幼馴染は僕を選ばない。

佳乃

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晴翔

慣れていく身体と萎えていく気持ち。

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 郁哉に気持ちを伝え、意識させる事に成功したからと春休み中にはそれ以上行動を起こすことはしなかったし、言葉で想いを届ける事に専念した。
 無理に行動に起こして怯えさせるよりも、少しずつ距離感を縮めていく方が近道だろう、きっと。

 郁哉が眠ったベッドはしばらくは欲望の捌け口になったけれど、母が休みの日に異議申し立てをする間もなくシーツ類を洗濯されてしまった。
 ずっとそのままにしておくわけにはいかないけれど、できればもう少し堪能したかったと思ってしまうのは仕方のない事だろう。

 春休みが終わり、入学してすぐは一緒に登下校していたけれど運動部に入学したせいで時間がずれるようになってしまったのは想定内。
 嬉しい誤算だったのは美術部に入らずに塾を選んだ郁哉が俺のサポートのために甲斐甲斐しくノートを用意してくれた事。高校に入っても勉強に不安のない郁哉が「復習も兼ねてだから」と渡してくれるノートは分かりやすく、そのノートを使ってテスト勉強をすればそれなりの成績をキープする事ができた。

 でもありがたいと思っていたのは1年の間だけ。

 1年それが続けば2年目には当たり前になってしまう。
 郁哉のためにこの学校を選んだのだから俺をサポートするのは当たり前だとすら思った。
 そして、3年になった時には当たり前の存在は当たり前過ぎて必要としなくなってしまった。
 〈アレ〉が無くたって、郁哉を頼らなくたって何とでもできる。
 そう思ったのは自分の思い込みに気づいてしまったから。

 郁哉との付き合いが〈恋人関係〉になったのは1年の夏休み。
 キスだってしたし、もちろんセックスもした。セッスクをするのはいつも俺の部屋だった。
 
 入学してからも勉強をするという口実で郁哉を部屋に呼び、少しずつ距離を縮め、毎回好きだと伝えキスをする。
 少しずつキスの回数を増やし、時間を長くし、舌を入れ、唇を貪る。

 抱きしめた強さに怯えていたせいか、拒否することのない郁哉はやがて俺に気持ちを向け、キスをすれば自ら唇を薄く空けるようになっていった。

「そろそろ駄目?」

 長いキスに顔を赤くする郁哉にそう囁いたのは合宿が終わり久しぶりに会えた時。合宿は思った以上にハードで日に焼けたのと、身体を絞れたことでそれなりに自慢できる体型になった自覚はある。
 合宿での出来事を面白おかしく話す俺に眩しそうな顔を見せる郁哉だったけど、チームメイトの話をすると少し顔が曇る。
 この表情の理由がヤキモチなら良いのに。こんな顔を俺だけに見せてくれればいいのに。
 そう思った時に思わず溢れた欲望。
 
 覚悟したように頷いた郁哉の目にだって、確かに欲情を見つけたんだ。

 それは、思ったよりも大変な作業だった。その時のために必要な物は用意しておいたし、やり方だって何度も確認した。
 支度の仕方だって勉強して分からないなりに頑張った。
 バスルームから部屋に戻ればエアコンをしっかり効かせたはずなのに身体が火照り、欲望を抑えることなんてできなかった。
 キスをして、触っていないところなんてないんじゃないかと思うほどに指で触れ、舌を這わせる。

 耳も、首筋も、鎖骨も、胸も、マニュアル通りだと言われてしまえば反論できないけれど、それでも無い知識を絞り出して郁哉に触れていく。

「緊張してる?」

 そう聞いたのは痛いくらいに張り詰めている自分のソコと違い、郁哉のソコが反応していなかったから。
 俺の言葉にコクリと頷く郁哉が可愛くて「可愛い」と声に出してしまう。
 不安そうな郁哉を安心させるように優しくキスをして「優しくするから」と言葉でも伝える。

 そういながらも堪え性のない俺は郁哉の中に早く挿れたくて、性急に足を広げさせようとしたせいか思わぬ反抗を受け内腿を軽く叩いてしまった。

「駄目だよ」

 諭すようにそう言えば大人しくなった郁哉が可愛くて、その従順さに気を良くして郁哉の胎に指を埋めていく。
 思っていた反応は返ってこないけれど、時間をかけて指を増やしていけば郁哉も少しずつ受け入れてくれるようになり、「そろそろ挿れるよ」と告げた時には焦点の合わない目で小さく頷いてくれた。

 初めて挿れた郁哉の胎は想像以上に気持ち良かった。
 熱くて、搾り取るように絡みつき、初めての行為にすぐに果ててしまったけれど心が満たされ、腕の中で少し苦しそうな顔をしながらも俺を受け入れてくれた郁哉を今まで以上に愛しく思った。

 それからは勉強を教えてほしいと郁哉を呼び出しては言葉巧みにベッドに誘い、その身体を開かせた。
 俺の部屋にくれば結局セックスをする事になると分かっているのに呼べば部屋に来るのだから郁哉だってその気なのだろう。
 その証拠にいつからか「準備してきたから」と言ってバスルームに行くことも無くなった。

 俺としてはバスルームで郁哉を綺麗にすることすら楽しいと思っていたためはじめは残念に思ったものの、準備が無くなった分セックスに時間を使えると思えばこれも悪くないと早々に頭を切り替える。

 郁哉もしたいのだから期待に応えなければと男同士のやり方を調べ、気になった事は少しでも気持ちよくなってもらえるようにと実践してみる。

 回数を重ねれば、喜びそうな行為を繰り返せばいつしか郁哉も甘い声を出すようになり、それならばと郁哉を喜ばせる方法を探しては実践していく。

 だけど同じマンションに住んでいるからといって、毎日会えるわけじゃない。夜になればどちらの家も両親が帰ってくるため普段はセックスする時間なんて無い。そうなると親のいない長期休みの昼間に郁哉を呼び出し、明るい日差しの中でセックスをする。
 郁哉の塾も、俺の部活も無ければ朝から呼び出して、宿題を終わらせてから親が帰ってくるギリギリの時間までその身体を貪る。

 カーテンを閉めたところで昼間の日差しは郁哉の全てを露わにする。

「やだ、見ないで」

 そう言って自分の顔を隠す郁哉が可愛くて、時にはカーテンを開けてその羞恥心を煽ったりもした。

 郁哉は基本的に何をしても拒まない。

「慣れてきたらしてみたかったんだ」

 そう言って身体に触れれば困ったような顔をしながらも受け入れる。
 俺の唇も、舌も。
 指も、欲望も。
 そして時には玩具も。

「なに、これ?」

 初めて玩具を見せた時に戸惑った表情を見せた郁哉が可愛くて、少しずつそれを増やしていく。
 マンネリにならないようにと目隠しをしたり、反抗するそぶりを見たくて手を縛ってみたり、少しずつ少しずつ変わっていくセックス。
 もちろん基本は普通のセックスだけど、普段と違う反応を見せる郁哉が見たくてその行動はエスカレートしていく。

「晴翔、これキツい、無理」

 そう言って涙ぐむ郁哉は口では無理と言っていても、貪欲に俺を、玩具を欲しがっているように見えたんだ。

 慣れていく関係と慣れていく身体。
 はじめは拒んでいた玩具も拒否の言葉を告げる事がなくなり、次第に郁哉自身が俺の欲望を発散するための玩具となっていく。
 
 付き合っているとは言えない、時間のある時に呼び出してセックスするだけの関係。2人でどこかに遊びにいくともないし、最近では甘い言葉をかけることもない。

 こんなのはただのせフレだ。

 そう思った時に少し気持ちが冷めている事に気づく。
 だけど郁哉に勉強を教えてもらっている立場としては優秀な教え方と理解しやすいノートを手放す事はできない。

 give&take

 そんな言葉が頭に浮かぶ。
 散々好きに弄んだ郁哉は俺とのセックスじゃないと満足できないはずだ。
 それならば俺が身体を与える代わりに郁哉の頭を受け取れば良い。

 そんなことを考えてしまった時点で郁哉に対する〈愛情〉なんて無くなっていたのだろう。
 郁哉の頭を受け取り、俺の身体を提供する。俺は学力もキープできるし、欲望も満たせる。
 そこに〈愛情〉が伴わなくなっただけでやっている事は変わらない。

 愛なんてなくても欲望は溜まるし、慣れた身体は勝手が良かった。

 2人の関係に転機が訪れたのは3年になってすぐ。

「ねぇ、晴翔って郁哉と付き合ってるの?」

 その言葉に〈付き合ってる〉と言えなかった時。
 その時にはもう、郁哉に対する愛情も恋慕も持ち合わせてなんかなかったんだから。






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