116 / 159
報告とお願い
しおりを挟む紬さんとの通話を終えた後、なんだか〈ぽやん〉とする頭のまま考えた。
そう〈ぽやん〉としているのだ。
ふわふわと夢見心地でもなく、ほやほやと浮かれているわけでもない。
現実なのに、本当のことなのに、どこかで夢だったのかもと思ってしまうような、頭がぼ~っとしてしまうような、とにかく今の状態を言葉にするのならば〈ぽやん〉なのだ。
紬さんと話した事は現実だったのだろうか?
もしかして僕が都合よく夢見ていたのではないだろうか?
でも具体的な約束、胡桃のために〈桜色〉のストールとトートバッグを譲ってもらう事になった。桜色だけど茜で染めてあるから楓さんとお揃いだ。
あと3日でフィールドワークが終わるとも言っていた。寄り道をしながら帰ってきたとしても5日後には帰ってくるらしい。
早く会いたいな。
そうだ、会う約束をしたのだ。
〈電話に出てくれてありがとう。
そちらで会えるのを楽しみにしています〉
送られてきたメッセージとおやすみのスタンプ。
〈お話しができて、僕も嬉しかったです〉
僕もメッセージにスタンプを添えた。
うん、やっぱり夢じゃない。
ぽやんとした頭のまま考える。
先ずやらないといけない事は静流君と話をする事だ。
静流君には紬さんの事は伝えてある。
作品を譲ってもらった事。
連絡を取っている事。
安形さんからも話を聞いているはずだけど、特に何も言われてはいない。
〈紬さんと会うことになりました。
まだ帰ってこないよね?〉
静流君の予定を聞く前に賢志にメッセージを送ってみる。
話の流れから静流君に会わせる事になってしまったけれど、賢志にはちゃんと伝えておきたかったのだ。
〈いつ?
うん、まだ帰らないよ〉
すぐに返ってくるメッセージ。
賢志、暇か?!
〈静流君の予定次第〉
〈帰ってくるの?〉
〈来週には。
賢志は?〉
〈新学期始まる前には帰るよ〉
〈上手くいってない?〉
心配で聞いてしまった。
賢志が帰省している理由。
年上の彼女とのすれ違い。
初めて告げた僕の本心と、賢志の本音。
好きな人の気持ちが見れたら良いのに。
好きな人に気持ちが見えたら良いのに。
気持ちが見えるのだとしたら、僕は今どんな色をしているのだろう?
気持ちが見えるのだとしたら、紬さんは今どんな色をしてるのまろう?
賢志は?
彼女さんは?
やっぱり恋愛は難しい。
〈彼女とはちゃんと話したよ。
帰ったらちゃんと話すけど、大丈夫だから。
心配ないし、別れない。
就職はそっちでする。
長くなるから帰ってから話すけど、なんの問題もない。
それより紬さんと何がどうなった?〉
〈電話で話した〉
そのメッセージの直後に鳴り出す呼び出し音。
賢志からだけど…今は出たくない。
紬さんの声の余韻を消したくない。
着信を無視する。
〈なんで出ないの?〉
〈余韻、消したくない〉
〈乙女か〉
そこは理解してほしい。
〈静兄に会わせて大丈夫?〉
〈何が大丈夫?〉
〈静兄、怖いじゃん。
超ブラコン〉
その返しに思わず笑ってしまった。
確かに静流君はブラコンだけど、それを言ったら僕もだ。
〈本当は賢志指名だった〉
〈俺?!〉
〈僕の事情、少しだけ友達に聞いたって〉
〈どこまで?〉
〈それは聞いてない。
でも、1人で出かけられない事は理解してくれてた。だから、はじめは賢志も一緒にって言われた〉
既読がついても返信が来ないのは続きを促されているのだろう。
〈賢志が帰省してるって伝えて、静流君が一緒でもいいかって僕から聞いた〉
〈ハードル高くない?
俺が帰るまで待てない?〉
〈待たない。
早く会いたい〉
本音が漏れてしまう。
賢志相手だと遠慮も何もないのだ。
〈光流、楽しそうだね〉
〈うん〉
〈俺が帰るまで待ってくれてもいいのに〉
〈じゃあ、帰ってくる?〉
〈新学期までにはね〉
振り出しに戻った。
〈なんか、上手くいってるみたいで良かった。こっち来てからも気にはなってたけどさ、口出さないようにしてた〉
〈そうなの?〉
〈うん。
静兄にも手を出しすぎるなって言われてた〉
初耳だ。
僕の知らないところで密かに応援されてきたのだろうか?
〈静流君、来てくれると思う?〉
〈来るなって言っても来るんじゃない?〉
〈明日、話してみる〉
〈そうしな〉
〈おやすみ〉とスタンプを送り合って話を終了する。静流君はまだ帰ってきた様子はない。メッセージだけ送っておこう。
〈静流君にお願いがあるので明日の朝食の時に時間をください〉
メッセージを送りアプリを閉じる。
色々なことがありすぎて眠いはずなのに頭は冴えている。
ベッドに入ってこれからの事を考えよう。
11
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
孤高の羊王とはぐれ犬
藤間留彦
BL
クール美形α×元気で小柄なΩ。
母の言いつけを守り、森の中で独り暮らしてきた犬族のロポ。
突然羊族の国に連れて来られてしまう。
辿り着いたのは、羊族唯一のαの王、アルダシール十九世の住まう塔だった。
番候補として連れて来られたロポと孤高の王アルダシールに恋心は芽生えるのか?
※αΩに対して優性劣性という独自設定あり。ご注意下さい。
素敵な表紙イラストをこまざき様(@comazaki)に描いて頂きました!ありがとうございます✨
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる