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初めてのヒート 1

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「光流、今日は学校休みな」
 高校1年の夏休み前、兄がそう言って僕の額に手を当てた。
「多分ヒートが来るよ。初めてで不安でしょ?護、呼ぼうか?」
 高校3年になった兄、静流は心配そうに僕の顔を覗き込む。言われてみれば発熱しているような、気分が高揚しているような違和感がないでもない。兄に言われてやっと気づく程度の違和感。
「薬、あるから大丈夫……かな?初めてだからわからないから護君に見られたくない」
 素直な気持ちを吐露する。薬がどの程度効くのかわからない。ヒートがどの程度重いのかわからない。それでも、その時に護が居れば甘えずにはいられないだろう。我慢できるなら薬を飲んで過ごしたい、それが本音だ。
「護君、外部受験するって頑張ってるし。あまりにも酷いようなら呼んでもらうけど……」
 兄には以前からお願いしてあった。ヒートが来ても出来るだけ薬で抑えたい。快楽を知ってしまえば毎回期待してしまう。護の邪魔はしたくないし、何より学生生活は普通に送りたい。3ヶ月に一度1週間、と思われるかもしれないがヒートに入った時期によっては10日以上休むこともあり得る。高校大学の7年間の内約1年休ませる計算になるのだ。
 別に、Ωのヒートを否定するつもりはない。護に求められる自分を想像する時もある。ただ、この先共に歩む人生の中で今自分でやるべき事は護を拘束することではない。護の進むべき道を応援するのがいま、僕が出来る最善だと思っているのだ。
「光流が頑固なのは知ってるけど、頼ってもいいと思うよ?」
「うん……。今回薬を飲んでみて辛いようなら次から考える」
 困った顔をした静流がため息をつきつつ、僕を尊重してくれる。
「じゃあ、光流の部屋に必要な物は用意するから扉の鍵は閉めるようにね。何か困ったら母さんだけは部屋に入れるようにしておくから」
 男Ωである母の存在はとても心強く、この時ばかりは番大好きな父も僕のお世話を全面的に優先することを許してくれたらしい。

 この頃、護は持ち上がりで大学に行くことを嫌がり外部を受験すると言って予備校に通うようになっていた。中学校3年になり僕のバースがはっきりしたのを機に正式に婚約し、公の場ではパートナーとして同伴する機会も出てきた。まだまだ子供であっても将来を見据えて〈繋がり〉を広げていくことが大切なのだ。
 幼い頃から家同士のつながりがあり、〈幼馴染み〉とまでは言わなくても〈昔からの友達〉が多くいる僕達と比べ、護は知り合いも少ないため顔を覚えてもらうことが最重要課題だ。
 僕と居れば当然のこと、僕が席を外した時は兄が護をフォローしながら繋がりを広げていく。
「婚約おめでとう」
 そう言われて照れて笑う護を見て嬉しくなったのは僕の本心。だから、支えられるようになろうと誓ったんだ。護を支えられるように。護の邪魔にならないように。
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