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【side:燈哉】歪みと齟齬と壊れていく関係。
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羽琉に席についているように伝え、その香りを辿る。席に着いてしまえば伊織がいるからと心配はしていなかった。
幼稚舎から一緒に過ごす伊織はαではあるものの、同じαのパートナーがいるため羽琉の側にいても問題はない。伊織の側にはパートナーである政文がいるため問題が起こることもない。
伊織は特別強いαではないけれど、政文は強い。彼らふたりはΩと番う気はないと公言しているため羽琉を託すには最良の相手だ。
だからきっと、大丈夫。
そんなふうに思ってしまったのは気になるフェロモンのせいで正常な判断ができていなかったからなのだろう。
先に座っているよう告げた時、羽琉はどんな顔をしていたのだろうか。
始まりはきっと、羽琉がひとりで席に向かったことによる驚きから。こんなふうに人の多い集まりで羽琉から離れることのなかった俺を訝しむ声。
席まで羽琉を送り届け、伊織にお願いしてから移動すればまた違う反応があったのかもしれない。だけど、その時はそんなことを思いつきもしなかった。
羽琉から離れ、香りの主を探す。
この時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。
香りに導かれた先で見つけたのは俺とさほど背丈の変わらない美丈夫で、明るい髪色と柔らかい笑顔、そして羽琉よりも甘く香るフェロモン。ネロリのような、ジャスミンのような甘い香りが俺を刺激する。
そして、その首元に光るネックガードに笑みが溢れる。フェロモンが香るのだから番がいないのは確定だけど、マーキングされている様子はない。
この香りは利用できる。
頭に浮かんだその言葉を実行するためにどうしたら良いかと逡巡する。この香りを自分がコントロールするにはどうしたら良いのか。
人は強い香りを認識すれば弱い香りに気付かないものだ。だけど、印象に残ってしまった香りは、細やかなものであっても認識するようになる。
彼の香りは羽琉の弱い香りを隠すだろう。だけど、彼の香りは羽琉の香りを思い出させるきっかけにもなってしまう。
それならば羽琉の香りをこの彼の香りだと思わせることができれば大切な人の香りは気づかれないはずだ。
「名前を教えてもらっても?」
声をかけた俺に不思議そうな顔を見せた彼は心なしか頬が赤く染まったように見える。俺と羽琉の関係を知らない生徒なんていないから周りが騒つくのを感じたけれど、それでも羽琉のためだと目の前のΩを真っ直ぐに見つめる。
「今居 涼夏です」
頬を赤く染め、名前を告げた涼夏は俺の言葉を待っているのかそれ以上口を開くことはない。
「相模 燈哉だ」
「その相模君はぼくに何か?」
「燈哉と呼んで欲しい」
俺たちに意識を向かせるために言った言葉にまた少し騒つく。その言葉に目を見開いた今居が「じゃあ、ぼくのことも涼夏で」と笑うとフェロモンが強くなる。その香りの中に羽琉を見つけ、【愛おしい】という感情が芽生える。
羽琉を、初めて見つけた時の驚き。
話をした時の高揚感。
周りの騒めきに気付かないふりをして会話を進め、強くなるその香りに酔っていく。そして、衝動的にその身体を引き寄せる。
熟した羽琉はこんな感じなのだろうかと考えると笑みが溢れる。
周りからどんなふうに思われているかなんて考えてなかった。
羽琉が傷付つくなんて思いもしなかった。
だって、初めて会ったあの日から羽琉への気持ちを隠したことなんてなかったのだから。
自分の唯一は羽琉だと思っていたし、羽琉の唯一は俺だと思っていたから。
騒めきは少しずつ大きくなり、俺に向けて「ちょ、燈哉君。羽琉君が」とかけられた声に羽琉の姿を探せば政文が羽琉の背に触れるところだった。
「触るなっ‼︎」
思わず声を荒げてしまう。
無意識のうちに政文のことを威嚇する。
信頼している相手だからといって、羽琉に触れることを許可なんてしていない。それなのに俺の声が聞こえたはずの政文はそのまま羽琉の背を押し、どこかに連れて行こうとする。
「政文っ‼︎」
威嚇を強め、その名前を呼んでも政文は歩みを止めない。
その足を止めるため、羽琉を取り戻すため「政文、羽琉に触るな」と注意を促し近寄ると、後ろから近づいてくる気配があることに気付く。
「ねぇ、急にどうしたの?
なんか皆んな、怯えてるよ?」
その声に周りを見渡せば俺の行動を咎めたり、羽琉を心配するような声は聞こえずただただ固唾を飲んで見守っている気配だけを感じる。
「涼夏、ちょっと待ってて」
イレギュラーな時間に起こったイレギュラーな出来事だったのに涼夏は全く動じることなく、威嚇に怯むことなく近付いてくるため心配させないように声をかける。
Ωなのに背が高く、俺の威嚇にも動じることのない涼夏。一方、政文に背を押される羽琉は背が低く、俺の威嚇のせいで顔色を悪くしている。
「羽琉っ」
政文が触れるのが許せなくて威嚇を強くしてしまう。そのせいで羽琉の顔色がどんどん悪くなるけれど、俺以外のαに触れさせる羽琉に腹を立て弱めることはしなかった。
「羽琉っ」
いつもなら俺の隣に立っているはずの羽琉だけど、今日は自分の席に着いているように告げたはずだ。伊織と一緒にいるように言ったのにと当の本人を探すと保健医を伴って走る姿が目に入る。
それに構わず、威嚇を収めることなく羽琉に近づくけれど、αがふたり揃えば俺ひとりの威嚇に怯むこともない。
ただ、αのふたりは平気でもΩの羽琉は威嚇に耐えられなかったようで蹲ってしまう。
羽琉を取り返さなきと、羽琉は俺のものだ、そんなことを考えながら近付いたのに、政文は軽々と羽琉を抱き上げ歩き出す。
「止めろ」
そんなことが許されるわけがないと、声を荒げて政文を止めようと更に威嚇を強める。
「羽琉に触るな」
そう言った俺に「煩いっ」と鋭い声が飛んでくる。あまり聞いたことのない鋭い声の主は伊織で、政文と並ぶと霞んでしまうけれど、こんなふうに相対するとコイツもαなのだと気付かされる。
俺の威嚇に動じることなく睨みつけてくるけれど、羽琉が何か言ったのか、羽琉には優しい顔を向けて何事かを告げる。
「隆臣さんに連絡しておいたから大丈夫だからね」
そんな声が聞こえて伊織が居なかった理由に気付く。羽琉の保護者代わりである隆臣に連絡を入れたということは迎えが来るのかもしれない。
せっかくの新入生挨拶を見てもらえないのかと残念に思うけれど、それならば尚更自分が羽琉を連れて行こうと政文の元に行こうとすればまたしても伊織の言葉に足を止められる。
「燈哉は羽琉じゃなくてもいいみたいだし。ほら、そっちの子が不安そうにしてるよ。
羽琉のことはボクたちに任せてくれたら大丈夫だし、隆臣さんにももう連絡したから」
突き放すような言葉。
「伊織、羽琉泣いてるから止めとけ。
燈哉はこっち来るな」
伊織の言葉に被せるように告げられた言葉。俺に対する言葉は吐き捨てるように言われ「羽琉は俺が」と言っても無視される。羽琉が泣いていると言われ、羽琉を守るのは自分だと言いたいのにそれを許されない空気に違和感を感じる。
いつもなら誰にも譲ることのない羽琉の隣に自分がいないことに焦燥感を覚える。
「羽琉っ」
もう一度名前を呼ぶけれど、政文に抱き抱えられた羽琉はこちらを見ることもない。
「式が始まるから戻りなさい」
「ほら、戻るよ」
保健医の諭すような声と伊織が俺を促す声。
「でも、」
「燈哉、羽琉のこと気にしてるけど気にする相手、違うんじゃない?」
そんなふうに言われ、何を言われているのかと不思議に思うと「燈哉くん?」と不安そうな声で先ほどまで自分のしていたことを思い出す。
「あ、ごめん」
思わず謝ってしまう。
声をかけて利用をしようとしたのに羽琉に気を取られて蔑ろにしてしまったのは良くなかったかもしれない。
「あれ、誰?」
「友達というか、幼馴染?
身体が弱くてずっと面倒見てるんだ」
そんな俺の言葉に「友達とか、幼馴染とか、」とは呆れたような、苛ついたような伊織の声が聞こえたけれどあえて無視する。
「でも威嚇、」
「ごめん、大丈夫だった?」
「ぼくは大丈夫だけど、何で?」
自分にアプローチしてきたαが自分以外のΩに執着するのを見せられれば不思議にもなるだろう。どう言えば納得してもらえるのか考えて、思いついたことをそのまま口に出す。
「ずっと面倒見てきたから俺が世話するのが当たり前なのにって思ったらつい…」
「優しいんだね」
そんなふうに言った涼夏は「でも、少し妬けるかな」と笑う。
「燈哉、そろそろ席つかないとまずいと思うよ?」
もう少し話をと思ったのに、呆れたような伊織の声で式の時間が近づいていることに気付く。まだ話したいことがあるのに、そう思ったら咄嗟に出た言葉。
「帰りに迎えに行く。
もう少し話がしたい」
周りにいた奴らには当然だけど聞こえていたのだろう。
政文に抱き抱えられた羽琉。
涼夏に声をかけ、抱きしめた俺。
政文に威嚇を向けるほど羽琉に執着しているのに、それなのに涼夏と約束を取り付けた俺。
少しずつ少しずつ周囲の目が変わっていく。
歪な関係は周囲を歪なものに変えていき、少しずつ少しずつ齟齬が産まれる。
涼夏を囲って羽琉の存在を隠したかった俺。
俺と涼夏の関係に悩み、少しずつ壊れていく羽琉。
そして、そんな羽琉を何もできずに見ているだけの伊織と政文。
少しずつ、少しずつ、
少しずつ、少しずつ、
少しずつ、少しずつ、
歪んでいったの何処からだったのか。
歪んでいったのは誰からだったのか…。
幼稚舎から一緒に過ごす伊織はαではあるものの、同じαのパートナーがいるため羽琉の側にいても問題はない。伊織の側にはパートナーである政文がいるため問題が起こることもない。
伊織は特別強いαではないけれど、政文は強い。彼らふたりはΩと番う気はないと公言しているため羽琉を託すには最良の相手だ。
だからきっと、大丈夫。
そんなふうに思ってしまったのは気になるフェロモンのせいで正常な判断ができていなかったからなのだろう。
先に座っているよう告げた時、羽琉はどんな顔をしていたのだろうか。
始まりはきっと、羽琉がひとりで席に向かったことによる驚きから。こんなふうに人の多い集まりで羽琉から離れることのなかった俺を訝しむ声。
席まで羽琉を送り届け、伊織にお願いしてから移動すればまた違う反応があったのかもしれない。だけど、その時はそんなことを思いつきもしなかった。
羽琉から離れ、香りの主を探す。
この時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。
香りに導かれた先で見つけたのは俺とさほど背丈の変わらない美丈夫で、明るい髪色と柔らかい笑顔、そして羽琉よりも甘く香るフェロモン。ネロリのような、ジャスミンのような甘い香りが俺を刺激する。
そして、その首元に光るネックガードに笑みが溢れる。フェロモンが香るのだから番がいないのは確定だけど、マーキングされている様子はない。
この香りは利用できる。
頭に浮かんだその言葉を実行するためにどうしたら良いかと逡巡する。この香りを自分がコントロールするにはどうしたら良いのか。
人は強い香りを認識すれば弱い香りに気付かないものだ。だけど、印象に残ってしまった香りは、細やかなものであっても認識するようになる。
彼の香りは羽琉の弱い香りを隠すだろう。だけど、彼の香りは羽琉の香りを思い出させるきっかけにもなってしまう。
それならば羽琉の香りをこの彼の香りだと思わせることができれば大切な人の香りは気づかれないはずだ。
「名前を教えてもらっても?」
声をかけた俺に不思議そうな顔を見せた彼は心なしか頬が赤く染まったように見える。俺と羽琉の関係を知らない生徒なんていないから周りが騒つくのを感じたけれど、それでも羽琉のためだと目の前のΩを真っ直ぐに見つめる。
「今居 涼夏です」
頬を赤く染め、名前を告げた涼夏は俺の言葉を待っているのかそれ以上口を開くことはない。
「相模 燈哉だ」
「その相模君はぼくに何か?」
「燈哉と呼んで欲しい」
俺たちに意識を向かせるために言った言葉にまた少し騒つく。その言葉に目を見開いた今居が「じゃあ、ぼくのことも涼夏で」と笑うとフェロモンが強くなる。その香りの中に羽琉を見つけ、【愛おしい】という感情が芽生える。
羽琉を、初めて見つけた時の驚き。
話をした時の高揚感。
周りの騒めきに気付かないふりをして会話を進め、強くなるその香りに酔っていく。そして、衝動的にその身体を引き寄せる。
熟した羽琉はこんな感じなのだろうかと考えると笑みが溢れる。
周りからどんなふうに思われているかなんて考えてなかった。
羽琉が傷付つくなんて思いもしなかった。
だって、初めて会ったあの日から羽琉への気持ちを隠したことなんてなかったのだから。
自分の唯一は羽琉だと思っていたし、羽琉の唯一は俺だと思っていたから。
騒めきは少しずつ大きくなり、俺に向けて「ちょ、燈哉君。羽琉君が」とかけられた声に羽琉の姿を探せば政文が羽琉の背に触れるところだった。
「触るなっ‼︎」
思わず声を荒げてしまう。
無意識のうちに政文のことを威嚇する。
信頼している相手だからといって、羽琉に触れることを許可なんてしていない。それなのに俺の声が聞こえたはずの政文はそのまま羽琉の背を押し、どこかに連れて行こうとする。
「政文っ‼︎」
威嚇を強め、その名前を呼んでも政文は歩みを止めない。
その足を止めるため、羽琉を取り戻すため「政文、羽琉に触るな」と注意を促し近寄ると、後ろから近づいてくる気配があることに気付く。
「ねぇ、急にどうしたの?
なんか皆んな、怯えてるよ?」
その声に周りを見渡せば俺の行動を咎めたり、羽琉を心配するような声は聞こえずただただ固唾を飲んで見守っている気配だけを感じる。
「涼夏、ちょっと待ってて」
イレギュラーな時間に起こったイレギュラーな出来事だったのに涼夏は全く動じることなく、威嚇に怯むことなく近付いてくるため心配させないように声をかける。
Ωなのに背が高く、俺の威嚇にも動じることのない涼夏。一方、政文に背を押される羽琉は背が低く、俺の威嚇のせいで顔色を悪くしている。
「羽琉っ」
政文が触れるのが許せなくて威嚇を強くしてしまう。そのせいで羽琉の顔色がどんどん悪くなるけれど、俺以外のαに触れさせる羽琉に腹を立て弱めることはしなかった。
「羽琉っ」
いつもなら俺の隣に立っているはずの羽琉だけど、今日は自分の席に着いているように告げたはずだ。伊織と一緒にいるように言ったのにと当の本人を探すと保健医を伴って走る姿が目に入る。
それに構わず、威嚇を収めることなく羽琉に近づくけれど、αがふたり揃えば俺ひとりの威嚇に怯むこともない。
ただ、αのふたりは平気でもΩの羽琉は威嚇に耐えられなかったようで蹲ってしまう。
羽琉を取り返さなきと、羽琉は俺のものだ、そんなことを考えながら近付いたのに、政文は軽々と羽琉を抱き上げ歩き出す。
「止めろ」
そんなことが許されるわけがないと、声を荒げて政文を止めようと更に威嚇を強める。
「羽琉に触るな」
そう言った俺に「煩いっ」と鋭い声が飛んでくる。あまり聞いたことのない鋭い声の主は伊織で、政文と並ぶと霞んでしまうけれど、こんなふうに相対するとコイツもαなのだと気付かされる。
俺の威嚇に動じることなく睨みつけてくるけれど、羽琉が何か言ったのか、羽琉には優しい顔を向けて何事かを告げる。
「隆臣さんに連絡しておいたから大丈夫だからね」
そんな声が聞こえて伊織が居なかった理由に気付く。羽琉の保護者代わりである隆臣に連絡を入れたということは迎えが来るのかもしれない。
せっかくの新入生挨拶を見てもらえないのかと残念に思うけれど、それならば尚更自分が羽琉を連れて行こうと政文の元に行こうとすればまたしても伊織の言葉に足を止められる。
「燈哉は羽琉じゃなくてもいいみたいだし。ほら、そっちの子が不安そうにしてるよ。
羽琉のことはボクたちに任せてくれたら大丈夫だし、隆臣さんにももう連絡したから」
突き放すような言葉。
「伊織、羽琉泣いてるから止めとけ。
燈哉はこっち来るな」
伊織の言葉に被せるように告げられた言葉。俺に対する言葉は吐き捨てるように言われ「羽琉は俺が」と言っても無視される。羽琉が泣いていると言われ、羽琉を守るのは自分だと言いたいのにそれを許されない空気に違和感を感じる。
いつもなら誰にも譲ることのない羽琉の隣に自分がいないことに焦燥感を覚える。
「羽琉っ」
もう一度名前を呼ぶけれど、政文に抱き抱えられた羽琉はこちらを見ることもない。
「式が始まるから戻りなさい」
「ほら、戻るよ」
保健医の諭すような声と伊織が俺を促す声。
「でも、」
「燈哉、羽琉のこと気にしてるけど気にする相手、違うんじゃない?」
そんなふうに言われ、何を言われているのかと不思議に思うと「燈哉くん?」と不安そうな声で先ほどまで自分のしていたことを思い出す。
「あ、ごめん」
思わず謝ってしまう。
声をかけて利用をしようとしたのに羽琉に気を取られて蔑ろにしてしまったのは良くなかったかもしれない。
「あれ、誰?」
「友達というか、幼馴染?
身体が弱くてずっと面倒見てるんだ」
そんな俺の言葉に「友達とか、幼馴染とか、」とは呆れたような、苛ついたような伊織の声が聞こえたけれどあえて無視する。
「でも威嚇、」
「ごめん、大丈夫だった?」
「ぼくは大丈夫だけど、何で?」
自分にアプローチしてきたαが自分以外のΩに執着するのを見せられれば不思議にもなるだろう。どう言えば納得してもらえるのか考えて、思いついたことをそのまま口に出す。
「ずっと面倒見てきたから俺が世話するのが当たり前なのにって思ったらつい…」
「優しいんだね」
そんなふうに言った涼夏は「でも、少し妬けるかな」と笑う。
「燈哉、そろそろ席つかないとまずいと思うよ?」
もう少し話をと思ったのに、呆れたような伊織の声で式の時間が近づいていることに気付く。まだ話したいことがあるのに、そう思ったら咄嗟に出た言葉。
「帰りに迎えに行く。
もう少し話がしたい」
周りにいた奴らには当然だけど聞こえていたのだろう。
政文に抱き抱えられた羽琉。
涼夏に声をかけ、抱きしめた俺。
政文に威嚇を向けるほど羽琉に執着しているのに、それなのに涼夏と約束を取り付けた俺。
少しずつ少しずつ周囲の目が変わっていく。
歪な関係は周囲を歪なものに変えていき、少しずつ少しずつ齟齬が産まれる。
涼夏を囲って羽琉の存在を隠したかった俺。
俺と涼夏の関係に悩み、少しずつ壊れていく羽琉。
そして、そんな羽琉を何もできずに見ているだけの伊織と政文。
少しずつ、少しずつ、
少しずつ、少しずつ、
少しずつ、少しずつ、
歪んでいったの何処からだったのか。
歪んでいったのは誰からだったのか…。
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