16 / 84
そんなことってアリですか? 4
しおりを挟む
セスの言う通り、と思うのは癪だが、確かにまだ2回の勝負が残されている。
1回負けただけのことだ。
気を取り直して、集中する。
それでも、緊張から、体に力が入っていた。
負ければ終わり、あとがない。
逃げることもできないのだから、否応なく、体を差し出すはめになる。
こんな「初夜」は、絶対にごめんだ。
セスにも言ったが、ベッドをともにするなら、愛する人とでなければ、と思う。
貴族の中には、遊蕩を好む者も多かった。
けれど、ティファの近しい人たちは、ほとんどが愛し愛される関係を結び、婚姻しているのだ。
ティファにとって、婚姻とはそういうもの、という意識が強い。
(でも……次で負けたら……いや、弱気になってると負けるから!)
ティファは、必死で気持ちを奮い立たせた。
緊張に、全身がつつまれている。
余裕な顔をしているセスが、本当に憎たらしい。
とはいえ、すでに1勝しているので、余裕があるのは当然だ。
だいたい、勝負に負けたところで、セスは痛くも痒くもないだろう。
ちょっとした欲求不満をかかえることになるかもしれないけれど。
(なんか……それすらなさそうだし! 仮に、そうなったとしても、セスは寝所役復活させればすむだけだもんね! まったく困んないよね!)
切羽詰まっているティファとは、状況が違う。
絶対に負けるわけにはいかないティファと、負けてもかまわないセス。
精神的に、セスが圧倒的に有利なのだ。
無意識に、ティファの喉が上下する。
手に汗をかいていた。
焦ってはいけないと思うのに、動揺が抑え込めない。
心臓も、勝手に鼓動を速めている。
「いかがした? 臆しておるのか? ならば、勝負そのものを取りやめても……」
「やります。取りやめはしません」
「ならば、早ういたせ。夜も更けてきておる」
ふう…と息を吐き、気合いを入れ直した。
どの道、勝負を放棄する、との考えは、ティファにはないのだ。
ぎゅっと手を握り、口を開く。
「じゃんけん……ぽんっ!」
ティファの出した手と、セスの出した手が視界におさまっていた。
くら…と、眩暈がする。
「俺が石で、貴様は鋏。どういうことか、わかっておろうな?」
嫌というほどわかっていた。
わかりたくもないし、認めたくもないけれども。
ティファの負けだ。
3回勝負での2回の負け。
取り戻しはきかない。
3回目の「じゃんけん」はないのだ。
へた…と、両手が膝の上に、力なく落ちる。
がっくりと、うなだれた。
(もう……逃げ場ないよ……がっつり捕まえられてるし……)
セスは、ティファを膝に乗せたままだ。
腰に回された手も離れていない。
逃がす気はない、と言わんばかりだった。
「あと1度、勝負が残っておったか」
3回勝負で、2回連続の負け。
勝敗はついているのだから、3回目をする意味はない。
「3回勝負と言うたであろう?」
「やっても意味はありません」
「ならば、勝負はしまいでよいな?」
うぐ…と、言葉に詰まった。
勝敗は決まっている。
けれど、悔しい。
なにもできずに終わってしまうのは。
ティファは顔を上げて、セスを見た。
涼しい顔をして、余裕綽々で、嫌味なほどに恰好いい。
こういう状況でもなければ、少しは見惚れていたかもしれない、と思う。
(こんだけ理不尽な男でも……国王じゃなくても……ここがロズウェルドでも……セスは、モテまくりだっただろうな……なんか、それもムカつく……)
もしロズウェルドの夜会に、セスが現れたなら、大勢の貴族令嬢に囲まれるのは間違いない。
ダンスができるのかは知らないが、きっと堂々とした振る舞いで、軽くかわしていくだろう。
容易く想像できてしまうところが、憎たらしい。
「意味はありませんが、やります」
なんとしても、一矢報いたかった。
顔を上げ、ティファは、手を握り締める。
「いざ、勝負! じゃーんけん……ぽんっ」
出した、互いの手。
それを、じっと見つめた。
ぱぁあああと、気持ちが明るくなる。
「やった! 勝った! 最後は、私の勝ちー!」
ティファは紙で、セスは石だったのだ。
勝敗には関わらないけれど、嬉しかった。
全敗より、ずいぶんとマシだ。
が、唐突に、疑念がわく。
「まさか、わざと負けたのではないですか?」
「たわけたことを抜かす。さようなことを、なにゆえ俺がせねばならぬのか」
「それは……そうですね」
連続で2回も負け越していたので、つい疑ってしまった。
が、まさしく、セスには、わざと負ける理由がない。
「はなから、そうしておれば、勝てておったやもしれぬものを」
「そうして、とは……?」
「力の入れ過ぎが、貴様の出す手を読み易うしておったという話だ」
ティファは、きょとんと首をかしげる。
緊張と不安から、気負っていたのは自覚があった。
だとしても、読み易いと言われるほどだっただろうか。
そもそも、出す手は3種類あるのだ。
どれを出すかは、3分の1の確率になる。
「1度目は、気負い過ぎて、握った手を、そのまま出したろう。2度目は、さらに気負って、あえて出しにくい鋏の形を意識しておったな」
追い詰められた状況にもかかわらず、ティファは、感心していた。
セスは、とても頭がいいようだ。
洞察力にも優れている。
きちんと考えて勝負をしていた。
(それに比べて、私は……勝つことしか頭になくて、セスのこと見てなかった)
最後の勝負には勝ったけれど、それこそ偶然に過ぎないのだ。
たまたま出した手が良かった、というだけで、セスの手を読んだのではない。
「勝負においては、相手に手を読まれぬのが肝要。下手な小細工なぞするよりも、偶然が良い目を運ぶこともあろうよ」
しょんぼりしていたティファの頭を、セスがゆるく撫でてくる。
なんとなく、ティファは、セスの顔を見上げた。
「貴様に寝所役は、まだ、ちと荷が勝ち過ぎておるようだな。しばし世話役としてやるゆえ、まっとういたせ」
「え……?」
「勝負を捨てず、挑んだ褒美と思うておけ」
目をしばたたかせるティファに、セスが、ニッと笑う。
どうやら「初夜」からは逃れられたらしい。
「ぅわ……っ……」
ティファの体が、ふわっと浮いた。
セスに抱き上げられている。
びっくりしているティファに、セスが当然という顔で言った。
「まずは、召し替えだ」
1回負けただけのことだ。
気を取り直して、集中する。
それでも、緊張から、体に力が入っていた。
負ければ終わり、あとがない。
逃げることもできないのだから、否応なく、体を差し出すはめになる。
こんな「初夜」は、絶対にごめんだ。
セスにも言ったが、ベッドをともにするなら、愛する人とでなければ、と思う。
貴族の中には、遊蕩を好む者も多かった。
けれど、ティファの近しい人たちは、ほとんどが愛し愛される関係を結び、婚姻しているのだ。
ティファにとって、婚姻とはそういうもの、という意識が強い。
(でも……次で負けたら……いや、弱気になってると負けるから!)
ティファは、必死で気持ちを奮い立たせた。
緊張に、全身がつつまれている。
余裕な顔をしているセスが、本当に憎たらしい。
とはいえ、すでに1勝しているので、余裕があるのは当然だ。
だいたい、勝負に負けたところで、セスは痛くも痒くもないだろう。
ちょっとした欲求不満をかかえることになるかもしれないけれど。
(なんか……それすらなさそうだし! 仮に、そうなったとしても、セスは寝所役復活させればすむだけだもんね! まったく困んないよね!)
切羽詰まっているティファとは、状況が違う。
絶対に負けるわけにはいかないティファと、負けてもかまわないセス。
精神的に、セスが圧倒的に有利なのだ。
無意識に、ティファの喉が上下する。
手に汗をかいていた。
焦ってはいけないと思うのに、動揺が抑え込めない。
心臓も、勝手に鼓動を速めている。
「いかがした? 臆しておるのか? ならば、勝負そのものを取りやめても……」
「やります。取りやめはしません」
「ならば、早ういたせ。夜も更けてきておる」
ふう…と息を吐き、気合いを入れ直した。
どの道、勝負を放棄する、との考えは、ティファにはないのだ。
ぎゅっと手を握り、口を開く。
「じゃんけん……ぽんっ!」
ティファの出した手と、セスの出した手が視界におさまっていた。
くら…と、眩暈がする。
「俺が石で、貴様は鋏。どういうことか、わかっておろうな?」
嫌というほどわかっていた。
わかりたくもないし、認めたくもないけれども。
ティファの負けだ。
3回勝負での2回の負け。
取り戻しはきかない。
3回目の「じゃんけん」はないのだ。
へた…と、両手が膝の上に、力なく落ちる。
がっくりと、うなだれた。
(もう……逃げ場ないよ……がっつり捕まえられてるし……)
セスは、ティファを膝に乗せたままだ。
腰に回された手も離れていない。
逃がす気はない、と言わんばかりだった。
「あと1度、勝負が残っておったか」
3回勝負で、2回連続の負け。
勝敗はついているのだから、3回目をする意味はない。
「3回勝負と言うたであろう?」
「やっても意味はありません」
「ならば、勝負はしまいでよいな?」
うぐ…と、言葉に詰まった。
勝敗は決まっている。
けれど、悔しい。
なにもできずに終わってしまうのは。
ティファは顔を上げて、セスを見た。
涼しい顔をして、余裕綽々で、嫌味なほどに恰好いい。
こういう状況でもなければ、少しは見惚れていたかもしれない、と思う。
(こんだけ理不尽な男でも……国王じゃなくても……ここがロズウェルドでも……セスは、モテまくりだっただろうな……なんか、それもムカつく……)
もしロズウェルドの夜会に、セスが現れたなら、大勢の貴族令嬢に囲まれるのは間違いない。
ダンスができるのかは知らないが、きっと堂々とした振る舞いで、軽くかわしていくだろう。
容易く想像できてしまうところが、憎たらしい。
「意味はありませんが、やります」
なんとしても、一矢報いたかった。
顔を上げ、ティファは、手を握り締める。
「いざ、勝負! じゃーんけん……ぽんっ」
出した、互いの手。
それを、じっと見つめた。
ぱぁあああと、気持ちが明るくなる。
「やった! 勝った! 最後は、私の勝ちー!」
ティファは紙で、セスは石だったのだ。
勝敗には関わらないけれど、嬉しかった。
全敗より、ずいぶんとマシだ。
が、唐突に、疑念がわく。
「まさか、わざと負けたのではないですか?」
「たわけたことを抜かす。さようなことを、なにゆえ俺がせねばならぬのか」
「それは……そうですね」
連続で2回も負け越していたので、つい疑ってしまった。
が、まさしく、セスには、わざと負ける理由がない。
「はなから、そうしておれば、勝てておったやもしれぬものを」
「そうして、とは……?」
「力の入れ過ぎが、貴様の出す手を読み易うしておったという話だ」
ティファは、きょとんと首をかしげる。
緊張と不安から、気負っていたのは自覚があった。
だとしても、読み易いと言われるほどだっただろうか。
そもそも、出す手は3種類あるのだ。
どれを出すかは、3分の1の確率になる。
「1度目は、気負い過ぎて、握った手を、そのまま出したろう。2度目は、さらに気負って、あえて出しにくい鋏の形を意識しておったな」
追い詰められた状況にもかかわらず、ティファは、感心していた。
セスは、とても頭がいいようだ。
洞察力にも優れている。
きちんと考えて勝負をしていた。
(それに比べて、私は……勝つことしか頭になくて、セスのこと見てなかった)
最後の勝負には勝ったけれど、それこそ偶然に過ぎないのだ。
たまたま出した手が良かった、というだけで、セスの手を読んだのではない。
「勝負においては、相手に手を読まれぬのが肝要。下手な小細工なぞするよりも、偶然が良い目を運ぶこともあろうよ」
しょんぼりしていたティファの頭を、セスがゆるく撫でてくる。
なんとなく、ティファは、セスの顔を見上げた。
「貴様に寝所役は、まだ、ちと荷が勝ち過ぎておるようだな。しばし世話役としてやるゆえ、まっとういたせ」
「え……?」
「勝負を捨てず、挑んだ褒美と思うておけ」
目をしばたたかせるティファに、セスが、ニッと笑う。
どうやら「初夜」からは逃れられたらしい。
「ぅわ……っ……」
ティファの体が、ふわっと浮いた。
セスに抱き上げられている。
びっくりしているティファに、セスが当然という顔で言った。
「まずは、召し替えだ」
3
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。
和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。
「次期当主はエリザベスにしようと思う」
父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。
リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。
「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」
破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?
婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。
継母と元婚約者が共謀して伯爵家を乗っ取ろうとしたようですが、正式に爵位を継げるのは私だけですよ?
田太 優
恋愛
父を亡くし、継母に虐げられ、婚約者からも捨てられた。
そんな私の唯一の希望は爵位を継げる年齢になること。
爵位を継いだら正当な権利として適切に対処する。
その結果がどういうものであれ、してきたことの責任を取らせなくてはならない。
ところが、事態は予想以上に大きな問題へと発展してしまう。
【完結】結婚しておりませんけど?
との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」
「私も愛してるわ、イーサン」
真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。
しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。
盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。
だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。
「俺の苺ちゃんがあ〜」
「早い者勝ち」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\
R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる