86 / 129
【side:羽琉】すれ違う思惑と想い。
しおりを挟む
「政文、伊織、ちょっと良いか?」
今日も生徒会の集まりがあると言って僕の鞄だけを持った燈哉が声をかけたせいでふたりが足を止める。本当は僕が自分でお願いすると言ったのに、自分が直接お願いすると言った燈哉はどんな気持ちだったのだろう。
仲良さそうに笑い合うふたりが羨ましい。校内は人の目があるせいか手を繋ぐことすらしてはいないけど、それでもふたりの親密さが伝わってくる。
羨ましいと思うのに、素直に想いを伝えることのできない僕のせいで訪れることのない穏やかな時間。
「どうした?」
燈哉から声をかけたことに驚いた政文が伊織と顔を見合わせる。
自分が多忙だからと僕のことを任せたくせに、必要以上に親しい素振りを見せると嫌な顔をするのだからこの反応も仕方がないことだろうと思ってしまう。よくよく考えれば、かなり失礼な態度の燈哉の要望を叶えているのだからαとしては燈哉の方が強いのかもしれないけれど、人間的には政文の方が優れているのかもしれない。
「頼みたいことがあるんだ」
燈哉がそう口を開いたけれど、苦々しい顔をしてお願いすることじゃないと思い被せるようにその言葉を奪ってしまった。
「あのね、燈哉が明日、家の用事で休まないといけないんだけど、明日1日一緒に過ごしてもらうことってできないかな?」
「「え?」」
驚いた顔をしたふたりの声が重なる。
こんな時のリアクションまで重なるなんて、仲の良さを見せつけられた気になってしまう。
今までは言われるがままに休んでいたし、それが当たり前だと口にしていたのを知っているからこそのリアクションだろう。
「初等部の頃は燈哉が休む時は僕も休んでたけど、中等部ではなるべく休みたくないんだ」
「明日は休むように言ったら嫌だって言うし、だからってひとりにしておくのは…」
僕の言葉を補足した燈哉に伊織は困った顔を見せ、政文は明らかに呆れた顔を見せる。
「少し過保護じゃないか?」
「ほら、やっぱりそう言われるんだってば」
ひとりで過ごすのは不安ではないのかと言われたせいで伊織と一緒に過ごすことを提案したけれど、燈哉の気を引くために言った言葉だと悟られたくなくて恥じらうふりをする。
伊織も政文も僕の歪んだ想いに気づくことはないだろう。
「過保護でも何でも羽琉をひとりにしておいたらαが寄ってくるぞ?」
「そんな事ないって、」
「ああ、そっち、」
僕と燈哉が言い合うのを聞いて政文が「α避けのために俺たちを使おうって事か」と苦笑いを漏らす。
「どういう事?」
僕と燈哉のやり取りを面白くなさそうに見ていた伊織は燈哉に聞くのは嫌なようで政文に困ったような顔を見せる。
「過保護な燈哉くんは羽琉に余計な虫が近付くのが許せなくて、仕方ないから俺たちで虫除けしたいんだって」
「でも僕たちもαだよ?」
「だからだって」
政文の言葉よりも燈哉の今までの行いのせいか、自分のいない時間まで僕を任せることに違和感を捨てることができないようで、そんな伊織に言い聞かせるように燈哉が口を開く。
「政文と伊織は付き合っているんだろう?お前らふたりが近くにいれば羽琉に近付こうとするαは殆どいないはずだ」
溜め息混じりにそう言った燈哉は苦々しい顔を見せて言葉を続ける。
「もともと羽琉と伊織は仲が良いし、政文も一緒にいてくれれば尚安心だ」
安心と口にしながらもその顔には不本意と書いてあるようで、だったらもっと強く僕を説得してくれればいいのにと思うのに僕の真意は伝わらない。
本当は嫉妬されるよりも、縛り付けて、閉じ込めて欲しいのに。
本当は僕だけを見て、僕のことだけを考えて欲しいのに。
だけど、学生である僕たちには許されない事だから、それなら僕が燈哉以外のαと過ごす事で気持ちだけでも僕に縛り付けられてしまえばいいと思ってしまう。
だって、僕の気持ちは常に燈哉に縛り付けられているのだから。
「羽琉はそれで良いの?」
気遣うように、それでも嬉しそうに言う伊織は僕のことが邪魔ではないのだろうか。昼の時間を何度も僕に邪魔された挙句、今度は1日中僕の子守りを押し付けられると言うのにお人好しすぎるのではないのかと思いながらも、断ってくれたら渋々休むのにと自分の身勝手さを棚に上げてそんなことを考えてしまう。
「伊織と政文が一緒にいてくれるなら僕は嬉しいよ。逆に僕、お邪魔虫じゃない?」
「何で?」
「ふたりの時間の邪魔にならない?」
「そんな、いつもふたりでイチャイチャしてるわけじゃないし」
もしかしたらふたりの仲の良さを見せつけたいだけなのかと思いながら、その言葉で僕の知らないふたりの関係を想像してしまう。前に『ふたりでいたら、ね』と思わせぶりなことを言ったのを思い出してしまったせいで頬が熱い。
「もし受けてくれるならこのまま駐車場まで一緒に来てもらって良いか?
羽琉の家の人を紹介したいし」
そう言って燈哉が会話を打ち切ると、それを了承したふたりを伴い駐車場に足を向ける。
隆臣はとっくに駐車場に着いているだろう。
これで良かったのか?
これで良かったんだ。
相反する気持ちを感じながらも燈哉の気を引きたくて、今更やめるなんて選択肢はない。
生徒会の一員として前に立つ燈哉のことを僕はいつも見ているけれど、そのための準備に奔走する燈哉を僕は知らない。
校内での僕のことは燈哉が1番知っているけれど、伊織や政文と過ごす僕の姿を燈哉は知らない。
家の用事で校外で過ごす燈哉は、きっと多くの人と知り合うだろう。
その中にもしも燈哉の【唯一】がいたら、万が一【運命】に出会ってしまったら。僕の知らないところで僕の知らない関係が始まってしまったら。
燈哉の願いを聞いて休んでしまったら、そんなことを一日中考えてしまうだろう。そして、その度に食欲を無くし、眠れなくなるのだろう。
燈哉に対して僕は脆弱だ。
僕が提案したことだったけど、結局は燈哉主導で進む話。
前を歩く燈哉と政文は何かを確認しているようで、僕と並んで歩く伊織は「明日、心配しなくて良いから」と微笑み「じゃあ、明日は弁当にしないと」と嬉しそうにしている。
僕が燈哉に嫉妬させるためにふたりを利用しているように、僕の存在はふたりのためのスパイスだと思っているのがしれない。
「隆臣さん、少し良いですか?」
僕の姿を見つけて車から降りた隆臣に話しかけたのは燈哉だった。
普段、必要最低限の会話しかしない燈哉の言葉と、その後ろの伊織と政文に気付き訝しげな顔を見せた隆臣だったけど、そこはやはり大人の振る舞いですぐさま表情を取り繕う。
「羽琉さん、お帰りなさい。
そちらの方々は?」
その言葉に頭を下げたふたりを燈哉が紹介し、それぞれ隆臣に挨拶をする。
燈哉から事情を聞いた隆臣は驚いた顔を見せたものの、それならば何かあった時のためにとふたりと連絡先を交換して「お手数をおかけしますがよろしくお願いします」と深く頭を下げる。
「友達と一緒に過ごすだけですから」
そんな風に政文が恐縮すれば「羽琉さんにこんなに頼もしいご友人がいたとは知りませんでした」と笑ったことが面白くなくて「隆臣、それ酷い」と思わず言ってしまう。
燈哉は隆臣の反対を期待していたのか少し面白くなさそうな顔をしているけれど、隆臣が僕の決めたことに意を唱えることなんてないのだから仕方ない。
「それでは、明日はよろしくお願いします」
「お願いします」
翌日の時間を確認して隆臣と一緒に頭を下げ車に乗り込む。
「燈哉、明日は僕、頑張るから」
わざとそう声をかけて微笑んで見せれば無理をして笑顔を向ける燈哉が愛おしい。わざわざ窓を開けて手を振れば政文は少し笑い、伊織は手を振り返してくれた。
「良かったんですか?」
「何が?」
3人の姿が見えなくなり大きく息をついた僕に向けられた言葉は何に対してなのかが曖昧で、思わず聞き返してしまう。
「燈哉さん、何か言いたそうな顔してませんでしたか?」
「伊織と政文のこと?」
僕の言葉に返事は無いけれど、その言葉の真意に気付いていないふりをしてもっともらしい言葉を並べてみせる。
「だって、なるべく休みたくないし。中等部は出席日数足りてれば高等部に行けるけど、高等部になると出席日数足りてても単位取れないと困るでしょ?
だから今から慣れておかないと」
「それはそうですけど…。
でも正直、燈哉さん以外に頼れる人がいることに安心しました」
「何、それ」
「燈哉さん以外にも頼み事のできるご友人がいたんですね」
「………、その言い方だと僕がすごく可哀想な子みたいじゃない?」
「何でそうなるんですか?」
運転しているせいで表情は見えないけれど、柔らかい声は僕の交友関係を喜んでいるように聞こえる。
「だって、僕に友達がいないみたいな言い方」
そんなふうに拗ねて見せれば「友人だからって頼めることと、頼めないことがありますし」と言われてしまう。
「でも伊織さんも政文さんもαですよね。
燈哉さんが不安にならないように節度は守ってくださいね」
この言葉を素直に聞くことができれば何も起こらなかったはずなのに、僕の浅はかさが燈哉を追い詰め、僕を追い詰めていく。
『こんなはずじゃなかったのに』
この先、僕は何度この言葉を言うのだろう…。
今日も生徒会の集まりがあると言って僕の鞄だけを持った燈哉が声をかけたせいでふたりが足を止める。本当は僕が自分でお願いすると言ったのに、自分が直接お願いすると言った燈哉はどんな気持ちだったのだろう。
仲良さそうに笑い合うふたりが羨ましい。校内は人の目があるせいか手を繋ぐことすらしてはいないけど、それでもふたりの親密さが伝わってくる。
羨ましいと思うのに、素直に想いを伝えることのできない僕のせいで訪れることのない穏やかな時間。
「どうした?」
燈哉から声をかけたことに驚いた政文が伊織と顔を見合わせる。
自分が多忙だからと僕のことを任せたくせに、必要以上に親しい素振りを見せると嫌な顔をするのだからこの反応も仕方がないことだろうと思ってしまう。よくよく考えれば、かなり失礼な態度の燈哉の要望を叶えているのだからαとしては燈哉の方が強いのかもしれないけれど、人間的には政文の方が優れているのかもしれない。
「頼みたいことがあるんだ」
燈哉がそう口を開いたけれど、苦々しい顔をしてお願いすることじゃないと思い被せるようにその言葉を奪ってしまった。
「あのね、燈哉が明日、家の用事で休まないといけないんだけど、明日1日一緒に過ごしてもらうことってできないかな?」
「「え?」」
驚いた顔をしたふたりの声が重なる。
こんな時のリアクションまで重なるなんて、仲の良さを見せつけられた気になってしまう。
今までは言われるがままに休んでいたし、それが当たり前だと口にしていたのを知っているからこそのリアクションだろう。
「初等部の頃は燈哉が休む時は僕も休んでたけど、中等部ではなるべく休みたくないんだ」
「明日は休むように言ったら嫌だって言うし、だからってひとりにしておくのは…」
僕の言葉を補足した燈哉に伊織は困った顔を見せ、政文は明らかに呆れた顔を見せる。
「少し過保護じゃないか?」
「ほら、やっぱりそう言われるんだってば」
ひとりで過ごすのは不安ではないのかと言われたせいで伊織と一緒に過ごすことを提案したけれど、燈哉の気を引くために言った言葉だと悟られたくなくて恥じらうふりをする。
伊織も政文も僕の歪んだ想いに気づくことはないだろう。
「過保護でも何でも羽琉をひとりにしておいたらαが寄ってくるぞ?」
「そんな事ないって、」
「ああ、そっち、」
僕と燈哉が言い合うのを聞いて政文が「α避けのために俺たちを使おうって事か」と苦笑いを漏らす。
「どういう事?」
僕と燈哉のやり取りを面白くなさそうに見ていた伊織は燈哉に聞くのは嫌なようで政文に困ったような顔を見せる。
「過保護な燈哉くんは羽琉に余計な虫が近付くのが許せなくて、仕方ないから俺たちで虫除けしたいんだって」
「でも僕たちもαだよ?」
「だからだって」
政文の言葉よりも燈哉の今までの行いのせいか、自分のいない時間まで僕を任せることに違和感を捨てることができないようで、そんな伊織に言い聞かせるように燈哉が口を開く。
「政文と伊織は付き合っているんだろう?お前らふたりが近くにいれば羽琉に近付こうとするαは殆どいないはずだ」
溜め息混じりにそう言った燈哉は苦々しい顔を見せて言葉を続ける。
「もともと羽琉と伊織は仲が良いし、政文も一緒にいてくれれば尚安心だ」
安心と口にしながらもその顔には不本意と書いてあるようで、だったらもっと強く僕を説得してくれればいいのにと思うのに僕の真意は伝わらない。
本当は嫉妬されるよりも、縛り付けて、閉じ込めて欲しいのに。
本当は僕だけを見て、僕のことだけを考えて欲しいのに。
だけど、学生である僕たちには許されない事だから、それなら僕が燈哉以外のαと過ごす事で気持ちだけでも僕に縛り付けられてしまえばいいと思ってしまう。
だって、僕の気持ちは常に燈哉に縛り付けられているのだから。
「羽琉はそれで良いの?」
気遣うように、それでも嬉しそうに言う伊織は僕のことが邪魔ではないのだろうか。昼の時間を何度も僕に邪魔された挙句、今度は1日中僕の子守りを押し付けられると言うのにお人好しすぎるのではないのかと思いながらも、断ってくれたら渋々休むのにと自分の身勝手さを棚に上げてそんなことを考えてしまう。
「伊織と政文が一緒にいてくれるなら僕は嬉しいよ。逆に僕、お邪魔虫じゃない?」
「何で?」
「ふたりの時間の邪魔にならない?」
「そんな、いつもふたりでイチャイチャしてるわけじゃないし」
もしかしたらふたりの仲の良さを見せつけたいだけなのかと思いながら、その言葉で僕の知らないふたりの関係を想像してしまう。前に『ふたりでいたら、ね』と思わせぶりなことを言ったのを思い出してしまったせいで頬が熱い。
「もし受けてくれるならこのまま駐車場まで一緒に来てもらって良いか?
羽琉の家の人を紹介したいし」
そう言って燈哉が会話を打ち切ると、それを了承したふたりを伴い駐車場に足を向ける。
隆臣はとっくに駐車場に着いているだろう。
これで良かったのか?
これで良かったんだ。
相反する気持ちを感じながらも燈哉の気を引きたくて、今更やめるなんて選択肢はない。
生徒会の一員として前に立つ燈哉のことを僕はいつも見ているけれど、そのための準備に奔走する燈哉を僕は知らない。
校内での僕のことは燈哉が1番知っているけれど、伊織や政文と過ごす僕の姿を燈哉は知らない。
家の用事で校外で過ごす燈哉は、きっと多くの人と知り合うだろう。
その中にもしも燈哉の【唯一】がいたら、万が一【運命】に出会ってしまったら。僕の知らないところで僕の知らない関係が始まってしまったら。
燈哉の願いを聞いて休んでしまったら、そんなことを一日中考えてしまうだろう。そして、その度に食欲を無くし、眠れなくなるのだろう。
燈哉に対して僕は脆弱だ。
僕が提案したことだったけど、結局は燈哉主導で進む話。
前を歩く燈哉と政文は何かを確認しているようで、僕と並んで歩く伊織は「明日、心配しなくて良いから」と微笑み「じゃあ、明日は弁当にしないと」と嬉しそうにしている。
僕が燈哉に嫉妬させるためにふたりを利用しているように、僕の存在はふたりのためのスパイスだと思っているのがしれない。
「隆臣さん、少し良いですか?」
僕の姿を見つけて車から降りた隆臣に話しかけたのは燈哉だった。
普段、必要最低限の会話しかしない燈哉の言葉と、その後ろの伊織と政文に気付き訝しげな顔を見せた隆臣だったけど、そこはやはり大人の振る舞いですぐさま表情を取り繕う。
「羽琉さん、お帰りなさい。
そちらの方々は?」
その言葉に頭を下げたふたりを燈哉が紹介し、それぞれ隆臣に挨拶をする。
燈哉から事情を聞いた隆臣は驚いた顔を見せたものの、それならば何かあった時のためにとふたりと連絡先を交換して「お手数をおかけしますがよろしくお願いします」と深く頭を下げる。
「友達と一緒に過ごすだけですから」
そんな風に政文が恐縮すれば「羽琉さんにこんなに頼もしいご友人がいたとは知りませんでした」と笑ったことが面白くなくて「隆臣、それ酷い」と思わず言ってしまう。
燈哉は隆臣の反対を期待していたのか少し面白くなさそうな顔をしているけれど、隆臣が僕の決めたことに意を唱えることなんてないのだから仕方ない。
「それでは、明日はよろしくお願いします」
「お願いします」
翌日の時間を確認して隆臣と一緒に頭を下げ車に乗り込む。
「燈哉、明日は僕、頑張るから」
わざとそう声をかけて微笑んで見せれば無理をして笑顔を向ける燈哉が愛おしい。わざわざ窓を開けて手を振れば政文は少し笑い、伊織は手を振り返してくれた。
「良かったんですか?」
「何が?」
3人の姿が見えなくなり大きく息をついた僕に向けられた言葉は何に対してなのかが曖昧で、思わず聞き返してしまう。
「燈哉さん、何か言いたそうな顔してませんでしたか?」
「伊織と政文のこと?」
僕の言葉に返事は無いけれど、その言葉の真意に気付いていないふりをしてもっともらしい言葉を並べてみせる。
「だって、なるべく休みたくないし。中等部は出席日数足りてれば高等部に行けるけど、高等部になると出席日数足りてても単位取れないと困るでしょ?
だから今から慣れておかないと」
「それはそうですけど…。
でも正直、燈哉さん以外に頼れる人がいることに安心しました」
「何、それ」
「燈哉さん以外にも頼み事のできるご友人がいたんですね」
「………、その言い方だと僕がすごく可哀想な子みたいじゃない?」
「何でそうなるんですか?」
運転しているせいで表情は見えないけれど、柔らかい声は僕の交友関係を喜んでいるように聞こえる。
「だって、僕に友達がいないみたいな言い方」
そんなふうに拗ねて見せれば「友人だからって頼めることと、頼めないことがありますし」と言われてしまう。
「でも伊織さんも政文さんもαですよね。
燈哉さんが不安にならないように節度は守ってくださいね」
この言葉を素直に聞くことができれば何も起こらなかったはずなのに、僕の浅はかさが燈哉を追い詰め、僕を追い詰めていく。
『こんなはずじゃなかったのに』
この先、僕は何度この言葉を言うのだろう…。
32
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる