15 / 64
逆効果なのです 3
しおりを挟む
あれから7日。
とにかく、ナルの「特訓」は厳しかった。
1日のうちで、ほとんどはダンスの練習に費やしている。
昼食後は歩きかたや振る舞いの練習もしていたが、1,2時間程度だ。
食後すぐは、動きが「もったり」するから、らしい。
(あれが、きっかけよね)
セラフィーナにも、ナルの厳しさの原因がなにか、気づいている。
さりとて「こんなに厳しくされるなら反抗しなければよかった」などとは思っていない。
ダンスの練習をするまではわからずにいたが、手にふれてみて、わかったことがあったのだ。
ナルは、自分を意識している。
それが、どういう種類の「意識」かはともかく、意識しているのは間違いない。
おそらく乗馬鞭を使っていたのは、直接、体にふれたくなかったからだろう。
もちろん「ご令嬢」に対する気遣いとしては、不思議ではなかった。
あらぬ噂を立てられないようにとの配慮とも言える。
が、セラフィーナは、そんなふうには思えずにいた。
ナルは、初日からセラフィーナを気遣ったりはしていない。
気遣いや配慮があるのなら、もとより乗馬鞭よりマシな方法を取ったはずだ。
夜に部屋を訪れてクローゼットを覗くような奴の、どこに気遣いがあると言えるのか。
そんな不躾で無遠慮なナルが、体にふれることにだけ「気遣い」をみせるのは、どう考えてもおかしい。
セラフィーナ自身、ナルの手を取った時、居心地が悪いと感じている。
指先から伝わるぬくもりや感触を、意識せずにはいられなかった。
同じように、ナルも自分を意識しているのではなかろうか。
なんとなく、そう感じた。
だから、試したのだ。
セラフィーナは恋愛経験なんて皆無だし、駆け引きだってしたことはない。
それでも、気づいた。
一瞬、ナルの瞳が揺らいだのを見逃さなかった。
ただ、経験値が低過ぎて、ナルの瞳に浮かんだものが、なんなのかまでは、わからずにいる。
気づいたのは、意識している、ということだけだった。
「ぼうっとしている時間はないのですけれどね」
指摘され、ハッとする。
すでに時間は夕方に近づいていた。
ダンスの練習が終わったあと、社交術について学んでいる最中だ。
昨日までは、言葉遣いやら挨拶の仕方やらを徹底して教わっていた。
新語も、かなり覚えてきている。
さりとて、父が嫌がると知っていたので、日常会話では使わない。
癖になってしまうと困る。
夕食の席で、うっかり口にしたりすれば、叱責されるだろうから。
「駆け引きなんて必要あるのかしら? 好き、嫌い、ダンスに誘いたい、どうでもいい、はっきり言ったほうが簡単じゃない?」
「簡単では面白くないでしょう?」
「遠回しな会話が、面白いとは思えないわ」
「貴族とは、そういうものなのですよ」
セラフィーナは、小さく溜め息をついた。
貴族の令嬢に生まれてはきたが、いつも馴染めなさのようなものは感じている。
父にしても兄たちにしても、体裁ばかりを気にしていて、よほどつまらない。
デボラと気楽な会話をしているほうが、セラフィーナには楽しかった。
社交術の中に含まれる、会話術を学んでいても、始終、馬鹿馬鹿しいと思う。
(どうして、いちいち歴史を引用したり、たとえ話にしたりしなきゃいけないの? 知りもしない偉人の言葉なんて、どうでもいいわよ)
誰かを引き合いに出さなければ、皮肉のひとつも言えない。
誰かの行動を、動物やら植物やらにたとえなければ、文句も言えない。
セラフィーナからすると、おそろしく窮屈だ。
そして、馬鹿馬鹿しくも、くだらない。
セラフィーナは、いつだって思ったことを口にしてきた。
表情を作ったこともなく、言いたい放題。
その代わり、相手の言いたい放題も許してきたのだ。
言い争いや口喧嘩になることもあったが、それはともかく。
自分の感情を読まれるのが嫌だと思ったのは、ナルが初めてだった。
それは、ナルが感情を見せないからかもしれない。
さりとて、ダンスの練習で、ナルにも感情があると気づいている。
知らず、セラフィーナは、ナルの感情に興味を持っていた。
「ダンスと似たようなものですよ。相手が押してくれば引く、引いてくれば押す。離れたり、引き寄せたり、相手の誘いをかわしたり、かわされたり」
「それの、どこが面白いのかしらね」
「相手が、どう思っているかの探り合い、といったところでしょうか」
「わかっていることもあるわけでしょう?」
「予測がついている場合も、少なくはありません」
ナルは平然としているが、セラフィーナはうんざりしている。
わかっていることを、遠回しに言うのが面倒なのだ。
また溜め息をつきかけて、ふと思った。
(探り合い……ナルが、どう思っているかは、わからない。わからないことを探るのは、無意味じゃないわよね……)
駆け引きというものが、どういうものか、具体的には頭に浮かばない。
それでも、ナルが相手の「駆け引き」ならば、してもいい気分になる。
なにしろナルは謎が多かった。
自分のことは話さないし、聞いても軽く流されてしまう。
たいていは、セラフィーナを怒らせて終わりだ。
「駆け引きには、思わせぶりな態度や仕草も必要となりきます。たとえば……」
「ナル、ちょっといい?」
説明しかかっていたナルの言葉を遮る。
ついっと眉を上げたナルにも、セラフィーナは動じない。
ナルを「探る」ほうに興味が向いていたからだ。
ナルお得意の乗馬鞭のことも忘れている。
「あなた、さっきダンスと似ている、と言ったでしょ?」
「言いましたね」
セラフィーナは、すくっと立ち上がった。
勉強部屋としている小ホールには、イスとテーブル以外にも、ソファがいくつかある。
少し離れた窓際には、長ソファも置いてあった。
その長ソファに、ゆったりと腰かける。
「お疲れなら、今日はここま……」
「疲れてないわ。駆け引きの練習をする気はあるの」
再び、ナルの言葉を遮った。
セラフィーナは、無自覚に「駆け引き」をしている。
それが危険だとも思わずに。
「ダンスと似ているのなら、相手は、あなたがするべきよ」
立ち上がらないナルに、わざとらしく肩をすくめてみせた。
少し離れているので、ナルの瞳の色にまでは気づかなかったのだ。
「相手がいたほうが、“上達”が早いって知っているでしょう? それとも……駆け引きではすまなくなるかしら?」
カタン…と、小さく音を立て、ナルが立ち上がる。
ダンスの際、床にわざと倒れた時と同じだ。
ざわざわと、空気が微妙にざわついている。
とにかく、ナルの「特訓」は厳しかった。
1日のうちで、ほとんどはダンスの練習に費やしている。
昼食後は歩きかたや振る舞いの練習もしていたが、1,2時間程度だ。
食後すぐは、動きが「もったり」するから、らしい。
(あれが、きっかけよね)
セラフィーナにも、ナルの厳しさの原因がなにか、気づいている。
さりとて「こんなに厳しくされるなら反抗しなければよかった」などとは思っていない。
ダンスの練習をするまではわからずにいたが、手にふれてみて、わかったことがあったのだ。
ナルは、自分を意識している。
それが、どういう種類の「意識」かはともかく、意識しているのは間違いない。
おそらく乗馬鞭を使っていたのは、直接、体にふれたくなかったからだろう。
もちろん「ご令嬢」に対する気遣いとしては、不思議ではなかった。
あらぬ噂を立てられないようにとの配慮とも言える。
が、セラフィーナは、そんなふうには思えずにいた。
ナルは、初日からセラフィーナを気遣ったりはしていない。
気遣いや配慮があるのなら、もとより乗馬鞭よりマシな方法を取ったはずだ。
夜に部屋を訪れてクローゼットを覗くような奴の、どこに気遣いがあると言えるのか。
そんな不躾で無遠慮なナルが、体にふれることにだけ「気遣い」をみせるのは、どう考えてもおかしい。
セラフィーナ自身、ナルの手を取った時、居心地が悪いと感じている。
指先から伝わるぬくもりや感触を、意識せずにはいられなかった。
同じように、ナルも自分を意識しているのではなかろうか。
なんとなく、そう感じた。
だから、試したのだ。
セラフィーナは恋愛経験なんて皆無だし、駆け引きだってしたことはない。
それでも、気づいた。
一瞬、ナルの瞳が揺らいだのを見逃さなかった。
ただ、経験値が低過ぎて、ナルの瞳に浮かんだものが、なんなのかまでは、わからずにいる。
気づいたのは、意識している、ということだけだった。
「ぼうっとしている時間はないのですけれどね」
指摘され、ハッとする。
すでに時間は夕方に近づいていた。
ダンスの練習が終わったあと、社交術について学んでいる最中だ。
昨日までは、言葉遣いやら挨拶の仕方やらを徹底して教わっていた。
新語も、かなり覚えてきている。
さりとて、父が嫌がると知っていたので、日常会話では使わない。
癖になってしまうと困る。
夕食の席で、うっかり口にしたりすれば、叱責されるだろうから。
「駆け引きなんて必要あるのかしら? 好き、嫌い、ダンスに誘いたい、どうでもいい、はっきり言ったほうが簡単じゃない?」
「簡単では面白くないでしょう?」
「遠回しな会話が、面白いとは思えないわ」
「貴族とは、そういうものなのですよ」
セラフィーナは、小さく溜め息をついた。
貴族の令嬢に生まれてはきたが、いつも馴染めなさのようなものは感じている。
父にしても兄たちにしても、体裁ばかりを気にしていて、よほどつまらない。
デボラと気楽な会話をしているほうが、セラフィーナには楽しかった。
社交術の中に含まれる、会話術を学んでいても、始終、馬鹿馬鹿しいと思う。
(どうして、いちいち歴史を引用したり、たとえ話にしたりしなきゃいけないの? 知りもしない偉人の言葉なんて、どうでもいいわよ)
誰かを引き合いに出さなければ、皮肉のひとつも言えない。
誰かの行動を、動物やら植物やらにたとえなければ、文句も言えない。
セラフィーナからすると、おそろしく窮屈だ。
そして、馬鹿馬鹿しくも、くだらない。
セラフィーナは、いつだって思ったことを口にしてきた。
表情を作ったこともなく、言いたい放題。
その代わり、相手の言いたい放題も許してきたのだ。
言い争いや口喧嘩になることもあったが、それはともかく。
自分の感情を読まれるのが嫌だと思ったのは、ナルが初めてだった。
それは、ナルが感情を見せないからかもしれない。
さりとて、ダンスの練習で、ナルにも感情があると気づいている。
知らず、セラフィーナは、ナルの感情に興味を持っていた。
「ダンスと似たようなものですよ。相手が押してくれば引く、引いてくれば押す。離れたり、引き寄せたり、相手の誘いをかわしたり、かわされたり」
「それの、どこが面白いのかしらね」
「相手が、どう思っているかの探り合い、といったところでしょうか」
「わかっていることもあるわけでしょう?」
「予測がついている場合も、少なくはありません」
ナルは平然としているが、セラフィーナはうんざりしている。
わかっていることを、遠回しに言うのが面倒なのだ。
また溜め息をつきかけて、ふと思った。
(探り合い……ナルが、どう思っているかは、わからない。わからないことを探るのは、無意味じゃないわよね……)
駆け引きというものが、どういうものか、具体的には頭に浮かばない。
それでも、ナルが相手の「駆け引き」ならば、してもいい気分になる。
なにしろナルは謎が多かった。
自分のことは話さないし、聞いても軽く流されてしまう。
たいていは、セラフィーナを怒らせて終わりだ。
「駆け引きには、思わせぶりな態度や仕草も必要となりきます。たとえば……」
「ナル、ちょっといい?」
説明しかかっていたナルの言葉を遮る。
ついっと眉を上げたナルにも、セラフィーナは動じない。
ナルを「探る」ほうに興味が向いていたからだ。
ナルお得意の乗馬鞭のことも忘れている。
「あなた、さっきダンスと似ている、と言ったでしょ?」
「言いましたね」
セラフィーナは、すくっと立ち上がった。
勉強部屋としている小ホールには、イスとテーブル以外にも、ソファがいくつかある。
少し離れた窓際には、長ソファも置いてあった。
その長ソファに、ゆったりと腰かける。
「お疲れなら、今日はここま……」
「疲れてないわ。駆け引きの練習をする気はあるの」
再び、ナルの言葉を遮った。
セラフィーナは、無自覚に「駆け引き」をしている。
それが危険だとも思わずに。
「ダンスと似ているのなら、相手は、あなたがするべきよ」
立ち上がらないナルに、わざとらしく肩をすくめてみせた。
少し離れているので、ナルの瞳の色にまでは気づかなかったのだ。
「相手がいたほうが、“上達”が早いって知っているでしょう? それとも……駆け引きではすまなくなるかしら?」
カタン…と、小さく音を立て、ナルが立ち上がる。
ダンスの際、床にわざと倒れた時と同じだ。
ざわざわと、空気が微妙にざわついている。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説

うっかり王子と、ニセモノ令嬢
たつみ
恋愛
キーラミリヤは、6歳で日本という国から転移して十年、諜報員として育てられた。
諜報活動のため、男爵令嬢と身分を偽り、王宮で侍女をすることになる。
運よく、王太子と出会えたはいいが、次から次へと想定外のことばかり。
王太子には「女性といい雰囲気になれない」魔術が、かかっていたのだ!
彼と「いい雰囲気」になる気なんてないのに、彼女が近づくと、魔術が発動。
あげく、王太子と四六時中、一緒にいるはめに!
「情報収集する前に、私、召されそうなんですけどっ?!」
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_11
他サイトでも掲載しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる