上 下
31 / 84

いきなりなんて困ります 3

しおりを挟む
 
「ヒューバートの立場が、王家の立場があやういのは知ってる。だからこそヒューバートががんばらなきゃいけないのも知ってる。僕もお母さんもお姉ちゃんも王家の味方。お妃様には“きんせんてき”に“しえん”していただいてる、恩がある。ぼくはヒューバートのきょうだいみたいなものだし」
「ジェラルド……」
「ぼくにはぼくにしかできないことがあると思う。ヒューバートは、ぼくよりできることが多いけど、まだ味方が少ない。でもだいじょうぶ。ぼくはヒューバートを信じてる」

 顔を少し上げて、ジェラルドを見上げた。
 くそ、いいヤツ。
 無条件で味方してくれる、俺の“きょうだい”。
 ヤバい、泣きそう。

「がんばって」
「うん、わかった」

 ……漫画のヒューバートは、どうして道を誤ってしまったのだろう。
 こんなに優しい“きょうだい”がいたのに。
 やっぱり側近がランディだったからなのかな。
 それでも、ジェラルドがいたら道を踏み外すことなんてなかったんじゃないかな、って思うんだが。

「ジェラルド」
「うん」
「おれ、王家の立場を立て直したい」

 それが無理なら潔く、俺が『最後の王』となって国を穏やかに終わらせたいと思う——は、言わないけど。
 王家の立場を立て直し、レナと婚約破棄せず結婚して国を守れたら最高。
 それが理想だ。
 でも正直、どうすれば王家の立場を立て直せるのかよくわからない。

「味方を増やさなければ、というのはわかるんだけど……他になにしたらいいと思う?」
「うーん、味方を増やすのは“ひっす”」

 必須か。
 だよな。

「ヒューバートが言ってた『聖女の“ふたん”を減らせる魔法』は、王家の立場を立て直すのに、十分可能性がある」
「!」
「だから“やくわりぶんたん”。ね?」
「……う、うん! そっか、わかった!」
「うん。ヒューバートも、夢を教えてくれてありがとう。ぼくも手伝うね」
「うん、ジェラルド、ありがとう」

 話をまとめてから剣の素振り練習を一時間。
 魔法の練習を二時間やって解散した。
 味方がいるって素晴らしい。
 俺、前世は一人っ子だったから“きょうだい”がいるのもなんかこう、ウフフってなる。
 まあ、マジで血の繋がった兄弟——レオナルドとは、ほとんど会えないんだけど……。

「無理やり会いに行ってみるか?」

 聖殿の力が強くなっているんだし、いくらレオナルドの母親が聖殿派とはいえ破滅が待ち構えているのは同じだしな。
 陽も傾いてきたし、今日はやめておこうか。
 いや、思い立ったが吉日だ!
 後宮西側に赴き、レオナルドの様子だけでも見てこよう。
 明日の件の稽古に誘うのもいいな。

「!」

 後宮は男禁制。
 女の声がして、思わず柱に隠れた。
 なぜならその女の声は側室のメリリア妃。
 俺にとっては継母であり、聖殿派。
 誰と話してるんだろう、と柱の影からこっそり覗き込むと……ラ、ランディ~!?
 レオナルドを側室のメリリア妃が手放さないので、十歳未満の子どもはお目溢しされているから、いるのはギリギリセーフだが……。

「なにをやっているの! 本当に無能ね! どうしてお前しかいないのかしら。義兄さんの息子は優秀な者が多いのに……ああ、よりによって一番味噌っかすなアンタがヒューバートに一番歳が近いなんて!」
「……も、申し訳ありません、叔母上……」

 え!
 ランディとメリリア妃って親戚だったの!?
 おば、ってことは宰相とメリリア妃は兄妹!?
 し、知らなかった!
 貴族の相関図とかまだ習ってないけど、こりゃ急ぎ目で教わった方がいいかも!
 それにしてもなんか険悪というか……メリリア妃がランディを叱りつけてる?

「いいこと、お前みたいになんの才能にも恵まれなかった塵にも、義兄さんは役目を与えてくれたのよ! ありがたく思ってヒューバートを懐柔なさい! レオナルドが王太子になるのが理想だけれど、お前がヒューバートを操れればアレを引き摺り下ろすこともできるもの」

 は……?

「だいたい、なんで伯爵家のヒュリーが正妃で侯爵家のわたくしが側室なのよ。その時点で間違ってる! あんたもそう思うでしょ!」
「は、はい、叔母上!」
「そうよ! 間違いは正さなきゃいけないわ! レオナルドが次期国王になるのが正しいの! だってレオナルドは由緒正しいアダムス侯爵家の血を引いてるんだから! 我が家から王を出すのは、悲願なのよ!あと一歩、あと一歩なの! いい! 失敗は許されないわ! これ以上無能を晒すのなら、義兄さんに頼んで折檻してもらうんだからね! わかった!?」
「は、はい! わかりました! 二度と失敗しません! だ、だから鞭は……鞭はお許しを……!」
「気安く触るな!」

 ベシッと音を立てて、ランディがメリリア妃に叩かれて倒れる。
 震えが止まらない。
 メリリア妃、片手の数しか面識がない、俺の継母。
 聖殿派だとは、知ってたけど……なんという性悪女!
 ランディはまだ9歳だぞ!?
 子どもを殴るなんて!
 しかもあんなに罵って、無能? 味噌っかす?
 できなければ折檻? 暴力を振るうのか!?
 子どもに!?
 ……信じられない……なんてヤツだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※完結しました!(2024.5.11)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...