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はじまり 4

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 そんな生活を続けて数ヶ月。
 12月に入ってすぐに父と共に別邸に呼ばれた。
 そして請われたこと。
「私立中学の願書を出して欲しい」

 光流と護の相性が良さそうなため、光流の婚約者になることを視野に入れ辻崎兄弟が入学する予定である中高一貫の学校に入学して欲しい。希望すれば付属の大学に行くこともできると言われた。
「学費諸々は心配しないで、光流を守る事を1番に考えてほしい」
 そう告げられ正直プレッシャーが無いわけではなかった。それでも俺は光流が欲しかった。
 そして、俺以上にうちの父親が喜んでいた。自分の親のわかりやすい態度が恥ずかしいが、それでもこのチャンスを逃してはならない。 
 光流の婚約者はこの俺なのだ。

 中学受験は滞りなく進み、静流も俺も当然のように合格した。
 小学校を卒業し、中学に進学すると辻崎の家で過ごす時間はますます増え、静流と予習復習を行う横で光流も宿題をして、宿題が終わると光流はソファーでそのまま読書している事が多くなった。
 小学生と中学生は勉強量が違うためどうしても光流の方が早く終わるのだけど、静流の部屋から出ていくこともなく静かに読書をしているのだ。
 静流が学習机、俺と光流はソファーに座りテーブルでノートと教科書を広げるのがいつの間にか定位置になっていたため、光流は俺の隣に座るのが当たり前になっていた。

 ちょうどこの頃、俺は精通を迎えていた。
 それは中学に入ってしばらくした頃だった。新しい生活にも慣れ、心身共に新たな成長を迎えていたのだろう。
 それまでにも光流のことを考えると下腹部に違和感を感じる事はあった。色々と知識はあったから〈そういうことだ〉という自覚もあった。自室で、風呂で自身を弄んでみるものの、スッキリする事ができず消化不良の日が続いた後に唐突にその日は訪れる。
 淫らな夢だった。
 いつものソファーに座る俺に口淫を施す光流。その可愛い顔を俺の足の間に埋め、小さな口を開いて咥えてくれたのだ。
「しぃ君に見つかったら怒られちゃう?」
 咥える前にそう言った光流に〈大丈夫だよ〉と優しく答え、俺の前に跪いた事でいつもより低い位置にある頭をそっと撫でる。俺の言葉に安心した光流はそっと口を開き…。
 所詮、童貞の想像力だ。色々と中途半端に得た知識ではそこまで想像するのが限界で、違和感で目が覚めた時にはなんとも言えない気持ちになった。
 達成感と罪悪感とごちゃ混ぜになった気持ちの中で、それでもまだ自己主張する〈ソレ〉を自分で慰め、そしてまた達成感と罪悪感に苛まれる。
 悪循環だ…。
 そんな事があった後でも俺は〈優しいお兄さん〉の仮面を付けて光流との時間を過ごす日々。
 光流を可愛がりながらも〈性〉の対象に見てしまう事に罪悪感も感じるけれど、俺のその気持ちは成長の上で避けて通れないものだと自分を正当化する。
 そうやって心と身体のバランスをとりながら光流に接していたのだ。

 静流と光流の間でどんな話をしているかは聞いた事はないけれど、光流が俺を意識している事は間違いない。
 光流が中学生になる頃には〈社交〉と呼ばれる会に光流をエスコートして参加するようになった。
 中学生になった光流は身長も伸び、可愛らしかったその容姿は可愛らしさに美しさを備えるようになってきた。
 黒髪の光流と少し明るい髪色の静流が並ぶと一対の絵のようで嫉妬を覚えるけれど、挨拶と称して人の輪を渡り歩く静流の代わりに光流と共に過ごす事ができる事に喜びを感じた。
 そうして2人で過ごす様子をそこかしこで見せつけるようにしていれば自然と〈婚約者〉としての俺の立ち位置が確立していく。まだ〈婚約者候補〉でしかなかったのだが、頻繁に辻崎家に出入りし、こういった会では光流のエスコートを任されるのだ。そう勘違いされても不思議はない。
 もちろん辻崎家もそんな事は重々承知で勘違いされたままの方が都合が良いし、いずれそうなるのだから訂正する必要もないと言われていた。

 順風満帆だと思っていた。
 思っていたけれど〈社交〉の世界では暗黙の了解として通じる事が、学校生活では通じない事に気付くのはすぐだった。
 光流が中学に入ってすぐに広まった噂。

〈1年生に可愛い子がいる〉
〈辻村静流の弟はΩらしい〉
〈あの可愛い子は静流の弟でΩらしい〉
 
 正直面白くなかった。私立の中学であっても全ての生徒が知り合いなわけではなく〈社交〉なんて世界を知らない者の方が多いのだ。オレがいくら〈婚約者〉としての立場を主張しようとしても学校生活を送る上でそんな肩書きはそれ程重要では無い。

 
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