2度目も、きみと恋をする

たつみ

文字の大きさ
上 下
5 / 30

5.彼女の想い

しおりを挟む
 パソコン機器の修理や取扱を行うコールセンターでの仕事も、入社三年目を越えて、だいぶ板についた接客と対応をできるようになっていたころから、比例するようにして人付き合いが億劫になっていた。

 だからこそ、恋愛に興味が湧かない。人付き合いの極みである恋愛は、穏やかでい続けたいプライベートを消耗する。

(だって、毎日面倒くさい人とかかわっているんだから。そりゃ、人嫌いにもなるさ……)

 毎日かかってくる大量のクレームやとんちんかんな質問に、腹を立てることすらなくなってきていたのだが、どこかでうっぷんは溜まっていた。

 すでに入社六年目、二十八というお年頃。仕事を頑張るためにそれらを発散させる手段が、一人酒をお気に入りの居酒屋で飲むという、何とも色気のない行動になってしまったのは、万葉かずはが根っからの日本酒好きだったからだ。

 黒色の御影石を基調とした壁がオシャレな雰囲気の、女性一人で入ってもカウンターでゆっくり落ち着いてお酒を飲める店が、万葉のお気に入りの居酒屋だった。

 行きつけとなったその居酒屋で、万葉は三年も前からずっと毎週二回、一人酒を楽しんでいる。必ず月曜日と木曜に行く居酒屋に、今日もラスト一日の金曜日を迎え撃つ準備のために向かった。

「お疲れ様でーす!」

「お。恵ちゃんは、今日は一人酒の息抜きタイムの日かな?」

 隣の席で伸びをしていた、元夜の蝶であった先輩、長谷部桃花はせべももかが話しかけてきて、万葉はにこにこしながら頷いた。

「最近ではお一人様女子という言葉があるらしいの。一人酒じゃ色気ないけど、お一人様と言えば聞こえがいいとテレビで言ってたから」

「って言っても、やってることは同じだろう」

 丸めた資料で頭をぽこんと叩かれて、万葉が振り返ると同期でチューターの新海成史しんかいなりふみが、口をへの字に曲げていた。

「結局は日本酒酒浸り、乙女系マスターに愚痴を聞いてもらうという、酔っぱらいの極み。色気もへったくれもないだろ」

「大きなお世話よ、新海。色気なくても生きて行けるし。成績だって先月は悪くなかったんだし」

 それだけどな、と新海が丸めていた資料を広げた。

「見ろよ。また遠藤に抜かれるぞ?」

 広げられた資料を桃花とともにのぞき込むと、今月の中間報告が上がってきていた。桃花が「わーお」と声を上げる。

 そこには、万葉の後輩である遠藤が、僅差で万葉の成績を抜いている。月初の時点では万葉の方に軍配が上がっていたのだが、現時点では遠藤がリードをしていた。そして、こうなってくると、遠藤がいつも大手で勝ち逃げなのを、万葉も知っていた。

「こうなってくると、また恵ちゃん二位キープじゃない?」

「そーゆーフラグだよな、これは。いつものパターンってやつ。新年一発目は良かったんだ、続けて今月も抜いとかないと、さすがに先輩の威厳もかすむぞ?」

 二人に言われて、万葉はあからさまにむっとして口を尖らせた。

「だって仕方ないじゃん、遠藤の方が明らかにクレーム少ないし」

 万葉は成績がプリントアウトされた資料を見て、大きく落胆した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

これでお仕舞い~婚約者に捨てられたので、最後のお片付けは自分でしていきます~

ゆきみ山椒
恋愛
婚約者である王子からなされた、一方的な婚約破棄宣言。 それを聞いた侯爵令嬢は、すべてを受け入れる。 戸惑う王子を置いて部屋を辞した彼女は、その足で、王宮に与えられた自室へ向かう。 たくさんの思い出が詰まったものたちを自分の手で「仕舞う」ために――。 ※この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...