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賢志との対話 4
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「何で?」
恐る恐る聞いてみる。
「だってさ、光流が自分から人に会いたいって言うなんて珍しいじゃない?特に今回なんて会えるかどうかもわからないのに諦めなしい。
自分で気づいてた?永井さんに無理しなくていいって言う時に本当に残念そうな顔してたの。あんな顔されたら永井さんだって頑張っちゃうよね」
あんな顔ってどんな顔だ?!
「静兄も相手がどんな相手かわからないから警戒は必要だけど、光流が興味を持った相手なら会わせるべきだって言ってたし。だからその機会を逃さないように昨日、安形さんの予定を急遽変えたらしいよ?自分はどうしても抜けれないけど安形さんの抜けた分は自分が何とかするから光流のサポートをして欲しいって。相変わらずのブラコンっぷりだよね。
それで昨日会ってみたらふたりで楽しそうに話してたから紬さんに興味を持ったんだろうな、と思ったんだけど違った?」
賢志の言葉に驚いてしまい言葉に詰まる。
「どんな意味ででも、特定の人に対して興味を持つようになったのは良い事だなって俺達は嬉しかったんだけど…違った?」
〈違った?〉を繰り返されてしまった。
確かにあれ以来釣り書きが来ても、どんな相手に話しかけられても何も感じなかった。
サロンで顔見知りになった相手と話すのも、社交で知り合いが増えるのもそれなりに楽しい事に気付きはしたけれど、それ以上でもそれ以下でもなかった。
唯一の例外は胡桃と楓さんだろう。
そういえば楓さんのストールは有るけど胡桃の分が無い。知られたら怒られそうだ、と現実逃避をしようとしたら賢志に見詰められていた。
「違ってない」
仕方なしに正直に答え、そして言葉を続ける。
「違ってないけど彼女、いるんでしょ?」
「彼女、いるの?」
さっき彼女の話をしたのは賢志じゃないか。少しイラッとしてしまう。
「さっき賢志が…」
僕の言葉に賢志が考え込む。そして〈あ?!〉と言う顔をする。
「フィールドワーク中に彼女とどうやって、どんな頻度で連絡を取っていたかは聞いたけど、今は彼女いないって言ってたよ?」
いきなり爆弾を投げつけられた。
「確か、彼女とは一緒にいたいタイプだからフィールドワーク中は連絡は欠かさないけど、会えない時はお互いの努力でその隙間を埋めていかないと続かない、みたいな事言ってた」
「そうなんだ。でも〈彼女〉なんだよね…」
どうしても言葉尻を捉えてしまう。
僕は男性Ωなので恋愛にしても女性よりも男性が対象である。女性を恋愛対象としてみたことはない。ただ、僕の恋愛対象が男性だとしても相手が僕を恋愛対象としてみてくれるかはまた別の問題だ。
βの場合は男女のカップルが多いし、αとΩのカップルも異性同士のカップルの方が多い。うちは父と母が男性同士だったから偏見は無いが、同性婚というのはどうしても好奇の対象にはなりやすい。
「連絡はしてみた?」
また爆弾が落ちてくる。なんで知ってる?!
「ノートの切れ端、渡されてたでしょ?
ああいう時って、たいてい連絡先渡されてるんだよね」
ニヤニヤしてるのが腹立たしい。
「したけど…」
「返事、来たんでしょ?」
「何で?!」
こんなリアクションをすればバレバレだと思うが驚きが隠せない。
「簡単だよ。
朝会った時は元気なかったのに、昼に呼びに行ったらやけに嬉しそうにしてたから。
で、聞いたらガーゼの物がって言うだろ?まぁ、そうなのかなって」
賢志こそ、さっきまでの顔と違いすぎないか?
「だからさ、ちょっと話を聞いてもらいたかったし、話を聞きたかったし。
でも、何か言いたくないことまで言わせたみたいで…ごめん」
今日、何度目の〈ごめん〉だろう。
「こっちこそ、ごめん。
八つ当たりみたいにキツイ言葉、言ったよね」
さっきまでの痛みが話しているうちに軽くなったような気がする。僕だけが大変なわけじゃない、みんなそれぞれ抱えていることがあるのだ…。
「それでさ、賢志はどうするの?」
どうしても気になってしまい聞いてみる。
僕から見れば〈連絡が取れてるのに〉と思うけれど、賢志からしたらまた違った気持ちなのだろう。人の気持ちなんて本人にしかわからないのだから下手なことは言えない。
「…何回も何回もちゃんと話したつもりだったけどさ、別れたいって言われたことはないんだ」
賢志がポツリポツリと話し出す。
「自分で決めろとか、私を理由にするなとか、色々言われてるけど何言っても〈じゃあ別れよう〉とは言わないんだよね…」
「それって、彼女は別れる気がないってこと?」
「でもさ、一緒にいられないなら付き合ってる意味なくない?」
「どうだろうな…。僕は連絡が取れているうちは、お互いが目標に向かってるせいで会えなかった時は淋しかったけど自分も頑張らないとって思ってたよ。護君の受験の時とか。
少しだけでも会えれば嬉しかったし、それだけで頑張れた。
だけど向こうは僕よりも目先のΩを選んだんだけどね」
言いながら笑ってしまった。そして、その笑いがいつものように痛みを伴ってないことに気付いた。もちろん満面の笑みではないが、今までのように自虐ではなくて自然に出てしまった苦笑だった。
「賢志もさ、嫌いになったなら仕方ないけどまだ好きなら結論は早まらないほうがいいと思うよ?」
偉そうなことを言えるような恋愛ではなかったけれど、それでも僕は全力だった。
後悔はたくさんあるし、今でも〈あの時の行動を間違えなければ〉と思うこともある。
それでも笑えたのだ。
僕の中で何かが変わりつつあるのを感じた。
恐る恐る聞いてみる。
「だってさ、光流が自分から人に会いたいって言うなんて珍しいじゃない?特に今回なんて会えるかどうかもわからないのに諦めなしい。
自分で気づいてた?永井さんに無理しなくていいって言う時に本当に残念そうな顔してたの。あんな顔されたら永井さんだって頑張っちゃうよね」
あんな顔ってどんな顔だ?!
「静兄も相手がどんな相手かわからないから警戒は必要だけど、光流が興味を持った相手なら会わせるべきだって言ってたし。だからその機会を逃さないように昨日、安形さんの予定を急遽変えたらしいよ?自分はどうしても抜けれないけど安形さんの抜けた分は自分が何とかするから光流のサポートをして欲しいって。相変わらずのブラコンっぷりだよね。
それで昨日会ってみたらふたりで楽しそうに話してたから紬さんに興味を持ったんだろうな、と思ったんだけど違った?」
賢志の言葉に驚いてしまい言葉に詰まる。
「どんな意味ででも、特定の人に対して興味を持つようになったのは良い事だなって俺達は嬉しかったんだけど…違った?」
〈違った?〉を繰り返されてしまった。
確かにあれ以来釣り書きが来ても、どんな相手に話しかけられても何も感じなかった。
サロンで顔見知りになった相手と話すのも、社交で知り合いが増えるのもそれなりに楽しい事に気付きはしたけれど、それ以上でもそれ以下でもなかった。
唯一の例外は胡桃と楓さんだろう。
そういえば楓さんのストールは有るけど胡桃の分が無い。知られたら怒られそうだ、と現実逃避をしようとしたら賢志に見詰められていた。
「違ってない」
仕方なしに正直に答え、そして言葉を続ける。
「違ってないけど彼女、いるんでしょ?」
「彼女、いるの?」
さっき彼女の話をしたのは賢志じゃないか。少しイラッとしてしまう。
「さっき賢志が…」
僕の言葉に賢志が考え込む。そして〈あ?!〉と言う顔をする。
「フィールドワーク中に彼女とどうやって、どんな頻度で連絡を取っていたかは聞いたけど、今は彼女いないって言ってたよ?」
いきなり爆弾を投げつけられた。
「確か、彼女とは一緒にいたいタイプだからフィールドワーク中は連絡は欠かさないけど、会えない時はお互いの努力でその隙間を埋めていかないと続かない、みたいな事言ってた」
「そうなんだ。でも〈彼女〉なんだよね…」
どうしても言葉尻を捉えてしまう。
僕は男性Ωなので恋愛にしても女性よりも男性が対象である。女性を恋愛対象としてみたことはない。ただ、僕の恋愛対象が男性だとしても相手が僕を恋愛対象としてみてくれるかはまた別の問題だ。
βの場合は男女のカップルが多いし、αとΩのカップルも異性同士のカップルの方が多い。うちは父と母が男性同士だったから偏見は無いが、同性婚というのはどうしても好奇の対象にはなりやすい。
「連絡はしてみた?」
また爆弾が落ちてくる。なんで知ってる?!
「ノートの切れ端、渡されてたでしょ?
ああいう時って、たいてい連絡先渡されてるんだよね」
ニヤニヤしてるのが腹立たしい。
「したけど…」
「返事、来たんでしょ?」
「何で?!」
こんなリアクションをすればバレバレだと思うが驚きが隠せない。
「簡単だよ。
朝会った時は元気なかったのに、昼に呼びに行ったらやけに嬉しそうにしてたから。
で、聞いたらガーゼの物がって言うだろ?まぁ、そうなのかなって」
賢志こそ、さっきまでの顔と違いすぎないか?
「だからさ、ちょっと話を聞いてもらいたかったし、話を聞きたかったし。
でも、何か言いたくないことまで言わせたみたいで…ごめん」
今日、何度目の〈ごめん〉だろう。
「こっちこそ、ごめん。
八つ当たりみたいにキツイ言葉、言ったよね」
さっきまでの痛みが話しているうちに軽くなったような気がする。僕だけが大変なわけじゃない、みんなそれぞれ抱えていることがあるのだ…。
「それでさ、賢志はどうするの?」
どうしても気になってしまい聞いてみる。
僕から見れば〈連絡が取れてるのに〉と思うけれど、賢志からしたらまた違った気持ちなのだろう。人の気持ちなんて本人にしかわからないのだから下手なことは言えない。
「…何回も何回もちゃんと話したつもりだったけどさ、別れたいって言われたことはないんだ」
賢志がポツリポツリと話し出す。
「自分で決めろとか、私を理由にするなとか、色々言われてるけど何言っても〈じゃあ別れよう〉とは言わないんだよね…」
「それって、彼女は別れる気がないってこと?」
「でもさ、一緒にいられないなら付き合ってる意味なくない?」
「どうだろうな…。僕は連絡が取れているうちは、お互いが目標に向かってるせいで会えなかった時は淋しかったけど自分も頑張らないとって思ってたよ。護君の受験の時とか。
少しだけでも会えれば嬉しかったし、それだけで頑張れた。
だけど向こうは僕よりも目先のΩを選んだんだけどね」
言いながら笑ってしまった。そして、その笑いがいつものように痛みを伴ってないことに気付いた。もちろん満面の笑みではないが、今までのように自虐ではなくて自然に出てしまった苦笑だった。
「賢志もさ、嫌いになったなら仕方ないけどまだ好きなら結論は早まらないほうがいいと思うよ?」
偉そうなことを言えるような恋愛ではなかったけれど、それでも僕は全力だった。
後悔はたくさんあるし、今でも〈あの時の行動を間違えなければ〉と思うこともある。
それでも笑えたのだ。
僕の中で何かが変わりつつあるのを感じた。
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