幼馴染は僕を選ばない。

佳乃

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智充

時間薬と距離の詰め方。

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「時間薬って知ってる?」

 考え込む俺に郁哉がそう問いかける。

「知ってる。
 どんな心の痛みでも時間と共にってやつだろ?」

「そう。
 別に痛みじゃなくてもね、蟠りとかも時間や周りの環境と共に少しずつ無くなっていくと思うんだ。

 僕も別に晴翔のこと許したわけじゃないし、遊星のことも忘れることができたわけじゃないけど少しずつ気持ちって変わってるんだよね。
 僕の場合は晴翔とはもう会いたくないって思ったし、遊星とはもう会わないって自分で決めたせいで少しずつ自分の気持ちに整理をつけた感じだけど。
 僕の場合は実家ももう場所が変わったから住民票も移ってるし。

 でも智充も蒼眞君もこの先2度と会わないなんてことはないよね?
 それこそ、来年は20歳の集いとかあるんじゃないの?
 だから少しずつ元の関係に戻れるようにゆっくり妥協点探してもいいんじゃない?」

「郁哉君は20歳の集いとか、出ないの?」

「連絡先も全部変えたのに、のこのこ出席できないよね。向こうは向こうで人間関係も変わってるだろうし」

「え、俺も行かないつもりだった」

「それ、親不孝だから」

「駄目に決まってるだろ」

 郁哉は行かないことを否定されないのに俺は全力で否定されてしまい面白くないけれど、正直そこまで考えてなかったから困ってしまう。

「でも、何も考えてなかったし。
 そう言えば女子は高校の時から成人式の衣装がとか言ってたな」

「まあ、着物だと早いみたいだしな」

「それ、彼女情報?」

 何気なく挟んでくる郁哉の言葉に「そう。レンタルでも早いと2年半前から見に行くって」と素で答えた蒼眞は一瞬先の言葉に戸惑ったような素振りを見せたけど、それでも言葉を続ける。

「どんな着物が良いって聞かれたけど、その時まで付き合ってるとは限らないし、別れたのに俺の好みの着物着てるとかお互いに嫌じゃないか?
 だから一生に一度のことだから親と相談しろって言っておいた」

「正論だな」

 蒼眞の言葉と俺の答えに郁哉が「ずっとこんな感じ?」と笑う。

「今のは少しぎこちなかったけどな」

 そう言った俺に蒼眞は苦笑いを見せる。

「それでも自然にしようって頑張ったんだけど?」

「だから頑張らなくて良いんだって。
 別に俺が蒼眞のこと好きでも蒼眞と恋愛したいわけじゃないし、こんな話聞くと相手のこと羨ましいなって思うことはあるけどその立場に自分がなりたかったんじゃないんだよ、きっと」

「そうなの?」

「多分。
 蒼眞のことが好きで、蒼眞との関係を隠さなくても良いし、隠す気のない関係?それが羨ましかったのかな」

「ごめん、難しい」

「好きな相手のことをちゃんと好きって言えて、その相手の話を惚気られる関係?蒼眞は俺の理想だけど、蒼眞は俺の恋愛対象ではないんだって気付くと色々わかってくるって言うか」

「恋愛対象じゃないんだ?」

 時々口を挟む郁哉にうまくリードされているのは分かるけれど、せっかく残ってくれた郁哉の思惑に気付かないふりをしてそのリードに乗ってみる。

「そうだね。
 それこそ、郁哉は晴翔君に身体の関係を求められて絆されてって前に話してくれたじゃない?
 それ考えると俺、蒼眞とは無理だ…」

 俺の言葉を聞いた蒼眞が「俺って、魅力無いのか?」と的外れなことを言うけれど、それは放っておく。

「何だろうな、現実と憧れは違うって言うのか。もしも俺の方が優位に立つ何かがあったとしても、蒼眞に対してそういった関係を求めようとは思わないし、想像もできないし。
 っていうのを今日気付いた」

「今日なのか⁈」

「そうだよ?
 もう会わないつもりだったから想像でも蒼眞が相手とかしたこともなかったし。だって、虚しいでしょ?」

「そっか」

 複雑そうな顔をした蒼眞を見て郁哉が「恋愛的に好きなら想像するよね、妄想するよね」と笑う。

「それでも俺の恋愛対象が同性っていうのは変わらないよ。
 だから俺が望むのは俺の恋愛対象が同性だからって言葉を選んだりしないで、今までみたいに彼女のこと惚気て、彼女に振られたら一緒に遊べる関係だったみたい。
 まあ、恋愛対象が同性って言わなければ良かっただけのことなんだよな、きっと」

「でもそれだと『智充は彼女作らないの?』『智充はどんな女の子が好み?紹介しようか?』って言われるよ、きっと。
 蒼眞君、そういうの好きそうだし」

「確かに高校の時に言われたことある」

「ごめん…」

「それ、そこだって、蒼眞君。こんな時は謝っちゃダメなんだって。
『そんなの知らなかったんだからしょうがないだろ』って開き直って欲しいんだよ、智充は。
 恋愛関係の話じゃなかったら謝ったりしないでしょ?」

 やんわりと、それでもはっきりと指摘された蒼眞は何かに気付いたようで「そういうこと⁈」とブツブツ言っているけれど、そんなにすぐに変われたら俺がわざわざこっちに来た意味がなくなってしまう。

「別に今日話して今日変われるなんて思ってないし、そこまで蒼眞に望んでないよ。それにまだ俺は最低3年はこっちにいるし、就職先だってどうするか決めてないし。
 だけど…できればたまに連絡取って、会った時には前みたいに話したりできると嬉しいし、帰った時には遊んだりできる関係に戻れたらいいと思ってる」

 1番言いたかったことを口にするとホッとしたせいか、やけに喉が乾いていることに気付いてペットポトルのお茶を飲み干す。俺の本当の気持ちを伝えたせいか、郁哉は茶々を入れることもなく、蒼眞に返事を促すこともなく「甘いもの食べよ~っ」とお菓子を漁りだす。
 空気を読まないふりをして、誰よりも空気を読んでくれる郁哉がいなければこんな結論を導き出すことはできなかっただろうな、と思いながらも「俺、チョコ食べたい」とチョコを要求する。

「ブロックと着拒、解除しろよ?」

 お菓子を選ぶ俺たちを呆れた顔で見ながらそう言い、「郁哉君、智充と3人のグループ作らない?」と郁哉を誘う。

「え、僕関係無いし」

「遊びに来た時の食事代は俺持ちで」

「良いもの食べさせてくれる?」

「財布と相談して」

「何勝手に話、進めてるんだよ」

「智充の分も宿泊代として出してやるから」

「また泊まるつもりなのか?
 宿泊代もらっても雑魚寝だぞ?」

「今度は寝袋持ってくる」

 どこまで本気なのか分からない会話だけど、少しずつ譲歩して気付いた関係。
 そして、これから築き上げていく新しい関係。

「ところで蒼眞、今彼女は?」

「着物の彼女とは別れた」

「好みの着物、教えなくて正解だったね」

 郁哉の言葉に「俺って先見の明があるのかもな」と答えて「先見の明があるならそもそも付き合わないんじゃないの?」とやり込められている。
 俺よりも郁哉との会話の方が自然に見えて面白くない気持ちもあるけれど、高校生の頃に戻ったようでついつい笑みが溢れる。

「智充の理想は蒼眞君みたいだけど、蒼眞君の好みってどんなの?
 僕は好きだなって思った相手は優しい人だったよ。あとライダースジャケットがよく似合ってた」

「なんでそんな具体的なの?」

「一回だけ2人で遊びに行ったから。
 って言うか、それしか私服知らないんだけどね」

「デート?」

「デートじゃないけど…デートだったのかもね」

「ちょ、そんな切ない顔するなよ~。
 俺の好みは…」

「蒼眞の好みは綺麗系より可愛い系」

「え、そうなの?
 僕は綺麗系が好きだった」

「それは今でも好きな相手のこと?」

「違う、中学の時」

「女の子、とか?」

「だから言ったでしょ?
 はじめからゲイだったわけじゃないって。あ、蒼眞君には言ってない?」

「聞いたような気がする」

「今の彼女、俺の知ってる娘?」

「大学で知り合った娘だから知らない。
 写真、見る?」

 何だよ、そのにやけた顔は。
 そう思いもするけれど、こんなやりとりが日常だったのだと思い出す。

「あ、本当だ、可愛い系」

「他に写真ないの?」

「あ、僕はこっちの娘の方が好み」

「確かに綺麗系だ」

 よく分からないノリで蒼眞の写真ファイルを見て「俺のばっかりじゃなくてそっちも見せろよ」と言われてスマホを出すけれど、俺のスマホの写真は高校時代からあまり増えてないし、郁哉に至ってはほぼほぼ授業関係の写真で蒼眞を呆れさせる。

「郁哉君、明日は3人で遊びに行って写真撮ろうっ‼︎」

「え、僕は帰って寝るし」

「じゃあ今から写真撮る?」

「別にいらないし」

「蒼眞、無理強いしない。
 郁哉は休みだけど明日は俺、シフト入ってるし」

「え、そうなのか?
 俺、暇じゃん」

「え、いつまで居るつもり?」

「郁哉君と写真撮りにいくまで?」

「心配してくれなくても古いスマホにはちゃんと写真あるから」

 拗ねたように言った郁哉に「それはそれ、これはこれ」と言った蒼眞だったけど、「じゃあ、次に来た時にね。そんなに急に距離詰められても困るよ」と言われて素直に引き下がった。


 
 
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