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ウソつき殿下の真の愛 3

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 オリヴァージュは、両親の私邸を訪れていた。
 約束の時間より、少し遅くなっている。
 デボラとトバイアスの受け入れについて、ヴィクトロスに雇い入れの準備を頼んでいたからだ。
 
 セラフィーナは、2人と親しかった。
 デボラは、彼女の友人とも言える。
 引き離して、セラフィーナを1人にする気はない。
 オリヴァージュは公務をしないが、それでも出かける時はあるのだ。
 それに、女性同士で話したいこともあるだろうし。
 
 トバイアスは男性ではあるが、嫉妬の対象から外れている。
 左手の薬指にはまっている指輪は、トバイアスが買ってきてくれたものだ。
 どうやら、幼いセラフィーナの言葉が、頭に刻まれているらしい。
 それが微笑ましくて、トバイアスには妬かずにいられる。
 オリヴァージュにしては、めずらしく。
 
「ナル、あなた、早く帰ったほうがいいわよ」
 
 私邸に着くなり、母であるアレクサンドラが、そう言った。
 玄関扉の前で追い返されるがごときざまに、首をかしげ、そして。
 
「まさか……」
 
 一瞬で、血の気が失せる。
 アレクサンドラは、両手を広げ、肩をすくめてみせた。
 
「なぜ止めてくださらなかったのですかっ?!」
「止められるわけないでしょう? ああいう時の、彼ったら、とっても面倒くさいのですもの」
 
 母の言葉に、オリヴァージュは呻く。
 が、すぐに判断した。
 
「母上、お話は、また後日」
「ナル、彼を追い返すのなら、ヴィッキーも寄越してね」
「わかっていますよ!」
 
 言うなり、パッと私室に転移する。
 とたん、イライラっとした。
 
「父上っ!!」
 
 父、エセルハーディがセラフィーナに抱き着いている。
 しかも、号泣中だ。
 涙もろいのはともかく、彼女に抱き着くな!と怒鳴りたくなる。
 
「ナ、ナル……」
 
 セラフィーナが困った顔をして、父の背中を撫でていた。
 オリヴァージュが戻るまで、なだめていてくれたらしい。
 ああ…と、情けなくなる。
 
 オリヴァージュの父は、こういう人なのだ。
 
 公務や魔術道具の開発では、優れた能力を持っている。
 なのに、家族のことになると、てんでだらしがない。
 母に対してもそうであるし、オリヴァージュに対しても。
 
「父上ッ! 今すぐ、彼女から離れてくださいっ!」
 
 2人に駆け寄り、セラフィーナから、父を引き剥がした。
 ようやくオリヴァージュに気づいたのだろう。
 その瞳から、また、ぼたぼたぼた。
 
「ナル! お前が……あの、小さなナルが……」
「父上、私は、もう26歳です……」
「大きくなって……こ、婚、婚姻……っ……」
 
 だーっと涙を流し、父がオリヴァージュに抱き着いてくる。
 オリヴァージュは、恥ずかしくてならない。
 セラフィーナが、ぽかんとした顔で、こちらを見ているからだ。
 
「わたっ……私の、むす、息子が……っ……こ、婚姻……っ……」
「わかりました! わかりましたから、父上! 落ち着いてください!」
「ナル! 私は、お前が……婚姻できるとは……っ……うう……っ……」
 
 父の中で、自分はいったいどう評価されていたのか。
 ともあれ、婚姻できそうにない、と思われていたのは確かだった。
 非常に心外である。
 
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「父上、急に出かけてしまわれたのでしょう? 母上が心配されていましたよ」
 
 ぴた。
 
 父の動きが止まった。
 これが最も効果的な手立てだと、オリヴァージュは、知っている。
 父は「愛情」よりも「愛」に弱いのだ。
 
「サンディが、私を心配していた?」
「ええ。父上を探しておられました」
「それは、いけない! すぐに帰らねば!」
 
 ぐすっと鼻をすすりつつも、父が表情を引き締める。
 この機を逃すわけにはいかない。
 
「ヴィッキー!」
 
 すかさず、ヴィクトロスを呼んだ。
 予想ずみだったらしく、ヴィクトロスは平然と姿を現した。
 3人のところまで歩み寄ってくる。
 
「点門を出そうか?」
「いいえ、それにはおよびません。エセルハーディ殿下は馬車でおいでです」
「父上を送って行ってくれ、ヴィッキー。頼む……」
「かしこまりました」
 
 ヴィクトロスが、父の肩を支えていた。
 涙は引っ込んだものの、まだ「しゃん」とはしていなかったからだろう。
 
「さぁ、エセルハーディ殿下。まいりましょう」
「ああ、わかった」
 
 歩き出しかけ、オリヴァージュのほうを、ちらっと振り向く。
 オリヴァージュは、にっこりしてみせた。
 
「お前が婚姻できるなど、まだ信じられないが……彼女には感謝している」
 
 ぴきぴきっと顔が引き攣りそうになる。
 が、ここで何か言えば、また号泣されるとわかっていたので、無言を貫いた。
 父がヴィクトロスと部屋を出るのを見とどけてから、大きく息をつく。
 とたん、笑い声が響いた。
 セラフィーナが、大口を開けて笑っている。
 
「ナルのお父さまって、最高ね! 最高に可愛らしい人だわ! 大好きよ!」
 
 オリヴァージュは、俄然、面白くない。
 彼は彼女から「大好き」と言われるまで、ずいぶんと苦労したのだ。
 
(なにが最高であるものか! 息子の許婚いいなずけに抱き着いて号泣だぞ!)
 
 心の中でだけ、父に悪態をつく。
 ともあれ、父は、オリヴァージュの嫉妬の対象として認識された。
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