2度目も、きみと恋をする

たつみ

文字の大きさ
上 下
14 / 30

14.各々の分岐

しおりを挟む
 
「では、私は、きみに感謝するべきだな」
 
 ユリウスの声に、ハッとなった。
 それとともに、不可解な気分になる。
 時間が巻き戻されたことが、ユリウスの利益になったとは考えにくかったのだ。
 夢の内容を思い返しても、今は悪い状況のように思える。
 
(ノヴァドのことでカニンガム公爵家は中立を破り、第1王子支持に回ったけど、結果は第2王子のユリウスの勝利……)
 
 夢はバーバラの視点で動いていた。
 そのせいで、具体的に、どうやって政争に決着がついたのかまではわからない。
 夢の中のユリウスは、なにが起きているのかを話さなかったからだ。
 バーバラは、ユリウスが皇太子になったことだけを聞かされている。
 
「カニンガム公爵家が中立であるのは、ユリウス王子殿下にとって不利益では?」
「いいや、不利益ではないよ。公爵には、むしろ中立でいてもらわなければ困る」
「ですが、夢では……」
 
 ノヴァドを意識して、バーバラは口を閉じた。
 ノヴァドがバーバラをさらおうとして捕まり、それが原因でカニンガム公爵は第1王子につくことになったのだ。
 実質、ノヴァドがカニンガム公爵家を衰退させたも同然と言える。
 
(ノヴァドの後悔は、それ……? 自分のせいで、公爵家が力をなくしてしまった過去をやり直したかったのね)
 
 バーバラの夢は、ユリウスとの婚姻で終わり。
 続きがないため、その後、義父と義兄、それにノヴァドがどうなったのかまでは、わからない。
 
 政争の勝敗は家門に大きな影響を及ぼす。
 三大公爵家は建国時に多大な功績のあった家門であるため、簡単に処刑などはできない。
 だが、即位した新国王が、反対勢力にくみした家門を叛逆者だと感じ、警戒するのは当然だ。
 
 その結果、領地が召し上げられたり、血縁の遠い者が当主に据えられたりする。
 今のルウェリン公爵家に力がないのは、かつて政争に敗北したからだった。
 
「公爵が兄上を支持したのにもかかわらず、私が皇太子となった。それについて、きみはどう思う、ノヴァド?」
「ゼティマが、殿下を支持した、ことによるもの、です」
「どういうこと? ゼティマ公爵家は第1王子派でしょ?」
 
 ノヴァがうつむいたまま、ちらっと視線だけを投げてきた。
 丸めた背中をさらに丸めて、両肘を足に乗せている。
 
「ゼティマは、カニンガムを排除できるなら、なんでも、するよ」
「カニンガムの勢力はゼティマの脅威だからね。私の支持はルウェリンと民衆だ。ゼティマにとっては、カニンガムより御しやすい」
「だから、カニンガムが第1王子を支持した途端、裏切ったのですか?」
「いとも簡単に兄上を切り捨てて、私の支持に回ったよ」
 
 ユリウスが呆れたというように両手を広げてみせた。
 どうやらゼティマの支持を歓迎していなかったらしい。
 だが、時間が巻き戻ったおかげで、現在、ゼティマは第1王子派だ。
 
 とはいえ、カニンガムが中立である限り、2つの勢力の拮抗状態は続く。
 いずれ均衡が崩れ、大事おおごとになるかもしれない。
 
(夢だと、私が17歳になる前に、殿下は皇太子になってた)
 
 分岐はあるにしても、大まかな流れは過去と同じだ。
 ただ、どういう選択をするかによって、その分岐での結果は変わる。
 バーバラがユリウスに恋をしなかったように。
 
「殿下は皇太子の地位を望まれないのですか?」
「ゼティマの支持がなくては、私が皇太子になれないと思っているのかな?」
「いえ……政争で、人的被害が出るのを避けるには、どちらかが退く必要がございますので……恐れながら、殿下は民を犠牲にはなさらないと判断いたしました」
「その判断は、とても正しいよ。だからこそ、私はなんとしても王位につく必要がある。兄上が即位すれば、ゼティマは私を支持した民に圧政を敷くだろうからね」
 
 要は、ゼティマ公爵家が政治に強い力を持つことを、ユリウスは望んでいない、ということなのだ。
 たとえゼティマの支持を受け皇太子になれても、のちのちその勢力が邪魔になる。
 おまけにカニンガムが衰退したとなれば、三大公爵家としながらもゼティマ一強となってしまう。
 
「とはいえ、だ。膠着状態は、いつまでもは続かない。きみが言ったように、均衡が崩れれば人的被害も出る。民が暴動を起こせば鎮圧せざるを得ないし、そうした状況は、きみたちも望んでいないと思っているよ」
 
 ユリウスの言葉にも、ノヴァは動かない。
 なんだか急に不安が大きくなった。
 
「彼女を、連れて、行くのです、か?」
「ノヴァ! 私はどこにも行かないわ! どうして私が……っ」
「落ち着いてくれ、バーバラ嬢。私は、きみたちに、婚約を解消しろと言っているわけではない。ほんの少し力を貸してほしいだけだ」
「カニンガムは中立にございます!」
「そうだね。カニンガムは中立だよ。だが、きみはカニンガムではない」
 
 びくっと体が震える。
 バーバラはカニンガムで育ち、家族のように扱ってもらってきた。
 だとしても、正式には「レドナー」なのだ。
 
 カニンガムではない。
 
 ユリウスの青い瞳が、バーバラを見据えている。
 1度目とは異なり、優しい輝きはない。
 その青は、氷に映った空の色よりも冷たく見えた。
 
「私も言いたくて言うのではないのだけれど、いささかきみが失礼なので言わせてもらうよ? いいかい、バーバラ嬢」
 
 ユリウスがバーバラをまっすぐに見て言う。
 バーバラは、この瞳を知っていた。
 夢の中、いや、1度目に通った道で見たことがある。
 
「きみが私に恋をしていないように、私もきみに恋などしていない」
 
 それは、バーバラには見せたことのなかった、ユリウスが興味のない女性に向ける冷淡さだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】今も昔も、あなただけを愛してる。

刺身
恋愛
「僕はメアリーを愛している。僕としてはキミを愛する余地はない」  アレン・スレド伯爵令息はいくらか申し訳なさそうに、けれどキッパリとそう言った。  寵愛を理由に婚約について考え直すように告げられたナディア・キースは、それを受けてゆっくりと微笑む。 「その必要はございません」とーー。  傍若無人なメアリーとは対照的な性格のナディアは、第二夫人として嫁いだ後も粛々と日々を送る。  そんな関係性は、日を追う毎に次第に変化を見せ始めーー……。  ホットランキング39位!!😱 人気完結にも一瞬20位くらいにいた気がする。幻覚か……? お気に入りもいいねもエールもめっちゃ励みになります! 皆様に読んで頂いたおかげです! ありがとうございます……っ!!😭💦💦  読んで頂きありがとうございます! 短編が苦手過ぎて、短く。短く。と念じながら書いておりましたがどんなもんかちょっとわかりません。。。滝汗←  もしよろしければご感想など頂けたら泣いて喜び反省に活かそうと思います……っ!  誤用や誤字報告などもして下さり恐縮です!!勉強になります!!  読んで下さりありがとうございました!!  次作はギャグ要素有りの明るめ短編を目指してみようかと思います。。。 (すみません、長編もちゃんと覚えてます←💦💦)  気が向いたらまたお付き合い頂けますと泣いて喜びます🙇‍♀️💦💦  この度はありがとうございました🙏

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

理不尽陛下と、跳ね返り令嬢

たつみ
恋愛
貴族令嬢ティファナは冴えない外見と「変わり者」扱いで周囲から孤立していた。 そんな彼女に、たった1人、優しくしてくれている幼馴染みとも言える公爵子息。 その彼に、突然、罵倒され、顔を引っ叩かれるはめに! 落胆しながら、その場を去る彼女は、さらなる悲劇に見舞われる。 練習用魔術の失敗に巻き込まれ、見知らぬ土地に飛ばされてしまったのだ! そして、明らかに他国民だとわかる風貌と言葉遣いの男性から言われる。 「貴様のごとき不器量な女子、そうはおらぬ。憐れに思うて、俺が拾うてやる」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_3 他サイトでも掲載しています。

放蕩公爵と、いたいけ令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢のシェルニティは、両親からも夫からも、ほとんど「いない者」扱い。 彼女は、右頬に大きな痣があり、外見重視の貴族には受け入れてもらえずにいた。 夫が側室を迎えた日、自分が「不要な存在」だと気づき、彼女は滝に身を投げる。 が、気づけば、見知らぬ男性に抱きかかえられ、死にきれないまま彼の家に。 その後、屋敷に戻るも、彼と会う日が続く中、突然、夫に婚姻解消を申し立てられる。 審議の場で「不義」の汚名を着せられかけた時、現れたのは、彼だった! 「いけないねえ。当事者を、1人、忘れて審議を開いてしまうなんて」 ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_8 他サイトでも掲載しています。

私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください

みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。 自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。 主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが……… 切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...