上 下
61 / 84

ここがどこだかわかりません 1

しおりを挟む
 ディーナリアスは、国王陛下の元に行っている。
 私室には、ジョゼフィーネとサビナの2人。
 
「こ、国王陛下、だ、大丈夫、かな?」
 
 ディーナリアスがいない時、ジョゼフィーネはテーブルセット側のイスに座る。
 日本風かどうかはさておき、小さめの、ワッフルに似たお菓子と紅茶がテーブルには、置かれていた。
 けれど、今は手を伸ばす気になれずにいる。
 
「殿下が仰られておりましたが、危篤の報せがあれば王宮内が乱れます。今はそこまで病状は悪化されておられないと思われます」
「そ、そう……」
 
 少しだけ、ホッとした。
 ジョゼフィーネには、身内らしい身内がいない、と言える。
 実母は他界しているし、父や姉とは「身内」的なつきあいをしてきていない。
 むしろ、今ではディーナリアスやサビナのほうが距離感は近くなっていた。
 
「サ、ザヒナの……旦……こ、婚姻してる、人に、会ったよ?」
「パッとしない人でしたでしょう?」
「え、え……そ、そんなことない、と思う、けど……」
「近衛騎士隊長などやっておりますけれど、言い寄ってくる女性の1人もいないのですから、パッとしないのですよ」
 
 ジョゼフィーネは、ちょっぴり笑ってしまいそうになる。
 サビナのこれは、明らかに「ツンデレ」だ。
 ディーナリアスはわからなかったらしいが、ジョゼフィーネからすれば明らか。
 
 女性の1人も言い寄って来ないことに、サビナは安心している。
 オーウェンに言い寄る女性がいたらどうしようと、気にかけている証拠だ。
 いつも喧嘩をしていたというのも、素直になれなかったせいだろう。
 
 オーウェンのことを話題に出したので思い出す。
 ディーナリアスから「今は2人の子を育てている」と聞いていた。
 自分の侍女になったせいで、サビナは子供と一緒にいる時間が減っている。
 幸せな家庭を崩してしまってはいないかと、心配になった。
 
「こ、子育ては……?」
 
 ジョゼフィーネの心情が、顔に出ていたらしい。
 サビナが、にっこりと微笑んでくれる。
 
「元々、エヴァンが近衛騎士隊長をしているものですから、私たちは、王宮内の別宅で暮らしております。彼はともかく、私は転移ができますし、それほど離れているわけではありませんわ」
「さ、寂しく、ない、かな?」
「2人とも、今年で9歳になりました。親にベッタリする歳は過ぎましたね」
「ふ、2人、とも??」
「ええ、双子でしたの」
 
 ジョゼフィーネは引きこもりでやってきたし、人とのつきあいも避けてきた。
 さりとて、サビナの子供は、ちょっと見てみたい気がする。
 双子なんて見たことはなかったし、サビナとオーウェンの子供ならば、可愛いのではないかと思えた。
 
「落ち着かれましたら、殿下と2人で、いらっしゃいませんか?」
「い、いいの?」
「我が家は狭く、子供もうるさくしておりますが、それでも、よろしければ」
 
 こくこくと、うなずく。
 今までのジョゼフィーネからすると、考えられないことだが、彼女に、その自覚はなかった。
 ジョゼフィーネは、自分から「外」に出ようとしているのだ。
 
「た、楽しみ……ふ、双子、似てる……?」
「男の子なのですが、見分けがつきにくいほど、似ております。妃殿下は、双子をご覧になったことはございませんか?」
「な、ないよ。そんなに、似てるんだ」
「エヴァンは、時々、からかわれていますね」
 
 ということは、サビナは、ちゃんと見分けられているのだろう。
 やはり母親なんだなぁと思う。
 今世での母親が生きていたら、どんなふうだったかを考えた。
 とはいえ、生まれた時には、すでにいなかったので、わからない。
 
 ジョゼフィーネの母は、当時、26歳。
 子供を産むのに命の危険が伴う年齢と言われている。
 前世の記憶では、それほどの危険などない歳だと思われるが、この世界では違うのだ。
 いろいろ照らし合わせれば、体質自体が違うとわかる。
 
「わ、私……ちゃんとした、お母さんになれる自信、ないな……」
「私も、ちゃんとした母になれているかは、未だにわかりません」
「え……? そ、そうなの?」
「親になったのは、初めてですもの。なにが正しいか、判断がつきかねます」
 
 サビナが、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべた。
 
「妃殿下は、殿下との、お子を成すことを考えておいでなのですね」
「えっ? あ、あの……そ、そういう……」
 
 言われて、気づく。
 自分の子供ということは、彼との子供であるということなのだ。
 かあっと、頬が熱くなる。
 具体的に考えていたわけではないが、恥ずかしくなった。
 
「ですが、当面、殿下には黙っておかれたほうがよろしいかと」
「よ、喜ばない、から?」
「いいえ、逆です。喜び過ぎて、ぶっ倒れます。あんな図体で倒れられても、面倒ですからね」
 
 ジョゼフィーネは、まばたき数回。
 サビナが笑ったので、つられてジョゼフィーネも笑う。
 気持ちが楽になり、お菓子に手を伸ばした時だ。
 扉の叩かれる音がした。
 
 サビナの表情が、わずかに硬くなっている。
 それを察して、ジョゼフィーネも緊張につつまれた。
 立ち上がり、サビナは身構えている。
 が、ジョゼフィーネのそばから離れようとはしなかった。
 
「急ぎの用件でなければ、のちほど出直してくださいませ」
 
 扉の向こうが静かになる。
 それでも、サビナは動かない。
 目に険しさが漂っていた。
 その意味が、すぐにわかる。
 
 室内に、パッと3人の魔術師が現れたのだ。
 いずれもローブ姿だったので、魔術師で間違いない。
 動いたのはサビナが先だった。
 3人の足元から火柱が上がる。
 
 驚いて、ジョゼフィーネも立ち上がった。
 サビナに任せるのがいいのだろう、とは思う。
 ジョゼフィーネは魔術も使えないし、なにもできないのだ。
 
 火柱につつまれても、3人の魔術師は平気らしい。
 炎が消され、なにもなかったかのように魔術師が近づいてくる。
 3人から同時に、何かが飛んできた。
 手を振ったサビナの前で、氷の矢や黒い球、石のようなものが動きを止める。
 
 ジョゼフィーネには前世の記憶があったため、それが「属性」だとわかった。
 サビナは炎を使っていたので、そちら系統なのかもしれない。
 だとすると、水や氷系統は、苦手とする属性となるはずだ。
 その上、3人には炎に対する耐性がある。
 サビナのほうが不利に思えたのだけれども。
 
 ぶわっ!!
 
 強い風が3人に向かって吹き上げた。
 ローブに裂け目が入るのが、見てとれる。
 そこから血が滲んでいるのに気づいたのか、3人がサビナと距離を取った。
 その下がった先に、針のようなものが大量に飛んで行く。
 
(サ、ザビナ、すごい……強い……)
 
 3人が、一斉に飛んで逃げた。
 さりとて、けきれず、体に多くの針が突き刺さっている。
 さらに、3人の体から血が流れ出していた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※完結しました!(2024.5.11)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

うっかり王子と、ニセモノ令嬢

たつみ
恋愛
キーラミリヤは、6歳で日本という国から転移して十年、諜報員として育てられた。 諜報活動のため、男爵令嬢と身分を偽り、王宮で侍女をすることになる。 運よく、王太子と出会えたはいいが、次から次へと想定外のことばかり。 王太子には「女性といい雰囲気になれない」魔術が、かかっていたのだ! 彼と「いい雰囲気」になる気なんてないのに、彼女が近づくと、魔術が発動。 あげく、王太子と四六時中、一緒にいるはめに! 「情報収集する前に、私、召されそうなんですけどっ?!」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_11 他サイトでも掲載しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

世話焼き宰相と、わがまま令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢ルーナティアーナは、幼い頃から世話をしてくれた宰相に恋をしている。 16歳の誕生日、意気揚々と求婚するも、宰相は、まったく相手にしてくれない。 いつも、どんな我儘でもきいてくれる激甘宰相が、恋に関してだけは完全拒否。 どうにか気を引こうと、宰相の制止を振り切って、舞踏会へ行くことにする。 が、会場には、彼女に悪意をいだく貴族子息がいて、襲われるはめに! ルーナティアーナの、宰相に助けを求める声、そして恋心は、とどくのか?     ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_2 他サイトでも掲載しています。

不機嫌領主と、嫌われ令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢ドリエルダは、10日から20日後に起きる出来事の夢を見る。 悪夢が現実にならないようにしてきたが、出自のこともあって周囲の嫌われ者に。 そして、ある日、婚約者から「この婚約を考え直す」と言われる夢を見てしまう。 最悪の結果を回避するため策を考え、彼女は1人で街に出る。 そこで出会った男性に協力してもらおうとするのだが、彼から言われた言葉は。 「いっそ、お前から婚約を解消すればよいではないか」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_7 他サイトでも掲載しています。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

処理中です...