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はじまり 3
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決して静流に見抜かれてはいけない、本能的にそう思った。この思いを見抜かれて仕舞えば距離を縮める事はできなくなるだろう。
あの子と話したい。
あの子に触れたい。
あの子を自分のものにしたい。
心の奥底で燻った気持ちを出さないようにして過ごさなければ。
あの子にもっと近づくために。
あの子に触れるために。
あの子を俺のものにするために。
初めに自覚したのが良かったのだろう。気持ちを押し殺し、優しいお兄ちゃんの仮面を被り、少しずつ距離を縮めていく。
俺が静流の部屋に行く度に顔を出すようになったのを見計らって声をかけてみた。
「一緒に宿題やる?」
光流は戸惑った表情で静流を見ると小声で聞いてきた。
「しぃ君もいっしょ?」
「そうだよ。
護にわからないとこ教えてもらったら?」
静流が助け舟を出してくれる。
「おじゃまじゃない?」
遠慮しているのだろうか?
「大丈夫だよ。
宿題持っといで」
兄である静流の後押しもあって光流は宿題を取りに一度部屋を出た。
「光流、どう?」
「どうって?」
急に聞かれて言葉に詰まる。
「もしも護が光流の婚約者になる覚悟ができたなら中学は俺と同じ私立に行ってもらうことになる」
初めて聞いた話だった。
言われてみれば当然そうなるだろうなと思うものの、そこまで具体的に考えた事はなかったのだ。
「学力的には問題無さそうだし、光流も護のこと嫌じゃないみたいだし」
その言葉が少し気になる。〈嫌じゃない〉とは…消去法なのか?
「嫌じゃないって?」
気になってしまい聞き返してしまった。
「あ、ごめん。嫌じゃないって変な意味じゃなくて、光流は〈好きか嫌いか〉よりも〈嫌か嫌じゃないか〉が問題なんだ。嫌だと思うとほんの些細な事でも受け入れなくなるからまずは〈嫌じゃない〉事が大切」
難しい性格なのだろうか?
「そんな風に見えないのに。
挨拶もいつも可愛い」
本心が漏れてしまった。
「光流、護のこと気になるみたいだよ。
よく話聞かれる」
その言葉に歓喜する気持ちを抑えるのに必死だった。まだだ、本性を見せてはいけない。
「そうなんだ?
気にしてくれてるなら嬉しいかも」
素直に告げる。
「少しずつこうして一緒に過ごす時間を増やしていきたいと思うけど、護は良い?」
「もちろん」
即答してしまった。
色々な意味で俺にとっては良いことしかない。
静流は俺に都合良いように解釈してくれたのか「同じ中学に行けそうだね」と笑った。
俺たちの話が終わる頃、光流がおずおずと部屋に入ってくる。
「本当に良いの?」
その姿が小動物のようで可愛い。
「おいで」
思わず言ってしまったが、その後の嬉しそうな光流の顔を見て間違ってなかったのだと安心する。
静流の部屋は勉強机とベッド、ソファーとテーブルが置いてある。自分の部屋に比べ大人っぽいと羨ましくなる。そもそも部屋の広さが違う。
ベッドで横になって漫画を読んだり、ゲームをしたりなんてしないんだろうな、と思わせるような部屋だ。実際にはベッドで漫画も読むし、ゲームもやると言っていたけれど、俺に合わせてそう言ってくれたのではないかと思ってる。
「オレはこっちで宿題終わらせるから護、光流の宿題見てあげて」
光流と過ごす事に慣れるようにとの配慮なのだろう。そう言ってさっさと勉強机に行ってしまう。
「しぃ君、こっち来ないの?」
一緒にいてくれると思った兄がさっさと離れてしまったのだ。いくら同じ部屋にいると言っても不安になるのは仕方ない。
「俺がわからなかったら静流呼ぼうか」
安心するよう、そう声をかけてみる。不安そうな顔は完全には晴れなかったけれど「そうする」と答えてくれたため光流の気が変わらない内にソファーに移動する。
「見てるからわからないところがあったら教えて」
そう言って自分の宿題を開く。光流も俺の隣に座り同じように宿題を広げる。
持ってきた宿題は算数だった。
綺麗な字で書かれたノートを覗き込んでみるけれど、どの問題もちゃんと解かれている。黙々と問題を解き始めるため俺も自分の宿題を解き始める。
「できた」
しばらくして小さな声で宿題が終わったことを教えてくれた。
「見せて」
受け取った宿題を確認していく。
間違いは無い。
「全問正解」
俺の言葉に嬉しそうに笑う光流が可愛かった。やっぱり欲しいな。
想いは増すばかりだ。
その後も週に何度か一緒に時間を過ごし、宿題を見たり、時にはゲームをしたり。
食事をしてそのまま泊まることもあるものの、αに比べ体力のないΩである光流は眠くなるのも早く、そんな時は静流と2人で夜更かししたりもした。
夜更かしすると言ってもせいぜい夜遅くまでテレビを見たり、話し込んだりするだけで、気付けば1人で寝るには広い静流のベッドで2人で寝入っているのがいつものパターンだった。
そして、朝になると光流に起こされるのもいつものパターン。
「しぃ君も護君も2人で楽しそうでズルい」
そんな風に拗ねる光流を愛しいと思った。
αは身体はもちろん、精神的にも成長が早いのだろう。その時はまだ小学生、6年生だったけれど〈光流が欲しい〉確かにそう思ったのだ。
あの子と話したい。
あの子に触れたい。
あの子を自分のものにしたい。
心の奥底で燻った気持ちを出さないようにして過ごさなければ。
あの子にもっと近づくために。
あの子に触れるために。
あの子を俺のものにするために。
初めに自覚したのが良かったのだろう。気持ちを押し殺し、優しいお兄ちゃんの仮面を被り、少しずつ距離を縮めていく。
俺が静流の部屋に行く度に顔を出すようになったのを見計らって声をかけてみた。
「一緒に宿題やる?」
光流は戸惑った表情で静流を見ると小声で聞いてきた。
「しぃ君もいっしょ?」
「そうだよ。
護にわからないとこ教えてもらったら?」
静流が助け舟を出してくれる。
「おじゃまじゃない?」
遠慮しているのだろうか?
「大丈夫だよ。
宿題持っといで」
兄である静流の後押しもあって光流は宿題を取りに一度部屋を出た。
「光流、どう?」
「どうって?」
急に聞かれて言葉に詰まる。
「もしも護が光流の婚約者になる覚悟ができたなら中学は俺と同じ私立に行ってもらうことになる」
初めて聞いた話だった。
言われてみれば当然そうなるだろうなと思うものの、そこまで具体的に考えた事はなかったのだ。
「学力的には問題無さそうだし、光流も護のこと嫌じゃないみたいだし」
その言葉が少し気になる。〈嫌じゃない〉とは…消去法なのか?
「嫌じゃないって?」
気になってしまい聞き返してしまった。
「あ、ごめん。嫌じゃないって変な意味じゃなくて、光流は〈好きか嫌いか〉よりも〈嫌か嫌じゃないか〉が問題なんだ。嫌だと思うとほんの些細な事でも受け入れなくなるからまずは〈嫌じゃない〉事が大切」
難しい性格なのだろうか?
「そんな風に見えないのに。
挨拶もいつも可愛い」
本心が漏れてしまった。
「光流、護のこと気になるみたいだよ。
よく話聞かれる」
その言葉に歓喜する気持ちを抑えるのに必死だった。まだだ、本性を見せてはいけない。
「そうなんだ?
気にしてくれてるなら嬉しいかも」
素直に告げる。
「少しずつこうして一緒に過ごす時間を増やしていきたいと思うけど、護は良い?」
「もちろん」
即答してしまった。
色々な意味で俺にとっては良いことしかない。
静流は俺に都合良いように解釈してくれたのか「同じ中学に行けそうだね」と笑った。
俺たちの話が終わる頃、光流がおずおずと部屋に入ってくる。
「本当に良いの?」
その姿が小動物のようで可愛い。
「おいで」
思わず言ってしまったが、その後の嬉しそうな光流の顔を見て間違ってなかったのだと安心する。
静流の部屋は勉強机とベッド、ソファーとテーブルが置いてある。自分の部屋に比べ大人っぽいと羨ましくなる。そもそも部屋の広さが違う。
ベッドで横になって漫画を読んだり、ゲームをしたりなんてしないんだろうな、と思わせるような部屋だ。実際にはベッドで漫画も読むし、ゲームもやると言っていたけれど、俺に合わせてそう言ってくれたのではないかと思ってる。
「オレはこっちで宿題終わらせるから護、光流の宿題見てあげて」
光流と過ごす事に慣れるようにとの配慮なのだろう。そう言ってさっさと勉強机に行ってしまう。
「しぃ君、こっち来ないの?」
一緒にいてくれると思った兄がさっさと離れてしまったのだ。いくら同じ部屋にいると言っても不安になるのは仕方ない。
「俺がわからなかったら静流呼ぼうか」
安心するよう、そう声をかけてみる。不安そうな顔は完全には晴れなかったけれど「そうする」と答えてくれたため光流の気が変わらない内にソファーに移動する。
「見てるからわからないところがあったら教えて」
そう言って自分の宿題を開く。光流も俺の隣に座り同じように宿題を広げる。
持ってきた宿題は算数だった。
綺麗な字で書かれたノートを覗き込んでみるけれど、どの問題もちゃんと解かれている。黙々と問題を解き始めるため俺も自分の宿題を解き始める。
「できた」
しばらくして小さな声で宿題が終わったことを教えてくれた。
「見せて」
受け取った宿題を確認していく。
間違いは無い。
「全問正解」
俺の言葉に嬉しそうに笑う光流が可愛かった。やっぱり欲しいな。
想いは増すばかりだ。
その後も週に何度か一緒に時間を過ごし、宿題を見たり、時にはゲームをしたり。
食事をしてそのまま泊まることもあるものの、αに比べ体力のないΩである光流は眠くなるのも早く、そんな時は静流と2人で夜更かししたりもした。
夜更かしすると言ってもせいぜい夜遅くまでテレビを見たり、話し込んだりするだけで、気付けば1人で寝るには広い静流のベッドで2人で寝入っているのがいつものパターンだった。
そして、朝になると光流に起こされるのもいつものパターン。
「しぃ君も護君も2人で楽しそうでズルい」
そんな風に拗ねる光流を愛しいと思った。
αは身体はもちろん、精神的にも成長が早いのだろう。その時はまだ小学生、6年生だったけれど〈光流が欲しい〉確かにそう思ったのだ。
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