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【side:政文】あるαのジレンマ。
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「そんなこと知ってるよ。
でも退院したらどこかで療養するんでしょ?」
宥めるような、祈るような伊織の言葉。俺が伊織と同じ時間を過ごしたいと思っているように、伊織は羽琉と同じ時間を過ごすことを望んでいるのだろう。
柔らかい声を出してはいるけれど、その表情は真剣だ。
『そうだけど…』
「あ、もしかして海外とか?」
『海外は無理かな』
「そんなに体調悪いの?」
『違う、パスポート持ってない』
まさかの答えに伊織が笑う。
もっと違う、何か深刻な理由を考えていたのだろう。
「海外じゃないなら僕と政文が遊びに行くよ。Ω専用の施設に入るわけじゃないでしょ?」
羽琉にしても伊織にしても、はっきりと言葉にして否定されているのを恐れているのか、遠回しな言葉ばかりでもどかしい。もどかしいというか、さっさと結論を出せばいいのにと思い仕方なく助け舟を出す。
「それって、羽琉の体調次第では外出もできたりするのか?」
『どうだろう?
明日の診察の時に聞いてみる』
羽琉の言葉は会いに行くことを了承したということだろう。
療養先を訪ねるのはもちろん、外出もできると俺たちを受け入れたのはどんな理由からなのか。伊織を、もしくは俺を受け入れる気持ちがあるのなら…流れに従うしかないのかもしれない。
想定外の今居の存在と、想定外の燈哉の行動。
そして、想像以上の羽琉に対する伊織の執着。
「羽琉と遊べるの、楽しみだね」
そう微笑む伊織に「伊織、はしゃぎ過ぎじゃないか?」と呆れてしまう。
俺の気持ちになんてまるで気が付いていないことが切ない。
「だって、燈哉のこと気にせずに羽琉と過ごせるんだよ?」
校内で共に過ごすことは何度もあったけど、俺と付き合っていることになっていたせいで羽琉とは【友人】としてのスタンスを崩すことはなかったし、崩すこともできなかったのだから喜んで当然だと思いながらも複雑な気分だ。
「羽琉、宿題手伝うって口実は?」
万が一、どこかからこの情報が漏れてしまった時の言い訳を口にする。【友人】として早めの夏休みに入った羽琉を心配して気遣うのなら燈哉だって文句を言いにくいだろう。
勉強を教えると言ってしまうと常に上位の羽琉に対して失礼だけど、宿題を手伝うという口実なら問題ないように思う。宿題と言ってもテキストだけではないのだから口実にはもってこいだ。
「早く終わらせたら遊び放題だよね?」
「放題かどうかは知らないけどな」
無駄にはしゃぐ伊織を制してはみるけれど、図らずも夏休みを一緒に過ごせる事になったのは嬉しい誤算。ただ、羽琉の本心がどこにあるのかだけが気になってしまう。
『僕、邪魔じゃないの?』
困ったような羽琉の言葉に「なんで?」「なんでだ?」と声が重なる。邪魔ならばわざわざ誘うことはないというのは建前で、俺の気持ちに気付かれたのかと思いながら次の言葉を待つ。
『僕がいたらふたりで過ごせないし、行けない場所もあるだろうし、できないこともあるだろうし』
「うん、それがどうかしたの?」
「ふたりがいいならそもそも遊びに行くなんて言わないし、羽琉がいて行けない場所とか、できないことって何だ?」
俺たちを気遣う言葉に違和感を覚え、自分の気持ちを押し殺しその理由を探る。昨日、燈哉を待つことなく帰った原因がそこにあるのかもしれない。
「え、羽琉の行きたくない場所とかやりたくないことじゃなくて?」
「それ、羽琉の希望聞けばいいだけじゃないのか?」
「だよね」
わざと軽い調子で話を続けるものの、黙り込んだ羽琉が気になるのか何か言いたげに俺を見た伊織に余計なことを言わないよう人差し指を立てて口の前に示す。その意図に気付いたのだろう、余計なことを言うことなく、それでも気遣うように「羽琉?」とその名を呼ぶ。
そっと包み込むように、大切に大切に呼ばれる名前。
『ん?』
少し湿ったように聞こえる短い返事。
「こっちで盛り上がっちゃってごめん。
とりあえず療養先決まったら教えて?
遊びに行くし、療養先で何か出来ることがないか調べるから」
泣いているのかもしれない羽琉が話さなくてもいいように一方的に告げる夏休みの計画。羽琉を大切にする気持ちに明確な嫉妬を感じながらも、その気持ちを隠して同じように言葉を続ける。
「羽琉も一緒にやりたいこととかあったら考えておいて。
急に悪かったな、長くなったけど疲れてないか?」
『大丈夫。
伊織も政文もありがとう』
鼻を啜る音と湿った声。
だけど、その声は柔らかい。
「こちらこそ、連絡くれてありがとう」
「もし羽琉が連絡できないときは隆臣さん経由でも大丈夫だからな」
『うん。
明日の診察の後でまた連絡するね』
「「分かった」」
『じゃあ、また連絡するね』
「待ってるからね」
そんな言葉で終わった会話。
「羽琉、泣いてなかった?」
通話を終えた伊織が不安そうな顔を見せる。
湿った声と鼻を啜る音。
昨日、予定があると嘘を告げて帰ってしまったこと。
夏休みに会いにいくと言った時には嬉しそうな声を聞かせてくれたのに、俺たちの邪魔にならないかと変に気を使ったこと。
「燈哉の様子もおかしかったし」
「羽琉に聞かれたくないこと話してたんじゃないか、きっと」
きっとではなくて、確実にそうだったのだろう。
最近の燈哉は羽琉に対する執着を隠すことはないけれど、その執着は以前のようなものではないように見える。今までは羽琉を想い、羽琉だけを見ていた燈哉だけど、最近は羽琉を大切にすると言うよりも羽琉を支配することで自分に縛り付けているように見える。
「やっぱりそうなのかな…。
燈哉はどうするつもりなんだろう」
「さあな、」
「羽琉はそれでも燈哉が良いのかな」
「羽琉は羽琉で燈哉に執着してるからな…」
「そうだよね」
そう言って黙り込んだ伊織は「羽琉、どこで療養するのかな?」とわざと明るい声を出す。
「伊織は夏の予定、何も無いのか?」
「政文は?」
「家の用事でいくつか出ないといけない集まりはあるよ」
「僕も…」
高校生であってもαである俺たちは将来のためとの建前の元、定期的に開かれる会合に主席する必要がある。拒否することもできるものの、先のことを考えれば顔を出すことは必要なことだ。
それぞれの家庭環境、αとしての強さによって出席する会合の種類や数も違ってくるせいで燈哉と俺、そして伊織とは若干予定が違ってくるせいで、伊織抜きで燈哉と顔を合わせることもあるだろうと考えると面倒だなと思ってしまう。
ただ、羽琉に対する執着を隠すことのできない伊織がいなければ、燈哉に何を言われても本心だけを告げればいいと思うと少しだけ気が楽だ。
もしかしたら燈哉の気持ちを確認することだってできるかもしれない。
「俺たちの予定をすり合わせて、羽琉に伝えないとな」
「療養先、何処なんだろうね」
「海外じゃなければ何処でも変わらないんじゃないか?」
「どうせなら遊ぶとこがあると良いな」
「例えば?」
「遊園地、とか?」
「………羽琉の体力次第だな」
「そっか」
頭の中では燈哉と相対した時のことを考えながら伊織と夏休みの予定を計画する。
「羽琉のところに行く前に課題、終わらせておきたいな」
「手分けしてやる?」
「とりあえず自分でやるべきだろ?
躓いた時のために一緒にやっても良いけど」
本当は一緒にやりたいと、ふたりで過ごしたいと言いたいのに勿体ぶった言い方をしてしまうのは、自分の想いを知られてしまい伊織が離れていくのが怖かったから。
「僕、文系は得意」
「知ってる。
理系は少し苦手なのも」
「それ、言う?」
「現実は受け止めないと駄目だと思うよ」
「政文は苦手なもの、無いよね」
「そう見えるだけだよ」
そう言った俺に「困った時はお願いするから」と笑顔を見せた伊織はこちらが危うく思うほどに真っ直ぐだ。
俺に唆されて付き合っているふりをしているのに羽琉に対する執着を隠せなくなっていること。
燈哉が羽琉以外に心を奪われて苛立っていること。
今居の存在を面白くないと思いながらも、Ωであるのだから仕方ないと受け入れていること。
それなのに、そんな伊織を危ういと思っている俺の気持ちには全く気付いていないこと。
いつからだろう、羽琉を見ている伊織が燈哉に苛立ちながらもその存在に惹きつけられている事に気づいたのは。
その位置に自分を置き換え、自分では足りない事を思い知らされ、自分がその位置に行くことを夢見る。
だけど、自分の足りないものに気付き落ち込んだ顔を見せる。
羽琉に対する想いが違うため、燈哉が羽琉のことを大切にするならそれで良いと思っていたし、自分がその位置に成り替わりたいなんて思ったこともなかった。燈哉に対しても劣等感を感じたことのなかった俺に、伊織の気持ちを理解するのは難しいのかもしれない。
だけど、伊織が燈哉に向ける気持ちははっきり言って気に入らない。
燈哉に向ける気持ちがプラスの感情ではないと分かっていながらも、その半分でも良いから自分に向けて欲しいと思ってしまう。
嫉妬、羨望、憎悪。
何でもいいから、その感情の欠片だけでもいいから自分に向けて欲しいと思ってしまう。
「仕方ないな」
伊織の「困った時はお願いするから」と言う言葉が嬉しくて、それでもその気持ちを素直に出すことは許されないと思い投げやりに答える。
「夏休み、楽しみだね」
俺の気持ちに気付かず無邪気に笑う伊織をこのまま閉じ込めてしまいたい。
そんな風に思う俺と、今居を気にしながらも羽琉に対する執着を捨てることのできない燈哉はもしかしたら似ているのかもしれない。
でも退院したらどこかで療養するんでしょ?」
宥めるような、祈るような伊織の言葉。俺が伊織と同じ時間を過ごしたいと思っているように、伊織は羽琉と同じ時間を過ごすことを望んでいるのだろう。
柔らかい声を出してはいるけれど、その表情は真剣だ。
『そうだけど…』
「あ、もしかして海外とか?」
『海外は無理かな』
「そんなに体調悪いの?」
『違う、パスポート持ってない』
まさかの答えに伊織が笑う。
もっと違う、何か深刻な理由を考えていたのだろう。
「海外じゃないなら僕と政文が遊びに行くよ。Ω専用の施設に入るわけじゃないでしょ?」
羽琉にしても伊織にしても、はっきりと言葉にして否定されているのを恐れているのか、遠回しな言葉ばかりでもどかしい。もどかしいというか、さっさと結論を出せばいいのにと思い仕方なく助け舟を出す。
「それって、羽琉の体調次第では外出もできたりするのか?」
『どうだろう?
明日の診察の時に聞いてみる』
羽琉の言葉は会いに行くことを了承したということだろう。
療養先を訪ねるのはもちろん、外出もできると俺たちを受け入れたのはどんな理由からなのか。伊織を、もしくは俺を受け入れる気持ちがあるのなら…流れに従うしかないのかもしれない。
想定外の今居の存在と、想定外の燈哉の行動。
そして、想像以上の羽琉に対する伊織の執着。
「羽琉と遊べるの、楽しみだね」
そう微笑む伊織に「伊織、はしゃぎ過ぎじゃないか?」と呆れてしまう。
俺の気持ちになんてまるで気が付いていないことが切ない。
「だって、燈哉のこと気にせずに羽琉と過ごせるんだよ?」
校内で共に過ごすことは何度もあったけど、俺と付き合っていることになっていたせいで羽琉とは【友人】としてのスタンスを崩すことはなかったし、崩すこともできなかったのだから喜んで当然だと思いながらも複雑な気分だ。
「羽琉、宿題手伝うって口実は?」
万が一、どこかからこの情報が漏れてしまった時の言い訳を口にする。【友人】として早めの夏休みに入った羽琉を心配して気遣うのなら燈哉だって文句を言いにくいだろう。
勉強を教えると言ってしまうと常に上位の羽琉に対して失礼だけど、宿題を手伝うという口実なら問題ないように思う。宿題と言ってもテキストだけではないのだから口実にはもってこいだ。
「早く終わらせたら遊び放題だよね?」
「放題かどうかは知らないけどな」
無駄にはしゃぐ伊織を制してはみるけれど、図らずも夏休みを一緒に過ごせる事になったのは嬉しい誤算。ただ、羽琉の本心がどこにあるのかだけが気になってしまう。
『僕、邪魔じゃないの?』
困ったような羽琉の言葉に「なんで?」「なんでだ?」と声が重なる。邪魔ならばわざわざ誘うことはないというのは建前で、俺の気持ちに気付かれたのかと思いながら次の言葉を待つ。
『僕がいたらふたりで過ごせないし、行けない場所もあるだろうし、できないこともあるだろうし』
「うん、それがどうかしたの?」
「ふたりがいいならそもそも遊びに行くなんて言わないし、羽琉がいて行けない場所とか、できないことって何だ?」
俺たちを気遣う言葉に違和感を覚え、自分の気持ちを押し殺しその理由を探る。昨日、燈哉を待つことなく帰った原因がそこにあるのかもしれない。
「え、羽琉の行きたくない場所とかやりたくないことじゃなくて?」
「それ、羽琉の希望聞けばいいだけじゃないのか?」
「だよね」
わざと軽い調子で話を続けるものの、黙り込んだ羽琉が気になるのか何か言いたげに俺を見た伊織に余計なことを言わないよう人差し指を立てて口の前に示す。その意図に気付いたのだろう、余計なことを言うことなく、それでも気遣うように「羽琉?」とその名を呼ぶ。
そっと包み込むように、大切に大切に呼ばれる名前。
『ん?』
少し湿ったように聞こえる短い返事。
「こっちで盛り上がっちゃってごめん。
とりあえず療養先決まったら教えて?
遊びに行くし、療養先で何か出来ることがないか調べるから」
泣いているのかもしれない羽琉が話さなくてもいいように一方的に告げる夏休みの計画。羽琉を大切にする気持ちに明確な嫉妬を感じながらも、その気持ちを隠して同じように言葉を続ける。
「羽琉も一緒にやりたいこととかあったら考えておいて。
急に悪かったな、長くなったけど疲れてないか?」
『大丈夫。
伊織も政文もありがとう』
鼻を啜る音と湿った声。
だけど、その声は柔らかい。
「こちらこそ、連絡くれてありがとう」
「もし羽琉が連絡できないときは隆臣さん経由でも大丈夫だからな」
『うん。
明日の診察の後でまた連絡するね』
「「分かった」」
『じゃあ、また連絡するね』
「待ってるからね」
そんな言葉で終わった会話。
「羽琉、泣いてなかった?」
通話を終えた伊織が不安そうな顔を見せる。
湿った声と鼻を啜る音。
昨日、予定があると嘘を告げて帰ってしまったこと。
夏休みに会いにいくと言った時には嬉しそうな声を聞かせてくれたのに、俺たちの邪魔にならないかと変に気を使ったこと。
「燈哉の様子もおかしかったし」
「羽琉に聞かれたくないこと話してたんじゃないか、きっと」
きっとではなくて、確実にそうだったのだろう。
最近の燈哉は羽琉に対する執着を隠すことはないけれど、その執着は以前のようなものではないように見える。今までは羽琉を想い、羽琉だけを見ていた燈哉だけど、最近は羽琉を大切にすると言うよりも羽琉を支配することで自分に縛り付けているように見える。
「やっぱりそうなのかな…。
燈哉はどうするつもりなんだろう」
「さあな、」
「羽琉はそれでも燈哉が良いのかな」
「羽琉は羽琉で燈哉に執着してるからな…」
「そうだよね」
そう言って黙り込んだ伊織は「羽琉、どこで療養するのかな?」とわざと明るい声を出す。
「伊織は夏の予定、何も無いのか?」
「政文は?」
「家の用事でいくつか出ないといけない集まりはあるよ」
「僕も…」
高校生であってもαである俺たちは将来のためとの建前の元、定期的に開かれる会合に主席する必要がある。拒否することもできるものの、先のことを考えれば顔を出すことは必要なことだ。
それぞれの家庭環境、αとしての強さによって出席する会合の種類や数も違ってくるせいで燈哉と俺、そして伊織とは若干予定が違ってくるせいで、伊織抜きで燈哉と顔を合わせることもあるだろうと考えると面倒だなと思ってしまう。
ただ、羽琉に対する執着を隠すことのできない伊織がいなければ、燈哉に何を言われても本心だけを告げればいいと思うと少しだけ気が楽だ。
もしかしたら燈哉の気持ちを確認することだってできるかもしれない。
「俺たちの予定をすり合わせて、羽琉に伝えないとな」
「療養先、何処なんだろうね」
「海外じゃなければ何処でも変わらないんじゃないか?」
「どうせなら遊ぶとこがあると良いな」
「例えば?」
「遊園地、とか?」
「………羽琉の体力次第だな」
「そっか」
頭の中では燈哉と相対した時のことを考えながら伊織と夏休みの予定を計画する。
「羽琉のところに行く前に課題、終わらせておきたいな」
「手分けしてやる?」
「とりあえず自分でやるべきだろ?
躓いた時のために一緒にやっても良いけど」
本当は一緒にやりたいと、ふたりで過ごしたいと言いたいのに勿体ぶった言い方をしてしまうのは、自分の想いを知られてしまい伊織が離れていくのが怖かったから。
「僕、文系は得意」
「知ってる。
理系は少し苦手なのも」
「それ、言う?」
「現実は受け止めないと駄目だと思うよ」
「政文は苦手なもの、無いよね」
「そう見えるだけだよ」
そう言った俺に「困った時はお願いするから」と笑顔を見せた伊織はこちらが危うく思うほどに真っ直ぐだ。
俺に唆されて付き合っているふりをしているのに羽琉に対する執着を隠せなくなっていること。
燈哉が羽琉以外に心を奪われて苛立っていること。
今居の存在を面白くないと思いながらも、Ωであるのだから仕方ないと受け入れていること。
それなのに、そんな伊織を危ういと思っている俺の気持ちには全く気付いていないこと。
いつからだろう、羽琉を見ている伊織が燈哉に苛立ちながらもその存在に惹きつけられている事に気づいたのは。
その位置に自分を置き換え、自分では足りない事を思い知らされ、自分がその位置に行くことを夢見る。
だけど、自分の足りないものに気付き落ち込んだ顔を見せる。
羽琉に対する想いが違うため、燈哉が羽琉のことを大切にするならそれで良いと思っていたし、自分がその位置に成り替わりたいなんて思ったこともなかった。燈哉に対しても劣等感を感じたことのなかった俺に、伊織の気持ちを理解するのは難しいのかもしれない。
だけど、伊織が燈哉に向ける気持ちははっきり言って気に入らない。
燈哉に向ける気持ちがプラスの感情ではないと分かっていながらも、その半分でも良いから自分に向けて欲しいと思ってしまう。
嫉妬、羨望、憎悪。
何でもいいから、その感情の欠片だけでもいいから自分に向けて欲しいと思ってしまう。
「仕方ないな」
伊織の「困った時はお願いするから」と言う言葉が嬉しくて、それでもその気持ちを素直に出すことは許されないと思い投げやりに答える。
「夏休み、楽しみだね」
俺の気持ちに気付かず無邪気に笑う伊織をこのまま閉じ込めてしまいたい。
そんな風に思う俺と、今居を気にしながらも羽琉に対する執着を捨てることのできない燈哉はもしかしたら似ているのかもしれない。
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