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ネイサンは、豪奢な自室で物思いにふけっていた。
今夜は、サロンにも出かけていない。
昨日の夜のことを思い出している。
(セラフィーナ・アルサリアか)
背もたれから、脚の部分にまで細工の施された高級なカウチに、腰かけていた。
細工自体は意味不明だ。
けれど、名の知れた細工師の彫刻であることを、ネイサンは重視している。
私室に招いた女性に、いつだって、それを語って聞かせられるのだから。
ネイサンは、セラフィーナも、ここに呼び込もうと考えていた。
キャサリンからセラフィーナを「その気」にさせるように言われている。
女性を「その気」にさせたら、することはひとつ。
ネイサンは、自己顕示欲も強いが、即物的でもあった。
(写真で見た印象とは違っていた。あれほど魅力的な女性だとは思わなかったな)
夜会での会話、仕草、振る舞い。
どれをとっても、中級貴族の野暮な女性とは感じられない。
むしろ、洗練されていて、気を惹かれる。
お高くとまっているだけの令嬢とは違い、時折、ひどく無防備に見えた。
駆け引きのひとつではあるのだろうが、面白いと感じる。
簡単に落とせそうで落とせない。
従順そうでいて、どこか反抗的。
セラフィーナに対し、ネイサンは、狩猟に似た高揚を覚えていた。
彼女は、まるで美しい鹿のようだ。
棒立ちでこちらを見ていても直前に警戒心を働かせ、あっという間に姿を消す。
後を追い、確実に仕留めるのは難しい。
さりとて、困難が伴うことで、手にした成果への満足感は大きくなる。
テーブルで会話をしたのち、1曲だけダンスをした。
ワルツに合わせて踊る2人の姿に、周囲の視線が集まっていたのを、ネイサンは知っている。
とても気分が良かった。
もとよりセラフィーナの艶やかな赤毛は、目立つのだ。
貴族には金髪を好む者も多い。
が、彼女の赤毛は、なんともいえない色香を含んでいる。
派手過ぎず、嫌味がなく、なのに、人目を引く、という。
多くの男性客が、セラフィーナに声をかけたがっていたのは間違いない。
(彼らには悪いが、セラフィーナは、私の正妻候補なのでね)
ネイサンは、含み笑いをもらした。
優越感に、頭の先まで浸かっている。
羨望と嫉妬のまなざしは、ネイサンにとって心地良いものなのだ。
(おそらく……彼女は、まだ誰ともベッドをともにしていない……)
セラフィーナと実際に会ったのは、昨日が初めてだった。
噂に聞いたこともない。
ネイサンは、たいていの夜会には出席している。
格下の貴族の夜会では、ネイサンが行くというだけで有り難がられるのだから、欠席理由がなかった。
そのため、たいていの貴族令嬢とは顔見知り。
すなわち、セラフィーナの言葉通り「特別な夜会」でもない限り、彼女は夜会を蹴り続けてきたのだ。
だとすれば、男性と親密な関係になる機会もなかっただろう。
令嬢は、概して噂好きで、耳が早い。
それでも、セラフィーナの話は聞いたことがなかった。
(純潔というのも悪くはないさ。今までは面倒だと思ってきたが)
正妻にするのなら、男性経験のない女性のほうが相応しいかもしれない。
そんなふうに思い始めている。
遊ぶだけなら、手慣れた女性のほうが、面倒がなくてよかった。
とはいえ、婚姻後も奔放に振る舞われては困る。
セラフィーナなら、きっと貞淑な妻となるはずだ。
すべてを自らが教える、というのも、ネイサンの自己顕示欲を刺激する。
誰も歩いていない真っ白な雪の上に、自分が初めて踏み跡をつけるのだから。
今朝、ネイサンは、執事にセラフィーナのことを、再度、調べさせていた。
もちろん正妻候補とする前に、ひと通りは、報告がなされている。
さして詳しくもない、上っ面だけの報告だ。
新たな報告書には、詳しい情報が付け加えられていた。
それにより、考えを改めるべきかで、ネイサンは物思いにふけっている。
父の意向で決められた「正妻選び」を馬鹿にしていたが、結論に飛びつかなくて良かったのかもしれない。
少なくとも、キャサリン・ラウズワースが「最も」相応しいかどうかには疑問をいだきはじめている。
もっと注意深く吟味する必要があった。
キャサリンは派手な美人で、爵位も申し分ない。
公爵夫人として、問題なく屋敷を取り仕切ることは想像せずともわかる。
しかし、だ。
(キャサリンは、なんでも自分で決めたがるだろうな)
思って、顔をしかめた。
キャサリンに好き放題されるのは、気に食わない。
彼女の性格からすると、主としての面目を潰されかねないと感じる。
ネイサンは、キャサリンの気性を、よく知っていた。
ネイサンを尊重するより、己の主張を通そうとするに違いない。
キャサリンに、しばしば苛々させられるのは、そのせいだ。
彼女の思うように操られていると、わかっていた。
それは、キャサリンとの婚姻を、ネイサンも望んでいたからだけれども。
(セラフィーナは、自分の立場をわきまえていた。私に指図することはなかったし、控え目なところがいい)
婚姻しても、セラフィーナならば、あれこれ言うことはないだろう。
ネイサンを尊重し、引き立ててくれるに違いない。
頼りにされるのも気分が良さそうだ。
その上、外見的な魅力もある。
ネイサンは、報告書の内容を、頭の中で整理してみた。
そもそもキャサリンとの婚姻を望んでいたのは、ウィリュアートン公爵家に並ぶ派閥となるためだ。
ラウズワース公爵家は、下位貴族も多く、それなりに力を持っている。
だとしても、セラフィーナも悪くはない、との結論に達する。
ネイサンにすれば、どちらに転んでもいいのだ。
セラフィーナを口説き落とし「その気」にさせる。
これはキャサリンの頼みでもあるのだし。
仮に、セラフィーナに思ったような「利」がなければ、当初の予定通りにすればいい。
セラフィーナに恥をかかせ、キャサリンと婚姻をする。
どうこう言っても、セラフィーナは伯爵家の令嬢に過ぎない。
公爵家相手に文句の言える立場ではないのだ。
「しかし……キャサリンは、これを知らないのだろうな」
セラフィーナとの婚姻は、キャサリンと婚姻するのと同程度の価値がある。
セラフィーナの家自体に、ではないけれども。
父の見栄っ張りと、アルサリア伯爵の体裁主義により、セラフィーナを正妻候補として引っ張り出すことができた。
その偶然に、ネイサンは感謝する。
「いずれにせよ、私に損はないということだ」
今夜は、サロンにも出かけていない。
昨日の夜のことを思い出している。
(セラフィーナ・アルサリアか)
背もたれから、脚の部分にまで細工の施された高級なカウチに、腰かけていた。
細工自体は意味不明だ。
けれど、名の知れた細工師の彫刻であることを、ネイサンは重視している。
私室に招いた女性に、いつだって、それを語って聞かせられるのだから。
ネイサンは、セラフィーナも、ここに呼び込もうと考えていた。
キャサリンからセラフィーナを「その気」にさせるように言われている。
女性を「その気」にさせたら、することはひとつ。
ネイサンは、自己顕示欲も強いが、即物的でもあった。
(写真で見た印象とは違っていた。あれほど魅力的な女性だとは思わなかったな)
夜会での会話、仕草、振る舞い。
どれをとっても、中級貴族の野暮な女性とは感じられない。
むしろ、洗練されていて、気を惹かれる。
お高くとまっているだけの令嬢とは違い、時折、ひどく無防備に見えた。
駆け引きのひとつではあるのだろうが、面白いと感じる。
簡単に落とせそうで落とせない。
従順そうでいて、どこか反抗的。
セラフィーナに対し、ネイサンは、狩猟に似た高揚を覚えていた。
彼女は、まるで美しい鹿のようだ。
棒立ちでこちらを見ていても直前に警戒心を働かせ、あっという間に姿を消す。
後を追い、確実に仕留めるのは難しい。
さりとて、困難が伴うことで、手にした成果への満足感は大きくなる。
テーブルで会話をしたのち、1曲だけダンスをした。
ワルツに合わせて踊る2人の姿に、周囲の視線が集まっていたのを、ネイサンは知っている。
とても気分が良かった。
もとよりセラフィーナの艶やかな赤毛は、目立つのだ。
貴族には金髪を好む者も多い。
が、彼女の赤毛は、なんともいえない色香を含んでいる。
派手過ぎず、嫌味がなく、なのに、人目を引く、という。
多くの男性客が、セラフィーナに声をかけたがっていたのは間違いない。
(彼らには悪いが、セラフィーナは、私の正妻候補なのでね)
ネイサンは、含み笑いをもらした。
優越感に、頭の先まで浸かっている。
羨望と嫉妬のまなざしは、ネイサンにとって心地良いものなのだ。
(おそらく……彼女は、まだ誰ともベッドをともにしていない……)
セラフィーナと実際に会ったのは、昨日が初めてだった。
噂に聞いたこともない。
ネイサンは、たいていの夜会には出席している。
格下の貴族の夜会では、ネイサンが行くというだけで有り難がられるのだから、欠席理由がなかった。
そのため、たいていの貴族令嬢とは顔見知り。
すなわち、セラフィーナの言葉通り「特別な夜会」でもない限り、彼女は夜会を蹴り続けてきたのだ。
だとすれば、男性と親密な関係になる機会もなかっただろう。
令嬢は、概して噂好きで、耳が早い。
それでも、セラフィーナの話は聞いたことがなかった。
(純潔というのも悪くはないさ。今までは面倒だと思ってきたが)
正妻にするのなら、男性経験のない女性のほうが相応しいかもしれない。
そんなふうに思い始めている。
遊ぶだけなら、手慣れた女性のほうが、面倒がなくてよかった。
とはいえ、婚姻後も奔放に振る舞われては困る。
セラフィーナなら、きっと貞淑な妻となるはずだ。
すべてを自らが教える、というのも、ネイサンの自己顕示欲を刺激する。
誰も歩いていない真っ白な雪の上に、自分が初めて踏み跡をつけるのだから。
今朝、ネイサンは、執事にセラフィーナのことを、再度、調べさせていた。
もちろん正妻候補とする前に、ひと通りは、報告がなされている。
さして詳しくもない、上っ面だけの報告だ。
新たな報告書には、詳しい情報が付け加えられていた。
それにより、考えを改めるべきかで、ネイサンは物思いにふけっている。
父の意向で決められた「正妻選び」を馬鹿にしていたが、結論に飛びつかなくて良かったのかもしれない。
少なくとも、キャサリン・ラウズワースが「最も」相応しいかどうかには疑問をいだきはじめている。
もっと注意深く吟味する必要があった。
キャサリンは派手な美人で、爵位も申し分ない。
公爵夫人として、問題なく屋敷を取り仕切ることは想像せずともわかる。
しかし、だ。
(キャサリンは、なんでも自分で決めたがるだろうな)
思って、顔をしかめた。
キャサリンに好き放題されるのは、気に食わない。
彼女の性格からすると、主としての面目を潰されかねないと感じる。
ネイサンは、キャサリンの気性を、よく知っていた。
ネイサンを尊重するより、己の主張を通そうとするに違いない。
キャサリンに、しばしば苛々させられるのは、そのせいだ。
彼女の思うように操られていると、わかっていた。
それは、キャサリンとの婚姻を、ネイサンも望んでいたからだけれども。
(セラフィーナは、自分の立場をわきまえていた。私に指図することはなかったし、控え目なところがいい)
婚姻しても、セラフィーナならば、あれこれ言うことはないだろう。
ネイサンを尊重し、引き立ててくれるに違いない。
頼りにされるのも気分が良さそうだ。
その上、外見的な魅力もある。
ネイサンは、報告書の内容を、頭の中で整理してみた。
そもそもキャサリンとの婚姻を望んでいたのは、ウィリュアートン公爵家に並ぶ派閥となるためだ。
ラウズワース公爵家は、下位貴族も多く、それなりに力を持っている。
だとしても、セラフィーナも悪くはない、との結論に達する。
ネイサンにすれば、どちらに転んでもいいのだ。
セラフィーナを口説き落とし「その気」にさせる。
これはキャサリンの頼みでもあるのだし。
仮に、セラフィーナに思ったような「利」がなければ、当初の予定通りにすればいい。
セラフィーナに恥をかかせ、キャサリンと婚姻をする。
どうこう言っても、セラフィーナは伯爵家の令嬢に過ぎない。
公爵家相手に文句の言える立場ではないのだ。
「しかし……キャサリンは、これを知らないのだろうな」
セラフィーナとの婚姻は、キャサリンと婚姻するのと同程度の価値がある。
セラフィーナの家自体に、ではないけれども。
父の見栄っ張りと、アルサリア伯爵の体裁主義により、セラフィーナを正妻候補として引っ張り出すことができた。
その偶然に、ネイサンは感謝する。
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