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48話
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何処かの山。
霧本達が居る街から遠く離れた山の中で、鬼は天華によって折られた腕を庇いながら、当ても無く歩き続けていた。しかし、皮膚から飛び出した骨が空気に触れる度に激痛が走り、一時間程度歩いたところで、適当な木に凭れ掛かってしまう。
天逆毎。想像を絶する強さを誇り、完膚なきまでに叩きのめしてきた神。
彼女の事を考えるだけで、腸が煮えくり返り、地面を力の限り殴る。その衝撃により、大砲を放ったような重い音が山の中に響き渡り、木々に羽を休めていた鳥達が驚き、一斉に飛びだっていく。
「くっそがぁ……」
項垂れ、舌打ちする。
復讐したい。だが、自分の力では、彼女には敵わない。傍に居た人間の少女を八つ裂き使用にも、必ず奴が居るだろう。それだけではない。天華、人間にも鬼の匂いがした。憶測でしかないが、鬼が味方に付いている可能性がある。神に加え、同族の鬼までもが相手になると、確実に殺されてしまう。
どうすればいい。
「ぶっ潰してやる……」
「おんやぁ? 誰を潰すんだい?」
不意に女性の声が聞こえ、鬼は項垂れていた頭を上げ、前方から歩み寄ってくる女性を睨みつける。
「誰だてめぇ……?」
「誰ってあんた……仲間じゃないかい」
白の着物を着崩している事で、胸元は大きく露出しており、その豊満な胸をサラシによってきつく締められた格好をしていた。
仲間ということは、鬼という事だろう。しかし、彼女からは妖怪とは別の、鬼の気配を一切感じない。それどころか、妖怪の気配すら感じない。
嘘を吐いている?
言いたい事を察したのか、女性は笑みを浮かべさせる。
「あたいくらいになると、気配だって消せるんだよ。見る限り、あんた……弱そうだね。誰にやられたんだい?」
そう言い、鬼の首筋に顔を近づけ、匂いを嗅いできた。そして、彼女は少しばかり驚いた表情を浮かべ、ゆっくりと距離を取ると、着崩した事で隠れた両腕を口元へと持っていく。
「その匂い、天狗だね。けど、普通の天狗とは違うな」
「天狗の……神だ……」
「天狗の? 天狗神姫か」
目を細めさせ、奴の別名を呟く。
「姫がこの時代にまだ生きているとはねぇ。一戦交わってみたいもんだね」
「やめとけ……鬼じゃどうにもできねぇよ」
奴の力には、逆立ちしたとて辿り着ける事が出来ない神の領域だ。
「あたいが何も出来ずにやられるって? ふふふっ……そうかぁ、やられるかぁ……」
女性は体を震わせ、溢れる笑みを必死に抑える。そして、視線を鬼から逸らし、後方へと向けられた。
「あたいが神にやられるんだとさぁ! どう思う、あんたたちぃ!?」
彼女が問い掛ける相手。それは、いつもの間にか群がり、こちらをまっすぐ見据える数十の鬼。彼女の問い掛けに一瞬にして集まったということは、近くで自分達の行く末を眺めていたということだろう。
仲間意識を持たない鬼が、一体の鬼に引きつられ、集結している。この光景自体、異様なものだ。このような事を可能していたのは、遠い昔、いくつもの都を恐怖に陥れた鬼の首領しか居なかった。
「……てめぇ、なにもんだ……?」
鬼は問いかける。
「あたいかい? あたいはね、この世で一番強い鬼さ」
こちらに背を向けると、彼女は何かを受け入れるかのように、大きく手を広げる。
「あんた達! 我が同志の報いを晴らし、あたい達の恐ろしさを、神という位に胡座を掻いているやつらに思い知らせてやろうじゃないか!?」
その言葉に、僕である鬼達が一斉に雄叫びを上げる。
当の昔に死んだと思っていたが、生きていたのか。
「てめぇ……まさか……」
鬼の間の抜けた声に、彼女は僅かに振り返り、笑みを浮かべる。
「あんたの回復を待って目指そうか。天狗神姫の首を狩りにさぁ」
そして、自分の体を抱くように左腕を自身の右肩へと持っていく。
「もうすぐあたい達の夢が叶う日がくるよ」
溢れ出る笑いを抑えるように、喉を『くくくっ』と鳴らす。
「鬼に平伏す、あたい達だけの世界を!!」
女の言う言葉からは揺るぎない自信が感じる。神を相手に怯む様子もなく言ってのける、彼女の精神には理解に苦しむ。しかし、彼女なら成し遂げてしまうのかもしれない。あの最強の鬼が、再び手を取るようならば、神さえも薙ぎ払ってしまいかねない。
最強を自称する女は宣言する。
「神の首は、あたい達の手に!!」
霧本達が居る街から遠く離れた山の中で、鬼は天華によって折られた腕を庇いながら、当ても無く歩き続けていた。しかし、皮膚から飛び出した骨が空気に触れる度に激痛が走り、一時間程度歩いたところで、適当な木に凭れ掛かってしまう。
天逆毎。想像を絶する強さを誇り、完膚なきまでに叩きのめしてきた神。
彼女の事を考えるだけで、腸が煮えくり返り、地面を力の限り殴る。その衝撃により、大砲を放ったような重い音が山の中に響き渡り、木々に羽を休めていた鳥達が驚き、一斉に飛びだっていく。
「くっそがぁ……」
項垂れ、舌打ちする。
復讐したい。だが、自分の力では、彼女には敵わない。傍に居た人間の少女を八つ裂き使用にも、必ず奴が居るだろう。それだけではない。天華、人間にも鬼の匂いがした。憶測でしかないが、鬼が味方に付いている可能性がある。神に加え、同族の鬼までもが相手になると、確実に殺されてしまう。
どうすればいい。
「ぶっ潰してやる……」
「おんやぁ? 誰を潰すんだい?」
不意に女性の声が聞こえ、鬼は項垂れていた頭を上げ、前方から歩み寄ってくる女性を睨みつける。
「誰だてめぇ……?」
「誰ってあんた……仲間じゃないかい」
白の着物を着崩している事で、胸元は大きく露出しており、その豊満な胸をサラシによってきつく締められた格好をしていた。
仲間ということは、鬼という事だろう。しかし、彼女からは妖怪とは別の、鬼の気配を一切感じない。それどころか、妖怪の気配すら感じない。
嘘を吐いている?
言いたい事を察したのか、女性は笑みを浮かべさせる。
「あたいくらいになると、気配だって消せるんだよ。見る限り、あんた……弱そうだね。誰にやられたんだい?」
そう言い、鬼の首筋に顔を近づけ、匂いを嗅いできた。そして、彼女は少しばかり驚いた表情を浮かべ、ゆっくりと距離を取ると、着崩した事で隠れた両腕を口元へと持っていく。
「その匂い、天狗だね。けど、普通の天狗とは違うな」
「天狗の……神だ……」
「天狗の? 天狗神姫か」
目を細めさせ、奴の別名を呟く。
「姫がこの時代にまだ生きているとはねぇ。一戦交わってみたいもんだね」
「やめとけ……鬼じゃどうにもできねぇよ」
奴の力には、逆立ちしたとて辿り着ける事が出来ない神の領域だ。
「あたいが何も出来ずにやられるって? ふふふっ……そうかぁ、やられるかぁ……」
女性は体を震わせ、溢れる笑みを必死に抑える。そして、視線を鬼から逸らし、後方へと向けられた。
「あたいが神にやられるんだとさぁ! どう思う、あんたたちぃ!?」
彼女が問い掛ける相手。それは、いつもの間にか群がり、こちらをまっすぐ見据える数十の鬼。彼女の問い掛けに一瞬にして集まったということは、近くで自分達の行く末を眺めていたということだろう。
仲間意識を持たない鬼が、一体の鬼に引きつられ、集結している。この光景自体、異様なものだ。このような事を可能していたのは、遠い昔、いくつもの都を恐怖に陥れた鬼の首領しか居なかった。
「……てめぇ、なにもんだ……?」
鬼は問いかける。
「あたいかい? あたいはね、この世で一番強い鬼さ」
こちらに背を向けると、彼女は何かを受け入れるかのように、大きく手を広げる。
「あんた達! 我が同志の報いを晴らし、あたい達の恐ろしさを、神という位に胡座を掻いているやつらに思い知らせてやろうじゃないか!?」
その言葉に、僕である鬼達が一斉に雄叫びを上げる。
当の昔に死んだと思っていたが、生きていたのか。
「てめぇ……まさか……」
鬼の間の抜けた声に、彼女は僅かに振り返り、笑みを浮かべる。
「あんたの回復を待って目指そうか。天狗神姫の首を狩りにさぁ」
そして、自分の体を抱くように左腕を自身の右肩へと持っていく。
「もうすぐあたい達の夢が叶う日がくるよ」
溢れ出る笑いを抑えるように、喉を『くくくっ』と鳴らす。
「鬼に平伏す、あたい達だけの世界を!!」
女の言う言葉からは揺るぎない自信が感じる。神を相手に怯む様子もなく言ってのける、彼女の精神には理解に苦しむ。しかし、彼女なら成し遂げてしまうのかもしれない。あの最強の鬼が、再び手を取るようならば、神さえも薙ぎ払ってしまいかねない。
最強を自称する女は宣言する。
「神の首は、あたい達の手に!!」
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