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僕の気持ちとプリンの優しさ
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ナースコールをすると先生はすぐに来てくれた。
ナースを呼ぶためのナースコールなのに先生が来るのはおかしいんじゃないのかと思いもしたがそこは甘えておく。
「色々と不安が多い?」
何を話したのか聞くことなく、包帯を巻く手を動かしながら問いかけられる。
「わかりません。
不安なのか、悲しいのか、気持ちの置き所がわかりません。
誰を責めればいいのか、そもそも責めるべきは自分じゃないのか…。
本当にもう、わからない」
「そうなんだね。
別に、難しく考えることはないんだよ。
光流君が思うようにすればいい。
僕ならまず浮気した相手を責めるね。
理由はどうあれ浮気は浮気。
良いか悪いかで言ったら悪いんだから責められて然るべきなんだよ。
その後でその原因を作った相手も責めるかな。その相手の対応さえ間違っていなかったらって…。
もちろん浮気相手にも悪者になってもらう。
極論だけど、自分の気持ちの中で相手をどう思うか、どうするかなんで自由なんだよ。
許すも許さないも、過激なことを言ってしまえは殺めることだって心の中でなら許される。
それで精神の均衡を保つ事ができるのなら悪い事じゃない。
時間が経てば気持ちは変化するかもしれない。でもその〈時間〉は人によって違うんだよ。
早い段階で気持ちが変化する人もいればいつまでも変化しない人もいる。
同じ事柄を経験しても感じ方は人それぞれなんだ。
許せる人もいれば許せない人もいるし、そもそも何も感じない人だっているかもしれない。人間の心は複雑なんだよ」
包帯を巻き終わっても話は続いた。
「とりあえず、安定剤出しておこうか。
包帯掻きむしるくらいなら巻き直せば良いけど、それがきっかけで自傷に向かうかもしれない。それは誰も望んでないからね」
先生が話している途中でノックの音がして父が入ってくる。
静流君にしても父にしても返事を待つ気はないのだろうか?
ぼんやりとそんなことを考えていると目の前に父が立っていた。
「大丈夫か?」
一言だけど色々な想いのこもった言葉。
「大丈夫じゃない」
僕がそう答えると苦笑いをする。
「いつ帰ってこれる?」
「あと3日は入院だって」
僕の言葉に説明を促すように先生に視線を向ける。
「眠り続けていたことによる筋力の低下は回復までにひと月ほどかかります。消化器も弱っているため食事の制限もあります。
静流君が付いてくれるそうなので3日間で指導してから退院の流れの予定です。
少し自傷傾向もあるので安定剤も服用してもらいます。
気持ちが落ち着けば服用を止めますが、しばらくは続けてください」
「プリンは食べれられませんか?」
突然の父の言葉に時間が止まる。
……プリン??
沈黙に居た堪れなくなったのだろう。父が再び口を開く。
「向井さんが光流のためにって。
カラメルは無いし、砂糖も控えめにしてあるから先生の許可が出ればと。
約束していたから、と言ってた」
そう言って静流君の荷物と共に持ってきたらしい紙袋を差し出す。
「そういうことでしたか。
光流君の食欲次第ですかね。
重湯やお粥から始める予定でしたが、糖分も抑えてあるみたいですし。何より本人が食べたいと思えるのならそれが回復につながります」
そう言って許可を出してくれた。
「静流君、お願いしてくれた?」
「してないよ。宿泊用の荷物をまとめてもらえるようにお願いしただけ」
「静流にはこっち」
父はそう言うと僕のプリンよりも大ぶりな袋を見せる。
「急な宿泊ならば食事に困るだろうから、とのことだ」
どうやら静流君にはお弁当があるらしい。向井さんの気遣いに心が温かくなる。
「向井さんの作ったものなら僕もいただきたいくらいです」
先生が優しく笑う。
「食欲があるのは良い傾向です。
消化の良さそうなものなら静流君のお弁当、少しくらい食べても大丈夫ですからね」
そう言って父を促し部屋を出る。
僕たちの前ではする必要のない話もあるのだろう。いくら静流君が頼りになると言っても保護者は父だ。これからの治療の事、学校の事、僕の精神状態。
僕を目の前にして話しにくいこともあるだろう。もしかしたら何か問題があるのかもしれない。
気にし出したらキリが無いので考える事は放棄する。
もう少し、あと少しだけ甘えさせてもらおう。
僕のために作られたプリンは少し柔くて優しい味がした。
ナースを呼ぶためのナースコールなのに先生が来るのはおかしいんじゃないのかと思いもしたがそこは甘えておく。
「色々と不安が多い?」
何を話したのか聞くことなく、包帯を巻く手を動かしながら問いかけられる。
「わかりません。
不安なのか、悲しいのか、気持ちの置き所がわかりません。
誰を責めればいいのか、そもそも責めるべきは自分じゃないのか…。
本当にもう、わからない」
「そうなんだね。
別に、難しく考えることはないんだよ。
光流君が思うようにすればいい。
僕ならまず浮気した相手を責めるね。
理由はどうあれ浮気は浮気。
良いか悪いかで言ったら悪いんだから責められて然るべきなんだよ。
その後でその原因を作った相手も責めるかな。その相手の対応さえ間違っていなかったらって…。
もちろん浮気相手にも悪者になってもらう。
極論だけど、自分の気持ちの中で相手をどう思うか、どうするかなんで自由なんだよ。
許すも許さないも、過激なことを言ってしまえは殺めることだって心の中でなら許される。
それで精神の均衡を保つ事ができるのなら悪い事じゃない。
時間が経てば気持ちは変化するかもしれない。でもその〈時間〉は人によって違うんだよ。
早い段階で気持ちが変化する人もいればいつまでも変化しない人もいる。
同じ事柄を経験しても感じ方は人それぞれなんだ。
許せる人もいれば許せない人もいるし、そもそも何も感じない人だっているかもしれない。人間の心は複雑なんだよ」
包帯を巻き終わっても話は続いた。
「とりあえず、安定剤出しておこうか。
包帯掻きむしるくらいなら巻き直せば良いけど、それがきっかけで自傷に向かうかもしれない。それは誰も望んでないからね」
先生が話している途中でノックの音がして父が入ってくる。
静流君にしても父にしても返事を待つ気はないのだろうか?
ぼんやりとそんなことを考えていると目の前に父が立っていた。
「大丈夫か?」
一言だけど色々な想いのこもった言葉。
「大丈夫じゃない」
僕がそう答えると苦笑いをする。
「いつ帰ってこれる?」
「あと3日は入院だって」
僕の言葉に説明を促すように先生に視線を向ける。
「眠り続けていたことによる筋力の低下は回復までにひと月ほどかかります。消化器も弱っているため食事の制限もあります。
静流君が付いてくれるそうなので3日間で指導してから退院の流れの予定です。
少し自傷傾向もあるので安定剤も服用してもらいます。
気持ちが落ち着けば服用を止めますが、しばらくは続けてください」
「プリンは食べれられませんか?」
突然の父の言葉に時間が止まる。
……プリン??
沈黙に居た堪れなくなったのだろう。父が再び口を開く。
「向井さんが光流のためにって。
カラメルは無いし、砂糖も控えめにしてあるから先生の許可が出ればと。
約束していたから、と言ってた」
そう言って静流君の荷物と共に持ってきたらしい紙袋を差し出す。
「そういうことでしたか。
光流君の食欲次第ですかね。
重湯やお粥から始める予定でしたが、糖分も抑えてあるみたいですし。何より本人が食べたいと思えるのならそれが回復につながります」
そう言って許可を出してくれた。
「静流君、お願いしてくれた?」
「してないよ。宿泊用の荷物をまとめてもらえるようにお願いしただけ」
「静流にはこっち」
父はそう言うと僕のプリンよりも大ぶりな袋を見せる。
「急な宿泊ならば食事に困るだろうから、とのことだ」
どうやら静流君にはお弁当があるらしい。向井さんの気遣いに心が温かくなる。
「向井さんの作ったものなら僕もいただきたいくらいです」
先生が優しく笑う。
「食欲があるのは良い傾向です。
消化の良さそうなものなら静流君のお弁当、少しくらい食べても大丈夫ですからね」
そう言って父を促し部屋を出る。
僕たちの前ではする必要のない話もあるのだろう。いくら静流君が頼りになると言っても保護者は父だ。これからの治療の事、学校の事、僕の精神状態。
僕を目の前にして話しにくいこともあるだろう。もしかしたら何か問題があるのかもしれない。
気にし出したらキリが無いので考える事は放棄する。
もう少し、あと少しだけ甘えさせてもらおう。
僕のために作られたプリンは少し柔くて優しい味がした。
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