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それから 3

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「着いたぞ」
 光流のことを考えていると、突然思考を中断された。
 チャイルドロックを外したのか、ドアのロックが解除される。

「いいな、出席できる会があれば必ず参加しろ。弟が体調を崩しているのならあの長男だってしばらくは顔を出さない可能性が高い。
 自分の居場所は自分で確保しろ」
 降ろされたのは光流には秘密のつもりで借りた部屋の前だった。父はこの部屋を借りる時に何を思ったのだろう。
 それなりにセキュリティーがしっかりしていてそれなりに防音もしっかりしている部屋。もしかしたら光流との関係を深めるためにという下心を持って許可をしたのかもしれない。
 結局は父も俺も最低な事に変わりはないのだ。

 父に言いたいことは山ほどあったけれどそれを言ったところで今更どうにもならないし、機嫌を損ねて金銭的な援助を切られては困るので無言のまま車を降りる。父も俺といたところでこれ以上話すことはないと判断したのかドアを閉めるとすぐに車を出した。

 奈那に対しては微塵の興味もないらしい。大切な地盤作りを邪魔したΩに時間を割くくらいならば新たな縁を探った方がいいくらいにしか思ってないのだろうか。

 それにしても、部屋に帰るのも気が重い。この部屋を借りたのは奈那と過ごす時間を作るためだったため引っ越した当初から半同棲状態だったけれど、番になった今は同棲していると言っていい。奈那が借りていた部屋がどうなったのか聞いたことはないけれど、この部屋にある荷物を考えるとそのままなのかもしれない。よくよく考えるとそんな話すらしていないのだ。

 元々の自分の性格を考えると割と慎重な性格だったと思っていたけれど、奈那と出会ってからの自分は何処かおかしいのかもしれない。欲に溺れるとはこう言うことなのだろうか。

 2日前までは奈那のことが愛おしくて、光流と婚約解消をすれば幸せになれると思っていた。それなのに今はこの7ヶ月を後悔している自分しかいない。
 部屋に帰りたくない。
 自分の居場所はそこにしかないのにそれでもドアを開ける気になれない。

 その時だった。
「護?
 そんなところで何してるの?」
 奈那だった。買い物にでも行っていたのだろう。手にはいくつかの紙袋とエコバッグ。Ωだからと言って光流のように過保護に守られていたわけではない奈那は買い物くらい1人で行くのが当たり前だったとは言っていたけれど、番になってからは一段とアクティブになった。
「買い物?」
 そう聞いた俺に笑顔で答えた言葉。

「うん。
 スーツとか、フォーマルっぽい服。
 だって、今日から私がパートナーでしょ?」

 言葉の意味がわからなかった。
〈私がパートナー〉は理解できた。
 光流と正式に婚約解消をしたのだ。番である奈那が俺のパートナーになるのは妥当だけど、それとフォーマルな服の因果関係がわからない。
 俺の親に挨拶するにしても紙袋ひとつ分あれば十分だろう。

「何着用意したの?」
 恐る恐る聞いて見る。
「とりあえず、3着?
 どんなのが良いのかわからなかったから今回は定番の形って勧められたのにしてみた」
 全く理解できなかった。
 学生である奈那が着るには場違いでしかない。色々と聞いてみたいけれど、いつまでも廊下で話している訳にもいかないので仕方なしに部屋に入る。
 
 部屋に入ると奈那は嬉しそうに袋から買ってきたものを取り出し俺に感想を求める。
「護の持ってるスーツの写真撮っていって、隣で浮かないようなの選んでもらったんだよ」
 そう言って取り出したのは確かに普段着とは呼べないようなワンピースとスーツだった。
「こんなのいつ着るの?
 スーツも、就活には不向きじゃない?」
 ワンピースはもちろんのこと、ウエスト部分で絞られたラインを強調するようなスーツでは就活の時に浮くだろう。

「だって、これからは私がパートナーになってパーティーに出席できるんでしょ?ほら、αとかΩが集まるの。
 私、憧れてたの」
 無邪気な顔でそう告げられた。

 奈那は何を言ってるんだろう?

「護、いつも素敵なスーツ着てたじゃない?スーツ着て出かけるたびに婚約者さん、いつ私のこと気付いてくれるのかなって思ってたのにいつまで経っても気付かないなんて、凄い鈍感な子だったんだろうね」
 おかしそうにクスクス笑いながら言った言葉に動きが止まる。

「結局、護が婚約解消して欲しいって言っても私の事気付いてなかったんでしょ?普通、1回で気付くんだけどね」
 気付いてしまった奈那の悪意。

「やっぱり、ワザとだった?」
 知っていたふりをして聞いて見る。
「何が?」

「挑発フェロモンって言うんだってね」

 俺の言葉に今度は奈那の動きが止まる。
「何の事?」
 すぐに取り繕った顔を見せるけれど、俺と目を合わそうとはしない。
「何が目的だったんだ?
 はじめから俺の事、狙ってた?
 いつから?」
 奈那は俺の言葉に少し考えるそぶりを見せるとニヤリと笑い開き直った。

「だって、護ちょろいんだもん」
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