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【side:涼夏】それぞれの本音。
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「で、外でストレス解消してたはずの燈哉クンは、何で羽琉君が調子悪くなるくらい追い詰めたの?
交際の許可無いのにマーキングして怒られない?」
「マーキングは問題ない。
普通のマーキングなら今までだってしてたし」
「普通じゃないマーキングしたんだ?」
「涼夏が俺にしたみたいなことはしてないよ」
そう言って苦い顔を見せる。
「揉めたって聞いたよ?」
「誰に」
「クラスの子。
朝、大変みたいだったけど何か聞いてる?って」
オレの言葉に燈哉が小さく舌打ちをする。
「何かさあ、学校の時とオレの前と態度違わない?」
「涼夏の前で取り繕って仕方ないし。
今更だろ?
同じ学校のヤツがいる時は俺のパブリックイメージ壊せないし。
それ言ったら涼夏だって、はじめはボクって言ってたくせに、いつの間にかオレになってるって気付いてる?」
突かれたくないところを突かれて「何のこと?」と言ってみるけれど、「惚けても駄目だから」と言われてしまう。
「お互い、色々と面倒なことが多いんだから、こんな時くらい素でいさせてくれ」
「こんな時って?」
「虚勢張ったり、取り繕ったりしなくて良い時。
情けないことも話したし、涼夏の事情も聞いたし。登下校の間くらい、本音で話したって良いだろ?」
「本音で話してないの?いつも」
「本音で話して足元掬われたら候補から外される」
「外されたくない?」
「そうだな…」
そう言った燈哉が目を伏せる。
「羽琉君のこと、好きじゃないの?」
「好きじゃなかったら楽なのにな。
伊織や政文に任せて、今みたいに気の合う奴と過ごすのも楽しいよな、きっと」
「気の合うヤツって、オレ?」
「涼夏もだけど、初等部の頃に遊ぶ約束して駄目になった奴とか」
「今は友達じゃないの?」
「友達じゃないとは言わないけど、やっぱり一緒に何かできる相手がいればそっちと仲良くなるだろ?
校内だと基本、羽琉と一緒だから」
「でも顔広いよね。
一緒にいてもよく挨拶されてない?」
「あれは中等部の時に生徒会やってたからその関係もあるし、羽琉の番候補だからっていうのもあるよ」
「羽琉君とはそんな話はしないの?
ほら、将来のこととか、好きとか、ずっと一緒にいようとか、」
「口にしなくても伝わってると思ってたんだけどな…」
「何、その含み持たせた言い方」
言い訳みたいな言葉が続き、苛立っていたせいか少しキツい口調になってしまう。虚勢を張ったり、繕ったりしないでいいと言いながら、結局は核心に触れられたくないだけなのかもしれない。
「含みって言うか、」
「あ、ごめん」
燈哉が続きを言おうとしたものの、スマホが着信を知らせたためその言葉を遮る。確認すれば母からの電話で、メッセージもいくつか入っている。
「ごめん、親からってか、時間ヤバくない?」
話し込んで気付かなかったけれど、周りには家族連れも増えている。まだ席に空きはあるけれど、フリードリンクだけで席を埋めてしまうのは申し訳ない。
「あ、悪かった。
帰る?何か頼む?」
「頭の整理したいし、今日は帰ろうかな。
親が迎えに来るって言ってるし」
聞きたいことはたくさんあるけれど、正直キャパオーバーだ。長くなったら食事を一緒に、とも思ったけれど、親からは迎えに行くとメッセージが届いてしまったのがちょうど良い。
「それなら安心だな。
涼夏の迎えが来たら俺も帰るよ」
そう言って帰り支度を始める。
結局、話すことに夢中ではじめに取りに行ったコーヒーすら飲み終わってないことに気付き、冷めたコーヒーを飲み干した。
⌘⌘⌘
「で、このαは涼夏の何なの?
涼くんにマーキングしてたの、彼だよね」
迎えに来た母は駐車場で話すオレたちの前に立ち、礼儀正しく挨拶を交わし合ったと思ったら開口一番そう言う。
「ちょ、母さん。
気付いてたの?」
「そりゃあ、父さんと母さんのマーキングに追加されてれば分かるわよ」
「何も言わなかったくせに」
「そんなの、様子見に決まってるじゃない」
そう言って呆れた顔を見せた母は燈哉に向き合う。
「入学したその日にマーキングとか、涼くんらしくないと思ったけど、こういう子が好み?」
「違うし」
「だって、マーキング」
「色々あるんだよ、オレにだって」
そう言えば今度は燈哉に向き直る。
「αがΩにマーキングする意味は理解してる?」
「それは、守るために」
「そうね。
じゃあ、互いの香りを纏う意味は?」
「それは、知りませんでした」
正直にそう答えた燈哉を見て母の意図に気付く。入学式の初日にオレがしてしまったことは、燈哉が無理矢理やったと思われているのかもしれない。
「あれは、」
「入学式の日のことは、知らなかったとはいえ自分の責任です。
申し訳ありませんでした」
「ちょ、燈哉。
母さん、誤解だから。
燈哉が悪いんじゃないから」
何も言い訳をしない燈哉が頭を下げてしまったため間に入る。だけど、オレのしでかしてしまったことを自分の母親に口で説明するのも気不味くて言葉に詰まる。
燈哉もオレも何をどう説明すればいいのかと考えれば考えるほど説明に困ってしまい、無言の状態が続いた時に「別に」と母が口を開く。
「別に、高校生なんだし、涼くんに付き合ってた人がいたのだって知ってるから恋愛禁止とか言うつもりは無いけど、付き合うなら節度を持って」
「だから付き合ってないって、」
「でもマーキングはされてるでしょ?」
「してます。
でも少しの接触で残り香を移してるだけです」
「それが問題。
付き合ってもいない相手にマーキングなんて大問題。だから、明日からはしないで」
「でも、」
「付き合ってないなら止めなさいっ」
最後にはキツい口調で、命令口調で言われてしまい燈哉が黙り込む。
「付き合ってるならマーキングも良いけど、付き合ってないなら色々誤解を生むからやめなさい」
そして、今度は諭すように言葉を続ける。
「マーキングは私たち親がしてるから。
君から見たら気にもならないマーキングかもしれないけど、マーキングの意味をちゃんと理解しなさい。
あと、涼くんも。
付き合ってもいないαにマーキングなんてされたら素敵な出会い、無くなるからね」
「………はい」
出会いなんていらないと言いたかったけど、それを言ってしまえば母を傷付けるのだろうと思い口を噤む。言いたいことはたくさんあるけれど、母の言葉を思い返すと何を言っても言い訳だし、何を言っても諭されるだけだと思ってしまう。
「ここまで強いαなら一緒にいるだけでも効果あるんだから。
わざわざマーキングなんてする必要無し」
そう言って「話は終わり、」と笑顔を見せ「ありがとう、涼夏と仲良くしてくれて」と更に笑顔を深める。
「ずっとずっと表情の無かった涼くんが入学式の日から少しずつ顔つきが変わってたのは相模君のせいなのか、おかげなのか。
どっちにしてもありがとう」
流石母親だけあって何か感じることがあるのかもしれない。
「じゃあ、親御さんも見えたから俺は帰るよ」
母のありがとうに対して返答に困ったのか、軽く頭を下げ意思表示をする。燈哉の家は知らないけれど、逆方向に来たのだから帰宅は遅くなるだろう。
「大丈夫?」
「家には連絡してあるし、問題は無いよ。
塾に行ってればこんな時間、まだ早い方だし」
安心させるようにそう付け加えるのはいつもの癖なのか、羽琉君に対していつもこんなふうに気遣っているのかと思うと『疲れるんだろうな』と勝手な感想を抱いてしまう。
「じゃあ、また明日」
「うん」
そう言って背を向けた燈哉を見送り母と家に向かって歩き出す。駅から徒歩圏内の家だから通学のために引越しはしなくて良いと言ったのはあの子との接点を少しでも残しておきたかったからだった。今となっては引越しも有りだったと思ってしまうけれど、家を買ったからとか、家のローンがとか色々と理由をつけて渋ったのはオレだ。
母は強いαにマーキングされていたら素敵な出会いがなくなるなんて笑ったけど、それならそれで良いと思ってしまうのはまだまだあの子のことを引きずっているからだろう。
誰からも相手にされないのだから求めてくれるαに好きにさせたら良いなんて自棄になっていたせいで、入学式の日に燈哉に過剰反応したのかもしれない、なんてことにまで思考が飛躍する。
「涼くん、大丈夫?」
それまで無言で歩いていたのに急に言われて戸惑ってしまう。【大丈夫】が何に対しての【大丈夫】なのかも分からない。
「大丈夫って、なにが?」
「色々なこと。
新しい学校のこととか、」
「大丈夫だよ、友達もできたし」
「相模君のこと?」
「燈哉君もだけど、Ωの友達だってちゃんといるし」
浬と忍のことは友人と呼んでも怒られないだろう、きっと。
「それなら良いけど。
今までと勝手が違って戸惑うことも多いとは思うけど、慣れるしかないからね」
困ったように、言い聞かせるように言った母に頷くことしかできなかったのは、羽琉君のことが気になってしまったからかもしれない。
Ωとして、『Ωだから仕方ない』と幼い頃から自分に言い聞かせてきた羽琉君。
αとして生活してきたのにΩと診断が出てしまったせいで『Ωだから仕方ない』と諦めることしかできなかったオレ。
『Ωだから仕方ない』
ネガティヴな響きに母に気付かれぬよう、そっと溜め息を吐いた。
交際の許可無いのにマーキングして怒られない?」
「マーキングは問題ない。
普通のマーキングなら今までだってしてたし」
「普通じゃないマーキングしたんだ?」
「涼夏が俺にしたみたいなことはしてないよ」
そう言って苦い顔を見せる。
「揉めたって聞いたよ?」
「誰に」
「クラスの子。
朝、大変みたいだったけど何か聞いてる?って」
オレの言葉に燈哉が小さく舌打ちをする。
「何かさあ、学校の時とオレの前と態度違わない?」
「涼夏の前で取り繕って仕方ないし。
今更だろ?
同じ学校のヤツがいる時は俺のパブリックイメージ壊せないし。
それ言ったら涼夏だって、はじめはボクって言ってたくせに、いつの間にかオレになってるって気付いてる?」
突かれたくないところを突かれて「何のこと?」と言ってみるけれど、「惚けても駄目だから」と言われてしまう。
「お互い、色々と面倒なことが多いんだから、こんな時くらい素でいさせてくれ」
「こんな時って?」
「虚勢張ったり、取り繕ったりしなくて良い時。
情けないことも話したし、涼夏の事情も聞いたし。登下校の間くらい、本音で話したって良いだろ?」
「本音で話してないの?いつも」
「本音で話して足元掬われたら候補から外される」
「外されたくない?」
「そうだな…」
そう言った燈哉が目を伏せる。
「羽琉君のこと、好きじゃないの?」
「好きじゃなかったら楽なのにな。
伊織や政文に任せて、今みたいに気の合う奴と過ごすのも楽しいよな、きっと」
「気の合うヤツって、オレ?」
「涼夏もだけど、初等部の頃に遊ぶ約束して駄目になった奴とか」
「今は友達じゃないの?」
「友達じゃないとは言わないけど、やっぱり一緒に何かできる相手がいればそっちと仲良くなるだろ?
校内だと基本、羽琉と一緒だから」
「でも顔広いよね。
一緒にいてもよく挨拶されてない?」
「あれは中等部の時に生徒会やってたからその関係もあるし、羽琉の番候補だからっていうのもあるよ」
「羽琉君とはそんな話はしないの?
ほら、将来のこととか、好きとか、ずっと一緒にいようとか、」
「口にしなくても伝わってると思ってたんだけどな…」
「何、その含み持たせた言い方」
言い訳みたいな言葉が続き、苛立っていたせいか少しキツい口調になってしまう。虚勢を張ったり、繕ったりしないでいいと言いながら、結局は核心に触れられたくないだけなのかもしれない。
「含みって言うか、」
「あ、ごめん」
燈哉が続きを言おうとしたものの、スマホが着信を知らせたためその言葉を遮る。確認すれば母からの電話で、メッセージもいくつか入っている。
「ごめん、親からってか、時間ヤバくない?」
話し込んで気付かなかったけれど、周りには家族連れも増えている。まだ席に空きはあるけれど、フリードリンクだけで席を埋めてしまうのは申し訳ない。
「あ、悪かった。
帰る?何か頼む?」
「頭の整理したいし、今日は帰ろうかな。
親が迎えに来るって言ってるし」
聞きたいことはたくさんあるけれど、正直キャパオーバーだ。長くなったら食事を一緒に、とも思ったけれど、親からは迎えに行くとメッセージが届いてしまったのがちょうど良い。
「それなら安心だな。
涼夏の迎えが来たら俺も帰るよ」
そう言って帰り支度を始める。
結局、話すことに夢中ではじめに取りに行ったコーヒーすら飲み終わってないことに気付き、冷めたコーヒーを飲み干した。
⌘⌘⌘
「で、このαは涼夏の何なの?
涼くんにマーキングしてたの、彼だよね」
迎えに来た母は駐車場で話すオレたちの前に立ち、礼儀正しく挨拶を交わし合ったと思ったら開口一番そう言う。
「ちょ、母さん。
気付いてたの?」
「そりゃあ、父さんと母さんのマーキングに追加されてれば分かるわよ」
「何も言わなかったくせに」
「そんなの、様子見に決まってるじゃない」
そう言って呆れた顔を見せた母は燈哉に向き合う。
「入学したその日にマーキングとか、涼くんらしくないと思ったけど、こういう子が好み?」
「違うし」
「だって、マーキング」
「色々あるんだよ、オレにだって」
そう言えば今度は燈哉に向き直る。
「αがΩにマーキングする意味は理解してる?」
「それは、守るために」
「そうね。
じゃあ、互いの香りを纏う意味は?」
「それは、知りませんでした」
正直にそう答えた燈哉を見て母の意図に気付く。入学式の初日にオレがしてしまったことは、燈哉が無理矢理やったと思われているのかもしれない。
「あれは、」
「入学式の日のことは、知らなかったとはいえ自分の責任です。
申し訳ありませんでした」
「ちょ、燈哉。
母さん、誤解だから。
燈哉が悪いんじゃないから」
何も言い訳をしない燈哉が頭を下げてしまったため間に入る。だけど、オレのしでかしてしまったことを自分の母親に口で説明するのも気不味くて言葉に詰まる。
燈哉もオレも何をどう説明すればいいのかと考えれば考えるほど説明に困ってしまい、無言の状態が続いた時に「別に」と母が口を開く。
「別に、高校生なんだし、涼くんに付き合ってた人がいたのだって知ってるから恋愛禁止とか言うつもりは無いけど、付き合うなら節度を持って」
「だから付き合ってないって、」
「でもマーキングはされてるでしょ?」
「してます。
でも少しの接触で残り香を移してるだけです」
「それが問題。
付き合ってもいない相手にマーキングなんて大問題。だから、明日からはしないで」
「でも、」
「付き合ってないなら止めなさいっ」
最後にはキツい口調で、命令口調で言われてしまい燈哉が黙り込む。
「付き合ってるならマーキングも良いけど、付き合ってないなら色々誤解を生むからやめなさい」
そして、今度は諭すように言葉を続ける。
「マーキングは私たち親がしてるから。
君から見たら気にもならないマーキングかもしれないけど、マーキングの意味をちゃんと理解しなさい。
あと、涼くんも。
付き合ってもいないαにマーキングなんてされたら素敵な出会い、無くなるからね」
「………はい」
出会いなんていらないと言いたかったけど、それを言ってしまえば母を傷付けるのだろうと思い口を噤む。言いたいことはたくさんあるけれど、母の言葉を思い返すと何を言っても言い訳だし、何を言っても諭されるだけだと思ってしまう。
「ここまで強いαなら一緒にいるだけでも効果あるんだから。
わざわざマーキングなんてする必要無し」
そう言って「話は終わり、」と笑顔を見せ「ありがとう、涼夏と仲良くしてくれて」と更に笑顔を深める。
「ずっとずっと表情の無かった涼くんが入学式の日から少しずつ顔つきが変わってたのは相模君のせいなのか、おかげなのか。
どっちにしてもありがとう」
流石母親だけあって何か感じることがあるのかもしれない。
「じゃあ、親御さんも見えたから俺は帰るよ」
母のありがとうに対して返答に困ったのか、軽く頭を下げ意思表示をする。燈哉の家は知らないけれど、逆方向に来たのだから帰宅は遅くなるだろう。
「大丈夫?」
「家には連絡してあるし、問題は無いよ。
塾に行ってればこんな時間、まだ早い方だし」
安心させるようにそう付け加えるのはいつもの癖なのか、羽琉君に対していつもこんなふうに気遣っているのかと思うと『疲れるんだろうな』と勝手な感想を抱いてしまう。
「じゃあ、また明日」
「うん」
そう言って背を向けた燈哉を見送り母と家に向かって歩き出す。駅から徒歩圏内の家だから通学のために引越しはしなくて良いと言ったのはあの子との接点を少しでも残しておきたかったからだった。今となっては引越しも有りだったと思ってしまうけれど、家を買ったからとか、家のローンがとか色々と理由をつけて渋ったのはオレだ。
母は強いαにマーキングされていたら素敵な出会いがなくなるなんて笑ったけど、それならそれで良いと思ってしまうのはまだまだあの子のことを引きずっているからだろう。
誰からも相手にされないのだから求めてくれるαに好きにさせたら良いなんて自棄になっていたせいで、入学式の日に燈哉に過剰反応したのかもしれない、なんてことにまで思考が飛躍する。
「涼くん、大丈夫?」
それまで無言で歩いていたのに急に言われて戸惑ってしまう。【大丈夫】が何に対しての【大丈夫】なのかも分からない。
「大丈夫って、なにが?」
「色々なこと。
新しい学校のこととか、」
「大丈夫だよ、友達もできたし」
「相模君のこと?」
「燈哉君もだけど、Ωの友達だってちゃんといるし」
浬と忍のことは友人と呼んでも怒られないだろう、きっと。
「それなら良いけど。
今までと勝手が違って戸惑うことも多いとは思うけど、慣れるしかないからね」
困ったように、言い聞かせるように言った母に頷くことしかできなかったのは、羽琉君のことが気になってしまったからかもしれない。
Ωとして、『Ωだから仕方ない』と幼い頃から自分に言い聞かせてきた羽琉君。
αとして生活してきたのにΩと診断が出てしまったせいで『Ωだから仕方ない』と諦めることしかできなかったオレ。
『Ωだから仕方ない』
ネガティヴな響きに母に気付かれぬよう、そっと溜め息を吐いた。
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