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断罪 2〈静流side〉
しおりを挟む「光流だって、αを侍らせてるじゃないか」
苦し紛れなのだろう、絞り出すかのように護が言う。父親は静止しようとするが護はその言葉を取り下げる気は無さそうだ。
言うに事欠いて…。
「それは、光流だけでなく私たち一族に対する侮辱と受け取った」
極めて冷静に答え、言葉を続ける。
「光流の側にいる事を許されているのは身内以外は主治医と先程の安形だけだが…、何を勘違いしている?」
「だって可笑しいじゃないか。俺がいなくなったタイミングでαを秘書につけて世話をさせるなんて。男よりも女が良いとでも言われたのか?光流には甘いからな」
吐き捨てるような言葉。ここまで愚かだったとは…。怒りは度を越すと冷静さを取り戻すことができるようだ。
「安形が秘書についたのはお前のせいだよ。
本来ならオレの補佐だけをお願いしていた。
お前が光流のエスコートが出来ない時はオレがフォローするつもりだった事は忘れたか?お前がキャンセルした予定はオレが全て引き受けてたんだ。
でもな、オレだって身体はひとつだ。オレのいない穴を安形に埋めさせて何が悪い?送迎やアテンドは秘書の業務内だ。男とか女とか、ましてやαとか、優秀なら関係ないんだよ」
オレの言葉を聞き、何か反論の余地がないか熟考しているようだが言葉が出てこない。
「ヒートの時だって、あの秘書が世話をしてるんじゃないのか?」
苦し紛れに言ったのだろう。だが、その一言が茉希さんの逆鱗に触れてしまった。
「下品な匂いをさせておいてそんな事を言うのはどこの恥知らずかしら?」
迫るような低い声に肝が冷える。
「あぁ、番持ちはフェロモンを感じなくなるんだったわね。
安形は番持ちよ。パートナーは女性Ω。2人とも元はうちの会社の子だから会ったこともあるんじゃないかしら?」
茉希さんは馬鹿にしたように笑いオレに話の続きを促す。
「さっきから番、番って何を話しているのでしょうか?」
薄々は気付いているようだが護から決定的な言葉がないため、痺れを切らしたように父親が口を開く。
「御子息は婚約者のある状態で婚約者以外のΩを番にしたんですよ。番ってしまったのでそれが明るみに出る前に急いで婚約を解消しようとしたんじゃないですか?」
その言葉に護が顔を伏せる。
どうやら図星だったらしい。
「いつからだ?」
動揺を隠せない父親の質問に答える気はないのか、護は顔を伏せたままである。
「少なくとも最後に光流と会ったときは番ってはいなかったと言っていました。なので11月以降でしょうね。誕生日の時か、年末年始か、エスコートを放棄して何をしていたんでしょうね」
「光流だって…」
何か言おうとしていることに気づき護の言葉を待つことにする。
「光流だって、俺のことは何とも思ってなかったじゃないか。メッセージだって来ないし、それこそ誕生日だって。彼女はちゃんと祝ってくれたのに光流からはお祝いの言葉すら無かった」
その言葉を聞き大きくため息をつく。
「これが何かわかるか?」
先程渡された紙袋から箱を取り出す。
「それは…。何故ここに?」
護の父親が驚きの顔を見せる。見覚えのある箱に困惑を隠せないようだ。
「送り返されましたから」
「でも確かに護に送ったはずです」
俺と父親との会話が理解できないようで箱に手を伸ばそうか逡巡する様子を見せた護だったが何かに気付いたのだろう。
「この字って…。
開けてみても?」
躊躇うように箱を持ち、書かれた宛名の字を見る。こちらの送り状の上に被せて貼られた送り状に書かれた字は手書きのものだったが、見覚えのある字なのだろう。送り主は護の名前だ。
無言のまま包装を解き箱を開ける。中から出てきたのは革靴。
〈贈っても意味ないんじゃない?〉そう言った光流にそれでも婚約者の義務を果たすよう言ったのはオレだ。
自分にぴったりなサイズに驚いたのか靴を箱から取り出す。そして、中から出てきたカードを見て何かを堪えるような顔をした。何が書いてあったのかは知らないが、その表情を見る限り恨み言では無いだろう。
「光流、言ってたよ。
既読は付くのにメッセージか来ないのは忙しいせいなんだろうって。
勉強の邪魔はしたくないから既読が付いてもメッセージが来ないのならこっちから送るのは控えるって。
オレにキャンセルの連絡が来るうちはちゃんと自分のことを思ってくれているはずだって」
弟の言葉を代弁する。
当主代理として言うには甘い言葉だが兄として、友として伝えたかった言葉。
「お前のしたことをオレは許さない」
友達としての訣別の言葉を口にしたオレは気持ちを切り替え、当主代理としての顔を取り戻す。
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