Ωだから仕方ない。

佳乃

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【side:涼夏】Ω同士は容赦が無い。

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 オレがそんな話をしていた時に燈哉が羽琉君にしていたことを知るのはその日の昼休み。
 朝からふたりと話し込んでいたオレは全く気付いていなかったけれど、少しずつ少しずつザワザワとしていたらしい。



 ふたりの様子を直接見た者。

 ふたりの様子を聞き、わざわざ見に行った者。

 それを見たままに伝えた者と、憶測を交えて広めた者。



「ねえ、朝大変だったみたいだけど、何か燈哉君に聞いてる?」

 はじめに口を開いたのは忍だった。

 浬と忍は元々仲が良かったようで、ふたりで弁当を食べるけれど一緒にどうかと声をかけてくれたため入学式の翌日、昨日からその好意に甘えている。移動教室も一緒で燈哉とのことで怯えているわけではないけれど、校内をひとりで歩き回るのは不安だと思っていたオレにはありがたい申し出だった。

「何の話?」

「燈哉君と伊織君たちが揉めたって」

「伊織君?」

「入学式の時に保健医連れてきたα」

「あ、あの人もαなんだ。
 もうひとりいたよね」

「うん、政文君。
 朝から羽琉君と過ごすのはどっちだって、揉めてたって。
 聞いてる?」

「何も聞いてないよ」

 オレとのことを羽琉君にちゃんと伝えると言っていたから、そのせいで喧嘩でもしたのかと思えばそうではなかったらしい。スマホを取り出して見てみるけれど、メッセージも入っていない。

「あのふたりも羽琉君のことが好きなの?」

 入学式の日のふたりの態度を思い出しそう聞いてみる。燈哉に対してなかなかに厳しい言葉で詰め寄っていたのを思い出す。

「あのふたりはαとαだけど付き合ってるとは言ってるよ」

「それ、僕は怪しいと思ってるけどね」

 そう言ったのは浬だった。浬の言葉に忍は面白そうな顔をしている。

「怪しいと言えば怪しいけど。
 でもお似合いだよ、あのふたり」

「αとαなんだ」

「そうなんだよね。
 Ωと番う気は無いって。
 Ωのヒートアタックに嫌気が刺したとか、α同士だけど運命だとか、噂は沢山あるけどね」

「で、どうしてそのふたりと揉めるんだ?」

「そこも、色々噂はあるけどね」

「また噂?」

「強いα相手だと誰も真偽のほどを確かめたりしないんだよね。
 だから噂ばかり中途半端に広がってく」

「そう。
 だからふたりは本当は付き合ってないって言う子もいる。他に好きな子がいるからカムフラージュのためだとか。
 伊織君も政文君も狙ってる子結構いるから希望的願望も有ると思うよ」

 αもΩも少ない環境で過ごしてきたけれど、αだという前提で声をかけられることは多くあった。良い家のαであればかけられる声はもっと多いだろう。

「で、何がどうなったの?」

「結局は羽琉君が燈哉君を選んだんだけど、体調崩して保健室行き」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思うよ。
 羽琉君、保健室の常連だし、燈哉君が離れないだろうし」

「そっか、」

 入学式の時も体調を崩して運ばれていたことを思い出してとりあえず安心するけれど、保健室の常連と言われるほど身体が弱いのかと心配にもなる。オレのようなΩもいるのだから全てのΩが身体が弱いわけでは無いけれど、Ωが体調を崩しやすいのはあの子を見ていたから知っている。

「妬ける?」

「何で?」

 忍がニヤリと笑って言った言葉に素で返す。今の話を聞いて心配をすることはあっても嫉妬する要素は全く無い。

「燈哉君のこと好きなんじゃないの?」

「じゃないね。
 嫌いじゃないし、好きか嫌いかと言われれば好きな方だけど恋愛的な気持ちはない」

「でも入学式の時、」

「あれ、みんな忘れてくれないかな…。
 こっちだって、初めての環境で緊張してたんだって。
 だから強いαに惹かれたって言うか…今思えば打算?」

「え、ちょっと引く」

 忍は容赦がない。

「仕方ないだろ?
 目立つ奴らが入ってきたと思ったらその時のαが目の前に来て名前聞かれて。
 驚くし、緊張するし、ドキドキもするって。で、緊張?高揚?よく分からないまま抱きしめられて、やっぱりオレってΩだったのかって思ったらαに庇護されるのも悪くないのかって」

「それって、ヒート?」

「分かんない。
 オレ、薬飲めば治るくらい軽いし。
 だから余計に訳わかんなくなったのかも」

「まあ、燈哉君は強いαだしね。
 でも何で涼夏君に話しかけたんだろう。何か聞いた?」

「聞きたいけどまだそんなチャンスは無いよ」

「え、朝とか帰りとか、どんな話してるの?」

「オレがΩだって分かる前の話とか?」

「え、それ聞きたい」

 伊織と政文、ふたりのαの話をしていたはずなのにいつの間にか話が逸れてしまい、その流れでオレがαだと信じていた頃の話になってしまう。

「え、そのΩの子、男の子?女の子??」

「え、芸能人なら誰似?」

 恋愛話は人との距離を縮めるのには最適らしい。

「男の子だよ。そもそもうちの学校、αもΩも数えるほどしかいなかったし。
 まあ、オレはαのフリしたΩだったんだけど」

「その言い方」

「そう言えば前にメッセージで教えてくれたことって」

「それ、ここで言っちゃう?
 とりあえず燈哉君に確認した方がいいと思うよ。Ωから見た事と、αから見た事って案外違うからね。
 涼夏君はどっちの視点でも見れるから絶対その方がいいと思う」

 メッセージの真意を聞こうとする度にはぐらかされている気がするけれど、言っていることは正論だからそれ以上何も言えなくなってしまう。

「じゃあ別のこと聞いていい?」

「答えられる事なら」

「ふたりは恋人とか、婚約者とかいるの?」

「僕は婚約者いるけど忍は」

「今は誰とも付き合ってないよ」

 浬がした質問を遮って忍が答える。

「付き合った途端にピアス減らせとか、髪色変えろとか言われるのホント腹立つ」

「あ、またそれが原因?」

「腹立ったから次はどこに開けようか考えてるところ」

「もう止めときなって」

 自傷かとも思ったけれど、ピアスを開けたいところを口にしては浬の反応を楽しんでいるから、ただの趣味なのかもしれない。忍の言葉で自分がソコに開けることを想像するのか「本当に止めて」と半泣きになった浬を助けるためにもう一度口を開く。

「婚約者って、やっぱりα?」

「そう。
 幼馴染だけど3歳違うから向こうは今年から大学生」

 それでもまだ話を続けようとする忍を無視してそう教えてくれた浬は幸せそうで、どうしてもあの子のことを思い出してしまう。彼も、オレのことを人に話しときはこんな表情をしてくれていたのだろうか。今は、どんな表情でオレのことを話すのだろうか。



『僕の元カレ、Ωのくせにαのフリしてたんだ』



 何が聞こえた気がして頭の奥がズキリと痛む。
 思い出したく無いのに思い出しそうになる。
 思い出したいのに思い出せない。

「涼夏君、箸止まってるよ?」

 食べながら話していてはずなのに動きが止まっていたのか忍に笑われる。頭に浮かんだ言葉は無かったことにして箸を再び動かす。

「その子とは連絡とってないの?」

「オレがΩだって診断が出た時に少し考えさせて欲しいって言われてそのままフェイドアウト。こっちもどうしていいのか分からなかったし、仕方ないよな」

「まあ、α同志ならまだしも、Ω同士は難しいよね…」

 忍の言葉が胸に痛かった。


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