自称愛国者の光と影

１５

　翌日から、ドレクスラーは拷問や虐待の方法を提案し始める。
「金瓶梅では、西門慶の下女がある側室に、金蓮に豚の小便を飲ませるように強要され、それを知った金蓮が、豚の小便を飲まされるのを阻止して、逆にその下女の手に煮立った油をぶっかける話があります。まずは、それから実施しましょう」
「ほう、それは面白そうですね。似非平和主義を唱える、お偉い国会議員様が、どれだけ非暴力に徹することができるか、試してみましょうか。だいたい、あなたは憲法前文と憲法第九条を信奉している以上、武力を否定するし、交戦権も認めないんでしょう？　なら、オレらが侵略しても黙って傷つけられるべきですし、反撃もしないんでしょうね」
　ドレクスラーの提案に、レームがニタニタ笑いながら賛成する。彰も、
「そうですよね。辻清子さんは以前、テレビで、『敵基地攻撃能力を持つべきではない』だの『天皇制は嫌いだ』だのとおっしゃってましたね。つまり、三国志の劉備の理想的共産主義を目指す俺にとっては、漢の皇帝の純血さを否定する不倶戴天の敵で、なおかつ、俺らがいたぶっても、反撃しないということですよね。その前に、三国志を否定するなんて、三国志や中国史のファンである毛沢東をけなすのと同じですよ？　あなたの大好きな左翼の大英雄の毛沢東をね」
と言いながら、キッチンで鍋いっぱいのサラダ油を煮立たせる。辻清子は、肝をつぶしたのか、顔面蒼白だった。
「お偉い国会議員様に天誅を！　造反有理！　漢王朝の皇帝の純血を否定する曹操の同調者に死を！　劉備による理想的共産主義に栄光あれ！」
　ゲーリングが狂ったように繰り返す。辻清子は、恐怖のあまり失神したので、彰は煮立ったサラダ油をぶっかける。辻清子は声にならない悲鳴をあげて、七転八倒する。彰は追い討ちをかけるように、とどめの一言を発する。
「ついでに言わせてもらえれば、あなたと仲の良かった女性の似非平和主義者の国会議員たちには、某独裁国の主席様と仲の良い方が多かったですね。その主席様は、エイズ患者たちを、『エイズはブルジョアの劣勢遺伝子のやつがかかる病気だ』と言って、エイズ患者たちを治療もせずに、海上の孤島に島流しにしたんですよ。同様にヒトラーも、『障がい者は劣等遺伝子の持ち主だから、健常者の負担にならないように皆殺しにして当然である』と言って、障がい者を十万人も安楽死させたものです。まあ、あなたは似非平和主義者の偽善者であるだけでなく、その主席様と仲の良かった極悪人でもありますから、ある意味、精神障がい者ですね。もっとも、俺は、極悪人の精神障がい者にかける情けは持ち合わせていないので、楽には死なせませんよ」
　そのまま、辻清子の目の前に、針の先端を近づける。辻清子はあわてて目をつむる。
「怖いですか？　かつて呂太后は、戚夫人の目をつぶしたんですよ。他にも、革命前の中国の農村では、地主に小作料を払えなかったら、小作人が目をつぶされたという話もあります。あなたは確か、毛沢東もお好きでしたから、こういう中国の拷問もお好きなはずでしょう？」
　辻清子は失神する。彰はまた、煮立ったサラダ油をぶっかける。既に辻清子は抵抗する気力も失せたのか、ピクピクと痙攣するだけだった。
「また失神しましたか。こうなると、俺らでは、あなたを救えませんねぇ。某独裁国の主席様にでも助けてもらいなさい。といっても、とっくに亡くなっていますね。残念でした」
　その日の拷問や虐待は、それで終わった。四人は、彰の作ったチャーハンを食べると、そう何日も泊り込むわけにもいかないので、とりあえず帰路につく。翌日は、彰も食糧を買い出しに出たので、これにより、辻清子は一日だけでも拷問や虐待を免れた。