妖が潜む街

若城

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2章

2話

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 午前七時半。
 現雪霧の部屋にて、霧本から教えてもらった目覚まし時計が雪霧の睡眠を強制的に覚まさせた。

「ん……」

 雪霧はゆっくり目を開け、顔の側に置かれた目覚まし時計を止めると、起き上がる。
 変な夢を見た気がする。どういった内容だったのか思い出す為、ぼうっとした頭を働かせてみたが、思い出せそうになかった。
 思い出せないということは大した内容ではなかったのだろう。
 軽く伸びをし、ベッドから降りると部屋から出る。そして、隣に位置する霧本の部屋へと続くドアを数回叩く。

「俊哉、いるか?」

 いつもなら彼の気の抜けた返事が返ってくるのだが、今日ばかりは何の返事もなかった。

「入るぞ?」

 ドアを開け、中に入ると、未だに布団の中で寝息を立てている霧本が居た。
 普段ならば、この時間には制服と呼ばれる服を着、学校に行く準備をしている頃なのだが、これは非常事態ではなかろうか。

「俊哉っ。起きなくていいのか?」

 霧本の体を揺すり、起きるように呼びかける。すると、霧本が眠気眼を擦りながら、こちらを見上げてくる。

「今日は創設記念日だから休みだよぉ……」
「創設記念?」
「うん……。僕の学校が出来た日だから休み……。だから……もすこし寝かせてぇ……」

 そう言い、彼はこちらに背を向けては布団を深く被ってしまう。
 この様子だと、しばらくは起きてこないだろう。
 現代に解き放たれて、ひと月と少しになる。その間で気付いた事は、休日の彼の過ごし方があまりにも勿体無いという事だ。起きる時間も一〇時を過ぎる上、起きてもだらだらとテレビと言われるものを眺めるばかり。外に出かけるといった子供らしい一面が少ない。
 昔と違い、今の子供は外よりも中に居る方が楽しいと思うのだろうか。その思考がいまいち理解出来ない。外に出た方が良い刺激なると思うのだが、自分の考えは古いのかもしれない。

「まったく……。私は店にいってくる。暇ならうちに来るといい」
「ん……」
「あと、母上殿も言っていたが、勉強もするのだぞ。ジュケンなのだからな」

 雪霧は霧本の後頭部を指先で突くが、既に寝てしまったのだろう。何の反応も示さない。

「こいつは……大丈夫か?」

 ため息を吐き、部屋から出るとリビングへと向かう。そこで、霧本の母が作ってくれていた朝食を食べ、店に向かう準備し、出来るなり外へと出た。
 この一カ月で夏独特の熱気が随分なくなった。雪女である自分にとって、過ごしやすい季節へと移り始め、少し重たかった体が確実に軽くなっていくのを、日に日に感じる。
 佐野商店の近くにまで来ると、狸の妖怪、佐野啓治が店の前で準備をしていた。彼はこちらの存在に気付くと軽く手を振ってくる。それに対し、雪霧も会釈することで応えた。

「おはよう。早いね」
「おはようございます。えぇ、俊哉の見送りなどなかったので早くなりました。」
「あぁ創設記念か」

 何かを察した佐野が気の毒そうに引き攣った笑みを浮かべ、目を逸らす。

「最近の子供は中に居る方が楽しいのでしょうか? 私の知る限り、子供は外で遊ぶことの方が多かった」
「昔と違ってゲームとかネット環境があるからねぇ。体を動かす事が好きな子以外はなかなか出ないかな。俺も外で遊んだ方がいいと思うけど」
「俊哉も私の付き添い以外は、中に居ることが多いです。軟弱者かっ、とさえ思います」
「まぁ、俊哉君は梨沙ちゃんと違って運動は得意なほうじゃないからね。何かと押し付けるのも良くないし、彼が一念発起するのを待てばいいんじゃないかな? さ、少し早いけど準備しよっか」

 佐野は準備運動を止め、シャッターを上げる為に近く置いていたひっかけを手に取った。
 その光景を眺めながら、雪霧は目を細めさせ、当時の事を思い出す。
 足が遅くとも、速くとも、無我夢中で走り回っていた子供達。それを見て微笑み、時には同じように走り回った。
 彼もいい歳だ。幼い子供ように走り回るようなことはしないだろう。だが、その幼い子供すら走り回るようなことをしなくなった現代に、寂しい気持ちになる。
 あの子達は、元気だったな。
 雪霧ははしゃいで土に汚れた、五人の子供達を思い出し、ため息を吐いた
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