付けていたのに盗られてしまうのだから。
「そう言えば夏中ここで過ごすことにしたんですね」
「あ、そうだった。
連絡しないといけないんだった」
冷蔵後に差し入れを詰め終わると今度は冷凍室にアイスを入れ始める。入れる順番がおかしくないかと思いながらその様子を見ている時に言われたせいか、自然に口から言葉が出てきてしまう。無意識に意識していたせいだろう。
「まだ連絡してなかったんですね。
自分からしておきますか?」
「………お願いしたいけど、それってきっと駄目だよね」
「ですね。
羽琉さんの調子がすぐれないからと言えば余計に心配させることになると思いますし」
「でも夏中ここで過ごすって言えば結局心配させるんじゃないかな」
「そうですね。
本当の理由は言い難いですよね」
「うん」
きっと先生からヒートについての説明を受け、その対処法についても話をしたのだろう。余計なことを言わないのは僕が口にしないからなのだろうか。
「どうするんですか?」
「どうするって、何が?」
「先生から聞きましたよ。
伊織さんと政文さんに打診するのはどうかと言われたんですよね」
「うん。
でも無理だから」
「無理なんですか?」
「無理だね。
燈哉以外のαは怖い」
「怖い、ですか?」
「うん」
僕の言葉に戸惑っているのか会話が続かない。仕方なく僕が話を続ける。
「αだけじゃなくて、βもなんだけどね。
隆臣に話したことないと思うんだけど、中等部の時に言われたことがあったんだ。僕ならβだったとしても相手できるって」
僕の言葉に息を呑むけれど、返す言葉が見つからないのか口を開いたものの声を発することはない。
「気持ち悪過ぎてちゃんと思い出せないけど、Ωじゃなくても僕は性の対象にされるんだって思って。それ言ったのはβの子だったかな。
とにかく僕はΩであってもβであってもαやβから性の対象にされるんだと思ったら怖いし気持ち悪いし。その時庇ってくれたのは燈哉だけだったんだよね」
「それ、正式に相手方に抗議してもいいですよ?中等部の頃なら今からでも遅くないですし」
「抗議は燈哉がしてくれたからもういいよ。それ以降、そんなこと言われないし。全てのαやβがそんな考えだとも思ってないし」
「でもそれなら伊織さんと政文さんもαですよね?」
「あのふたりは付き合ってるし、Ωのこと嫌いだし。ふたりとも何度もヒートアタックで嫌な目に遭ってるからもしも僕がそうなってもちゃんと対処してくれるだろうし。
そう思うとΩが嫌いじゃなくてΩのヒートが嫌いなのかな?
だから僕が先生の提案を受け入れたとしても2人から断られると思うよ。
だから二重の意味で無理だね」
「何ですか、それ」
話し終えた僕が笑えばそれに応えて隆臣も笑いながら「Ωって大変ですね」と眉を下げるせいで思わず「Ωだから仕方ないんだよ」と言ってしまう。
「それもう口癖ですよね。
あ、でもそうなると自分もβですが大丈夫ですか?」
「だって、隆臣は異性愛者なんじゃないの?」
「でも先ほどの話を聞くとβであってもって、」
「何だろう、言い方難しいよね。
まず前提として、伊織や政文のことは信用してるんだ。Ωと番う気がないと言ったふたりのことを信じて一緒に過ごすことを選んだんだけど、隆臣のことは信頼してるからαであってもβであっても一緒にいられるっていうのがあって。
これはもう、一緒に過ごした時間の積み重ねだよね。
あと、僕のパーソナルスペースを尊重してくれるから安心できるっていうのもあるかな」
僕の言葉に納得したわけではないのだろうけれど、急かすことなく耳を傾けてくれる隆臣に僕が何をしても味方でいてくれるから信頼しているのだと言ったらどんな顔をするのだろう。
信用しているだけじゃない。
信頼しているのだ。
何があっても僕を信じて、何をしても僕を尊重してくれる。そして、僕の行動を制限することなく僕の望むように動いてくれる。
そう、以前の燈哉のように。
そう考えると今の僕は燈哉のことを信頼していないし、信用することもできない。このままの状態を続けていられないこだって理解している。
それなのに今、この瞬間も燈哉の側に戻ることができたらと思ってしまう。
そういえば伊織は夏休みの予定を燈哉に告げたのだろうか。伊織のことだから黙っているはずはないから燈哉から何のリアクションも無いということはそういうことなのだろう、きっと。
今この瞬間、僕が燈哉を想っているのと同じように、燈哉は今居涼夏のことを想っているのだろうか。
上手くいかないことばかりで嫌になってしまう。
「伊織に連絡しないとね」
僕の呟きに「そうですね」と応えた隆臣は「理由、何にしましょうね」と困った顔をする。
「ヒートが来るからなんて言えませんもんね」
そんな事をわざわざ口にする隆臣は少しだけデリカシーに欠けていると思うけれど、そんな普通のことのような対応が少しだけ嬉しい。
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