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最終章 彼女の会話はとめどない
思想の差異 4
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フィッツの言うことは正しいのだろう。
たぶん。
国同士で戦っているのだ。
どういう手段が最も効果的かを考えることが必要とされる。
それが、より良い結果に繋がるからこそ、フィッツは提案しているのだと、そう思ってはいた。
だとしても、無差別との発想に、どうしても抵抗感をいだいてしまう。
完全には、この世界の住人になれていないからだろうか。
元の世界では、建前ではあっても、民間人は戦闘の対象ではなかった。
彼女は、実際の戦争を知らない世代だったし、平和な毎日を生きてきたのだ。
現実の「戦」を知ったのは、この前の戦いが初めてだった。
フィッツを喪い、これほどまでに誰かを憎む心が自分の中にあったのか、と思うほど、憎悪の感情を思い知らされてもいる。
2度と喪いたくないとの思いもあるので、フィッツの言うことは正しいのだろうと、わかってはいるのだ。
それでも、なんの抵抗もできない、罪のない人々から、平和な毎日を取り上げることを、承服しかねている。
魔物たちは、具体的にイメージできていないかもしれない。
けれど、キャスの中には、ありありと結果が見えていた。
ある日、突然、予告もなく訪れる事故や災害。
それに近いものだ。
近所の工場が爆発したり、地震が起きたり。
フィッツがしようとしているのは、そういう事象と変わらない。
事故や自然によるものではなく、故意という点を除けば。
「でもさ、無差別っていうのは……」
「おい、ちょっと待てよ」
フィッツに別の方法はないかと、問おうとした言葉が制止されていた。
内心、キャスは、ぎくりとしている。
自分の持つ「矛盾」に、どこか気づいていたからだ。
「お前、無差別は駄目だとか抜かす気か? あのミサイルっていうのは、そういう武器だったはずだ。違うか?」
アヴィオの厳しい口調に、唇を噛む。
その言葉は正しく、否定できなかった。
フィッツがいたから「幸運」にも、回避できただけのことだ。
あのまま落ちていれば、避難場所にいた魔物たちも死んでいた。
そこには「なんの罪もない」ものたちが、大勢いたと知っている。
「向こうは手加減もしなけりゃ容赦もしない。なのに、こっちは手加減しろって? ふざけるなよ? お前は、やっぱり人の……」
「アヴィオ、そこまでにしておけ」
「いいや、ザイード。この際、言わせてもらう。あいつらは、俺たちを生き物だと思っちゃいない。俺たちが、魔獣を狩る時程度の感覚もない。俺たちは食うため、生きるために魔獣を狩る。だが、あいつらは違う。繁殖に使う? なんのために? 実験や武器として、だ。あげく都合が悪くなりゃ無差別に殺そうとしてきやがる。無差別に、だ! そうじゃないのか、人間っ?」
キャスは両手を握りしめ、うつむいた。
アヴィオは、自らの祖父がした人間との交渉について知っている。
その結果、中間種ができ、その中間種が人間の「手先」になっていることも。
「勘違いをしないでください。姫様がおられなければ、この前の戦いでも、あなたがたは、かつての歴史を繰り返していたでしょう。姫様は命を懸けて戦に臨まれたのですよ? その覚悟に敬意をはらってください。そもそも、あなたがたが戦いかたを知らないのは、あなたがたの問題であって、姫様には関係ありません」
フィッツの淡々とした口調が室内に響いていた。
庇ってもらっているのに、なんだか、いたたまれない気分になる。
アヴィオが言いたくなる気持ちが、わからなくはなかったのだ。
自分たちは戦争をしている。
戦争なんて正々堂々とするものでもない。
相手が卑怯な手を使ったからといって自分も同じことをしていいわけではない、だなんて正義が、まかり通る状況ではないのだ。
『皇帝陛下は、魔物も聖魔も絶滅させるんだとよ。人だけの世界をお創りあそばしたいらしいぜ?』
ゼノクルは、そう言っている。
あれは、嘘ではなかった。
馬鹿馬鹿しいと、キャスは思ったが、ティトーヴァは本気なのだろう。
本気で、魔物や聖魔の絶滅を目的とし、戦争を仕掛けてくるつもりだ。
アヴィオの言うように、人間側は魔物に対し、罪悪など考えない。
人は、同じ種である人をも殺す。
相手が、別種の、しかも見下している魔物となれば、なおさら躊躇いなく殺す。
容赦なんてするはずがない。
「フィッツ、アヴィオは間違ってない。正しいよ。私は人間の味方をしてるんだと思う。ずっと人間として生きてきたんだから簡単には割り切れない。戦わずにすむなら、そのほうがいいって考える。お互いに犠牲が出ない方法があるならね」
「姫様、それは……」
「わかってるよ! わかってるんだよ。この状況で戦わずにすむ方法なんてない。こっちが交渉しようとしたって、向こうが乗るはずないよね。ていうか……乗ったフリして騙そうとする可能性が高い。でしょ?」
「はい、姫様」
ジュポナでのことを思えば、容易く予想できる。
ティトーヴァの耳には、キャスの言葉さえとどかなかった。
あの様子を見てしまうと、期待はできない。
むしろ、疑ってかかるのが正解に思える。
アヴィオの言うことは正しかった。
そして、フィッツの言うこともまた、正しい。
無差別という言葉に引っ掛かりを感じているのは、おそらく自分だけだ。
とはいえ、キャスの複雑な状況や心境を話しても、わかってもらえないだろう。
別の世界から来たとか、その世界での倫理観とか。
「フィッツ」
不意に、それまで黙っていたザイードが口を開いた。
目の前でのやりとりが聞こえていなかったかのように、落ち着いた声だ。
のんびりしているともとれる声音に、ほんの少しホッとする。
キャスとて、人だ魔物だと、ピリピリした空気にするのは本意ではない。
「お前は、どのようにして断層を見分けるのだ?」
「帝国全土の地図からです。地上も地下も頭に入っているので、見分ける、というほどのことでもありません」
「さようか。であれば、敵基地を狙うこともできよう」
フィッツの返事が、一瞬、遅れた。
ものすごくめずらしい光景だと言える。
なににしても、フィッツは、たいてい即答するのだ。
色恋などの話は別にして。
「あのミサイルという物も、無限に飛べるわけではあるまい。飛距離は、現時点で3百キロ程度であったか。であれば、我らの国に最も近い位置より撃たねばならぬはずだ。そうした場所は限られておるのではないか」
「そうですね。ある程度は絞り込めます」
「そちらを潰しておくのが先ぞ。人は大勢おるのだろ? 何千と殺したところで、攻撃が休まるとは思えぬ。それよりは、攻撃させぬ手を使うたほうがよかろう」
アヴィオがキャスを責める発言をしてからずっと、ザイードは別の手段を考えていたに違いない。
だから、フィッツがキャスを庇っている間、黙っていたのだ。
どちらに対しても筋が通る方法を考えていた。
(……私のことを気遣ってくれてるんだよね……私が無差別が嫌だ、みたいなこと言ったから……)
ザイードは、よく自らは魔物なので、人の理はわからない、と言う。
事実、わからないのだろう、と思うことも少なくない。
が、いつもキャスの意見を尊重してくれようとする。
今だって、無差別攻撃に抵抗感を覚えているキャスの心情を、わかっているわけではないのだ。
ただ、キャスの意見を尊重し、ほかの方法を考えてくれたのだろう。
それは、キャス1人が責任を負わなくてもいい、と言っているに等しい。
「アヴィオ、ひとつ言うておく」
ザイードが、すうっと目を細めた。
急に、室内に緊張が高まる。
「人の国には、キャスの同胞がおるのだぞ。その者らの助けがなくば我らは負けておったろう。最も大きな犠牲をはらったのが誰か。それを忘れるでない」
数的に言えば、ラーザの民が最も多い。
それを、ザイードは指摘しているのだ。
気づけば、ダイスの耳が、へたっと横に倒れていた。
申し訳なさそうな顔で、こっちを見ている。
「そう言われると、やっぱり私は肩身が狭いけれど……キャスが私たちに逃げろと言ってくれたことには感謝していてよ?」
ミネリネが、ふんわりとキャスに微笑みかけてきた。
元々、自分の力が原因でファニを呼び集めてしまったので感謝されることでもないのだが、少しだけ心が軽くなる。
常に臆病風に吹かれてばかりの自分だが、あの後、言葉の力を使わなかったのは正しかったと思えたのだ。
「では、ザイードさんの提案を軸に、策を考え直します」
フィッツの淡々とした声が、静かになった室内に響く。
フィッツが、ザイードの名を呼んだことに驚いていたが、顔には出さない。
ザイードの尾も微妙な動きをしていた。
きっと、同じように驚いているのだ。
「それはいいけど、ちょっと休憩入れようぜ。頭の使い過ぎで疲れた」
「お前が、いつ頭を使ったのか、わからないがな」
「オレは馬鹿じゃねぇが、話し合いって場が苦手なんだよ」
「そうさの。ダイスは、頭より体を動かすのが性に合うておる」
「そうそう。その場で判断するのが得意でね。頭ン中だけで考えるのは疲れる」
ダイスの、ぽかんとした言い草に、空気が、ふっと軽くなる。
緊迫した状況でも、場が和んでいたことを思い出した。
ルーポ族は、おおむね気の良いものが多い。
その筆頭であるダイスは、ムードメーカーの役割を果たしている。
ダイス自身に自覚はなさそうだが、それはともかく。
「んじゃ、そういうことで、昼飯にするか!」
「腹が満ちたら、お前は寝てしまうだろうが!」
「かもな。そん時は、あとで聞くさ。そこの、ソイツに」
チラっと、ダイスがフィッツに視線を投げていた。
話し合いの間、フィッツを気にしてか、ダイスは、そわそわしていたのだ。
フィッツは、そんなダイスを牽制するためだろう、無視していた。
どうやらルーポの「特性」を知っているらしい。
(フィッツの苦手そうなタイプではあるよね、ダイスって……)
ダイスはアヴィオのように喧嘩腰になったり、嫌味を言ったりはしないだろうが、フィッツと仲良く会話をする姿も想像できずにいる。
フィッツがここにいるのは、すべて「カサンドラ」のためだ。
魔物たちのことも「ヴェスキルの後継者」を守るための手段のひとつ、くらいに考えているに違いない。
(……ティニカのフィッツは、ヴェスキルのためにしか動かないもんね……)
たぶん。
国同士で戦っているのだ。
どういう手段が最も効果的かを考えることが必要とされる。
それが、より良い結果に繋がるからこそ、フィッツは提案しているのだと、そう思ってはいた。
だとしても、無差別との発想に、どうしても抵抗感をいだいてしまう。
完全には、この世界の住人になれていないからだろうか。
元の世界では、建前ではあっても、民間人は戦闘の対象ではなかった。
彼女は、実際の戦争を知らない世代だったし、平和な毎日を生きてきたのだ。
現実の「戦」を知ったのは、この前の戦いが初めてだった。
フィッツを喪い、これほどまでに誰かを憎む心が自分の中にあったのか、と思うほど、憎悪の感情を思い知らされてもいる。
2度と喪いたくないとの思いもあるので、フィッツの言うことは正しいのだろうと、わかってはいるのだ。
それでも、なんの抵抗もできない、罪のない人々から、平和な毎日を取り上げることを、承服しかねている。
魔物たちは、具体的にイメージできていないかもしれない。
けれど、キャスの中には、ありありと結果が見えていた。
ある日、突然、予告もなく訪れる事故や災害。
それに近いものだ。
近所の工場が爆発したり、地震が起きたり。
フィッツがしようとしているのは、そういう事象と変わらない。
事故や自然によるものではなく、故意という点を除けば。
「でもさ、無差別っていうのは……」
「おい、ちょっと待てよ」
フィッツに別の方法はないかと、問おうとした言葉が制止されていた。
内心、キャスは、ぎくりとしている。
自分の持つ「矛盾」に、どこか気づいていたからだ。
「お前、無差別は駄目だとか抜かす気か? あのミサイルっていうのは、そういう武器だったはずだ。違うか?」
アヴィオの厳しい口調に、唇を噛む。
その言葉は正しく、否定できなかった。
フィッツがいたから「幸運」にも、回避できただけのことだ。
あのまま落ちていれば、避難場所にいた魔物たちも死んでいた。
そこには「なんの罪もない」ものたちが、大勢いたと知っている。
「向こうは手加減もしなけりゃ容赦もしない。なのに、こっちは手加減しろって? ふざけるなよ? お前は、やっぱり人の……」
「アヴィオ、そこまでにしておけ」
「いいや、ザイード。この際、言わせてもらう。あいつらは、俺たちを生き物だと思っちゃいない。俺たちが、魔獣を狩る時程度の感覚もない。俺たちは食うため、生きるために魔獣を狩る。だが、あいつらは違う。繁殖に使う? なんのために? 実験や武器として、だ。あげく都合が悪くなりゃ無差別に殺そうとしてきやがる。無差別に、だ! そうじゃないのか、人間っ?」
キャスは両手を握りしめ、うつむいた。
アヴィオは、自らの祖父がした人間との交渉について知っている。
その結果、中間種ができ、その中間種が人間の「手先」になっていることも。
「勘違いをしないでください。姫様がおられなければ、この前の戦いでも、あなたがたは、かつての歴史を繰り返していたでしょう。姫様は命を懸けて戦に臨まれたのですよ? その覚悟に敬意をはらってください。そもそも、あなたがたが戦いかたを知らないのは、あなたがたの問題であって、姫様には関係ありません」
フィッツの淡々とした口調が室内に響いていた。
庇ってもらっているのに、なんだか、いたたまれない気分になる。
アヴィオが言いたくなる気持ちが、わからなくはなかったのだ。
自分たちは戦争をしている。
戦争なんて正々堂々とするものでもない。
相手が卑怯な手を使ったからといって自分も同じことをしていいわけではない、だなんて正義が、まかり通る状況ではないのだ。
『皇帝陛下は、魔物も聖魔も絶滅させるんだとよ。人だけの世界をお創りあそばしたいらしいぜ?』
ゼノクルは、そう言っている。
あれは、嘘ではなかった。
馬鹿馬鹿しいと、キャスは思ったが、ティトーヴァは本気なのだろう。
本気で、魔物や聖魔の絶滅を目的とし、戦争を仕掛けてくるつもりだ。
アヴィオの言うように、人間側は魔物に対し、罪悪など考えない。
人は、同じ種である人をも殺す。
相手が、別種の、しかも見下している魔物となれば、なおさら躊躇いなく殺す。
容赦なんてするはずがない。
「フィッツ、アヴィオは間違ってない。正しいよ。私は人間の味方をしてるんだと思う。ずっと人間として生きてきたんだから簡単には割り切れない。戦わずにすむなら、そのほうがいいって考える。お互いに犠牲が出ない方法があるならね」
「姫様、それは……」
「わかってるよ! わかってるんだよ。この状況で戦わずにすむ方法なんてない。こっちが交渉しようとしたって、向こうが乗るはずないよね。ていうか……乗ったフリして騙そうとする可能性が高い。でしょ?」
「はい、姫様」
ジュポナでのことを思えば、容易く予想できる。
ティトーヴァの耳には、キャスの言葉さえとどかなかった。
あの様子を見てしまうと、期待はできない。
むしろ、疑ってかかるのが正解に思える。
アヴィオの言うことは正しかった。
そして、フィッツの言うこともまた、正しい。
無差別という言葉に引っ掛かりを感じているのは、おそらく自分だけだ。
とはいえ、キャスの複雑な状況や心境を話しても、わかってもらえないだろう。
別の世界から来たとか、その世界での倫理観とか。
「フィッツ」
不意に、それまで黙っていたザイードが口を開いた。
目の前でのやりとりが聞こえていなかったかのように、落ち着いた声だ。
のんびりしているともとれる声音に、ほんの少しホッとする。
キャスとて、人だ魔物だと、ピリピリした空気にするのは本意ではない。
「お前は、どのようにして断層を見分けるのだ?」
「帝国全土の地図からです。地上も地下も頭に入っているので、見分ける、というほどのことでもありません」
「さようか。であれば、敵基地を狙うこともできよう」
フィッツの返事が、一瞬、遅れた。
ものすごくめずらしい光景だと言える。
なににしても、フィッツは、たいてい即答するのだ。
色恋などの話は別にして。
「あのミサイルという物も、無限に飛べるわけではあるまい。飛距離は、現時点で3百キロ程度であったか。であれば、我らの国に最も近い位置より撃たねばならぬはずだ。そうした場所は限られておるのではないか」
「そうですね。ある程度は絞り込めます」
「そちらを潰しておくのが先ぞ。人は大勢おるのだろ? 何千と殺したところで、攻撃が休まるとは思えぬ。それよりは、攻撃させぬ手を使うたほうがよかろう」
アヴィオがキャスを責める発言をしてからずっと、ザイードは別の手段を考えていたに違いない。
だから、フィッツがキャスを庇っている間、黙っていたのだ。
どちらに対しても筋が通る方法を考えていた。
(……私のことを気遣ってくれてるんだよね……私が無差別が嫌だ、みたいなこと言ったから……)
ザイードは、よく自らは魔物なので、人の理はわからない、と言う。
事実、わからないのだろう、と思うことも少なくない。
が、いつもキャスの意見を尊重してくれようとする。
今だって、無差別攻撃に抵抗感を覚えているキャスの心情を、わかっているわけではないのだ。
ただ、キャスの意見を尊重し、ほかの方法を考えてくれたのだろう。
それは、キャス1人が責任を負わなくてもいい、と言っているに等しい。
「アヴィオ、ひとつ言うておく」
ザイードが、すうっと目を細めた。
急に、室内に緊張が高まる。
「人の国には、キャスの同胞がおるのだぞ。その者らの助けがなくば我らは負けておったろう。最も大きな犠牲をはらったのが誰か。それを忘れるでない」
数的に言えば、ラーザの民が最も多い。
それを、ザイードは指摘しているのだ。
気づけば、ダイスの耳が、へたっと横に倒れていた。
申し訳なさそうな顔で、こっちを見ている。
「そう言われると、やっぱり私は肩身が狭いけれど……キャスが私たちに逃げろと言ってくれたことには感謝していてよ?」
ミネリネが、ふんわりとキャスに微笑みかけてきた。
元々、自分の力が原因でファニを呼び集めてしまったので感謝されることでもないのだが、少しだけ心が軽くなる。
常に臆病風に吹かれてばかりの自分だが、あの後、言葉の力を使わなかったのは正しかったと思えたのだ。
「では、ザイードさんの提案を軸に、策を考え直します」
フィッツの淡々とした声が、静かになった室内に響く。
フィッツが、ザイードの名を呼んだことに驚いていたが、顔には出さない。
ザイードの尾も微妙な動きをしていた。
きっと、同じように驚いているのだ。
「それはいいけど、ちょっと休憩入れようぜ。頭の使い過ぎで疲れた」
「お前が、いつ頭を使ったのか、わからないがな」
「オレは馬鹿じゃねぇが、話し合いって場が苦手なんだよ」
「そうさの。ダイスは、頭より体を動かすのが性に合うておる」
「そうそう。その場で判断するのが得意でね。頭ン中だけで考えるのは疲れる」
ダイスの、ぽかんとした言い草に、空気が、ふっと軽くなる。
緊迫した状況でも、場が和んでいたことを思い出した。
ルーポ族は、おおむね気の良いものが多い。
その筆頭であるダイスは、ムードメーカーの役割を果たしている。
ダイス自身に自覚はなさそうだが、それはともかく。
「んじゃ、そういうことで、昼飯にするか!」
「腹が満ちたら、お前は寝てしまうだろうが!」
「かもな。そん時は、あとで聞くさ。そこの、ソイツに」
チラっと、ダイスがフィッツに視線を投げていた。
話し合いの間、フィッツを気にしてか、ダイスは、そわそわしていたのだ。
フィッツは、そんなダイスを牽制するためだろう、無視していた。
どうやらルーポの「特性」を知っているらしい。
(フィッツの苦手そうなタイプではあるよね、ダイスって……)
ダイスはアヴィオのように喧嘩腰になったり、嫌味を言ったりはしないだろうが、フィッツと仲良く会話をする姿も想像できずにいる。
フィッツがここにいるのは、すべて「カサンドラ」のためだ。
魔物たちのことも「ヴェスキルの後継者」を守るための手段のひとつ、くらいに考えているに違いない。
(……ティニカのフィッツは、ヴェスキルのためにしか動かないもんね……)
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