妖が潜む街

若城

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37.5話

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「ねぇねぇ、しゅてん。誰に向けて投げたの?」

 座敷童が頰を膨らませ、酒呑童子の足の脛に対して、容赦のない殴打する。しかし、人を幸福に導く妖怪の腕力では、鬼の頂点に立つ鬼に痛みをもたらさない。
 酒呑童子は人気のない工事現場に置かれた鉄骨の一本を放り投げると、笑みを浮かべる。

「ちょっとした手助けだよ。こうしないと、あいつが泣いちまう」

 あの大天狗と烏天狗が話していた会話は、恐らく天華の事だろう。以前、彼女から当時の話を聞いた時、偽の威厳を振り回す情けない大天狗とてんかを慕い、独自の思想を持った烏天狗の事を知った。
 まさか、この時代に居るとは、何かの因果だろうか。
 天華はこの状況を感じただろうか。
 気にしても仕方ない。いずれ、あの烏天狗とてんかは出会うだろう。妖怪にとって、この街は狭く、窮屈だ。嫌でも出会ってしまう。
 天狗神と烏天狗。面白い組み合わせだ。

「よし、行くぞ」
「えー、もう行くの? ここまでつれてきといて、妖怪使いあらぁい」
「散歩の寄り道だからいいだろ。これから後始末すんだよ。お前の手も借りたいしな」
「えー……」

 座敷童は殴るのを止め、口を尖らせ、ある方向へ目を向ける。

「怒るよ? きっと」
「どうだろな。あいつ次第だ」

 座敷童の頭を撫で、彼女とは別方向に目を向ける。

「俺はあいつに用があるしな」
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