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八つ当たりと甘え

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 次に目が覚めた時はまだ暗い時間だった。
 点滴は打たなかったようで、腕は自由に動く。ゆっくりと身体を起こすと隣に置かれたベッドで静流君が寝ていることに気付いた。

「帰ってもいいって言ったのに」
 思わず言葉がこぼれる。

 本当に帰って欲しかった。
 独りにして欲しかった。

 でも静流君が帰らないのを、帰れないのを知っていて〈帰って〉と言った僕は狡い。
 完全に甘えてるし、八つ当たりでしかない。

 僕は何がしたいんだろう?
 自分の事なのに分からないことばかりだ。

 ずっと眠っていたせいなのか、薬のせいなのか、それとも色々ありすぎて馬鹿になってしまったのか、考える事を放棄している自分がいる。

〈婚約解消〉すれば何かが変わると思ったのに、楽になると思ったのに。
 それなのに何も変わらないし、苦しいままだ。

 ベッドから出たくて身体をゆっくりと起こすと気配に気づいたのか、静流君が目を開けてしまう。
「起きた?」
 僕の失態など無かったかのような優しい声色。僕なんて放っておいてくれたらいいのに…。

「どこか調子の悪いところは?」
「わからない」
 静流君の言葉に素直に答える。
 痛いところは無いし、自分で起き上がることもできた。
「お腹は?」
「空いてない。
 でも歯磨きしたい」
 なんとなくそう言ってみる。
 そういえば寝ている間、どうしてたんだろう?寝る前にプリンを食べたけど味が残っている感じはない。

「一応、歯磨きガーゼでケアしてもらったけど気持ち悪い?」
「気持ち悪くはないけど歯磨きしたい」
「歯ブラシはあるけど…口の中も敏感になってるかもしれないから先生に聞いてからの方がいいと思うよ」
 まだ眠いのだろう。身体は起こしたもののベッドから出る事はない。
 静流君のいる場所が明るくなる。
「まだ4時だよ。もう少し寝る?」
 スマホを開いて時間を確認したようだ。そう言えば僕のスマホの所在も気になる。
「眠くない…」
「そっか。
 でも横になりな。まだ起床時間じゃないし」
 そう言われてしまえばい従うしかない。再びベッドに横になるが眠気は来ない。天井を見ているのは飽きたから静流君の方に身体を向ける。

「ごめんね、起きたばかりなのに色々話しすぎちゃったね」
 そう言って昨日のことを謝ってくる。先生と父に何か言われたのかもしれない。
 静流君も横になりなからこちらを向いたので向き合って横になっている状態だ。

「帰っていいって言ったのに…」
 拗ねた様に言う僕に困った笑顔を見せると少し考えて言った。
「オレのこと、嫌いになっちゃった?」
 茶化す様な、それなのに緊張を孕んだ声。
「嫌いになんてなってない。
 でも独りになりたかったかな」
 素直な気持ちを伝える。

「頭の中がぐちゃぐちゃなんだ。
 静流君に八つ当たりしたくないのに八つ当たりする自分が嫌だ。
 静流君に甘える自分が嫌だ。

 自分でお願いしたことなのに…こんなに簡単に婚約解消になったのが嫌だ………」

 思い付くままに言葉を吐き出す。

「おかしいって気づいた時にもっとちゃんと話せば良かったとか、邪魔してたとしてもちゃんと気持ちを伝えておけば良かったとか、後悔しかないんだ。

 婚約破棄にするか、婚約解消にするか、それだって自分で決めたのに、それなのにいざ結論が出ると納得できなくて…。

 なんで僕はこんなに自分勝手なんだろう」

 自分で言っていて情けなくなってくる。

「オレはさ、光流が起きた時に憂がないようにしたかったんだ。護とのことが解決してれば少しは光流の心が軽くなるんじゃないかって思ってた。
 だからお前が目覚める前に全て終わらせた。その事に後悔はない」
「でも、護君だけが悪いんじゃないって事は僕も悪いんでしょ?」
 静流君の言葉に一番気になっていたことを聞いてみる。その言葉に静流君がため息をついた。

「ごめんね、オレの言い方が良くなかったね。変なふうに隠そうとするから光流が誤解しちゃったんだよな」
 〈ちゃんと話すよ〉そう言って静流君は話を始めた。
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