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手並拝見 3
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セラフィーナは、美しくて可愛らしい女性だ。
遠回しな言いかたを好まず、言いたい放題。
飾りのない皮肉は、むしろ、ウィットに富んでいた。
貴族の令嬢らしくはないが、そこにもまた惹かれる。
「どこにも逃げられないわよ」
声に、2人で急停止。
走っていた先に、女性の魔術師が姿を現していた。
オリヴァージュは前に出て、セラフィーナを庇う。
「あなた1人なら、転移で逃げられるでしょう?」
女性が、首を傾け、セラフィーナを見るような仕草をした。
フードに隠れていて、実際に見ているかは、わからない。
けれど、言いたいことはわかった。
オリヴァージュが、セラフィーナに言わずにいたことだ。
転移は、基本的に自分が移動する手段として使う。
他者を連れて、転移することも、できなくはない。
その場合は、相手の意思が必要となる。
同意がなければ、転移できないのだ。
もちろん、この状況なら、セラフィーナが同意するのは間違いない。
だとしても、セラフィーナは連れて行けなかった。
彼女が、魔力顕現していないからだ。
魔力は人に影響を与える。
そのため、魔力耐性のないセラフィーナを連れて転移すると、彼女は必ず意識を失ってしまう。
意識を失う程度なら強行したかもしれない。
が、下手をすれば命を落とすこともあり得る。
考えれば、危険を冒すこととはできなかったのだ。
「見捨てて逃げたらどう?」
「私は魔術師だが、騎士道精神の持ち合わせもあるのさ」
「常に女性を守るべきだっていう、あれ?」
「古臭い厄介な風習さね」
魔術師の女性が、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
彼女も、貴族令嬢とは違うようだ。
さりとて、どんな何者だろうが、興味はないのだけれども。
「王族は、たいして魔力を持っていない」
「きみに感知される程度には持っていると思うがね」
「私より小さいのは確かよ」
「それでも、やるだけはやってみることにしよう」
オリヴァージュは、魔術を発動する。
黒くて細いナイフに似た武器が、何十本も現れた。
それが、女性に向かって飛んでいく。
「こんなもの、通用するはずがないでしょう?」
女性が、軽く手を振っただけで、それらは地面にバタバタと落ちた。
同じ魔術を、さらに発動する。
「あなたの力では、1種類が限界のようね」
またも、簡単に防がれてしまう。
攻撃系統の魔術は、そのひとつひとつを覚えるのは、たいして難しくない。
ただ、同時に何種類も発動しようとすると、とたんに難易度が上がる。
しかも、魔術師は、魔術の属性に対しての得手、不得手があった。
それらを複数使いこなし、かつ、同時発動するには、才能と努力が必要なのだ。
なにより維持できる魔力量の大きさが、ものをいう。
扱う魔術によって、消費する魔力量は異なっていた。
難易度の違いにも比例するが、属性を切り替えるだけでも消費する。
魔力を多く蓄積できる者のほうが格上、と見做されるのは当然だった。
「私は王宮魔術師じゃないから、彼らほどの力は持っていないわ。でも“半端者”としては、なかなかのものなの」
パシンっと、足元で光が爆ぜる。
実際に音がするわけではないものの、光の弾ける様子に、音を感じるのだ。
「それに、あなたはローブを着ていない。動きが丸見えなんて、魔術師にとっては致命的じゃないかしら?」
「今夜は、特別に、一張羅を引っ張り出してきたのになあ。お気に召さないとは、残念だよ」
オリヴァージュは、堅苦しい格好を好まない。
夜会に出席することも、ほとんどなかったし、公務も欠席続き。
必然的に、正装する用がなかった。
今夜は、本当に特別。
セラフィーナのためでなければ、こんな服装はしていない。
「早く、そこを退いてちょうだい。私にも都合というものがあるのだから」
「さっきも言ったが、古き騎士道精神が、私には重くのしかかっていてね」
「力づくで退かせるだけよ」
女性のローブが、わずかに動く。
とはいえ、手の動きまでもは見えなかった。
光の矢が幾本も飛んでくる。
防御の魔術を発動したが、すべては防ぎきれない。
「ナルッ!!」
肩に数本の矢が刺さっている。
こめかみをかすったものもあった。
オリヴァージュの体から血が流れ出す。
「この程度、心配いらないさ」
セラフィーナに声をかけながら、オリヴァージュも魔術を発動した。
が、彼の放った武器は途中で動きを変え、反転して戻ってくる。
ピシピシと、小さな光がオリヴァージュの周りで弾けた。
自分の魔術同士がぶつかり合い、防御が崩れている。
「これで、あなたを守るものは、なにもないわね」
言葉の終わりと同時に、正面から細かな針が大量に飛んできた。
オリヴァージュは、両手を大きく開く。
すべての攻撃を自分に吸い寄せる魔術を発動。
そうしなければ、後ろにいるセラフィーナに当たってしまうと判断したからだ。
(ラフィ、逃げるんだ)
(なに言ってるの……そんなこと……)
(私が食い止めている間に、逃げておくれ)
オリヴァージュの体は血に塗れている。
突き立った針は、体に傷を負わせたあと溶けてなくなっていた。
とはいえ、次が来るとわかってもいる。
「あと何回、耐えられるか、試してみましょうか?」
血が、白かったウエストコートもシャツも濡らしていた。
全身が痛む。
本物の痛みだ。
(逃げるんだよ、私の可愛い小鳥)
(嫌よ! なにもできないってわかってるけど……っ……)
(彼女は本気だ。共倒れになることはないさ)
促しているのに、セラフィーナは、オリヴァージュのコートを掴んで離さない。
彼は、口元に笑みを浮かべる。
これが、セラフィーナ・アルサリアという女性なのだ。
彼女は、怯えていなかった。
どんなに負けがこんでいようとも、セラフィーナは膝を屈したりはしない。
遠回しな言いかたを好まず、言いたい放題。
飾りのない皮肉は、むしろ、ウィットに富んでいた。
貴族の令嬢らしくはないが、そこにもまた惹かれる。
「どこにも逃げられないわよ」
声に、2人で急停止。
走っていた先に、女性の魔術師が姿を現していた。
オリヴァージュは前に出て、セラフィーナを庇う。
「あなた1人なら、転移で逃げられるでしょう?」
女性が、首を傾け、セラフィーナを見るような仕草をした。
フードに隠れていて、実際に見ているかは、わからない。
けれど、言いたいことはわかった。
オリヴァージュが、セラフィーナに言わずにいたことだ。
転移は、基本的に自分が移動する手段として使う。
他者を連れて、転移することも、できなくはない。
その場合は、相手の意思が必要となる。
同意がなければ、転移できないのだ。
もちろん、この状況なら、セラフィーナが同意するのは間違いない。
だとしても、セラフィーナは連れて行けなかった。
彼女が、魔力顕現していないからだ。
魔力は人に影響を与える。
そのため、魔力耐性のないセラフィーナを連れて転移すると、彼女は必ず意識を失ってしまう。
意識を失う程度なら強行したかもしれない。
が、下手をすれば命を落とすこともあり得る。
考えれば、危険を冒すこととはできなかったのだ。
「見捨てて逃げたらどう?」
「私は魔術師だが、騎士道精神の持ち合わせもあるのさ」
「常に女性を守るべきだっていう、あれ?」
「古臭い厄介な風習さね」
魔術師の女性が、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
彼女も、貴族令嬢とは違うようだ。
さりとて、どんな何者だろうが、興味はないのだけれども。
「王族は、たいして魔力を持っていない」
「きみに感知される程度には持っていると思うがね」
「私より小さいのは確かよ」
「それでも、やるだけはやってみることにしよう」
オリヴァージュは、魔術を発動する。
黒くて細いナイフに似た武器が、何十本も現れた。
それが、女性に向かって飛んでいく。
「こんなもの、通用するはずがないでしょう?」
女性が、軽く手を振っただけで、それらは地面にバタバタと落ちた。
同じ魔術を、さらに発動する。
「あなたの力では、1種類が限界のようね」
またも、簡単に防がれてしまう。
攻撃系統の魔術は、そのひとつひとつを覚えるのは、たいして難しくない。
ただ、同時に何種類も発動しようとすると、とたんに難易度が上がる。
しかも、魔術師は、魔術の属性に対しての得手、不得手があった。
それらを複数使いこなし、かつ、同時発動するには、才能と努力が必要なのだ。
なにより維持できる魔力量の大きさが、ものをいう。
扱う魔術によって、消費する魔力量は異なっていた。
難易度の違いにも比例するが、属性を切り替えるだけでも消費する。
魔力を多く蓄積できる者のほうが格上、と見做されるのは当然だった。
「私は王宮魔術師じゃないから、彼らほどの力は持っていないわ。でも“半端者”としては、なかなかのものなの」
パシンっと、足元で光が爆ぜる。
実際に音がするわけではないものの、光の弾ける様子に、音を感じるのだ。
「それに、あなたはローブを着ていない。動きが丸見えなんて、魔術師にとっては致命的じゃないかしら?」
「今夜は、特別に、一張羅を引っ張り出してきたのになあ。お気に召さないとは、残念だよ」
オリヴァージュは、堅苦しい格好を好まない。
夜会に出席することも、ほとんどなかったし、公務も欠席続き。
必然的に、正装する用がなかった。
今夜は、本当に特別。
セラフィーナのためでなければ、こんな服装はしていない。
「早く、そこを退いてちょうだい。私にも都合というものがあるのだから」
「さっきも言ったが、古き騎士道精神が、私には重くのしかかっていてね」
「力づくで退かせるだけよ」
女性のローブが、わずかに動く。
とはいえ、手の動きまでもは見えなかった。
光の矢が幾本も飛んでくる。
防御の魔術を発動したが、すべては防ぎきれない。
「ナルッ!!」
肩に数本の矢が刺さっている。
こめかみをかすったものもあった。
オリヴァージュの体から血が流れ出す。
「この程度、心配いらないさ」
セラフィーナに声をかけながら、オリヴァージュも魔術を発動した。
が、彼の放った武器は途中で動きを変え、反転して戻ってくる。
ピシピシと、小さな光がオリヴァージュの周りで弾けた。
自分の魔術同士がぶつかり合い、防御が崩れている。
「これで、あなたを守るものは、なにもないわね」
言葉の終わりと同時に、正面から細かな針が大量に飛んできた。
オリヴァージュは、両手を大きく開く。
すべての攻撃を自分に吸い寄せる魔術を発動。
そうしなければ、後ろにいるセラフィーナに当たってしまうと判断したからだ。
(ラフィ、逃げるんだ)
(なに言ってるの……そんなこと……)
(私が食い止めている間に、逃げておくれ)
オリヴァージュの体は血に塗れている。
突き立った針は、体に傷を負わせたあと溶けてなくなっていた。
とはいえ、次が来るとわかってもいる。
「あと何回、耐えられるか、試してみましょうか?」
血が、白かったウエストコートもシャツも濡らしていた。
全身が痛む。
本物の痛みだ。
(逃げるんだよ、私の可愛い小鳥)
(嫌よ! なにもできないってわかってるけど……っ……)
(彼女は本気だ。共倒れになることはないさ)
促しているのに、セラフィーナは、オリヴァージュのコートを掴んで離さない。
彼は、口元に笑みを浮かべる。
これが、セラフィーナ・アルサリアという女性なのだ。
彼女は、怯えていなかった。
どんなに負けがこんでいようとも、セラフィーナは膝を屈したりはしない。
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