95 / 159
賢志との対話 2
しおりを挟む
食事が終わり、僕の部屋に移動する。向井さんには〈もう少ししてから〉お茶を持ってきてもらえるようお願いしておいた。時間は向井さんの都合が良い時で。
賢志を信頼していないのではなく、賢志を守るための危機管理の内のひとつだ。何かがあった時に第三者の証言がもらえるよう常に気をつけている事で、賢志もβではあるが立場上気をつけるに越したことはない。こちらに来たばかりの時は戸惑っていたが、今ではもう慣れた物だ。
部屋に入りソファーに座るよう促し、部屋に置いてあったスマホを確認する。特にメッセージなどは来ていない。少し残念な気持ちになりながら賢志の向かい側に座る。
「話って?」
賢志に話を促す。が、なかなか口を開こうとしない。どうしたのかと心配になる。
「こんな事聞いていいのかすごく考えたんだけど…気を悪くせずに聞いて欲しい」
少し考えてから賢志が重い口を開く、
「光流はさ、護兄のことどうやって忘れたの?」
思いもよらない質問に動きが止まる。
護君をどう忘れたか。
なんて質問だ。
忘れてなんかない。
忘れることなんか出来ない。
「ごめん。
好奇心とかじゃなくて、大切な人を諦めるにはどうしたらいい?」
怒りのままに、悲しみのままに当たり散らそうと思ったが、その弱々しい言葉に改めて賢志の顔を見る。疲れたような、泣きたいような、戸惑うような、なんとも形容し難い顔で僕を見ている。
「光流にこんなこと聞いちゃいけないとは思ったけど、光流にしか聞けなかったんだ…」
そう言って目を伏せる。
「何があったの?」
「彼女と、別れようかと思って…」
その返事に僕は言葉を失う。2つ年上の彼女。護君や静流君と同い年だったはずだ。
「どうして?」
「彼女さ、俺のことを必要としていないんだ。多分だけど、俺はいてもいなくても同じ存在。自分の邪魔にならない程度に近くに置いておきたい相手だとしか思われてない…」
絞り出すような言葉だった。
「来年、俺たちも4年だろ?進路のこととか
色々考える時期じゃない?就活するならそろそろ始めないとだし。
で、彼女がこっちに来るなら静兄の秘書見習いやりたいし、こっちに来ないなら向こうで就職するのも有りかなって思ってたのね。
正月休みに会いに行った時にも話はしたんだけどなかなか折衷案が出なくて…」
「それで別れるって話に?」
「その時は一旦冷静になって改めて話そうってことになったんだけど…。時間がある時に電話で話してはいたんだけど、結局彼女は俺に合わせる気はなくて、じゃあ俺が合わせるっていうとそれはやめて欲しいって。
来年卒業すると思ってたのに博士課程に行くって言い出すからじゃあ博士を取ったらこっちにくるのか聞いたら地元から出る気はないって。それなら俺が向こうで就職するって言えば自分を理由にこっちに戻ってこないで欲しいって言うんだよ。別に彼女のためとかじゃなくて、地元に戻りたいからそっちで就職するって言えば〈好きにすれば〉って突き放されるし。そこそこ長いこと付き合ってると相手の気持ちって解っちゃうじゃん?
全然俺に関心ないみたいでさ、もう彼女が何考えてるのか全然わかんなくてさ…」
そう言って力なく笑う。
「昨日さ、紬さんと少し話したんだ」
突然出てきた紬さんの名前に心臓が跳ね上がる。と言うか、いつの間に?!
「身近に院生いないからさ。博士に行くってどうなのかとか、好きな相手と近くにいたいと思わないのかって。あの人、頻繁にフィールドワークに行ってるみたいだから彼女はどう思ってるんだろうってね」
彼女という言葉にショックを受ける。彼女がいる可能性を考えていなかっただけに〈彼女〉という存在が重くのしかかってくる。
朝から浮かれていた気持ちが萎んでいくのがわかった。
「紬さんはなんて?」
冷静を装って答えるが、声は震えてないだろうか?
「勉強が好きなら博士に行くのも悪くないみたいな感じだった。ただ、紬さんは付き合ってる相手とはフィールドワーク中も連絡は取りたいし、会えないのなら付き合いを続けていくための努力はお互いに必要だって言ってたよ」
「そうなんだね」
辛うじて相槌を打つ。そうなんだ…としか言いようがない。
「うちはさ、付き合って欲しいって言ったの自分だし、会いたいっていうのも自分。
それでここに来て就職先考えようとしたらこんな事になってさ。
俺さ、彼女より歳下だから彼女に認められたくて色々頑張ってきたつもりなんだけど…俺に興味ないんじゃないかな?
何か相談しても〈自分で考えて〉だし、何か報告しても〈ふ~ん〉って言われるだけ。
会いに行っても〈来たの?〉だしさ。
別に彼女の為とかじゃなくて、自分が彼女の近くにいたいから悩んでるのに全然相手にされなくて…疲れたっていうか、ね」
賢志は力無くそう言うと大きくため息をついた…。
賢志を信頼していないのではなく、賢志を守るための危機管理の内のひとつだ。何かがあった時に第三者の証言がもらえるよう常に気をつけている事で、賢志もβではあるが立場上気をつけるに越したことはない。こちらに来たばかりの時は戸惑っていたが、今ではもう慣れた物だ。
部屋に入りソファーに座るよう促し、部屋に置いてあったスマホを確認する。特にメッセージなどは来ていない。少し残念な気持ちになりながら賢志の向かい側に座る。
「話って?」
賢志に話を促す。が、なかなか口を開こうとしない。どうしたのかと心配になる。
「こんな事聞いていいのかすごく考えたんだけど…気を悪くせずに聞いて欲しい」
少し考えてから賢志が重い口を開く、
「光流はさ、護兄のことどうやって忘れたの?」
思いもよらない質問に動きが止まる。
護君をどう忘れたか。
なんて質問だ。
忘れてなんかない。
忘れることなんか出来ない。
「ごめん。
好奇心とかじゃなくて、大切な人を諦めるにはどうしたらいい?」
怒りのままに、悲しみのままに当たり散らそうと思ったが、その弱々しい言葉に改めて賢志の顔を見る。疲れたような、泣きたいような、戸惑うような、なんとも形容し難い顔で僕を見ている。
「光流にこんなこと聞いちゃいけないとは思ったけど、光流にしか聞けなかったんだ…」
そう言って目を伏せる。
「何があったの?」
「彼女と、別れようかと思って…」
その返事に僕は言葉を失う。2つ年上の彼女。護君や静流君と同い年だったはずだ。
「どうして?」
「彼女さ、俺のことを必要としていないんだ。多分だけど、俺はいてもいなくても同じ存在。自分の邪魔にならない程度に近くに置いておきたい相手だとしか思われてない…」
絞り出すような言葉だった。
「来年、俺たちも4年だろ?進路のこととか
色々考える時期じゃない?就活するならそろそろ始めないとだし。
で、彼女がこっちに来るなら静兄の秘書見習いやりたいし、こっちに来ないなら向こうで就職するのも有りかなって思ってたのね。
正月休みに会いに行った時にも話はしたんだけどなかなか折衷案が出なくて…」
「それで別れるって話に?」
「その時は一旦冷静になって改めて話そうってことになったんだけど…。時間がある時に電話で話してはいたんだけど、結局彼女は俺に合わせる気はなくて、じゃあ俺が合わせるっていうとそれはやめて欲しいって。
来年卒業すると思ってたのに博士課程に行くって言い出すからじゃあ博士を取ったらこっちにくるのか聞いたら地元から出る気はないって。それなら俺が向こうで就職するって言えば自分を理由にこっちに戻ってこないで欲しいって言うんだよ。別に彼女のためとかじゃなくて、地元に戻りたいからそっちで就職するって言えば〈好きにすれば〉って突き放されるし。そこそこ長いこと付き合ってると相手の気持ちって解っちゃうじゃん?
全然俺に関心ないみたいでさ、もう彼女が何考えてるのか全然わかんなくてさ…」
そう言って力なく笑う。
「昨日さ、紬さんと少し話したんだ」
突然出てきた紬さんの名前に心臓が跳ね上がる。と言うか、いつの間に?!
「身近に院生いないからさ。博士に行くってどうなのかとか、好きな相手と近くにいたいと思わないのかって。あの人、頻繁にフィールドワークに行ってるみたいだから彼女はどう思ってるんだろうってね」
彼女という言葉にショックを受ける。彼女がいる可能性を考えていなかっただけに〈彼女〉という存在が重くのしかかってくる。
朝から浮かれていた気持ちが萎んでいくのがわかった。
「紬さんはなんて?」
冷静を装って答えるが、声は震えてないだろうか?
「勉強が好きなら博士に行くのも悪くないみたいな感じだった。ただ、紬さんは付き合ってる相手とはフィールドワーク中も連絡は取りたいし、会えないのなら付き合いを続けていくための努力はお互いに必要だって言ってたよ」
「そうなんだね」
辛うじて相槌を打つ。そうなんだ…としか言いようがない。
「うちはさ、付き合って欲しいって言ったの自分だし、会いたいっていうのも自分。
それでここに来て就職先考えようとしたらこんな事になってさ。
俺さ、彼女より歳下だから彼女に認められたくて色々頑張ってきたつもりなんだけど…俺に興味ないんじゃないかな?
何か相談しても〈自分で考えて〉だし、何か報告しても〈ふ~ん〉って言われるだけ。
会いに行っても〈来たの?〉だしさ。
別に彼女の為とかじゃなくて、自分が彼女の近くにいたいから悩んでるのに全然相手にされなくて…疲れたっていうか、ね」
賢志は力無くそう言うと大きくため息をついた…。
3
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
オメガの復讐
riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。
しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。
とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
孤高の羊王とはぐれ犬
藤間留彦
BL
クール美形α×元気で小柄なΩ。
母の言いつけを守り、森の中で独り暮らしてきた犬族のロポ。
突然羊族の国に連れて来られてしまう。
辿り着いたのは、羊族唯一のαの王、アルダシール十九世の住まう塔だった。
番候補として連れて来られたロポと孤高の王アルダシールに恋心は芽生えるのか?
※αΩに対して優性劣性という独自設定あり。ご注意下さい。
素敵な表紙イラストをこまざき様(@comazaki)に描いて頂きました!ありがとうございます✨
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる