95 / 100
第2章
第33話 馬車の掃除
しおりを挟む
俺が…まぁいいか…
彼女達にどう思われても、二度と会うこともないだろうし、別に気にすることはないからな。
怖がってくれているなら、むしろこちらの言うことに従ってくれるだろうから好都合ってものさ…
「準備が出来たら声をかける。それまで勝手なことはするな。いいな?」
怖がるエルフに待つように言ってから手を離すと、ストレージリングから傘を取り出して、それをガル達に手渡していく。
「これ…わ?」
「不思議な…感触…だな…」
「雨を防ぐものだ。こうやって、こうして使う。」
留め具を外してスイッチを押すと、いつも通りにバッと音を立てて傘が開く。
「「るお!」」
「ひっ!」
俺が傘を開くと、ガル達は渡した傘を放り出して、後ろへ飛び退ってしまった。
ビニールの傘なんて見たことないだろうから、驚くのは分かるが…
そうか、ジャンプ傘なんて無いのか…
何にしても、こんなことで止まってもらっても困るので、話を進めるとしよう。
「危ないものじゃないから、そんなに逃げなくていいぞ?」
簡単に使い方を説明するが、いまいち伝わっていないような気がする。
ガル達狼獣人には、そもそも傘を使う習慣がないらしいし、エルフは怖がりすぎて分かっているのかどうなのか分からない状況だしな…
後で確認すると、傘自体はある事が分かったんだけど、折り畳める物はもちろん、閉じれるような機構を持った傘はまだ作られていないみたいなんだよね。
…で、勿論今回見ていないシーホにも、同じように驚かれてしまうことになるのだが、これはまだ先の話。
その後、ガル達は、いくら話しても結局傘を持つことはなく、俺は諦めることにした。
「それじゃ、濡れても知らんからな?」
「強き者よ…我らは…気にしない…」
「傘…我らには…不要…」
「まったく…エルフ、あの雨を馬車に向かって降らせてくれ。」
頑ななガル達に傘を持たせるのは諦めて、エルフに雨を降らせてくれとお願いする。
彼女は馬車に向かって手をかざして、早口で呪文を詠唱し始める。
エルフ特有の言語らしく、何を言っているかは分からないが、少なくとも俺に敵意のある呪文では無いのは分かった。
そして…
「…ヒーリングレイン…」
エルフの呪文が完成し、あの冷たさを感じない雨が辺りに降り始める。
離れても感じていた、馬車から漂う強烈な悪臭が、少しづつ薄れていくのが分かる…
「OK。これで外見はある程度綺麗になっただろう。
後は中だな…ガル、ギル。中をこいつで洗ってくれるか?」
ストレージリングからデッキブラシを2本取り出し、ガル達に手渡すと、傘を渡した時と同じように、キョトンとされてしまう。
これもか…
「これは、こうして、こんな感じで使う…」
また説明する必要があったが、こちらは案外すんなりと受け入れられた。
素材が違うだけで、同じようなものが既にあるみたいだからな。
「これなら…使える。」
「我も…大丈夫。」
「なら頼む。エルフ。あんたはもう少しの間、雨を降らせ続けておいてくれ。馬車の中も洗わないと、臭いがきつすぎるだろうからな。」
エルフにこれから何をするつもりなのかを伝え、もう少しの間雨を降らせ続けて欲しいとお願いしていると…エルフがビクビクしながら口を開いた。
「あの…馬車の中に、雨を降らせれば良いんですか?」
「…いや、雨は空から降ってくるも…え?出来るの?」
「…はい…」
馬車の中に雨を降らせる事ができるらしい…
それなら、いちいち何かに雨水を貯めてから掃除をする必要もないし、楽だけど…
どう言う原理なのかは俺にも分からないが、やれると言うならやって貰おう。
「それなら、馬車の中も頼む。綺麗になれば、他の使い道もあるだろうしね。」
デッキブラシで擦っても、内心そこまで綺麗になるとは思っていなかった。
だけど、この雨なら話は変わってくる。
あの強烈な臭いが即座に消えて、今見える感じだと、馬車の外観は、燻んだ黒っぽい色だったのに、飴色の光沢が出てきている。
俺にはいらないが、これだけ綺麗になれば、ガル達が旅をするのに十分使う事ができる。
要らなくなっても売れるだろうしね。
そんなことを考えていると、エルフが馬車の中に入っていくところだった。
すると、それまで降っていた雨が急に弱くなり、やがて止んでしまった。
「エル…うわ~…」
雨が止むとは思っていなかったので、どうしたのかとエルフを呼ぼうとして気がついた。
馬車の中から、大量の汚れた水が漏れ出てきている。
エルフが馬車の中に入った事で、魔法の展開範囲があの馬車の中に変更された…んだと思うけど、やっぱり原理は分からない…
数秒すると、馬車から出てきていた汚れた水が、綺麗な水へと変わり、やがて止まった。
ガル達に目で合図をすると、ガルが察知して馬車へと走ってくれる。
俺もギルと一緒に後を追うと、エルフがびしょ濡れになって外へと出てきた。
「ガル、中の確認。洗い残しがあったら今の濡れてるうちに擦り落としておけ。ギルはこれをエルフに渡してやれ。」
ストレージリングから大きめのバスタオルを取り出し、ギルに渡してエルフに渡してもらう。
俺に近寄られるよりは、狼獣人に渡される方がマシだろうからな。
暫くすると、ガルが馬車の中から出てきて、どこにも汚れは見当たらないことと、臭いも残っていないことを教えてくれた。
これで馬車は使えるようになったから、後は馬が帰ってくるかだな…
「ギル。馬を呼ぶ笛を使ってみてくれ。」
「分かった…」
ギルが小さな笛を取り出すと、口にくわえて吹き鳴らした。
彼女達にどう思われても、二度と会うこともないだろうし、別に気にすることはないからな。
怖がってくれているなら、むしろこちらの言うことに従ってくれるだろうから好都合ってものさ…
「準備が出来たら声をかける。それまで勝手なことはするな。いいな?」
怖がるエルフに待つように言ってから手を離すと、ストレージリングから傘を取り出して、それをガル達に手渡していく。
「これ…わ?」
「不思議な…感触…だな…」
「雨を防ぐものだ。こうやって、こうして使う。」
留め具を外してスイッチを押すと、いつも通りにバッと音を立てて傘が開く。
「「るお!」」
「ひっ!」
俺が傘を開くと、ガル達は渡した傘を放り出して、後ろへ飛び退ってしまった。
ビニールの傘なんて見たことないだろうから、驚くのは分かるが…
そうか、ジャンプ傘なんて無いのか…
何にしても、こんなことで止まってもらっても困るので、話を進めるとしよう。
「危ないものじゃないから、そんなに逃げなくていいぞ?」
簡単に使い方を説明するが、いまいち伝わっていないような気がする。
ガル達狼獣人には、そもそも傘を使う習慣がないらしいし、エルフは怖がりすぎて分かっているのかどうなのか分からない状況だしな…
後で確認すると、傘自体はある事が分かったんだけど、折り畳める物はもちろん、閉じれるような機構を持った傘はまだ作られていないみたいなんだよね。
…で、勿論今回見ていないシーホにも、同じように驚かれてしまうことになるのだが、これはまだ先の話。
その後、ガル達は、いくら話しても結局傘を持つことはなく、俺は諦めることにした。
「それじゃ、濡れても知らんからな?」
「強き者よ…我らは…気にしない…」
「傘…我らには…不要…」
「まったく…エルフ、あの雨を馬車に向かって降らせてくれ。」
頑ななガル達に傘を持たせるのは諦めて、エルフに雨を降らせてくれとお願いする。
彼女は馬車に向かって手をかざして、早口で呪文を詠唱し始める。
エルフ特有の言語らしく、何を言っているかは分からないが、少なくとも俺に敵意のある呪文では無いのは分かった。
そして…
「…ヒーリングレイン…」
エルフの呪文が完成し、あの冷たさを感じない雨が辺りに降り始める。
離れても感じていた、馬車から漂う強烈な悪臭が、少しづつ薄れていくのが分かる…
「OK。これで外見はある程度綺麗になっただろう。
後は中だな…ガル、ギル。中をこいつで洗ってくれるか?」
ストレージリングからデッキブラシを2本取り出し、ガル達に手渡すと、傘を渡した時と同じように、キョトンとされてしまう。
これもか…
「これは、こうして、こんな感じで使う…」
また説明する必要があったが、こちらは案外すんなりと受け入れられた。
素材が違うだけで、同じようなものが既にあるみたいだからな。
「これなら…使える。」
「我も…大丈夫。」
「なら頼む。エルフ。あんたはもう少しの間、雨を降らせ続けておいてくれ。馬車の中も洗わないと、臭いがきつすぎるだろうからな。」
エルフにこれから何をするつもりなのかを伝え、もう少しの間雨を降らせ続けて欲しいとお願いしていると…エルフがビクビクしながら口を開いた。
「あの…馬車の中に、雨を降らせれば良いんですか?」
「…いや、雨は空から降ってくるも…え?出来るの?」
「…はい…」
馬車の中に雨を降らせる事ができるらしい…
それなら、いちいち何かに雨水を貯めてから掃除をする必要もないし、楽だけど…
どう言う原理なのかは俺にも分からないが、やれると言うならやって貰おう。
「それなら、馬車の中も頼む。綺麗になれば、他の使い道もあるだろうしね。」
デッキブラシで擦っても、内心そこまで綺麗になるとは思っていなかった。
だけど、この雨なら話は変わってくる。
あの強烈な臭いが即座に消えて、今見える感じだと、馬車の外観は、燻んだ黒っぽい色だったのに、飴色の光沢が出てきている。
俺にはいらないが、これだけ綺麗になれば、ガル達が旅をするのに十分使う事ができる。
要らなくなっても売れるだろうしね。
そんなことを考えていると、エルフが馬車の中に入っていくところだった。
すると、それまで降っていた雨が急に弱くなり、やがて止んでしまった。
「エル…うわ~…」
雨が止むとは思っていなかったので、どうしたのかとエルフを呼ぼうとして気がついた。
馬車の中から、大量の汚れた水が漏れ出てきている。
エルフが馬車の中に入った事で、魔法の展開範囲があの馬車の中に変更された…んだと思うけど、やっぱり原理は分からない…
数秒すると、馬車から出てきていた汚れた水が、綺麗な水へと変わり、やがて止まった。
ガル達に目で合図をすると、ガルが察知して馬車へと走ってくれる。
俺もギルと一緒に後を追うと、エルフがびしょ濡れになって外へと出てきた。
「ガル、中の確認。洗い残しがあったら今の濡れてるうちに擦り落としておけ。ギルはこれをエルフに渡してやれ。」
ストレージリングから大きめのバスタオルを取り出し、ギルに渡してエルフに渡してもらう。
俺に近寄られるよりは、狼獣人に渡される方がマシだろうからな。
暫くすると、ガルが馬車の中から出てきて、どこにも汚れは見当たらないことと、臭いも残っていないことを教えてくれた。
これで馬車は使えるようになったから、後は馬が帰ってくるかだな…
「ギル。馬を呼ぶ笛を使ってみてくれ。」
「分かった…」
ギルが小さな笛を取り出すと、口にくわえて吹き鳴らした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
438
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる