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【side:燈哉】知らなかった事実と知ってしまった事実。
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「何も知らないって、どういうこと?」
政文の言葉の意味がわからなくて聞いてみるけれど、呆れた顔をした政文は「まあ、ある意味羽琉一筋だったから仕方ないのか」と呟くと先ほどの言葉の説明を始める。
αのマーキングの方法は人それぞれだけど、ハグをしたり、キスをしたりという軽いものから、自分の体液を相手に付着させるなんて軽くしていい行動ではない行為まで多義に渡ること。
相手に付着させる体液によってマーキングの濃度も変わってくること。
そしてそれは、αのΩに対する庇護の証であって、その行為によってΩの香りが残り香として香ることはあっても混ざり合うことはないということ。
「昨日、校内を案内したからその時の残り香じゃないのか?」
そう言って誤魔化そうとするものの、その言葉を聞いた政文は冷たい目のまま次の説明を始める。
「一方的なマーキングでフェロモンが混ざり合うことなんてないし、表面的なものだから時間の経過とともに薄くなるんだよ。
だけど体液の交換をしてしまえばそのマーキングは長時間継続するし、相手の体液が排出されるまでは混ざり合った香りが持続するって、知らなかった?」
体液の交換と言われ心当たりがあるせいで目が泳いだのだろう。そんな俺を見て政文がダメ押しをするように言葉を続ける。
「近くに来ただけで匂うって、お話ししてただけじゃそんなにならないよな。
まあ、ヤってたら身体の奥からもっと纏わりつくように匂ってるだろうからそこまではしてないのは分かるけどな」
そこまで言われてやっと羽琉と伊織の態度の理由に気付く。
「………そうなのか?」
「心当たり、有るんだろ?」
そう問われて否定することはできなかった。
「何してるの?
【運命】なら【運命】で仕方ないけどちゃんと羽琉に言えよ」
「【運命】じゃないよ、多分」
羽琉に執着していることを知っている政文は〈何か〉があるのだろうと思ったようで【運命】という言葉を使う。政文の言うように涼夏が【運命】であったのなら周りの見方も変わったかもしれない。だけど【運命】ではないのは自分が1番よく知っている。
香りに惹かれたのは確かだけど、本当に【運命】だったのならもっと涼夏に執着しただろう。羽琉と似た香りに惹かれるのではなく、羽琉のことを思い出せないほどに涼夏が欲しいと思ったはずだ。
だけど羽琉に似た香りに惹かれて涼夏に近付いたのは紛れもない事実で、涼夏のことを利用しようとしたのは本心からだったのだから。
「香りが羽琉と似てたんだ、」
「香り?」
そう聞き返されて説明は必要で有るけれど、どこまで話そうかと逡巡する。涼夏の香りの話をすれば羽琉の香りも話さなければいけないけれど、それを話したくないと思ってしまう。
だけど話さなければ誤解されたままだと思い仕方なく昨日のことを話す。
「カムフラージュできると思ったんだ。
羽琉だってこれから香るようになればその香りに気付くαだって当然いるだろうから…意識を逸らしたかった」
そう言って告げた計画に政文が心底呆れたと嫌悪の表情を見せる。
自分勝手で杜撰な計画に、自分の大切なΩのために庇護すべきΩを蔑ろにしようとしたことに腹を立てているようにも見える。
「結局、燈哉は誰が欲しいの?」
「欲しいのは羽琉に決まってる」
そこは即答だった。
欲しいのは羽琉だけだし、大切なのは羽琉だ。
だけど涼夏のことは自分が巻き込んでしまったことによる罪悪感と、言い方は悪いけれどαだと思っていたのにΩだったと困ったように言った涼夏に対する同情で何とかしたいと思ってしまったことも素直に伝える。
下手に隠し立てして間違った情報が羽琉に伝わっても厄介だ。
「確かにΩっぽくはなかったけど、そこまでお前が責任感じる必要、あるのか?
お前が守りたいのは羽琉だろ?
「そうなんだけど、約束したし」
「約束?」
「羽琉と違って電車通学だっていうから駅から学校まではエスコートする約束をした」
「………馬鹿なの?」
「だって、1番危険なのは駅までの道だろ?羽琉を迎えに行くまでに校内に入れば問題無い」
「本気でそう思ってるのか?」
「羽琉はきっと、話せば分かってくれる」
「残り香だけだったら言い訳もできたけど、纏わりついてることの言い訳はどうするつもり?」
「気付いてると思うか?」
「お前の匂いが違うことに羽琉が気づかないわけないと思うけど…」
「じゃあ尚更話さないと」
そう言って教室に戻ろうとした俺の進路を塞ぎ、「今日は駄目だ」と言った政文は俺にとっては納得のできないことを告げる。
「今のお前は羽琉にとってストレスにしかならない。その纏わりついた匂いがなくなるまでは羽琉に近付くな。
羽琉、言ってたよ。体調崩したのは過度なストレスのせいだって言われたって。
原因がわからないなんて、阿呆なこと言わないよな?」
「俺がストレスだって言うのか?」
「お前じゃなくて、お前がしたコトな。
いつもなら羽琉にベッタリなのに羽琉のこと放置して、あげく見たことのないΩを抱きしめてるんだから羽琉がショックを受けるのも仕方ない。
ショックが大きければ大きいほどストレスだって大きいって分かるだろ?」
自分の短絡的な行動で涼夏だけでなく羽琉のことも傷付けていたと言われ、咄嗟にした行動でどれだけ周りに影響を与えてしまったのかと怖くなる。
「おまけにそんな匂いさせてるんだから羽琉のストレス、相当だと思うよ?
とりあえずその感じだと明日には元に戻るんじゃない?
今日も送ってくつもりなら体液の交換しないように気を付けるしかないな」
俺のためのアドバイスではなくて、羽琉のためのアドバイスだと言って「舌絡めなければそんなに匂わなかったのにな」と付け加える。
政文のパートナーである伊織はαなのになんでそんなに詳しいのかと不思議に思ったけれど、「そんなの周り見てたら分かるけどな。誰と誰が、なんて案外わかりやすいけど本当、羽琉にしか興味なかったのな」と苦笑いを見せる。
「とりあえずお前がどうしたいかじゃなくて、羽琉がどうしたいかだから。
今日は伊織と俺が付き添うから燈哉はとにかく羽琉に近付くなよ」
それだけ言うと話は終わったとばかりに俺を残して教室に向かう。
羽琉と少しでも早く話をしたいと思ったけれど近付くなと言われてしまったせいでそれもできず、そんなに匂うなら少しでも離れていたほうがいいのかと時間ギリギリまで廊下で過ごす。
話ができなくてもメッセージを送ってきているのではないかとスマホを取り出してみるけれど、《今朝はありがとう》と涼夏からのメッセージがあるだけだった。
何をしていても羽琉のことが気になってしまいついつい目を向けてしまうけれど、羽琉がこちらを見ることはないし、ふと顔を上げた時に目が合いそうになってもさりげなく視線を逸らされる。
いつもなら一緒に過ごす昼休みも3人で教室から出て行ってしまったし、帰りだって何も告げられることなく教室を後にする。
今日一日教室で過ごしていたけれど、昨日の不調のせいなのか、俺に纏わりつく匂いのせいなのか、顔色が良くないことが気になったけれど何もすることができなくてもどかしい思いをしたけれど、それもこれも自分の浅はかさがそうさせたのだと思えば何も言うことができない。
それならば涼夏の手を離せば問題は解決するのだけど、昨日聞かされた話がそれをさせてくれない。
同級生や先輩に訳を話せば涼夏のことを気にしてくれる人もいるだろうし、中には涼夏を気にいる者だっているはずだ。だけど、自分以外の誰かが涼夏の隣に立つことを考えるとそれはそれで面白くない。
昨日は涼夏もこちらの出方を見るために挑発のようなことをしたけれど、また同じシュチュエーションになることを避けさえすればこれ以上の間違いは起こらないはずだ。
そう考えて政文に言われたことを馬鹿正直に涼夏に告げたことを後悔はしていない。
纏わりつく香りの話を聞いた涼夏は両親はα同士だからそんな話は知らなかったし、今までに付き合った相手はΩだけだったせいで気付かなかったのかもしれないと申し訳なさそうに謝られてしまった。そして、もしもαと付き合っていたら自分がΩなのだと早い段階で気付くことができていたのかもしれないと呟く。
「付き合ってた相手、いたんだ?」
「一応ね。
でも相手にヒートが来る前にオレもΩだって分かったから」
「そのまま付き合うって選択は?」
「どうだろう?
自分がΩだなんて考えたこともなかったからどうしていいのか分からなくて。
結局どうしたいのかお互いに言い出せないまま進路が別れてそのまま」
「今でも、好き?」
「自分がαだと思ってた時は守ってあげたいと思ってたけど、Ωだとαには敵わないから…。
守ってあげたいのに守ることができないって、今まで持ってると思ってた力が無かったって…喪失感は凄かったよ。
なんで自分はΩなんだろう、なんでこんな外見なのにαじゃないんだろうって、どうにもならないことなのに自分を責めたし。
でも再検査しても結果は変わらないし、Ωだから当然ヒートだって来るし」
「………」
「どう足掻いてもΩなんだから仕方ないんだけど、受け入れるしかないんだけど、複雑だよね」
羽琉も口にしていた【Ωだから仕方ない】という言葉を聞いてしまうと自分にできることが何かないのかと考えてしまう。
「昨日言った通り、駅から学校まではエスコートするから」
「羽琉君はいいの?」
「羽琉は車だし」
「でもオレと一緒にいるの見たらストレスになるんじゃない?」
「それなら少し時間ずらす?
俺が一本早いのにすれば大丈夫だと思う」
「でも、」
「それくらいはさせて?
ただ、昨日みたいなのは勘弁して」
そういえば「昨日はオレもどうかしてたから」と笑う。
「じゃあ、また明日」
そんなふうに受け入れられたことが嬉しかった。
「じゃあ、先に来て待ってるから」
そう伝え、涼夏がΩ専用車両に乗り込むのを見届ける。
体液の交換もしていないし、今日は並んで歩いただけだ。
これなら明日、羽琉と話すこともできるだろう。
全てがうまく行っていると思っていた。
羽琉を大切に思う気持ちに嘘はない。
それでも涼夏を守りたいと思ってしまうのはαの本能。
羽琉も涼夏もΩなのだから自分が守るべきなのだ。
そう、羽琉も涼夏も守られるべきΩなのだから仕方ないんだ。
政文の言葉の意味がわからなくて聞いてみるけれど、呆れた顔をした政文は「まあ、ある意味羽琉一筋だったから仕方ないのか」と呟くと先ほどの言葉の説明を始める。
αのマーキングの方法は人それぞれだけど、ハグをしたり、キスをしたりという軽いものから、自分の体液を相手に付着させるなんて軽くしていい行動ではない行為まで多義に渡ること。
相手に付着させる体液によってマーキングの濃度も変わってくること。
そしてそれは、αのΩに対する庇護の証であって、その行為によってΩの香りが残り香として香ることはあっても混ざり合うことはないということ。
「昨日、校内を案内したからその時の残り香じゃないのか?」
そう言って誤魔化そうとするものの、その言葉を聞いた政文は冷たい目のまま次の説明を始める。
「一方的なマーキングでフェロモンが混ざり合うことなんてないし、表面的なものだから時間の経過とともに薄くなるんだよ。
だけど体液の交換をしてしまえばそのマーキングは長時間継続するし、相手の体液が排出されるまでは混ざり合った香りが持続するって、知らなかった?」
体液の交換と言われ心当たりがあるせいで目が泳いだのだろう。そんな俺を見て政文がダメ押しをするように言葉を続ける。
「近くに来ただけで匂うって、お話ししてただけじゃそんなにならないよな。
まあ、ヤってたら身体の奥からもっと纏わりつくように匂ってるだろうからそこまではしてないのは分かるけどな」
そこまで言われてやっと羽琉と伊織の態度の理由に気付く。
「………そうなのか?」
「心当たり、有るんだろ?」
そう問われて否定することはできなかった。
「何してるの?
【運命】なら【運命】で仕方ないけどちゃんと羽琉に言えよ」
「【運命】じゃないよ、多分」
羽琉に執着していることを知っている政文は〈何か〉があるのだろうと思ったようで【運命】という言葉を使う。政文の言うように涼夏が【運命】であったのなら周りの見方も変わったかもしれない。だけど【運命】ではないのは自分が1番よく知っている。
香りに惹かれたのは確かだけど、本当に【運命】だったのならもっと涼夏に執着しただろう。羽琉と似た香りに惹かれるのではなく、羽琉のことを思い出せないほどに涼夏が欲しいと思ったはずだ。
だけど羽琉に似た香りに惹かれて涼夏に近付いたのは紛れもない事実で、涼夏のことを利用しようとしたのは本心からだったのだから。
「香りが羽琉と似てたんだ、」
「香り?」
そう聞き返されて説明は必要で有るけれど、どこまで話そうかと逡巡する。涼夏の香りの話をすれば羽琉の香りも話さなければいけないけれど、それを話したくないと思ってしまう。
だけど話さなければ誤解されたままだと思い仕方なく昨日のことを話す。
「カムフラージュできると思ったんだ。
羽琉だってこれから香るようになればその香りに気付くαだって当然いるだろうから…意識を逸らしたかった」
そう言って告げた計画に政文が心底呆れたと嫌悪の表情を見せる。
自分勝手で杜撰な計画に、自分の大切なΩのために庇護すべきΩを蔑ろにしようとしたことに腹を立てているようにも見える。
「結局、燈哉は誰が欲しいの?」
「欲しいのは羽琉に決まってる」
そこは即答だった。
欲しいのは羽琉だけだし、大切なのは羽琉だ。
だけど涼夏のことは自分が巻き込んでしまったことによる罪悪感と、言い方は悪いけれどαだと思っていたのにΩだったと困ったように言った涼夏に対する同情で何とかしたいと思ってしまったことも素直に伝える。
下手に隠し立てして間違った情報が羽琉に伝わっても厄介だ。
「確かにΩっぽくはなかったけど、そこまでお前が責任感じる必要、あるのか?
お前が守りたいのは羽琉だろ?
「そうなんだけど、約束したし」
「約束?」
「羽琉と違って電車通学だっていうから駅から学校まではエスコートする約束をした」
「………馬鹿なの?」
「だって、1番危険なのは駅までの道だろ?羽琉を迎えに行くまでに校内に入れば問題無い」
「本気でそう思ってるのか?」
「羽琉はきっと、話せば分かってくれる」
「残り香だけだったら言い訳もできたけど、纏わりついてることの言い訳はどうするつもり?」
「気付いてると思うか?」
「お前の匂いが違うことに羽琉が気づかないわけないと思うけど…」
「じゃあ尚更話さないと」
そう言って教室に戻ろうとした俺の進路を塞ぎ、「今日は駄目だ」と言った政文は俺にとっては納得のできないことを告げる。
「今のお前は羽琉にとってストレスにしかならない。その纏わりついた匂いがなくなるまでは羽琉に近付くな。
羽琉、言ってたよ。体調崩したのは過度なストレスのせいだって言われたって。
原因がわからないなんて、阿呆なこと言わないよな?」
「俺がストレスだって言うのか?」
「お前じゃなくて、お前がしたコトな。
いつもなら羽琉にベッタリなのに羽琉のこと放置して、あげく見たことのないΩを抱きしめてるんだから羽琉がショックを受けるのも仕方ない。
ショックが大きければ大きいほどストレスだって大きいって分かるだろ?」
自分の短絡的な行動で涼夏だけでなく羽琉のことも傷付けていたと言われ、咄嗟にした行動でどれだけ周りに影響を与えてしまったのかと怖くなる。
「おまけにそんな匂いさせてるんだから羽琉のストレス、相当だと思うよ?
とりあえずその感じだと明日には元に戻るんじゃない?
今日も送ってくつもりなら体液の交換しないように気を付けるしかないな」
俺のためのアドバイスではなくて、羽琉のためのアドバイスだと言って「舌絡めなければそんなに匂わなかったのにな」と付け加える。
政文のパートナーである伊織はαなのになんでそんなに詳しいのかと不思議に思ったけれど、「そんなの周り見てたら分かるけどな。誰と誰が、なんて案外わかりやすいけど本当、羽琉にしか興味なかったのな」と苦笑いを見せる。
「とりあえずお前がどうしたいかじゃなくて、羽琉がどうしたいかだから。
今日は伊織と俺が付き添うから燈哉はとにかく羽琉に近付くなよ」
それだけ言うと話は終わったとばかりに俺を残して教室に向かう。
羽琉と少しでも早く話をしたいと思ったけれど近付くなと言われてしまったせいでそれもできず、そんなに匂うなら少しでも離れていたほうがいいのかと時間ギリギリまで廊下で過ごす。
話ができなくてもメッセージを送ってきているのではないかとスマホを取り出してみるけれど、《今朝はありがとう》と涼夏からのメッセージがあるだけだった。
何をしていても羽琉のことが気になってしまいついつい目を向けてしまうけれど、羽琉がこちらを見ることはないし、ふと顔を上げた時に目が合いそうになってもさりげなく視線を逸らされる。
いつもなら一緒に過ごす昼休みも3人で教室から出て行ってしまったし、帰りだって何も告げられることなく教室を後にする。
今日一日教室で過ごしていたけれど、昨日の不調のせいなのか、俺に纏わりつく匂いのせいなのか、顔色が良くないことが気になったけれど何もすることができなくてもどかしい思いをしたけれど、それもこれも自分の浅はかさがそうさせたのだと思えば何も言うことができない。
それならば涼夏の手を離せば問題は解決するのだけど、昨日聞かされた話がそれをさせてくれない。
同級生や先輩に訳を話せば涼夏のことを気にしてくれる人もいるだろうし、中には涼夏を気にいる者だっているはずだ。だけど、自分以外の誰かが涼夏の隣に立つことを考えるとそれはそれで面白くない。
昨日は涼夏もこちらの出方を見るために挑発のようなことをしたけれど、また同じシュチュエーションになることを避けさえすればこれ以上の間違いは起こらないはずだ。
そう考えて政文に言われたことを馬鹿正直に涼夏に告げたことを後悔はしていない。
纏わりつく香りの話を聞いた涼夏は両親はα同士だからそんな話は知らなかったし、今までに付き合った相手はΩだけだったせいで気付かなかったのかもしれないと申し訳なさそうに謝られてしまった。そして、もしもαと付き合っていたら自分がΩなのだと早い段階で気付くことができていたのかもしれないと呟く。
「付き合ってた相手、いたんだ?」
「一応ね。
でも相手にヒートが来る前にオレもΩだって分かったから」
「そのまま付き合うって選択は?」
「どうだろう?
自分がΩだなんて考えたこともなかったからどうしていいのか分からなくて。
結局どうしたいのかお互いに言い出せないまま進路が別れてそのまま」
「今でも、好き?」
「自分がαだと思ってた時は守ってあげたいと思ってたけど、Ωだとαには敵わないから…。
守ってあげたいのに守ることができないって、今まで持ってると思ってた力が無かったって…喪失感は凄かったよ。
なんで自分はΩなんだろう、なんでこんな外見なのにαじゃないんだろうって、どうにもならないことなのに自分を責めたし。
でも再検査しても結果は変わらないし、Ωだから当然ヒートだって来るし」
「………」
「どう足掻いてもΩなんだから仕方ないんだけど、受け入れるしかないんだけど、複雑だよね」
羽琉も口にしていた【Ωだから仕方ない】という言葉を聞いてしまうと自分にできることが何かないのかと考えてしまう。
「昨日言った通り、駅から学校まではエスコートするから」
「羽琉君はいいの?」
「羽琉は車だし」
「でもオレと一緒にいるの見たらストレスになるんじゃない?」
「それなら少し時間ずらす?
俺が一本早いのにすれば大丈夫だと思う」
「でも、」
「それくらいはさせて?
ただ、昨日みたいなのは勘弁して」
そういえば「昨日はオレもどうかしてたから」と笑う。
「じゃあ、また明日」
そんなふうに受け入れられたことが嬉しかった。
「じゃあ、先に来て待ってるから」
そう伝え、涼夏がΩ専用車両に乗り込むのを見届ける。
体液の交換もしていないし、今日は並んで歩いただけだ。
これなら明日、羽琉と話すこともできるだろう。
全てがうまく行っていると思っていた。
羽琉を大切に思う気持ちに嘘はない。
それでも涼夏を守りたいと思ってしまうのはαの本能。
羽琉も涼夏もΩなのだから自分が守るべきなのだ。
そう、羽琉も涼夏も守られるべきΩなのだから仕方ないんだ。
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