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変化の予兆 3
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アシュリーは鏡の前に立っている。
リビーを含め、3人のメイドたちによる「着替え」が終わったところだ。
リビー以外の2人は、すでに退室していた。
が、アシュリーの視線は、自分の元にはない。
鏡の中にいる自分に視線を向けているのは2人。
リビーとジョバンニが、鏡に映っている。
彼は、アシュリーの着替えが終わったあと、部屋を訪れたのだ。
アシュリーの視線は、主にジョバンニに向けられていた。
今夜は、彼も夜会に出席する。
そのため執事服ではなく、礼装なのだ。
見慣れていないからなのか、胸が、どきどきする。
そのジョバンニに見られていると思うと、よけいに意識して、どきどきした。
前丈が短く、後ろ裾の長い、黒のテールコート。
白いシャツとウエストコートに、同じく白いボウタイ。
ズボンは控え目なグレーで、裾のカットにより黒い革靴が綺麗に見える。
ありていに言って、すごく似合っていて、素敵だった。
「お気に召しませんでしたか、姫様?」
ジョバンニに声をかけられ、びくっとする。
あまりに、彼を、ぽうっと見つめ過ぎていたらしい。
うっかり自分の姿に対する感想を述べるのを忘れていた。
鏡に映っているリビーも心配そうにしている。
「そうじゃなくて、こういうドレスを着たことがないから……似合っているのか、わからないの」
アシュリーは、本当に、そう思っていた。
14歳の時の社交界デビューでは、ハインリヒが選んだドレスを着ている。
地味な茶色のドレスで、華やかさとは、かけ離れていた。
だが、ハインリヒから、アシュリーに似合うのは、その程度だと言われたのだ。
素地が悪い者は着飾ったところで恥をかくだけ。
そうも言われている。
アシュリーの周りには、ハインリヒの言葉を否定する人はいなかった。
結果、自分には地味で目立たない格好がいいと思うようになったのだ。
「とても、お似合いですよ、姫様」
「ええ、私が保証いたしますわ。とても、お可愛らしくて、美しいです」
自分の意見は、この際、おいておく。
よくわからないのだから、2人の意見を否定する理由がない。
似合っていると言われたことが、嬉しくもあった。
全体的に、淡いピンクのドレスだ。
肩と胸元が、少し心もとない。
というのも、胸の上から両腕までを一直線に結んだようなデザインだからだ。
肩にも胸元にも「布」がなかった。
どちらも、ふんわりと薄いレースのフリルがついている。
レースの下には、白くてピッタリとした細身のドレスを身につけていた。
全体が淡いピンクに見えるのは、レースが白いドレスを覆っているからだ。
とはいえ、腕はレースだけの袖になっていて、ほとんど素肌が透けている。
腰は、きゅっと締められているが、苦しいというほどでもない。
14歳の時は、ぎゅうぎゅう締めつけられて息苦しかった。
今回もそうだろうと思っていたのだが、その覚悟は必要なかったのだ。
このドレスには、コルセットが必要ないのだという。
息苦しくないのに、とても体にぴったりとしている。
レースがなければ体の線が露わになっていたに違いない。
だが、腰からも、やわらかくレースが、ひだを作りながら足元へと流れ落ちていて、上品に体を隠してくれていた。
「でも、このネックレスは、私には分不相応に思えるわ……」
首元に手をやるのも、恐る恐る。
心もとない胸元を飾ってくれている物ではあるが、いかんせん高級に過ぎた。
宝飾品を身につける癖がなかったため、具体的な価値はわからない。
それでも、これが「ダイヤモンドではない」ことは、わかる。
なにか、もっと高いもののような。
大小取り交ぜ、いくつもの緑がかった青い宝石でできたそれは、鳥が羽を広げたような形をしていた。
中央には、ひと際、大きくて美しい色の石がはめこまれている。
お揃いのイヤリングには、細いつる草のような鎖の先に同じ宝石がついていた。
「姫様は、ご婚約者なのですから、分不相応などということはございません。次はもっと高級な品を用意させましょう」
「ジョ、ジョバンニ……っ……」
焦ったアシュリーは、鏡の中にいるジョバンニに、反論じみた声を上げる。
とたん、ジョバンニが、くすっと笑った。
心臓が、ばくんっと跳ね上がる。
すぐに顔が、かあっと熱くなった。
鏡の向こうで、ジョバンニが跪いている。
胸に手をあてて、言った。
「本当に、よく似合っておられます。できるなら、私がエスコート役を務めさせていただきたいと思うほどに」
心臓の、ばくばくがおさまらない。
ジョバンニのエスコート役で、夜会に出席する自分を想像する。
「ですよねえ。私がジョバンニの立場でも同じことを思ったでしょう」
リビーの言葉に、はたとなった。
そうか、と思う。
ジョバンニは、お追従や社交辞令で言ったのではない。
だが、彼がサマンサを良く思っていないのも知っていた。
どうせなら、まだしも親しみのある相手とのほうが気楽なのだろう。
自分が特別なわけではない。
気づくと、胸の奥が、ちくっとする。
同時に、心臓の鼓動も緩やかなものに戻っていた。
ジョバンニの言動ひとつひとつに感情が揺さぶられる。
不快ではないが、嬉しくもない。
アシュリーは、毎年、少しずつ背が伸びてはいた。
とはいえ、小柄だ。
大人のジョバンニと、うまく踊れはしないだろう。
ハインリヒに引きずられるようにして踊った、嫌な記憶もある。
(ジェレミー様がダンスをされないといいのだけど……)
公爵とジョバンニは背丈があまり変わらない。
絶対に恥をかかせてしまうことになる。
実感はなくとも、アシュリーは婚約者なのだ。
エスコートをしてくれる公爵の足手まといにはなりたくなかった。
「さあ、下で、旦那様がお待ちですよ」
小さくうなずいて、鏡の前から離れる。
最後に、ちらっと見た自分の姿に、気後れがした。
いくら大人とされる歳であっても、見た目に子供だと感じたからだ。
夜会には大勢の大人の女性が来る。
2人に付き添われ、部屋から出つつ、少しだけ憂鬱になった。
(サマンサ様は18歳……私より、ずっと大人の女性……)
これを機会に、ジョバンニはサマンサに対しての見方を変えるかもしれない。
嫌いになってほしいとは思わないが、仲良くなってほしいとも思えずにいる。
サマンサに夢中になってしまったら、離れの担当をするようになる可能性だってあるのだ。
そうなれば、ジョバンニと過ごす時間が減ってしまう。
考えるだけで、寂しくなった。
「これはこれは」
階下で、公爵が両腕を広げ、アシュリーを迎える。
両肩に手を置き、軽く額に口づけが落とされた。
「これほど素敵な女性のエスコートができて嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます」
気恥ずかしくなっているアシュリーの手を取って、公爵が歩き出す。
玄関ホールで、ジョバンニとリビーが足を止めた。
「あの……サマンサ様は……」
「ああ、彼女はあとから来る。私たちは先に出発するのだよ」
一緒に連れ立って行くと思っていたのだが、そういうものではないらしい。
肩越しに、ちらりとジョバンニのほうを振り返る。
ジョバンニは、やわらかな笑みを浮かべ、頭を下げた。
(これから、ジョバンニは、サマンサ様をお迎えに行くのね……)
思うと、やはり胸の奥が、ちくっとする。
リビーを含め、3人のメイドたちによる「着替え」が終わったところだ。
リビー以外の2人は、すでに退室していた。
が、アシュリーの視線は、自分の元にはない。
鏡の中にいる自分に視線を向けているのは2人。
リビーとジョバンニが、鏡に映っている。
彼は、アシュリーの着替えが終わったあと、部屋を訪れたのだ。
アシュリーの視線は、主にジョバンニに向けられていた。
今夜は、彼も夜会に出席する。
そのため執事服ではなく、礼装なのだ。
見慣れていないからなのか、胸が、どきどきする。
そのジョバンニに見られていると思うと、よけいに意識して、どきどきした。
前丈が短く、後ろ裾の長い、黒のテールコート。
白いシャツとウエストコートに、同じく白いボウタイ。
ズボンは控え目なグレーで、裾のカットにより黒い革靴が綺麗に見える。
ありていに言って、すごく似合っていて、素敵だった。
「お気に召しませんでしたか、姫様?」
ジョバンニに声をかけられ、びくっとする。
あまりに、彼を、ぽうっと見つめ過ぎていたらしい。
うっかり自分の姿に対する感想を述べるのを忘れていた。
鏡に映っているリビーも心配そうにしている。
「そうじゃなくて、こういうドレスを着たことがないから……似合っているのか、わからないの」
アシュリーは、本当に、そう思っていた。
14歳の時の社交界デビューでは、ハインリヒが選んだドレスを着ている。
地味な茶色のドレスで、華やかさとは、かけ離れていた。
だが、ハインリヒから、アシュリーに似合うのは、その程度だと言われたのだ。
素地が悪い者は着飾ったところで恥をかくだけ。
そうも言われている。
アシュリーの周りには、ハインリヒの言葉を否定する人はいなかった。
結果、自分には地味で目立たない格好がいいと思うようになったのだ。
「とても、お似合いですよ、姫様」
「ええ、私が保証いたしますわ。とても、お可愛らしくて、美しいです」
自分の意見は、この際、おいておく。
よくわからないのだから、2人の意見を否定する理由がない。
似合っていると言われたことが、嬉しくもあった。
全体的に、淡いピンクのドレスだ。
肩と胸元が、少し心もとない。
というのも、胸の上から両腕までを一直線に結んだようなデザインだからだ。
肩にも胸元にも「布」がなかった。
どちらも、ふんわりと薄いレースのフリルがついている。
レースの下には、白くてピッタリとした細身のドレスを身につけていた。
全体が淡いピンクに見えるのは、レースが白いドレスを覆っているからだ。
とはいえ、腕はレースだけの袖になっていて、ほとんど素肌が透けている。
腰は、きゅっと締められているが、苦しいというほどでもない。
14歳の時は、ぎゅうぎゅう締めつけられて息苦しかった。
今回もそうだろうと思っていたのだが、その覚悟は必要なかったのだ。
このドレスには、コルセットが必要ないのだという。
息苦しくないのに、とても体にぴったりとしている。
レースがなければ体の線が露わになっていたに違いない。
だが、腰からも、やわらかくレースが、ひだを作りながら足元へと流れ落ちていて、上品に体を隠してくれていた。
「でも、このネックレスは、私には分不相応に思えるわ……」
首元に手をやるのも、恐る恐る。
心もとない胸元を飾ってくれている物ではあるが、いかんせん高級に過ぎた。
宝飾品を身につける癖がなかったため、具体的な価値はわからない。
それでも、これが「ダイヤモンドではない」ことは、わかる。
なにか、もっと高いもののような。
大小取り交ぜ、いくつもの緑がかった青い宝石でできたそれは、鳥が羽を広げたような形をしていた。
中央には、ひと際、大きくて美しい色の石がはめこまれている。
お揃いのイヤリングには、細いつる草のような鎖の先に同じ宝石がついていた。
「姫様は、ご婚約者なのですから、分不相応などということはございません。次はもっと高級な品を用意させましょう」
「ジョ、ジョバンニ……っ……」
焦ったアシュリーは、鏡の中にいるジョバンニに、反論じみた声を上げる。
とたん、ジョバンニが、くすっと笑った。
心臓が、ばくんっと跳ね上がる。
すぐに顔が、かあっと熱くなった。
鏡の向こうで、ジョバンニが跪いている。
胸に手をあてて、言った。
「本当に、よく似合っておられます。できるなら、私がエスコート役を務めさせていただきたいと思うほどに」
心臓の、ばくばくがおさまらない。
ジョバンニのエスコート役で、夜会に出席する自分を想像する。
「ですよねえ。私がジョバンニの立場でも同じことを思ったでしょう」
リビーの言葉に、はたとなった。
そうか、と思う。
ジョバンニは、お追従や社交辞令で言ったのではない。
だが、彼がサマンサを良く思っていないのも知っていた。
どうせなら、まだしも親しみのある相手とのほうが気楽なのだろう。
自分が特別なわけではない。
気づくと、胸の奥が、ちくっとする。
同時に、心臓の鼓動も緩やかなものに戻っていた。
ジョバンニの言動ひとつひとつに感情が揺さぶられる。
不快ではないが、嬉しくもない。
アシュリーは、毎年、少しずつ背が伸びてはいた。
とはいえ、小柄だ。
大人のジョバンニと、うまく踊れはしないだろう。
ハインリヒに引きずられるようにして踊った、嫌な記憶もある。
(ジェレミー様がダンスをされないといいのだけど……)
公爵とジョバンニは背丈があまり変わらない。
絶対に恥をかかせてしまうことになる。
実感はなくとも、アシュリーは婚約者なのだ。
エスコートをしてくれる公爵の足手まといにはなりたくなかった。
「さあ、下で、旦那様がお待ちですよ」
小さくうなずいて、鏡の前から離れる。
最後に、ちらっと見た自分の姿に、気後れがした。
いくら大人とされる歳であっても、見た目に子供だと感じたからだ。
夜会には大勢の大人の女性が来る。
2人に付き添われ、部屋から出つつ、少しだけ憂鬱になった。
(サマンサ様は18歳……私より、ずっと大人の女性……)
これを機会に、ジョバンニはサマンサに対しての見方を変えるかもしれない。
嫌いになってほしいとは思わないが、仲良くなってほしいとも思えずにいる。
サマンサに夢中になってしまったら、離れの担当をするようになる可能性だってあるのだ。
そうなれば、ジョバンニと過ごす時間が減ってしまう。
考えるだけで、寂しくなった。
「これはこれは」
階下で、公爵が両腕を広げ、アシュリーを迎える。
両肩に手を置き、軽く額に口づけが落とされた。
「これほど素敵な女性のエスコートができて嬉しいよ」
「あ、ありがとうございます」
気恥ずかしくなっているアシュリーの手を取って、公爵が歩き出す。
玄関ホールで、ジョバンニとリビーが足を止めた。
「あの……サマンサ様は……」
「ああ、彼女はあとから来る。私たちは先に出発するのだよ」
一緒に連れ立って行くと思っていたのだが、そういうものではないらしい。
肩越しに、ちらりとジョバンニのほうを振り返る。
ジョバンニは、やわらかな笑みを浮かべ、頭を下げた。
(これから、ジョバンニは、サマンサ様をお迎えに行くのね……)
思うと、やはり胸の奥が、ちくっとする。
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