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それでも嫉妬はするのです 2
しおりを挟む「しかしな、ルーナ」
「嫌」
「ルーナ」
「嫌」
ルーナが、首を横に振る。
ユージーンにしがみついたままで、顔を上げようとしない。
「お前は、大きくなったのだろ? 大人になったのではないのか?」
「嫌」
どうあっても、降りる気はないようだ。
ルーナを抱きかかえたまま、ユージーンは歩いている。
王宮内で夜会は開かれていたが、ユージーンの私室まで、少し距離があった。
「俺は、かまわんがな」
そう、ルーナを降ろそうとしたのは、なにもユージーンが疲れるからではない。
剣や武術の鍛錬を怠っていないので、体もなまっていないのだ。
それに、ルーナ本人にも言ったが、彼女は軽い。
かかえて歩いたからといって、なにほどのこともなかった。
とはいえ。
目立つ。
夜会服姿で、抱きかかえられているルーナは目立つのだ。
もちろんユージーンは「自分も」目立っているなんて思っていない。
ルーナだけが注目されていると思っている。
おおむねユージーンの意識は、自分を中心に物事を判断していた。
そのため、自分自身については、疎いところがある。
鏡を見なければ自分の姿は見えない、という状態に等しい。
(足が痛いと言っているのだ。無理に歩かせることもあるまい)
目立つのをルーナが嫌がるだろうと思い、声をかけただけだ。
気にしていないのなら、このままでもかまわない。
そういえば、と思う。
(夜会には、良い記憶がなかろうな)
ラシュビー主催の夜会では、キャラックに襲われ、今夜も嫌な思いをしている。
そもそも、6歳になる少し前、キャラックに髪を引っ張られたパーティーだって夜会と言えば夜会だ。
ルーナと夜会は、相性が悪い。
夜会に出たがらないのは、そのせいかもしれないと思えた。
ユージーンは、ルーナを「抱っこ」で、スタスタと歩く。
廊下に立ち並んだ近衛騎士たちの視線も気にしない。
姿の見えない魔術師たちも注目しているのだが、見えていないので、当然、気にもならない。
あとのことを頼むため、夜会に出席していたトラヴィスとサンジェリナのところにも、この状態で行ったのだ。
(トラヴィスは、なぜあのように詫びていたのか……わからん)
サンジェリナも、なにやら申し訳なさそうな顔をしていた。
が、ユージーンにとっては「いつものこと」だ。
彼らが、申し訳ながる気持ちがわからずにいる。
世話を焼いていてもユージーンは他人であり、恋人でもない。
両親が娘の「我儘」を詫びたくなるのは「普通のこと」だが、それはともかく。
「部屋に戻ったら、足を看てやる」
ちらっと、ルーナの足先に視線を向けた。
小さな足だ。
ヒールの高い真新しい靴は、まだルーナの、その足に馴染んでいない。
それほど長くいたわけではないが、ずっと痛みを我慢していたのだろう。
私室に着くと、立っていた近衛騎士の1人が扉を開く。
ユージーンには自然なことなので、礼は言わない。
室内に入ると、扉が閉められた。
「着いたぞ?」
声をかけても、ルーナは無言。
まだ降りる気にならないらしい。
「だが、こうしていては、足を看てやれん」
無言。
しかたなく、そのままソファに座った。
ルーナは、まだユージーンの首にしがみついている。
よほど、キースリーの件が堪えたに違いない。
(ようやく婚姻に前向きになっていたところを、台無しにされたのだ。気が滅入るのもしかたがない)
ルーナは、ちっとも落ち込んでいないのだが、ユージーンは気づかずにいる。
ただ甘えているだけ、とは思わなかったのだ。
なにしろルーナは「大人になった」ので。
「ともかく、靴は脱いだほうがよい」
抱きかかえたままなので、ルーナの膝の裏に、ユージーンは腕を回していた。
その腕で、膝を立てさせ、足先を引き寄せる。
膝裏から腕を抜き、手を伸ばした。
片手で、ゆっくりと丁寧に靴を脱がせる。
もう片方の腕は、ルーナの背中を支えているため、使えなかったのだ。
「少し、赤くなっているようだ。魔術師を呼んで、治癒を……」
「嫌」
ルーナが、嫌々と首を横に振る。
ユージーンは宥めるように、ルーナの頭を撫でた。
「だが、このままでは痛かろう」
ルーナは、また無言。
やはり、かなり衝撃を受けているようだ。
少し落ち着くまで待つことにした。
あんな事態になったのだから、無理もない。
と、ユージーンは思っている。
「俺の調べが甘かったのだ。もっと“念入り”に調査すべきであった」
これだから、人任せにはできない。
誰もかれも、どこかしら適当なところがあって困る。
ユージーンの思う「調査」と一般的な「調査」では、詳細さに大きな開きがあるため、納得できないだけなのだけれども。
「あのような者を、お前に近づけてしまったのを悔やんでいる」
ルーナが、パッと顔を上げた。
それから、手を伸ばしてくる。
注意深くといった様子で、静かにユージーンの頬にふれてきた。
「痛い?」
ルーナは、まるで自分が殴られたみたいな顔をしている。
本当なら、メレディスの手を、颯爽と掴み、止めたかった。
けれど、間に合わないと判断し、ルーナとの間に、体を割り込ませたのだ。
結果、殴られた。
「いや、俺には痛みの耐性があるのでな。あれしきのことで痛いなどとは思わん」
薪割りや芋の皮剥きや縫い物で負った怪我に比べれば。
ユージーンは、ローエルハイドの屋敷で勤め人をしていた頃、しょっちゅう流血沙汰を起こしていた。
流血そのものもだが、それよりもユージーンの平然とした態度に、周囲は「ドン引き」だった。
それくらい、ユージーンは、体の痛みには耐性が、ある。
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