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【side:燈哉】可哀想で可愛い存在。
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涼夏と話した翌日、約束通り駅からの道程をふたりで歩き、校内に入ったところで別れる。
羽琉がいるはずの駐車場に向かいながらも何度も涼夏の後ろ姿を確認したのはそれでも心配だったから。
校内ならば問題はない。
そう自分に言い聞かせるけれど複雑な気分ではある。羽琉と涼夏がお互いの存在を認め合えば一緒に過ごすことができるのに、そんなふうに思い一度羽琉と話してみようと昨日話した内容を思い返す。
涼夏は羽琉に遠慮しているだけで、羽琉さえ納得すれば3人で過ごすことだってできるはずだ。
「羽琉、おはよう」
どんなふうに話を進めようか考えながら車から降りた羽琉に声をかける。
αとか、Ωとか、そんなことを意識するようになる中等部の頃からの日課である羽琉のエスコート。
車から降りた羽琉の見せるはにかんだ笑顔が好きなのに、その日は俺に目を向けることすらしてくれず、その態度に少し苛立つ。
「…おはよう」
目を合わせないまま何かを探すそぶりを見せた羽琉に「羽琉さん、忘れ物です」と車から降りてきた隆臣が声をかける。羽琉が忘れ物をするなんて珍しいと思っているとちょうど姿を見せた伊織と政文に気付き、何かを話し始める。
「おふたりにお願いしておきますね」
ふたりと話し、そう言って小さな包みを渡すとそれを受け取った2人はそれぞれ受け取ったものをブレザーの内ポケットに入れる。
「それは?」
気になって聞いてみても「燈哉には関係無いから」と一蹴されさらに苛立つ。
受け取ったふたりが何も言わないのなら隆臣に聞けばいいと思い口を開こうとすれば「隆臣さん、大丈夫ですから」と政文が口を開き、帰るように促す。
心配そうな顔を見せた隆臣だったけど、「連絡しますから」と伊織に告げられ「お願いします」と頭を下げると車に乗り込んだ。
面白くない。
自分の知らないところで何があったのか知らないけれど、俺を置き去りにして進む話に不快感しかない。
「羽琉、行くよ」
俺がいるというのに当たり前のように羽琉の鞄を持った政文が歩き出し、伊織に手を引かれた羽琉も歩き出す。
「羽琉」
なんとか羽琉の気を引こうと着いてくるけれど「来る場所間違えてない?」と伊織に言われ咄嗟に否定できなかったのは涼夏を心配する気持ちと、羽琉に対する後ろめたさがあったから。
だけど、羽琉のエスコートを譲る気はない。
「明日からは俺が羽琉に付き添うから」
強い口調でそう告げれば「今居は?」と政文が呆れた声を出す。
「あれだけ周りに見せつけておいて、羽琉のとこに来たら今居くんが可哀想だよ」
政文の声に怒りを含んだ伊織の声が被せられ「そもそも付き添うとか、どんな立場で物言ってるの?」と言葉を荒げる。
普段穏やかな伊織にしては珍しく怯みそうになるけれど、それでも譲れないものがあるのだと俺も言葉を続ける。
「俺が守るって約束したから」
そう、幼い頃に羽琉とした約束。
『Ωだからしかたない』
そう言って膝を抱えた羽琉のことを自分が守るのだと、【Ω性】がどんなものなのかも、自分がαであることも知らなかったあの頃から変わらず持ち続ける気持ち。
自分の中で羽琉を守りたいという気持ちと、涼夏を守りたいという気持ちは明らかに違うのにそれがうまく伝わらずもどかしい。
「涼夏は校内でならひとりでも大丈夫だろうし、Ωだけど案外強いよ」
だから羽琉は心配しなくても大丈夫だと伝えたくて微笑んでみせる。そして、涼夏は自分のΩ性を正しく理解し、コントロールしているだけでなく自分を守る術を身に付けているため下校時に強くマーキングをすれば問題無いと伝える。
もともと自分はαだと思っていたし、身体能力だってそれなりに優れていたため自分の身を守る術は知っていると言った涼夏は、それでも自分がΩだと知り、ヒートが来てしまった時から以前に比べると体力も身体能力も落ちたと眉間に皺を寄せる。「だから何かあった時は逃げることを優先するけどね」と潔く言った彼の笑顔は逞しかった。
「お前達が涼夏の香りを纏わなければ羽琉の側にいても良いと言ったんだろう?
涼夏にもそれを伝えて、了承してもらってる」
そして、羽琉が涼香のことを心配しないよう「どのみちクラスは別だし、涼夏ならすぐに友達もできるだろうし」と言葉を付け加える。クラスで一緒に過ごす相手がいると思えば羽琉が心配する必要がないことも伝わるだろう。
「羽琉にだって俺たちっていう友達がいるから問題ない」
「それでも俺が守るって約束したから」
俺がなにか言う度に反論するかのように口を開く政文が鬱陶しくて思わず威嚇を向けてしまう。
羽琉が威嚇のせいで体調を崩したと聞かされたのに思わずしてしまったせいで「燈哉、威嚇。羽琉が怖がるから」伊織に言われ、急いで威嚇を収めるけれど、気遣うように羽琉の肩に触れたのが気に入らなくて「伊織も、羽琉に触るな」と羽琉の手を取り自分の側に引き寄せる。
「伊織、政文、燈哉と話していい?」
俺の気持ちが伝わったのか、そんなふうに言った羽琉に「じゃあ、一緒に」とふたりが言ったけれどその申し出を断ると「中庭に行こう」と俺の手を引く。
だけど、羽琉だって俺とふたりで話したかったのだと気を良くした俺に向けられた言葉は思っていたのと全く違うものだった。
「おめでとう」
羽琉が疲れないようにベンチに座ろうとしたのにその前に言われた言葉と笑顔に違和感を感じる。その言葉の意味がわからない。
「おめでとうって、」
「だって、【運命】なんでしょ?」
無邪気な笑顔でそう告げられて、涼夏のことを言っているのだと理解する。
「【運命】ではないよ。
それでも涼夏のことを守りたい」
そう言って涼夏の境遇を、自分が馬鹿なことをしてしまったことによる弊害を説明しようと口を開く。
「羽琉のことは大切だし、今までみたいに守る。だけど、登下校の間だけは涼夏のことを守らせて欲しい。
涼夏にも羽琉のことを話したし、羽琉とは今まで通り付き合うとも言ってある。涼夏のことは学校から駅までエスコートするけど校内では今まで通りで大丈夫だから」
羽琉の誤解を解くには時間が必要だと思い、とりあえずは今まで通りに過ごすことを提案する。昨日の今日で涼夏と3人で過ごせるように話すのは時期尚早だろうと自分を戒める。
だけど、次に羽琉が発した言葉でその気持ちに変化が訪れてしまったことにやっと気付かされる。
「伊織と政文がいるから大丈夫だよ?
昨日、隆臣とも話してたし」
俺の言葉を遮るようにそう告げると俺は必要ないのだと言いたげに他のαの名前を出したことに腹が立ち、自分を抑えることができなかった。
「何言ってるの?」
それ以上羽琉の口から自分以外の名前が出ることが我慢できなくて正面から抱きすくめ、その頸に唇を寄せる。
羽琉は人の目があれば大丈夫だと中庭を選んだのかもしれないけれどそんなのは関係ない。
元々、羽琉と俺は公認の仲だったのだからこれくらい許されるだろう。
抱き寄せただけで、体液の交換をしているわけでもない。見ようによっては内緒話をしているようにも見えるはずだ。
わざと頸に触れ、その熱を伝える。
いずれはココを噛むつもりだったけど、まだまだ未熟な羽琉を怖がらせたくなくて我慢していたのだ。
俺だって健康なαだし、成熟も早かった。初めてのΩは羽琉だと決めていたからΩと身体を重ねたことは無かったけれど、αやβを相手にしたことはある。
羽琉を怖がらせないために、羽琉を大切にするために、そう思って我慢していたのに俺から逃げようとするのなら逃げられないようにするだけだ。
抱きすくめた羽琉が震えているのに気付いていたけれど、それでも腕の力を緩める気はない。
「羽琉、今までみたいに俺といるって言って」
頸に鼻先を埋めたまま囁く。
「大切な人ができたんだから、僕のことは」
恐怖で泣いているのか涙声でそう言った羽琉が可愛くて、身を引こうとする羽琉が愛しくて。俺の言葉に素直に従わない羽琉に逃げとようしても無駄だと思い知らせるためにネックガードに歯を立てる。
「羽琉?」
俺の言いたいことが分かるだろうとその名前を呼んでみる。
「ひっ、ゃだ」
歯を立てたことの意味に気付いたのか、咬まれることに対する恐怖なのか、非力なくせに逃げようともがくけれどそれを許す気はない。
「俺といるでしょ?」
今までのように俺と過ごすと自分で言わせるためにもう一度聞く。
恐怖のせいか、逃げようともがいたせいか少し息が上がった羽琉は可哀想で可愛い。
「やだってば」
「羽琉?」
そんな状況なのにまたしても俺を否定する言葉を口にしたためそれならば無理やり頷かせればいいと羽琉に対して明確な威嚇を向ける。
素直に頷かないなら頷きたくなるようにすればいい。
どこかから様子を伺っていたのだろう「燈哉、止めろ」「羽琉を離せ」と聞き覚えのある声が聞こえる。
羽琉はそろそろ限界なのか、あれほど逃げようともがいていたのに俺にもたれかかるようにしてかろうじて立っている状態だ。
「ほら、うんって言うだけでいいから」
意識を手放しそうになっている羽琉にもう一度問いかければ身を守る本能なのか、小さく頷く。
「羽琉、良い子」
そう告げて威嚇を解けば意識を手放したのか、身体の力が抜けてしまったためそのまま抱きかかえる。
腕の中で動かない羽琉は可哀想で、可愛くて。
伊織や政文が来なければもっと強くマーキングできたのにと近づいてくる足音を聞きながら残念に思ってしまったのだった。
羽琉がいるはずの駐車場に向かいながらも何度も涼夏の後ろ姿を確認したのはそれでも心配だったから。
校内ならば問題はない。
そう自分に言い聞かせるけれど複雑な気分ではある。羽琉と涼夏がお互いの存在を認め合えば一緒に過ごすことができるのに、そんなふうに思い一度羽琉と話してみようと昨日話した内容を思い返す。
涼夏は羽琉に遠慮しているだけで、羽琉さえ納得すれば3人で過ごすことだってできるはずだ。
「羽琉、おはよう」
どんなふうに話を進めようか考えながら車から降りた羽琉に声をかける。
αとか、Ωとか、そんなことを意識するようになる中等部の頃からの日課である羽琉のエスコート。
車から降りた羽琉の見せるはにかんだ笑顔が好きなのに、その日は俺に目を向けることすらしてくれず、その態度に少し苛立つ。
「…おはよう」
目を合わせないまま何かを探すそぶりを見せた羽琉に「羽琉さん、忘れ物です」と車から降りてきた隆臣が声をかける。羽琉が忘れ物をするなんて珍しいと思っているとちょうど姿を見せた伊織と政文に気付き、何かを話し始める。
「おふたりにお願いしておきますね」
ふたりと話し、そう言って小さな包みを渡すとそれを受け取った2人はそれぞれ受け取ったものをブレザーの内ポケットに入れる。
「それは?」
気になって聞いてみても「燈哉には関係無いから」と一蹴されさらに苛立つ。
受け取ったふたりが何も言わないのなら隆臣に聞けばいいと思い口を開こうとすれば「隆臣さん、大丈夫ですから」と政文が口を開き、帰るように促す。
心配そうな顔を見せた隆臣だったけど、「連絡しますから」と伊織に告げられ「お願いします」と頭を下げると車に乗り込んだ。
面白くない。
自分の知らないところで何があったのか知らないけれど、俺を置き去りにして進む話に不快感しかない。
「羽琉、行くよ」
俺がいるというのに当たり前のように羽琉の鞄を持った政文が歩き出し、伊織に手を引かれた羽琉も歩き出す。
「羽琉」
なんとか羽琉の気を引こうと着いてくるけれど「来る場所間違えてない?」と伊織に言われ咄嗟に否定できなかったのは涼夏を心配する気持ちと、羽琉に対する後ろめたさがあったから。
だけど、羽琉のエスコートを譲る気はない。
「明日からは俺が羽琉に付き添うから」
強い口調でそう告げれば「今居は?」と政文が呆れた声を出す。
「あれだけ周りに見せつけておいて、羽琉のとこに来たら今居くんが可哀想だよ」
政文の声に怒りを含んだ伊織の声が被せられ「そもそも付き添うとか、どんな立場で物言ってるの?」と言葉を荒げる。
普段穏やかな伊織にしては珍しく怯みそうになるけれど、それでも譲れないものがあるのだと俺も言葉を続ける。
「俺が守るって約束したから」
そう、幼い頃に羽琉とした約束。
『Ωだからしかたない』
そう言って膝を抱えた羽琉のことを自分が守るのだと、【Ω性】がどんなものなのかも、自分がαであることも知らなかったあの頃から変わらず持ち続ける気持ち。
自分の中で羽琉を守りたいという気持ちと、涼夏を守りたいという気持ちは明らかに違うのにそれがうまく伝わらずもどかしい。
「涼夏は校内でならひとりでも大丈夫だろうし、Ωだけど案外強いよ」
だから羽琉は心配しなくても大丈夫だと伝えたくて微笑んでみせる。そして、涼夏は自分のΩ性を正しく理解し、コントロールしているだけでなく自分を守る術を身に付けているため下校時に強くマーキングをすれば問題無いと伝える。
もともと自分はαだと思っていたし、身体能力だってそれなりに優れていたため自分の身を守る術は知っていると言った涼夏は、それでも自分がΩだと知り、ヒートが来てしまった時から以前に比べると体力も身体能力も落ちたと眉間に皺を寄せる。「だから何かあった時は逃げることを優先するけどね」と潔く言った彼の笑顔は逞しかった。
「お前達が涼夏の香りを纏わなければ羽琉の側にいても良いと言ったんだろう?
涼夏にもそれを伝えて、了承してもらってる」
そして、羽琉が涼香のことを心配しないよう「どのみちクラスは別だし、涼夏ならすぐに友達もできるだろうし」と言葉を付け加える。クラスで一緒に過ごす相手がいると思えば羽琉が心配する必要がないことも伝わるだろう。
「羽琉にだって俺たちっていう友達がいるから問題ない」
「それでも俺が守るって約束したから」
俺がなにか言う度に反論するかのように口を開く政文が鬱陶しくて思わず威嚇を向けてしまう。
羽琉が威嚇のせいで体調を崩したと聞かされたのに思わずしてしまったせいで「燈哉、威嚇。羽琉が怖がるから」伊織に言われ、急いで威嚇を収めるけれど、気遣うように羽琉の肩に触れたのが気に入らなくて「伊織も、羽琉に触るな」と羽琉の手を取り自分の側に引き寄せる。
「伊織、政文、燈哉と話していい?」
俺の気持ちが伝わったのか、そんなふうに言った羽琉に「じゃあ、一緒に」とふたりが言ったけれどその申し出を断ると「中庭に行こう」と俺の手を引く。
だけど、羽琉だって俺とふたりで話したかったのだと気を良くした俺に向けられた言葉は思っていたのと全く違うものだった。
「おめでとう」
羽琉が疲れないようにベンチに座ろうとしたのにその前に言われた言葉と笑顔に違和感を感じる。その言葉の意味がわからない。
「おめでとうって、」
「だって、【運命】なんでしょ?」
無邪気な笑顔でそう告げられて、涼夏のことを言っているのだと理解する。
「【運命】ではないよ。
それでも涼夏のことを守りたい」
そう言って涼夏の境遇を、自分が馬鹿なことをしてしまったことによる弊害を説明しようと口を開く。
「羽琉のことは大切だし、今までみたいに守る。だけど、登下校の間だけは涼夏のことを守らせて欲しい。
涼夏にも羽琉のことを話したし、羽琉とは今まで通り付き合うとも言ってある。涼夏のことは学校から駅までエスコートするけど校内では今まで通りで大丈夫だから」
羽琉の誤解を解くには時間が必要だと思い、とりあえずは今まで通りに過ごすことを提案する。昨日の今日で涼夏と3人で過ごせるように話すのは時期尚早だろうと自分を戒める。
だけど、次に羽琉が発した言葉でその気持ちに変化が訪れてしまったことにやっと気付かされる。
「伊織と政文がいるから大丈夫だよ?
昨日、隆臣とも話してたし」
俺の言葉を遮るようにそう告げると俺は必要ないのだと言いたげに他のαの名前を出したことに腹が立ち、自分を抑えることができなかった。
「何言ってるの?」
それ以上羽琉の口から自分以外の名前が出ることが我慢できなくて正面から抱きすくめ、その頸に唇を寄せる。
羽琉は人の目があれば大丈夫だと中庭を選んだのかもしれないけれどそんなのは関係ない。
元々、羽琉と俺は公認の仲だったのだからこれくらい許されるだろう。
抱き寄せただけで、体液の交換をしているわけでもない。見ようによっては内緒話をしているようにも見えるはずだ。
わざと頸に触れ、その熱を伝える。
いずれはココを噛むつもりだったけど、まだまだ未熟な羽琉を怖がらせたくなくて我慢していたのだ。
俺だって健康なαだし、成熟も早かった。初めてのΩは羽琉だと決めていたからΩと身体を重ねたことは無かったけれど、αやβを相手にしたことはある。
羽琉を怖がらせないために、羽琉を大切にするために、そう思って我慢していたのに俺から逃げようとするのなら逃げられないようにするだけだ。
抱きすくめた羽琉が震えているのに気付いていたけれど、それでも腕の力を緩める気はない。
「羽琉、今までみたいに俺といるって言って」
頸に鼻先を埋めたまま囁く。
「大切な人ができたんだから、僕のことは」
恐怖で泣いているのか涙声でそう言った羽琉が可愛くて、身を引こうとする羽琉が愛しくて。俺の言葉に素直に従わない羽琉に逃げとようしても無駄だと思い知らせるためにネックガードに歯を立てる。
「羽琉?」
俺の言いたいことが分かるだろうとその名前を呼んでみる。
「ひっ、ゃだ」
歯を立てたことの意味に気付いたのか、咬まれることに対する恐怖なのか、非力なくせに逃げようともがくけれどそれを許す気はない。
「俺といるでしょ?」
今までのように俺と過ごすと自分で言わせるためにもう一度聞く。
恐怖のせいか、逃げようともがいたせいか少し息が上がった羽琉は可哀想で可愛い。
「やだってば」
「羽琉?」
そんな状況なのにまたしても俺を否定する言葉を口にしたためそれならば無理やり頷かせればいいと羽琉に対して明確な威嚇を向ける。
素直に頷かないなら頷きたくなるようにすればいい。
どこかから様子を伺っていたのだろう「燈哉、止めろ」「羽琉を離せ」と聞き覚えのある声が聞こえる。
羽琉はそろそろ限界なのか、あれほど逃げようともがいていたのに俺にもたれかかるようにしてかろうじて立っている状態だ。
「ほら、うんって言うだけでいいから」
意識を手放しそうになっている羽琉にもう一度問いかければ身を守る本能なのか、小さく頷く。
「羽琉、良い子」
そう告げて威嚇を解けば意識を手放したのか、身体の力が抜けてしまったためそのまま抱きかかえる。
腕の中で動かない羽琉は可哀想で、可愛くて。
伊織や政文が来なければもっと強くマーキングできたのにと近づいてくる足音を聞きながら残念に思ってしまったのだった。
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