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すれ違う心
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あの日から僕の部屋は少しずつ物が減っていった。
例えば本。
護君から勧められた本、プレゼントされた写真集。気に入っていたものも多かったが、その気持ち以上に嫌悪感が勝る。
そして、減っていく量よりは少ないものの兄の手によって趣味趣向の違う本が加えられていく。護君が選ぶものとは違う僕の好みそうな本。新しく興味を持った事柄の関連書籍。
例えば服。
護君と並んだ時に対になる様に選ばれた服はクローゼットから無くなり、素材や着心地にこだわった服が少しずつ増えていく。
スーツなどの揃いのものは向井さんの手によって別の場所で管理されているが、護君と揃いのものではなく兄と並んだ時にお互いが引き立つ様なものが用意される様になった。
護君と並ぶ時は堅い感じのデザインが多かったが兄と並ぶために選ばれたそれは遊び心があり、変わった外見に興味を持ってか今までは声をかけられなかった相手に挨拶される事も増えた。
部屋の中にある細々したものも護君を連想する様なものは姿を消していく。
護君とは夏休みの間に数回だけ一緒に出かけることがあったが、会の間も何かを気にした様子で僕を気遣う事もなく時間が過ぎていく。人脈を作るための会のはずなのに挨拶もそこそこに会話を楽しむわけでもなく、ただ時間が過ぎるのを待っているのが見え見えで自分の気持ちが下降していくのがわかる。
以前感じた嫌な柑橘系の香りは健在で、護君と会った翌日は体調を崩す様になった。
ただ僕に取っては〈悪臭〉とも言える香りだが気付いているのは僕だけなのか、誰かから指摘されたことはない。時折挨拶をさせてもらったΩの中に不快な顔をする人はいたがそれだけだ。
それまでは一緒に会場入りしていたが、車という密室で2人で過ごすことが苦痛で現地で待ち合わせる様になった。
会う度に日に焼けていく護君とは対称的に、外に出ることがなく白いままの僕。
入学当初はしてくれていた大学の話は僕が問いかけてもしてくれなくなった。
「サークル、楽しい?」
間が持たず聞いた言葉に「嫌味?」と返され何も言えなくなった。
それは本当に些細な一言だった。
ご挨拶させてもらった相手が護君を見て顔を顰める。この方は確かΩだ。
「痛んだ蜜柑を大切にする様な相手なら捨てておしまいなさい」
僕にだけ聞こえる様に囁かれる声。
彼のパートナーが護君と挨拶を交わしている一瞬の間の出来事だった。
〈痛んだ蜜柑〉が何を表すのか。
今まで考えない様にしてきたが、向き合わないといけないらしい。
「貴方には貴方にふさわしい香りがあるはずだよ」
艶やかな笑顔を残し彼等は別の相手に挨拶すべく去っていった。仲睦まじい背中を見て羨ましくなる。
僕たちは周りからどんな風に見えているのだろう。
「そろそろいいか?」
ほとんど会話のないまま護君が帰宅を告げる。義務感だけで果たされる約束。
「そうだね…。迎え来てるけど乗ってく?」
「いや、自分で帰れるから大丈夫だ」
いつもの癖で出た言葉を即座に否定される。
「それじゃ、予定はまた静流と調整しておくから」
僕を見ることなく告げる言葉。
期待していたわけじゃない。
それでも2人で過ごした時間を捨て去ることができない。
「痛んだ蜜柑を大切にする様な相手なら捨てておしまいなさい」
捨てるのは誰?
捨てられるのはだれ?
例えば本。
護君から勧められた本、プレゼントされた写真集。気に入っていたものも多かったが、その気持ち以上に嫌悪感が勝る。
そして、減っていく量よりは少ないものの兄の手によって趣味趣向の違う本が加えられていく。護君が選ぶものとは違う僕の好みそうな本。新しく興味を持った事柄の関連書籍。
例えば服。
護君と並んだ時に対になる様に選ばれた服はクローゼットから無くなり、素材や着心地にこだわった服が少しずつ増えていく。
スーツなどの揃いのものは向井さんの手によって別の場所で管理されているが、護君と揃いのものではなく兄と並んだ時にお互いが引き立つ様なものが用意される様になった。
護君と並ぶ時は堅い感じのデザインが多かったが兄と並ぶために選ばれたそれは遊び心があり、変わった外見に興味を持ってか今までは声をかけられなかった相手に挨拶される事も増えた。
部屋の中にある細々したものも護君を連想する様なものは姿を消していく。
護君とは夏休みの間に数回だけ一緒に出かけることがあったが、会の間も何かを気にした様子で僕を気遣う事もなく時間が過ぎていく。人脈を作るための会のはずなのに挨拶もそこそこに会話を楽しむわけでもなく、ただ時間が過ぎるのを待っているのが見え見えで自分の気持ちが下降していくのがわかる。
以前感じた嫌な柑橘系の香りは健在で、護君と会った翌日は体調を崩す様になった。
ただ僕に取っては〈悪臭〉とも言える香りだが気付いているのは僕だけなのか、誰かから指摘されたことはない。時折挨拶をさせてもらったΩの中に不快な顔をする人はいたがそれだけだ。
それまでは一緒に会場入りしていたが、車という密室で2人で過ごすことが苦痛で現地で待ち合わせる様になった。
会う度に日に焼けていく護君とは対称的に、外に出ることがなく白いままの僕。
入学当初はしてくれていた大学の話は僕が問いかけてもしてくれなくなった。
「サークル、楽しい?」
間が持たず聞いた言葉に「嫌味?」と返され何も言えなくなった。
それは本当に些細な一言だった。
ご挨拶させてもらった相手が護君を見て顔を顰める。この方は確かΩだ。
「痛んだ蜜柑を大切にする様な相手なら捨てておしまいなさい」
僕にだけ聞こえる様に囁かれる声。
彼のパートナーが護君と挨拶を交わしている一瞬の間の出来事だった。
〈痛んだ蜜柑〉が何を表すのか。
今まで考えない様にしてきたが、向き合わないといけないらしい。
「貴方には貴方にふさわしい香りがあるはずだよ」
艶やかな笑顔を残し彼等は別の相手に挨拶すべく去っていった。仲睦まじい背中を見て羨ましくなる。
僕たちは周りからどんな風に見えているのだろう。
「そろそろいいか?」
ほとんど会話のないまま護君が帰宅を告げる。義務感だけで果たされる約束。
「そうだね…。迎え来てるけど乗ってく?」
「いや、自分で帰れるから大丈夫だ」
いつもの癖で出た言葉を即座に否定される。
「それじゃ、予定はまた静流と調整しておくから」
僕を見ることなく告げる言葉。
期待していたわけじゃない。
それでも2人で過ごした時間を捨て去ることができない。
「痛んだ蜜柑を大切にする様な相手なら捨てておしまいなさい」
捨てるのは誰?
捨てられるのはだれ?
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